世界観構築用コンセプト①
元軍人、セアドア・ラングフォード23歳。類まれなる才能から探偵として生活している。
そんな彼も何気ない日常を過ごすごくありふれた人間だった。
しかしある日から突然彼につきまとう変人...セドリック・モールトンが現れた。
いつもつきまとってくる彼にセアドアは嫌気さえ差していた。
___が、彼がある事件に巻き込まれたことからセアドアの人生は大きな急展開を迎える。
「...あそこにいるのは誰だ。」
何故私は此処にいる?私は何故意識を持っている?私は何故自分の姿がわからない。
ただ光速よりも速い速度であるだけだ。
そこは実に無であった。
__大水の上に闇が広がっている状態であった。
何者かが「光あれ」と言う。私は光を感じた。
それは始まりにすぎなかった。
観測者たちは、それを「起動」と呼んだ。
...そこから先はよく覚えていない。まあいい。
次の段階にいこう。我々には必要のない話だ。
1978年。争いなどない世界。
争いを知るもの、争いを起こすもの、当然争いを止めるものなどいない。
そこには何も変わらぬ現代があった。まあ、彼らからしてみればの話だが。
そんな「彼ら」の中に含まれていた元軍人、セアドア・ラングフォード。
齢を23として、類まれなる才能から探偵を生業としている。
「本当にありがとうございました。お陰で良い誕生日プレゼントを贈れそうです」
年寄りのおばあさんがセアドアに封筒を渡しながら深々とお辞儀をする。
「いえいえ、とんでもない。これからは落とし物をしないように、十分気遣ってください」
笑みが浮かぶ。なんといってもこの封筒の厚さ。誰しもが興奮するような厚さ。
この厚さではしたくなくても丁寧に気遣うものだ。
「それでは、また何かあったら、ぜひよろしくおねがいしますね」
おばあさんはそう言ってまた深々と頭を下げドアを開け帰っていく。
「お?その顔、なんか良い額もらったような笑顔だな?いくら貰ったんだ?」
遠くから声がした。
セアドアの眉がピクリと動く。
「まだいたんですか、セドリックさん。用事がないのなら帰ってください。業務に支障が出ます」
「またそんなこと言って。全然実力行使しないくせに。」
何だこの男は、セアドアは思う。
いかにも不適当な人生を送ってそうな男、セドリック・モールトン。
彼は2週間前からほぼ毎日セアドアの生真面目な事務所に訪ねては他愛もない話をして、事務所を汚したかと思えば突然消える。
よくわからない人間がいるだけで依頼者は萎縮してしまうものだ。
本当に業務の邪魔なので本当に消えてほしい、そう思う。
「セアドアくん。一体どういう依頼だったんだ?」
こんな分厚い封筒、どんな依頼を受けたのか誰だって気になるものだ。
「大したものでも無いですよ。夫との結婚指輪をなくしてしまったようで。
特注品らしく探すしかないと」
「それは大変だったな。にしても、そんな小さいのよくみつけられたな。
この街内だとしても、相当な広さだぞ?とても1日2日なんてレベルじゃない」
なめてもらっちゃ困る。セアドアは腐っても街ではしれた探偵だ。あらゆる"網"を持っている。
「なくしたのは駅周辺だということで、駅で働いている人たちにも手伝ってもらったんです。
結局見つかったのは川に架かる橋の入口の所だったんですけどね」
セアドアは事の顛末を話す。
「ああ、そういうことか。
あそこの橋は蒸気機関車も通るそれなりに流通量の多いところだ。よくみつかったな。
しかしながら、見つけたのがセアドアくんではないとなると、本当にその額を貰っちゃだめだろう」
セドリックはこういうところに無駄に敏感だ。
「流石に手伝ってくれた人に渡しますよ」
セアドアは少々苛つきながら答える。
