第5話「幼馴染の秘密と癒しの手」
月島からの無言のプレッシャーと、クラスメイトからの「隠れエース」という不名誉なあだ名に耐える日々。俺の精神はすり減る一方だった。
そんな中、俺はもう一つの異変に気づいていた。
「陽菜、最近なんか疲れてないか?」
「え? そ、そうかな? 元気だよ!」
お隣さんで幼馴染の日向陽菜は、俺の言葉に一瞬ぎくりとした表情を見せた後、いつもの太陽みたいな笑顔で誤魔化した。
彼女は世話焼きで家庭的で、いつも俺のことを気にかけてくれる、まさに理想の幼馴染だ。
ショートボブがよく似合う快活な少女だが、最近、時々こっそりとどこかへ出かけては、目の下にうっすらとクマを作って帰ってくることが増えた。
(何か隠してるな、あいつ…)
心配だった。陽菜は昔から、困ったことがあると一人で抱え込む癖がある。
まさか変なバイトでもしているんじゃあるまいな。
ある日の放課後、またしても「ちょっと用事があるから」と先に帰ろうとする陽菜を、俺はこっそりと尾行することにした。
ストーカーみたいで気は引けるが、背に腹は代えられない。
陽菜は学校を出ると、普段は使わない駅裏の寂れた路地裏へと入っていく。
こんな場所に何があるんだ? 俺は物陰に隠れて息を潜めた。
すると、路地裏の奥で壁に寄りかかって苦しそうにしている男の姿が見えた。
ボロボロの戦闘服、腕には深い切り傷。一目で『探索者』と分かった。ダンジョンで負傷したのだろう。
陽菜はその男性に駆け寄ると、心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですか? 動かないでください」
「ああ…嬢ちゃんか。すまねえな、いつも…」
男性は慣れた様子で陽菜に礼を言う。
そして、俺は信じられない光景を目撃した。
陽菜が男性の傷ついた腕にそっと両手をかざす。
すると彼女の掌から、淡く温かな光があふれ出した。
陽だまりのような優しい光が傷口を包み込むと、みるみるうちに深い傷が塞がっていったのだ。
(あれは…回復スキル!?)
陽菜が、特別な力を持っていたなんて。
しかも、世界でも数えるほどしかいないと言われる、希少な治癒能力を持つヒーラー。
治療を終えた陽菜は、明らかに消耗した様子でふらついていた。
どうやら、この力は彼女自身の生命力を削るらしい。
それでも彼女は、男性から差し出された報酬を固辞し、「困っている人を助けたいだけですから」と微笑んでいた。
「私の力は、使い方を間違えれば、悪い人たちに利用されるかもしれない。だから、これは二人だけの秘密にしてくださいね」
そう言って男性と別れる陽菜。
俺は、胸が締め付けられるような思いだった。
あいつ、ずっと一人でこんなことを…。自分の身を削ってまで、見ず知らずの人を助けていたのか。
一番身近な幼馴染もまた、特別な世界の住人だった。
俺が平凡に過ごしている間にも、彼女は彼女なりに、その力と宿命に向き合っていたのだ。
俺は物陰からそっと離れ、何も知らないふりをして帰り道を歩いた。
しばらくして、疲れた顔の陽菜が追いついてくる。
「あれ、湊くん? まだ帰ってなかったの?」
「ん、ああ。なんかお前、フラフラしてるから心配で待ってた」
「もー、心配しすぎだよ! 私は大丈夫だってば!」
強がる彼女の頭を、俺はぽんと軽く叩いた。
「無理すんなよ。何かあったら、ちゃんと言えよな」
「……うん」
陽菜は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうにはにかんだ。
俺の周りには、いつの間にか「特別」な人間が集まってきていた。
平凡を望む俺の意思とは関係なく、物語は勝手に動き出そうとしていた。




