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その11

 社員旅行が無事済んで日常の実務が始まると、葵を含めて社員達は心を一つにして、エネルギッシュに仕事がはかどった。上司の機嫌もすこぶる良い。


 社長が何やら言いたげなそぶりで、葵の隣りの空いた席に腰を下ろした。

「葵ちゃん、そろそろ結婚のこと考えたらどう?」

「えっ?相手も居ないのにどうやって結婚するんですか」

 葵は突然の社長のこの質問にいささか驚きもしたし、一体何を言いたいのかと疑念さえ抱いた。

「いえね、突然じゃないのよ。前々から思ってたことなの。共同経営の話もまんざら夢物語でもないのよ」

「ええ。いずれゆっくり考えておきますね」

「そのいずれが曲者なのよね、あなたは。全くもう……」

 社長はくすっと笑って席に戻り、最近取り寄せた好みのコーヒーを旨そうに飲んでいる。

「全く、もうってのはこちらのセリフだわ」

 次々とデスクに積まれる仕事を片付けている葵には、そういう話に乗っている暇はないのだ。このところ残業が遅くなって終電で帰る日が続いたので、なるべく早く仕事を終わらせようと焦り気味の葵だった。


 

    *

 

その後何の変哲もない日が続いた――。


 いつものように帰宅すると、まずマンションの前に貼りつけている小さなポストの中を覗いた。一通の四角い封書とサプリの案内が入っている。

 封書を裏返して目に入った*香苗・・という走り書きのような文字に、葵の口から思わず、えっ!と声が飛び出た。

 急いで手で封を切った。

中にはインクジェットで印刷した葉書が入っていて、それは香苗の結婚式の案内状だった。香苗の夫になる人物と香苗とふたりの名前が並べて書かれている。その脇に香苗の文字とも思えるーよろしくね、ぜひ参加してね……との添え書きがあった。

 葵はその式には何が何でも出席したいと思った。それは葵の疑心暗鬼を解く或る決意もあったのだ。



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