恐怖し、涙を流す少年「ゼノ」
2か月前。私は彼らと出会った。
多くの旅を続ける私達は【魔獣の洞窟】にて、少年【ゼノ】と出会う。
建国256年1月22日
旅を続けて2ヶ月が経過した。
当時私は17歳。
雨を凌ぐため、通りかかった[魔獣の洞窟]にて、少年【ゼノ】と出会う。
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「いや~びちょびちょだな!!あはは!!」
「はぁ……服も高くないんだぞ?ノア…」
「なーに言ってんだ!ゼウス!空気傘にしてヒーリェと自分だけ守りやがって!!!」
「?」
「とぼけんなよ!!!!」
いつもの通り。彼らは奇想天外だ。
空気を傘にする【ゼウス】
雨を剣劇のみで防いだ【ジン】
1人だけ洞窟に先回りしていた【アキラ】
雨を浄化し水分調達を次いでに済ませた【イリス】
天候を外す【ノア】
「…ゼウスさん…あの私は何をしたら」
「ノアの体温を回復してやってくれ。ジン。アキラ。食料調達に行くぞ」
「……おーけー」
「魔獣を食う気か?」
「…?イリスの【浄化】があれば魔獣はただの獣だろ?」
「まぁ……てか…俺以外魔獣食っても死ななそうだしな」
「万が一何かあってもヒーリェが居る。」
「はいはい。ヒーリェ?アホどもの面倒頼んだよ」
「!はい!!」
「こらこら!!誰がアホどもだ!!」
「心外だな。俺はまだまともだ」
……アキラさんに頼まれた
やっぱり私は…誰かの役に立てる事がとても嬉しい。
「つったってよ…俺ら何すんの?」
「木材集めて焚火起こすか?」
「これだからアホは…雨降ってんだろ?」
「これだからバカは…【促進】があるだろ?」
「バカっつったか?!?!」
「言ってませーん」
「……焚火?!」
「ん?あは!いい反応するね…焚火は初めてかい?」
「いえ!幼い時にキャンプファイヤーは見たことあります!」
「強化版じゃんか…」
「キャンプファイヤーの強化版はなんなんだよ」
「そりゃ山火事だろ」
「間違いないな」
「だろ?」
長く他者との会話を絶っていたからか、中々話に参加出来ない。
「…火はどうするんだ?」
「……ほんとだな」
「まぁゼウスが居るからな」
「だな」
「あの…」
「おう!どうした!」
「洞窟から出るのであれば…試して見たいことがあるんですが…」
「なになに!」
「【リンク】を付与してお2人が外に、私は中に入れば、濡れない…のでは?っと…」
「あー。ヒーリェの身体状況を【リンク】するから、雨に濡れない。と。」
「…はい。確証は…ありませんが……」
「いいね。スキルの理解度上昇も兼ねて、試す価値は大いにある。」
10分後
「取ってきたぞ~。って……なんで濡れてんの?」
「お"ぉ"!!ジン!!聞いてくれるな!!2人は?!」
「あー。なんかガキ?拾ってよ。起こさないように安全な道で遠回りしてる」
「なるほどな~」
「?!子供が洞窟内に居たんですか?!?!?!」
大きな声を上げた私に、ジンは驚き続けて話した。
「お、おう。10歳ぐらいの…男…」
「!案内してください!!!」
「ちょちょ!!待てよ!ゼウスとアキラがいるから平気だって!!てか2人!ヒーリェ止めろ!俺両手塞がってんだ!!!」
「地面に置けばいいのになぁ~」
「だよな~」
「食いもんだぞ?!少しは綺麗にしたいだろ!」
「焼いたら同じじゃね?」
「だなー」
「…はぁ。よっと」
「う"?!」
突然足が行く手を塞ぎお腹に激突した。
「なんですか?!」
「慌てんな。ここは魔獣の巣窟だぞ。お前一人で行ってどうなる?道は分かるのか?」
「魔獣の巣窟に子供がいたんですよ?!早く治療しないと!!」
「…?いや待て。妙だな。」
「何がですか?!」
「確かに子供だった。それにしては無傷すぎる。ただ運が良いだけか?」
「…【暴走者】の可能性があるってことか?」
「あぁ…っまゼウスがいるしな。大丈夫だろ」
「確かにな!」
「…」
【暴走者】。単語だけなら嫌になるほど聞いた。全ての生物が成りうる可能性を秘めている。感情のリミッターが壊れた時の症状。
「10歳の子供が。そこまで追い込まれるなんて…」
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「寝言じゃないよな」
