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その12

 暮れにかけて仕事に忙殺されていた葵は、年が明けてわずか一週間ばかりの貴重な正月休みを、ひとりで静かに過ごした。

 葵にとっては、独りでいることはとても気分的に落ち着き、旅行したり繁華な街に出たりせず、家で好きなことが楽しめるだけで充実した気分になれた。


 

 香苗から1月15日の結婚式の招待状が来ていたので、忘れないように壁に掛けた真新しいカレンダーに大きな文字でメモしていた。

 仮の式だとはいえ、結婚式には正装するのが常識ぐらいはわきまえているものの、そのような式に参列する機会も少ない葵には、仕事用のスーツ以外の華やかな服はあまり持ち合わせていない。

――まっ、いいか。

 クローゼットの中に納まっている地味なスーツの中から、柔らかいジャージの材質の一着を選んだ。淡いグリーンのツーピースで、長めのフレアースカートが歩くたびに微かに揺れて、宴の席には合いそうだ。これに結婚式用のコサージュでも付ければお祝いの席でもいけるかな――。


 葵は日常着の地味な服にもアクセサリーをつけてアレンジするのが好きだが、特にブレスレットには興味があって、カラフルな天然石やシンプルなデザインの貴金属など色々とり揃えていた。

 結婚式なので、今回は粒の細かいダイヤのネックレスとツィンのブレスレットも付けることにした。洋服やスカーフなどはクローゼットに保管しているが、ジュエリーだけは鍵のかかる金庫に、大切な書類と一緒に仕舞っている。耐火金庫なので万が一何か災害があっても安心だし、盗難の心配をせずにいられるとの思いで、ガードの行き届いた金庫を買ってフロアの隅に置いていた。


    *


 ――いよいよ当日。

  葵は朝から、まるで身内の者が結婚するかのように興奮気味だった。想像しているだけなのに、その場の状況を思い浮かべると、きもちが上気して落ち着けない。

 車で行くには道がよくわからないので、タクシーで行くことにした。祝儀は友達としては少し多めの金額を祝儀袋に入れ、黒いエナメルのバッグに仕舞った。


 細くて高いヒールのパンプスはすんなり伸びた葵の白い脚によく似合う。

この靴をはいて社長と待ち合わせをしたとき、彼女が大袈裟なほど驚いて褒めてくれたことを思い出し、靴べらで足を入れた瞬間、思わず独り笑いをする葵だった。




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