第6話 王子としての責務と気持ち~Sideジェラルド~
「ああ! 集中できない!」
ジェラルドは執務室で書類を勢いよくまき散らす。
脳内にはあの日婚約破棄したときの情景がずっと残り続けており、彼はそれに頭を悩まされていた。
(あのクラリスの表情が忘れられない、あの切なそうな顔はなんだ)
書類の裏になひたすら丸や四角を落書きしながら考える。
(エドガールに彼女の邪魔をしていると言われた。妃教育が俺のせいでうまくいっていないらしいと。それに、彼女には好きな人がいるんだ、と)
エドガールは確かに「クラリスが君の邪魔をしている。それに妃教育もうまくいっていないらしい」とだけ伝えたのだが、公務をしながら聞いていたジェラルドは彼の話をどんどん間違った方向へと考えて行ってしまった。
(俺のせいでクラリスは新しい恋に踏み出せない。それなら、彼女の邪魔にならないように身を引くべきだ……しかし……)
そう思って婚約破棄をしたのだが、どうしてもクラリスのことを忘れられずに仕事に身が入らなかった。
(やはり俺はクラリスが好きだ。しかし、この気持ちを伝えるべきか否か)
すると、悩むジェラルドのもとへ珍しく国王がやってきた。
「父上っ!」
「ジェラルド、この仕事を頼みたい。それと……今から父親としてのアドバイスを一つする。よく聞け」
「父親としてのアドバイスですか?」
国王は少し間を持たせた後で、ジェラルドに告げる。
「お前は天然だ」
「……はい?」
「そして、クラリス嬢はちと鈍感だ」
「はぁ……」
ジェラルドには父親が何を言いたいのかさっぱりわからなかった。
「ジェラルド、お前は何を守らなければいけない?」
「守るものですか?」
「それをしっかり考えてみろ。そうしたら答えは出る」
それから、と国王はジェラルドの耳元でこっそりと重大な王命を伝える。
「それは真実でございますか?」
「ああ、だから頼んだ、これは立派な王命だ」
「かしこまりました」
それだけを言い残すと、国王はそのまま部屋を出ていった。
机には広げられた公務の書類を手に取ると、ジェラルドはそれを空中に投げ捨てた。
(俺はやはりクラリスと共にあり、クラリスと幸せになりたい! それに、やらなければならないことがある)
彼は椅子から立ち上がって部屋を飛び出す。
(クラリスは誰か好きな人がいるのかもしれない。だが、俺はそれでもこの想いを伝えずにはいられない!)
彼は「王命」を受け、そして自分の想いをクラリスに伝えるためにルノアール邸へと向かった。