「…だね……」
おんぶするゼウスの背中から聞こえたノイズ音。
少年は目を開くと、ゼウスの背中を激しく押した。
「#?!」
「どうした?」
離れるはずだった。しかし、何故かまだ男の背中にくっ付いている状況に、少年は困惑する。
「このまま連れ戻してやるよ。大人しくしてな」
「相変わらず常識外れな肉体だなぁ…焦った気持ちを返してくれ」
「###!##!!」
「?いつも通りだろ?」
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「……何この状況…」
戻ってきたゼウスとアキラは、暴れる少年をおんぶしたまま現れた。
「流石に引いたよ……ゼウス…」
「同意…」
「…とりあえず拘束するか。」
木材を手に取ったゼウスは、ロープの様に少年の体を拘束した。
「##!!!!!」
「よしっ」
「うわ…いつ見ても頭おかしくなりそう」
「手遅れだろ」
「あ"あ"?!」
「だなー」
「…」
当たり前のように空気から火を着火したゼウスは、木材に付ける
「話が早いね」
「とりあえず飯だ。雨が止み次第出発だから死ぬほど食え」
「……ぇと!先にこの子助けても?!?!」
「?!」
「……ヒーリェ?それはつまり…解除可能って事?」
「?解除??」
「暴走状態の解除。すなわち、他者の感情を制御出来るのかと聞いている。」
「……?症状だから…病気じゃ??」
「…まぁその説もある」
「でも、どの国にも治せる者は居なかった。暴走状態は、一種の【進化】と呼ぶ者もいる。逆に制御不可能な状態から【退化】とも。病気とは本質的に違うと思うが?」
「…身体的変化や精神的変化により、本人へ危害が行われる場合。私は病気であると論します。病気なら必ず治す方法がある。……私の場合は…また特殊ですが……」
少年の目の前に座り、頭を軽く触れる。
「…【リンク】」
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「もう無理。こんな子といたら…みんな死んじゃう」「早く黙らせろ!!」「お願い!!お願い…」
「か…は……」
目の前に恐怖へ満ちた大人が、私の首を絞める
涙が流れ、私は苦しさにもがいた
(苦しい…)
根本的解決を行わなくてはならない。その為に、私は彼に【リンク】した。普段は感情や言葉が頭に浮かぶ。しかしこれは。
(物語…今まで助けてきた人たちとはレベルが違う)
「ま、ま」
(?!)
ふと隣を向くと、母親が泣きながら地面に倒れていた。
洞窟、恐怖、混乱、これだけで大凡の検討は付く。
この先の村で、魔王軍もしくは盗賊による殺人が起きたのだろう。逃げた先の洞窟が魔獣の巣窟で、余計混乱。泣いてしまった子供を黙らせる為に…
「…ぅ……」
(こんなことを…)
……でも。まだ違う。
この子が【暴走者】になった理由は…
「待って!!!!!」
「?!なんだ!大声を出すな!」
叫んだのは、母親だった。
愛情。懇願。
「お願いします……」
深く下げられた頭は地面に額をつける。
先程まで騒いでいた母親の冷静な姿は、みんなに【本気】と【願い】、【愛】を伝えた。
同時に、【罪悪感】と【責任感】すらも。
「…?!」
人として、道を外れてしまう事はいい。しかし、その場の感情により外れる行為はその人の人生に永遠と染み付く思い出となる。
襲われ、逃げ、錯乱する人々の中。ただ1人。
【我が子】の為に努力した母親の姿に…
洞窟の雰囲気は変わった。
……悪い方へと
「みんな我慢してるんだ!!!子供だからって特別扱いするのか!!!」
「あなたはまだ子供が生きてて救われてるよ!!私なんて…」
「……」
(あっ……)
瞬間。目の前が暗転する。
(この子の意識が飛んだ…呼吸が出来なかったんだ…)
暗闇の中目を閉じる。
【やめ…てください…】
(……私だったら…あの母親の様に。本気で伝えれるのかな…)
襲われたあの夜。私は嗚咽を吐き、泣きながら懇願した。…その姿は、先の母親とは非なるもの。
(かっこいい……)
もし私の村にあの様な人がいたら。
……私は救われたのだろうか。
「…い……け!……そん……つ!!」
「……ごめ…な……。ゼノ…」
(?!)
