その10
葵の会社では年に一度、二泊の社員旅行をすることになっていた。それも国内の近場というのがお決まりのコース。
今年は例年より少し遠方の九州、湯布院に決まった、というより予定を組むのは葵なので、社長には事後承諾の形で同意を得る。葵が立てた計画に異議があったことは今まで一度もなく、むしろ待ってましたとばかりに共感を得るので、葵も旅のパンフレットを色々見てスケジュールを組むという余分な仕事をするにも甲斐があった。
「ねぇ、先輩。今年はどんな服装で行くんですか?」
「楽しみだわ!先輩のいつもとがらりと変身した姿ってカッコ良いもんねぇ」
「だよね……」
などと年下の女子の部下から熱い目で見られることに、葵は悪い気はしない。健康には自信がある葵は、いつも体力のなさそうな者に合わせてスケジュールを組むことにしていた。
湯布院に着いたらまずゆっくり温泉に入り、夕食までたっぷりの自由時間を組んだ。元気のいい者は、近場の名産が並ぶ通りの店を覗いたりするのもいいかなと思ったのだ。
いくつかの名所巡りは翌日に全員揃ってタクシーで回ることにした。
葵はコンパクトなデジカメを持参して、みんなの記念写真を撮ろうという思いもあった。その夜は油断なくメモリカードの充電をして床に就いた。いなくなった香苗のことが少し頭から薄れている心地よい晩だった。




