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第4話 あなたへ薔薇を贈りましょう

 クラリスはジェラルドに婚約破棄された日からずっと気分が落ち込んでいた。


(はあ……立ち直らなければと思うのに、大好きな本も読めないわ)


 本のページを右へめくったり、左へめくったりしながらそわそわして落ち着きがない。

 なにをしていてもジェラルドのことを考えてしまうクラリスは、本をそっと閉じて窓の外を眺める。

 外には綺麗なバラの咲き誇る庭園があり、クラリスの癒しになっていた。

 すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえてくる。


「はい」

「失礼します」


 クラリス専属侍女が入室し、要件を伝える。


「クラリス様、第二王子のエドガール様がお見えです」

「エドガール様が? なんの御用でしょう」

「お通しして大丈夫でしょうか?」

「ええ、構わないわ」


 侍女は丁寧にお辞儀をすると、玄関へと向かった。

 クラリスは急いで本を棚にしまうと、軽くドレスや髪を整える。


(エドガール様がうちに何の御用かしら?)


 やがて侍女の案内でエドガールがクラリスのもとへやって来た。

 彼は彼女の姿を見ると、嬉しそうに声をあげた。


「やあ、元気にしてるかい?」

「エドガール様、ごきげんよう」


 侍女が去ったことを確認すると、エドガールはクラリスにすぐさま近づいていった。


「クラリス」

「ええ、なんでしょうか」


 エドガールは彼女との距離を大きくつめ、手をいきなり掴んだ。


「え……」


 突然の距離の詰め方と手に触れられたことで、クラリスは不快感を覚えた。

 しかし、そんな彼女の様子に気づかない彼は話を始める。


「ジェラルドと婚約破棄をしたと聞いたよ、大丈夫かい?」

「ええ……」

「可哀そうに、ジェラルドに邪見に扱われて寂しかっただろう。これからは僕を頼るといい。君のためならなんでもするよ」

「そうですわね、何かあったら頼らせていただきますわ」


 エドガールはクラリスの手の甲に唇をそっと置くと、そのまま彼女の顔を見つめて微笑む。

 いきなりのエドガールの行動にクラリスはわずかに表情を変えて驚くも、すぐに平静を取り戻して対応した。

 すると、彼は後ろに用意しておいた彼女への贈り物を渡す。


「これ、よかったらお近づきの印に」

「お花……よろしいのですか?」

「ああ、もちろんだ。気に入ってもらえたかな」

「ええ……とても」


 クラリスは彼からの贈り物である薔薇の花束を受け取ると、いつも通りの「氷雪令嬢」の素振りで返答を返す。


「じゃあ、今日は挨拶だけだから、また来るよ」

「かしこまりました」


 そういって、エドガールは得意げな顔を浮かべながら部屋を去っていく。

 去り際にはクラリスのほうを振り返り、片目を閉じて合図した。

 その合図にクラリスは丁寧にお辞儀をして微笑むが、彼が去った後にふっとその笑顔が消える。


(エドガール様はもっと慎重で慎ましやかなイメージだったけれど、少し印象が違ったわね)


 花束をそっと机の上におくと、花びらを細い指でそっとなでる。


「私は花束より庭にある自然な花が好きだわ」


 その呟きは誰の耳にも届いていなかった──。

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