「そうだ、セアドアくん。もうこんな時間だし、外で一緒に食事を取ることにしないか?」
「そう言って、私からお金をたかるつもりでしょう?自分で作ったほうが安いし美味しいです」
「いいから。私を誰だと思ってるんだ?」
「ゴキブリのようなものでしょう」
「はぁ?私はお金持ちだと、そう前にも言ったはずだろう?こんな貧乏人に金をたかるわけなかろう」
「そうですか。なら私は1ポンドも持っていかないですからね」
「あぁ、いいとも。今回は私のおごりだ。...それに、確認したいことがあるからな」
セドリックはそう言いながら、真剣にセアドアへ目線を送る。
確認?又ろくでもないことだろう。セアドアは苦笑いを浮かべながら、重い足を動かす。
こうしてセアドアとセドリックはこうして街に繰り出すことになった。
二人は、事務所を出て、夕暮れの街へと歩き始めた。
空気はきれいで、どこか落ち着いた印象。
パン屋からは焼きたての香ばしい匂いが漏れていた。
どこの家も開放的で、まさしく人間の善意にすがる、そんな風景の羅列のような町並みだ。
「セドリック。最近ココらへんの治安はどうなんだ?探偵だからわかるだろう?」
唐突にセドリックはセアドアに聴く。
「治安?考えたこともないですね。依頼も別に落とし物とかしか無いですよ」
続けてセドリックは言う。
「...不思議だと思わないのか?町の人々は全員、人間を”善”としている」
「...それが普通ではないですか?何も不思議だとは思いません」
何だこの人間は。急におかしなことを言いやがって。セアドアの声が堅くなる。
「お前は考えたこともないのか?人間は人も殺すと」
手にべっとりとした感覚。手を見る。血じゃない。ただの汗だ。
セアドアは手をきつく拭い、意識をセドリックへ向ける。
怒りというより、心の奥底を見透かされたような、そんな不快感があった。
「一体なんの話ですか?人間が人間を殺す?そんなことはありえません」
もはや怒りという感情を乗せ、感情的に答える。
何故かセドリックの言葉一つ一つが、セアドアの心を突き刺していく。
セドリックはこれから告げる言葉の重さを図るように、ゆっくりと息をつく。
彼は肩を落とし、セアドアに視線を合わせる。
それは凝視し、追従し続ける。逃げることは許されない。
「でもお前は思っているんだ。人間を殺したいと」
「お前は、”人間を殺した”ことがあるじゃないのか?」
「あなたはそれを言いたいが為に私につきまとっていたのですか。
はっきり言って意味がわからない。私を怒らせて何がしたい。
私の探偵としての評価を落とそうと、そう企んでいるのか。」
パンの香りがする。よくわからないが、無い記憶を読み戻すような、そんな感覚になる。
何かが横を通り過ぎる。視界が歪む。強大な音が遠くからする。いや、幻想だ。
焦げたパン。配給所。泥の味。いや、幻想だ。
肩をこわばらせ、一歩後ずさる。耳には幻の爆音、異様に空腹が騒ぎ立てる。これも幻想。
セアドアはそう思い、必死に反論しようと思考を巡らす。
セドリックはその言葉を丁重に聞きながら、その行動を丁寧に観察した。
セドリックは静かに息をつき、話を区切った。
「...今日はこの辺にしておこう。夜ご飯は今度だ。またな、セアドア・ラングフォード」
そう言うと、彼は街の影へと消えていった。
夕暮れの街は、変わらず穏やかに日常を刻んでいた。
セアドアの口の中は何故か甘い。血管が広がるような感覚に陥る。
セアドアとセドリック。その二人の間に漂う緊張と隔たり。
それは、この世界の常識を根底から揺るがす、ほんの僅かな違和感でしかなかった。
世界観を構築する用のコンセプト小説です。後何回かやったら1話を作成します。
当方、高専生なもんですから、少し忙しい期間もあるため、投稿は不定期です。
お願いします。