意識が朧気に光る。
どれほど気絶していたのだろうか。
……ただただ。
「…………寒い」
僕は呟いた。
痛む喉と手足の冷たさに、思わず言葉が漏れた。
でも。……暖かい背中に頬を付け、安心する。
「まま…?」
ぼやける視界が開き始め、当たりを見渡すが誰も居ない。
「ぁ……」
涙が流れ、察してしまった。
邪魔になった僕から、寝ている間に離れたのだと。
1人暗い洞窟に残されて、みんな…助かる為に。
震える脚で何とか立ち上がり、冷たい岩に掌を付ける。
「…でも」
白い息を吐き、笑顔になった少年は、泣きながら呟いた。
「生きてるなら…良かった」
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「ヒーリェ!!!」
「?!?!」
突然肩を揺らされ、【リンク】が解除される。
焚き火はパチパチと音を鳴らし、暖かい空気が体を落ち着かせる。
「何か分かったか?」
「…はい。」
見た光景、感じた事。……少年と母親の優しさ。全てを話した。
「……名前は…【ゼノ】」
「…なぁ?その母親って……」
「ノア?大丈夫だ。みんな理解してる。」
「……って事は…見たんだな?」
「……」
先程洞窟の奥に入ったのは、【ゼウス】【アキラ】【ジン】。彼らが見落とす訳が無い。
「察しの通り。この子以外の住民は見当たらなかった。…ゼノくんが餓死していない事を考えると、事件もさほど時間は経っていない。住民が逃げたのなら道中、僕の【盤上】に映るはずだ」
「…ならこの暴走状態の発生条件は……」
「…母親の遺体を見た事だろう。」
「……逃げてくれていれば、助かっていれば。例え置いて行かれても大丈夫。か…優しいな。この歳で。」
私はゼノの目の前に座り、頭を軽く撫でる。
「…ゼノ?」
「…#?」
「…凄いよ。自己犠牲の精神を、行動で体現出来る人は中々いないよ。」
「##!!」
動きが荒くなり、危険と判断したジンが止めようとするが、アキラが遮った。
「知らない洞窟の中、1人っきりで。私達が来るまで、生きる事を辞めなかったんだね。…嫌な事……私は、閉じこもっちゃった人間だから。ゼノみたいに、奮い立てる強さがないんだ。…」
「……#」
「……その優しさと強さを。沢山の人を助ける為に使ってみないかな?…私は、ゼノと一緒に冒険がしてみたいな」
「…だっ#……み#な死んじゃっ#。…ぼ#のせいで」
「なら。今度は守ろう」
「……」
涙を流すゼノは、ゆっくり目を閉じる。
微かに残る記憶の欠片。
最後の母親のセリフ
「ごめんなさい。ゼノ。……必ず生きてね」
…分かってた。分かってたのに、僕は僕のために改変した。置いて行かれた方が辛くないから、被害者になりたかったから。…母親が僕を助ける為に行動したのだと、今。深く。受け入れた。
「…僕の名前は……どうして知ってるの?」
「…私が……」
「ばーーーーか!!母親から聞いたんだよ!!」
笑いながら叫んだノアに、少し驚いたゼノは、安堵し笑った。
「そっか!」
ノアの頭を叩いたイリスは、ゼノの反応に驚き、ニヤニヤするノアに反撃された
「はい俺の方が理解者!!!」
「くっ?!」
賑やかな空気に、力が抜ける。赤く燃える焚き火の炎は、洞窟を明るく照らし、僕の心も温めた。
「…あったかい」
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母親の件は、残念だと思う。でも、ゼノはめげず前向きだ。恐らく母親譲りだろう。
雨が止み、【魔獣の洞窟】を出た私達は、【貴族が住まう国】へと足を運ぶ。
追記:魔獣のお肉は美味しかった
ヒーリェ目線の印象
・【ゼウス】お兄さん
・【アキラ】頭のいい人
・【ジン】怖めのお節介さん
・【ノア】陽気な男の子
・【イリス】知性の低いハイスペックな男の子
・【ゼノ】優しい少年
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