その2
最初の1ヶ月は、泣いてばかりいるヤナを慰めてばかりいた。
シエナ族は軍の備品で、奴隷だ。
でも僕はそうはしたくなかった。
彼女に笑って欲しいと願った。
時々現状に嫌気がさしてくる。
終わらない戦争。
僕等の作る人殺しの道具。
夜な夜な聞こえてくる、隣の部屋で犯されるシエナの娘のすすり泣く声。
いったいこの戦争に勝って、何が残るんだろう。
平和。
安息。
本当にそんなものをこの手にとる事が出来るのだろうか?
せめてヤナには笑って欲しい。
そう思うのは逃げなのだろうか。
戦争と言う罪からの。
開発局副主任。
その肩書きを最大限に利用した。
「ヤナ」とその専用機「飛風」の占有権の行使。
もちろんそのパイロットには自分がなった。
戦闘及び実験以外でのヤナの行動も管理下に置いた。
これでヤナは奴隷としての共有から解放された。
そうしておいてから、ヤナとの交流を求めた。
目の前の少女が笑う事で、戦争に対する罪の意識から逃れたかったのかもしれない。
僕の手が。
飛風の兵器が。
数多くの人間の命を奪うだろう。
僕の目の前の者を救うために。
そして生き延びるために。
その罪の意識から逃れるために。
ドーン!
突然の爆発音。
数々の破壊音の後に続けて聞こえたのは悲鳴。
おそらくこれは敵の攻撃。
ブラシア国内で戦争のない地域など存在しない、とマシキが言っていたのを思い出す。
ここもとうとうメキナ軍に見つかってしまったのだ。
頭を抱えベットの脇に座り込む。
逃げる場所なんかない。
この部屋から逃げられないのは分かっている。
死にたくない。
死にたくない。
ここに連れて来られた時、自分はもう死んだものだと思っていた。
ブラシアの奴隷になって生きて帰った者はいない。
私は連れ去られた奴隷なんだ。
その言葉を繰り返すたびに、私は私という存在を殺してしまった。
何の希望も喜びもない存在。
それなのに、マシキは微笑んでくれた。
笑う事。
歌う事。
生きるという事。
こんな場所でマシキだけがそれを教えてくれる。
私の中にもちゃんと存在するんだよ、と。
生きる事は辛い。
生きる事は悲しい。
それでも人間は生きていける。
つかの間の喜びに生を見出せる。
マシキがいるから。
マシキが教えてくれたから。
だから。
死にたくない。
マシキお願い。
早く。
爆発音が近づいてくる。
人々の悲鳴が小さくなっていく。
あんなにも小さく。
煙と土ぼこりが部屋に侵入してくる。
苦しくて喉を押さえる。
お願い。
マシキ。
マシキ!




