予想外
分かった、これきっと財産目的に違いない。
確かに私は細身の紳士を希望したけれど、こんなイケメンが来るとは思ってもみなかった……。
…………はっ! それか義姉に片思いしているけれど、覇王には敵わないからせめてその近くにいたいとかそういう!?
「シルビア嬢?」
声をかけられ、我に返る。
「失礼いたしました。なんのお話でしたでしょうか?」
「シルビア嬢の兄君はあのように逞しい方なので、私のような者は軟弱に思われて、お会いできるとは思ってもみなくて……お会いできて光栄です」
やはり詐欺ね(断言)。
「兄は自身に似た方を探しているようでした」
私は覇王を求めていないんですけれどね。
「やはり、そうなのですね……」
目の前の婚約者候補が何故項垂れているのか分からな……あ、そうやってそんなことありませんわ、あなたも素敵ですと言わせる作戦ね? ……と思ったりもしたけれど、重ね重ね覇王は求めていないので。
「頼り甲斐のある方というのは、見た目が全てではありませんでしょう」
要塞クラスの男性は求めていない、かつ、財産や地位目的の男性も不要である、という意味を込めてみる。
婚約者候補殿はパァッと顔を明るくさせた。何故。
それから手をグッと握りしめて決意した顔を向けてきた。なんの決意?
「兄君のようにはなれないと思いますが、全身全霊をかけてシルビア嬢を守れる男になります!」
「ありがとうございます……?」
……相手の意図が読めない。
読めないなりに可能性のあるものを列挙してみる。
一.なんだかんだいいながらやっぱり財産目当て
二.覇王の婚約者に横恋慕(無理目承知)
三.罰ゲーム
四.覇王に心酔している
五.私に好意を抱いている
……最もあり得ないのが五つ目……私、普通なんだよね。自分で言うのもなんだけれど、十人並の器量。令嬢たちが集まると埋没するタイプ。取り柄は侯爵令嬢であることと覇王の妹だということ。後者はマイナス要素かも?
家族やジョーゼットお義姉様は可愛いと言ってくださるけれど、身内の欲目という奴です。あ、こちらの世界の美醜逆転とかもないです。
消去法でいくと三か四の二択かしら……。でも覇王の妹に罰ゲームで婚約申し込みとか、覇王に知られたらガチでヤバいと思う。命がけすぎる。となると四つ目の覇王に心酔か……あり得なくもないのかな……分からん世界だけれども……大切にはしてもらえそう?
この際、白い結婚でもいいかなぁ。離れに住まわされて冷遇されたら、自費で人を雇って環境改善も可能だし。
あ、外部との接触を遮断されたら困るから、伝書鳩とか鷹匠を目指そうかな? 今から間に合う!?
ところでこのイケメン君、何処かで会った記憶があるような??
「あの……以前何処かでお会いしませんでしたか?」
何処だったかな、夜会だったかな……夜会だと人が多すぎて誰が誰やら分からなく……。
「…………あ」
思い出した。
子供の頃、近い年頃の子息令嬢を集めたお茶会だ。
「覚えていてくださって嬉しいです……ですが、できたら忘れていていただけたら嬉しかった」
「何故です?」
イケメンが困った顔をする。
「あの時の私は……とても太っていたでしょう?」
そう、それで他の子息に揶揄われたり、令嬢たちがクスクス笑っているのを見ているのに腹が立って、令嬢なのに令息たちと取っ組み合いのケンカしたのよね、私。
別に正義感とかではなくて、前世で同じようにクラスメイトたちに笑いものにされたことを思い出したからなんだけれど。
「そうでしたね。ですが今はお痩せになってますし、お身体に問題ないのであれば構わないのでは?」
貴族の食事カロリー多めだし。運動嫌いだったり、おやつ食べ過ぎたらすぐころっころに太ると思う。中年になるとみんなふっくらするし。私もその年齢になったらそうなると思うわ。そしてそれを誤魔化すためにコルセットでギッチギチに締め付けられるのよ……。
「あの日から、シルビア嬢に相応しい男になれるようにと努力を始めたのですが……」
細腕をもう片方の手でぐっと掴む。
「侯爵閣下のような逞しい身体にどうしてもならなくて……」
「ならなくてよろしいかと」
覇王を目指さないで。
「ですが、いつかそうなれるよう鋭意努力したいと思います!」
「ならないでくださいませ」
「そうですか……?」
そのままの君でいて! 細身のイケメンでいいじゃない! 覇王は世界に一人いればいいじゃない!!
