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物語は始まる

煌びやかな世界、美しい景色。


平和な世の中、不満などないのだと微笑む人々。


世界中に祝福された今日、この日


新たな王が誕生する。



拍手喝采の中姿を現した荘厳なる王はその麗しい(かんばせ)で人々を惹きつける。


キラキラと輝く髪は夜明け色、どんな闇も払うと言われ


熱く燃えるような瞳は深紅色、どんな困難も焼き払い


人々を暖かく見守るのだとか。


彼こそが正しく王族の血を引いているのだと()()姿()が物語っている。


空高く振り上げられた手に人々は息をのみ見上げる。


「我が民よ。今、この瞬間から私が護ると誓おう


あらゆる困難を退け永い安寧を約束しよう」


太陽の光がまるで祝福するかの様に王を照らしだす。


一瞬にして民から声が上がる。


「我等が王であるヘリオス様!」


「太陽の王よ!我等をお導き下さい!!」


歓声が響き渡りまた一人、また一人と声を上げる。


とてつもない熱気に包まれる中、静かに手を掲げる。


「先代からのこの名に誓い必ずや民の願いに応えよう!!!」


またもや歓声に………


とはならなかった。


後光の差す王の背後に真っ黒な男が立っていた。


それはほんの瞬きの瞬間の様に……


いや、まるで初めからそこに居たかの様に


まるで影の様にすぐ後ろに居たのだ。


驚いた護衛達はすぐさま剣を抜きその男へ切りかかろうとした。


だが、その前に何者かによってその剣が飛ばされる。


現れた男は真っ黒の外套に身を包み顔は見えない。


その真っ黒な男は静かに笑った。


何が起こったのか理解の追いつかない民達は呆然としている。


ただ分かるのは太陽の王の首にあてられた剣はきっと


自分達から希望が奪われるのだとそれだけは理解した。


手も足も出せない護衛達がゴクリと喉を鳴らす


チャンスを伺うが何処にも隙などない。


「ふっ、ふふふ。

そう、君達の希望は私の手の中だよ。


大丈夫、今は殺さないよ。


私の名はタナトス。

君達の安寧を壊す者だよ」


隠されていた顔が晒される。


黒く艶やかな髪、目元には包帯が巻かれその瞳は見えない。


黒髪の男が王の首に刃をあてたまま少し前へ出た


「今日は君達と話しがしたくて来たんだ。


いいかい、そのままその場で大人しく話しを聞いて


僕の声に耳を傾けて欲しい。


こうでもしないと君達は僕の話しなんて聞いてくれないでしょう


だから、僕が君達と()()するのは


これが最初で最後だよ。……よく、聞いてね」


誰1人声をあげず固唾をのみながら見ている


「……そう、それでいいよ。…ありがとう


まず、君達に問いたい。


今、この国は本当に平穏で幸福の溢れる国だろうか


広まるばかりの貧富の差、差別。


起こすべきではなかった戦、そこに向かわされ失ったもの達


亜人族は本当に今のままで良いのか?


この問題はもう、何十年、何百年と続いている……


何故、誰もこれがおかしい事だと言わない?


下を向いているもの達、何故だ?


逆らえば処罰を受けるからか、周りが恐ろしいか


何故、そんな世を安寧等と呼ぶ王族を称えられるのだ?


私は魔族のもの達と共にこの世界を変える


今日はその宣戦布告をしに来た」


男が声高々に言ったその時だった。


王が大声で笑ったのだ


「…は、ははは!!


世界を、変えるだと…魔族を率いてか?


ははは!……愚かな。そんな事が出来るものか!


世界とは大きく出たものだ!たとえこの国が堕ちようとも他国はお前を見過ごすと思うのか


お前に侵略された地の者達がお前達に従うと?


先程お前は戦が起きた事を嘆いたがあれは嘘か


戦争をさも悪い事だと言っていたお前が宣戦布告?


結局は武力行使では無いか!


随分と多い舌を持っているものだ。…笑わせてくれる」


チラと王を見た男はふっと笑い首を振る。


「…その言葉、僕がそのままお返ししたい位ですよ。


僕は()()()()()()と言ったのです。


これは、必要な戦です、世界を変えるためのね。


偽善だと言うのならそれで構いません。


初めに言ったでしょう、これが貴方がたとの()()の対話だと。


ここから始まるのは悪夢、貴方達に訪れるのは安寧ではなく絶望ですよ


そう、貴方が王になったこの時からこの国は崩壊に向かう


それを阻止したければ今すぐに僕を殺して下さい


……出来るものなら、ですけれどね?」


ふふふっと怪しげに笑いおうを後ろへと下がる。


1歩、また1歩と下がり警戒していた騎士達に目を向け


黒い男の護衛も剣を騎士に向けそのまま室内へと入っていく


王は騎士達に静止を促した。


剣に手を添えたままの騎士達は唇を噛み締め己の無力に苛立っていた。


王から離れた黒い男、タナトスは剣を下ろした。


王は振り返り男の顔を見たそして眉を顰めると


タナトスが目元の包帯をはずし王を見つめた。


王は驚愕の表情を浮かべある名を口にした


そして、タナトスはふっと笑いその場で膝を着いた。


「…私の光…貴方は太陽。

太陽である貴方は月を失っても何も損なわない。


けれど、月は太陽を失えば夜闇へと堕ちてしまう…」


赤の瞳を揺らし動揺の残る声で男に問う


「…お、前は……お前は…我が月なの、か?」


その問いに男は巻き直した包帯そっと触れ首を振る


「……いいえ、月は堕ちこの国から月は消え失せたのです。


…貴方の月はもう、何処にも居ないのですよ


私は死、貴方とこの国を壊す者です」


そのまま踵を返し闇の中へ消えて行く


王は呼んだ、かつての王の月の名を……


一瞬、振り返ったタナトスは言った。


「…ね、言ったでしょう」


口元に笑みを浮かべ今度こそ闇へと消えて行った。



空を掴む王の手には何も遺らなかった。


「…あの時……やはり私は………間違えていたのだ」





さぁ、新たな物語の幕開けです。



















































ありがとうございました。

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