番外編1:氷の心、溶ける時(凛視点)
私の人生は、呪いという名の緩やかな死刑宣告と共にあった。
二十歳というタイムリミットが常に私の背後にまとわりつき、心を凍らせていた。
誰にも期待しない。誰にも心を開かない。
そうやって冷たい氷の仮面で自分を守り、ただ一人、運命に抗うためだけに剣を振るう日々。それが私、月島凛の全てだった。
あの日、公園で絶体絶命の窮地に陥った私を救った、謎のフードの剣士。
彼が振るった黒曜の魔剣は、私の知るどんなスキルやアイテムよりも強力で、神々しささえ感じさせた。
去り際に見た、うちの学校の制服。私の心に、小さな波紋が生まれた。
一体、誰が…?
翌日、私は学校で犯人捜しを始めた。だが名乗り出る者はいなかった。
そんな中、私の目に留まったのが、神谷湊だった。
彼はいつも教室の隅で、空気のように気配を消している平凡な男子生徒。そのはずだった。
サッカーボールが顔面に直撃しても微動だにしない。普通の人間ならあり得ない。
私の心の中の『まさか』という疑念が、芽を出す。
そして、体育祭。リレーのアンカーとして走る彼の姿を見て、私の疑念は確信に変わった。
あの常人離れした走り、爆発的な加速。それは紛れもなく、あの夜に私を救った者の片鱗だった。
(彼が…神谷くんが、あの人…?)
なぜ、彼は力を隠すのだろう。あれほどの力を持っていながら、なぜ平凡を装うのか。
謎は深まるばかり。でもそれと同時に、私の凍てついた心に、今まで感じたことのない温かい感情が灯り始めたことに、私は気づいていた。
彼のことをもっと知りたい。彼がなぜ力を隠すのか、その理由を知りたい。
彼を見るたびに胸が高鳴る。彼が他の女子と話しているのを見るだけで、胸がちくりと痛む。
これが『恋』という感情なのだと、私が自覚したのは、学校にダンジョンが現れ、彼が私の前に、今度は素顔のまま現れた時だった。
時を止めて、私を腕の中に抱きかかえてくれた彼。
その瞳は真剣で、力強くて、私の心臓を激しく揺さぶった。
『やっぱり、あなただったのね』
その言葉は、驚きと安堵と、そして、ずっと言いたかった『会いたかった』という気持ちの、全てを込めた一言だった。
私の氷の心は、神谷湊という、平凡を愛する不思議な男の子によって、完全に溶かされてしまったのだ。