それはそれとしてですよ。
「努力なさったのですね、素晴らしいわ」
正直、よく思い出せたなレベルのビフォーアフターなんだけれども。
「シルビア様はあの時も今も変わらず、素敵です」
おっと、まさかまさかの、選択肢"五、私に好意を抱いている"があり得るのか……?
でも私、草の者やれそうなぐらい埋没した顔立ちなんだが? 結構な頻度で「えっと、ごめんなさい、お名前をお伺いしても……?」って心底申し訳なさそうに聞かれるから、名札付けて歩こうかなって思うぐらい。まぁ無理だから、さりげなくどこかに紋章の刺繍を入れとくんだけど。
紋章はこういうモブのために必要なんだって知った(違う)。
この世を終わらせるかどうか悩んでるみたいな顔で、兄が私に尋ねる。
「本日顔合わせをした軟弱者はどうであった」
言い方!
「私、幼き頃に参加したお茶会でブロンツィーニ様にお会いしたことがありましたの」
「ふむ?」
そこで何故腕を組むのか。
「当時ブロンツィーニ様はふくよかでいらしたのですが、その時のお茶会で体型について揶揄されていて」
「肥満だと?」
兄よ、とりあえず最後まで話を聞いてほしい。眉間に皺寄せないで。私とのお茶会前に直接挨拶をして、肥満を脱出していることは知っているでしょうに。
「それを私が止めました」
パァッと明るくなる覇王。でもね、覇王だから笑顔すらいかつい。
「さすが我が妹! 正しき行い、兄は嬉しく思うぞ!」
思わず恐悦至極と答えそうになるのを我慢し、話を続ける。
「ありがとうございます。ブロンツィーニ様はその後、私に相応しい相手になろうと努力なさってきたとおっしゃいました」
「見上げた根性ではないか! だが筋肉が足らぬ!」
「その点をご本人も気になさってらして、お兄様を目指しているのですって。目指さなくていいとお伝えしましたけれど」
目指しそうで怖い。
「その意気や良し! 棒っきれのような容姿なのは気に食わぬが、幼き頃よりそなたに相応しくあろうと精進しておったとはな。認識を改めねばならんな」
覇王が人を褒めてる! なんと珍しい!
「なれば直々に稽古を」
「不要です」
筋骨隆々にならなくていい! そのままのイケメンでいて!
「そういえば、他にも釣り書きが届いていたかと思うのですが」
「あぁ、全員面通しをし、篩にかけた」
その結果がブロンツィーニ様だけってこと!?
私も釣り書きを見たけど、中には騎士の方もいたはずなのに、兄のお眼鏡にはかなわなかったのか。
「中には騎士もおったのだがな、騎士でありながら私の攻撃に耐えられぬ腑抜けばかりであったわ」
既に叩きのめされてた!! 大丈夫かな、皆ヤラれてたりしないよね!? ……それって騎士だけにやったのかな?
「騎士の方だけにそのようなことをなさったのですか?」
「否、全員だ」
かわいそすぎる!! ……って待って? ということは、ブロンツィーニ様はそれを乗り越えたの?
「ブロンツィーニ様も?」
「無論」
護衛騎士探してるわけじゃないのに、凄まじい難易度!
「彼奴めは私の攻撃を受けても剣を落とさず、その後私に攻撃をするだけの膂力を持っておった。細身にしてはやりおる」
かつてない程の賛辞を耳にしている気がする!
「まぁ、ブロンツィーニ様、お強くていらっしゃるのね」
あの細腕でこの覇王の一太刀に耐えるなんて、逆に凄い気がする!
「…………シルビアはあの者を気に入ったか?」
「(義兄があなたでも問題ない寛容な人なので)素晴らしい方だと思いますわ」
「ぅぬぅ……」
覇王、不満気。世の中には妥協が必要なことってあるからね? なお、妥協させられるのはブロンツィーニ様のほう。モブ顔の私には勿体無いイケメンなのですよ。




