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  作者: よしき
3/3

その3



その時白い部屋のドアが開け放たれた。

煙でよく見えないけれど。

入り口に立つ姿。

「ヤナ!大丈夫かい?」

マシキの大きな手が私を立ち上がらせる。

「おいでヤナ。」

私は手を引かれるがまま、マシキと走り出した。

















ハンガーの中で飛風の姿が光った。

爆発の閃光に照らされ、飛び立つのを今かと待ち続ける。

夜間のテスト飛行に向けて整備は整っている。

ヤナの方を見るといつもの様に服を脱ぎ始める。

携帯ポーチからトランス薬を取り出す。

これで精霊信仰の巫女としての力を彼女の体から放出させるのだ。

アンプルに注射器を射す。

いつもの作業。

劇薬の注射。

量を間違えれば彼女は死に至る。

こんなあやふやな命のやりとりを毎回繰り返している。

生きる為に。

生き延びる為に。

実験の為に。

こんな小さな少女に…。

震える手をヤナの手がそっと包む。

長い髪と小さな頭が横に振られる。


「いらない。私、飛べる。大丈夫。」


憶えたばかりのブラシア語でたどたどしく伝えようとするヤナ。

その目は今までに見せたことのない色を湛える。


「私、マシキ、守る、から。飛ぶ、一緒…。」


ヤナは微笑む。

僕は自分が恐ろしく恥ずかしい生き物に思えた。

生き延びたい。

この現状を打破する為だけに彼女を連れ出した。

逃げるために。

飛風を飛ばす為にはヤナの力が必要だ。

だから連れ出したのに…。

なのに彼女は、僕を守ると言う。

奴隷として不自由な生活を送らされている少女は、僕の身を案じてくれるのだ。

何故微笑む事が出来る。

苦しめられたのは君だ。

憎むべきは僕だ。

それなのに…。


「…マシキ、生きて。おねがい。」


僕は彼女の手をとりコクピット後ろの母体に入れる。

羊水に満たされた母体の中で、ヤナの巫女の力は吸収増幅され飛風のエネルギーとなる。

今まで、逃げるためにヤナに優しくしてきた。

人殺しの罪がそれで軽くなると思っていた。

違う。

それは違っていたんだ。

僕は…。

僕はこれからヤナを守る。

目の前の少女を守るために戦う。

どうなるかは解らないけれど。

そうやって生きていたいと願う。

いっそこのまま別の国に逃げてしまおうか。

戦争のない所でヤナを幸せにするんだ。

辛い思いを二度とさせない。

幸せで、穏やかな日々を2人で過ごそう。

でも。

でも、きっと僕たちはこの戦争の事を忘れられない。

目の前で死んだ多くの兵士たち。

犠牲になった家族。

蹂躪されたシエナ族の心。

それを忘れる事など出来ないだろう。

それでも幸せになれるのだろうか…。

僕は…。

僕達は…。









「マシキが私の扉を開けてくれたの。

暗く閉ざされた心の扉を開いてくれた。

いつも。

だから私、何でもしてあげたい。

微笑をくれたマシキを助けてあげたいの。

生きて欲しい…。私にはもうマシキしかいないから…。」





突然聞こえるはずのない声が聞こえた。

羊水の中の音声は遮断されているはずなのに。

まるで飛風がヤナの心を伝えようとしているみたいだった。

ヤナ…。

目を閉じ心を落ち着かせる。

今はヤナを助ける事を考えるんだ。

目を開き現実を見つめろ!

今はどうするべきか感じるんだ!

飛風の出力を上げていく。

トリガーを引く。

ハンガーの壊れた扉が破壊され倒れていく。

それは今までの自分の姿のように思えた。

もうもうと立ち上る煙の向こうは何も見えない。

空には敵の戦闘機が待ち受けるだろう。

それでも飛ぶしかない。

ヤナを守る。

僕達を乗せ飛風は発進した。






<<終わり>>




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