第9話「凛の願いと呪いの真実」
ダンジョン攻略は順調に進み、俺たちはついに第十階層へと到達した。
最深部はもう目前のはずだ。
しかし深層に近づくにつれ、月島の様子がおかしくなってきた。
口数が減り、どこか焦っているような、追い詰められているような雰囲気を漂わせている。
「月島、何かあったのか? 最近、様子が変だぞ」
その日の探索を終え、地上への階段を上りながら、俺は思い切って尋ねた。
陽菜も心配そうな顔で彼女を見つめている。
月島は一瞬足を止め、何かをこらえるように唇を結んだ。
そして、絞り出すような声で言った。
「…ごめんなさい。少し、焦っていたわ」
「焦るって…何か理由があるんだろ? 俺たち、仲間なんだから、話してくれよ」
俺の言葉に、彼女の肩が小さく震えた。
しばらくの沈黙の後、彼女は意を決したように顔を上げ、俺たちに向き直った。
その瞳は悲しい色に揺れていた。
「…私の家、月島家は探索者の名門として知られているわ」
「ああ、聞いたことがある」
「代々、強力な剣技のスキルを受け継ぐ代わりに…私たちは、『呪い』をかけられているの」
「呪い…?」
俺と陽菜は息を呑んだ。月島の口から出た言葉は、あまりに重かった。
「月島家の人間は、二十歳の誕生日を迎える前に、必ず死ぬ。どんな治療も、どんな奇跡も、その運命を変えることはできなかった。それが、強大な力を得た代償…」
彼女の告白は、衝撃的すぎた。
いつも強く、気高く、完璧に見えた彼女が、そんな過酷な運命を背負っていたなんて。
「私も…もうすぐ十九になる。残された時間は、多くないわ」
月島は自嘲するように微笑んだ。
その笑顔は、見ているだけで胸が張り裂けそうになるほど痛々しかった。
「このダンジョンの最深部に眠るという『生命の聖杯』。それが、古文書に記されていた、呪いを解く唯一の希望なの。だから私は、一人でダンジョンに挑んでいた。誰にも迷惑をかけたくなかったから…」
そういうことだったのか。
彼女がなぜあれほどまでに必死だったのか、なぜ一人で戦っていたのか、その理由がようやく分かった。
「…でも、神谷くんと日向さんに会って、私、少しだけ欲張りになったのかもしれない。二人ともっと一緒にいたい。生きたい、って」
彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
それは彼女が初めて俺たちの前で見せた弱さだった。
陽菜は黙って彼女のそばに寄り添い、その背中を優しくさすっている。
俺は言葉が見つからなかった。ただ、燃えるような怒りと、強い決意が腹の底から湧き上がってくるのを感じていた。
「…行こう、月島」
俺は、彼女の名前を、初めて呼び捨てにした。
「凛、と呼んで」
彼女が、涙に濡れた瞳で俺を見つめ返した。
「…凛。絶対にお前を助ける。その呪い、俺がぶっ壊してやる」
「湊くん…」
「当たり前だろ。俺たちは、仲間なんだから」
俺は固く拳を握りしめた。
もう、ただのダンジョン攻略じゃない。これは、凛の運命を変えるための戦いだ。
俺のガチャが、ただの便利アイテム製造機じゃないことを、今こそ証明してやる。
俺の決意を感じ取ったのか、凛は何度も頷き、陽菜は力強く俺の腕を掴んだ。
三人の心は、今、確かに一つになっていた。




