第10話「最後のガチャ、最後の希望」
ダンジョン最深部。そこは巨大なドーム状の空間だった。
天井からは鍾乳石のように蒼いクリスタルが垂れ下がり、幻想的な光を放っている。
その中央、祭壇のような場所に、黄金に輝く一つの杯――『生命の聖杯』が鎮座していた。
「あった…! あれが、聖杯…!」
凛が希望に満ちた声を上げる。
しかし俺たちの前に、巨大な影が立ちはだかった。
「グルルルルル……」
地響きのような唸り声。
祭壇を守るように横たわっていたソレは、ゆっくりと巨体を起こした。
赤黒い鱗に覆われた身体、山のように巨大な翼、そして溶岩のように燃え盛る瞳。
伝説の存在、古竜。このダンジョンコアを守るガーディアンだ。
「S級危険指定モンスター…! まさか、こんなものが…!」
凛の顔から血の気が引く。
S級探索者の彼女ですら、単独での討伐は不可能とされる災害クラスのモンスター。
ドラゴンが咆哮すると、凄まじいプレッシャーが嵐のように俺たちを襲った。
陽菜は顔を青くして、その場にへたり込んでしまう。
「二人とも、私の後ろへ!」
凛は俺たちを庇うように前に出て、剣を構えた。しかしその手は微かに震えている。
ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。まずい、ブレスが来る!
「――天狼、穿て!」
凛が渾身のスキルを放つ。白銀の狼のオーラが、一直線にドラゴンへと向かう。
しかしドラゴンはそれを鼻先で吹き飛ばし、口から灼熱のブレスを吐き出した。
「くっ…! 陽菜、バリアを!」
「は、はいっ!」
陽菜が咄嗟に防御障壁を展開するが、ドラゴンのブレスはあまりに強力すぎた。
障壁は一瞬でガラスのように砕け散り、俺たちは爆風で吹き飛ばされた。
「ぐはっ…!」
「きゃあ!」
俺と陽菜は壁に叩きつけられ、動けなくなる。
凛だけがボロボロになりながらも立ち上がり、ドラゴンと対峙していた。
しかし剣は折れ、全身は傷だらけ。もはや満身創痍だった。
圧倒的な力の差。これがダンジョンの最深部。これがガーディアンの力。
絶望が空間を支配する。万策尽きた。パーティーは完全に壊滅寸前だ。
(ここまでなのか…? 凛を、助けられないのか…?)
朦朧とする意識の中、ポケットのスマホが微かに振動した。
そうだ、日付が…変わった。
今日、最後の一回。俺の【ガチャ】が、まだ残っている。
もう、これに賭けるしかない。
俺は最後の力を振り絞り、スマホを取り出した。
凛の未来を、陽菜の未来を、そして俺たちの全ての希望を、この一回のタップに託す。
(頼む…! 来てくれ…! 全てをひっくり返す、奇跡を…!)
俺は祈りを込めて、画面のハンドルを、強く、強くタップした。




