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その6

 香苗が葵の家に来て三か月が過ぎた。葵に優しくされて、香苗は葵の食事の支度をそこそこするぐらいの日々に甘えていた。


「ねえ、香苗ちゃん。毎日家にばかり居るの退屈じゃない?私は居てくれてもいいんだけどね」

 葵が何気なく尋ねると、香苗はちょっと戸惑ったような顔つきをした。


「お邪魔かしら。何か仕事をしなくちゃと思ってるんだけど。でも今どきパソコンもできない私は定職にはつけないし……」

「だったらパソコン教室へ通えば二三か月もすればかなりのことができるようになるわよ」

「そうかしら。探してみようかな」

 葵の言葉に気を良くした香苗はパソコン教室に通い始め、少しずつパソコンを操れるようになってきた。香苗が葵のパソコンを使って色々なサイトをクリックして興味深そうに読んだり、ゆっくりしたペースではあるがブラインドタッチで文字を打ったりしているのを傍で見ながら、葵は香苗を励ますように言った。

「あら香苗ちゃん。会社の事務くらいは貴女のスキルで大丈夫よ。頑張って!」

「ワードとかエクセルは少しできるようになったわ。それにメールが打てるようになったから、葵さんの入ってるSNSに私も登録してみようかしら」

「友達ができるかもね」

「ボーイフレンドができたらいいな」

「そうね、楽しくなるかもね」


 香苗は教えられた通り、葵のパソコンに自分の名前のパスワードを入力し、SNSの中で積極的に友達を作リ始めた。


「ネットって楽しいでしょ?香苗ちゃんのハンドルネームは何ての?」

「葵さんがスカーレットだから私はメラニー。友達が沢山できちゃった。それからもう一つ新しいこと聞いたんだけど……。葵さん、facebookって知ってる?今日ネットの友達が教えてくれたの」

「あら、そう。うちの会社はfacebookに出してるけど、個人では登録してないわ。必要ないもの」

「facebookは実名で登録するってのが建前なんだけど、成り変わって登録だってできるのよ」

「成り変わるって?そんな・・それは違反じゃないの?」

「できるわよ、現実生活でも成りすますことだってできるんだもの」


 葵は香苗が冗談を言っているとしか思えなかった。

 習ったパソコンの技術を活かして事務職に就く気配もない香苗に、葵は少々いらいらもしていた。



*


 葵が予定より一時間早く家に帰ったとき、香苗の姿は見えなかった。どこか買い物にでも出てるのかなと思いながら、葵はパソコンの前に座った。

 パソコンが起動されてfacebookの香苗のページが表示されたままになっている。何気なく見たその画面に、香苗の友達の名前がずらりと並んでいるのが目に入った。


 葵は香苗にもうこんなに沢山の実名の友達ができていることに驚いていた。そのとき!そこに出ている男性の名前に葵の目は釘づけになった!

『信也』――。

 数か月前まで、葵の心が少し傾きかけた時点で多忙のあまりそのままになり、今は忘れかけていた名前。これってもしかして……?まさかそんなはずはないわ!

疑心暗鬼のまま、葵はパソコンを閉じて香苗の帰りを待つのだった。




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