(6) アサヒ
私とサファリーさん達は、一緒にヴェルガートに宮殿へと連行されたのだが、宮殿に到着すると、サファリーさん達は騎士と思われる方々に受け渡され、私とは別の部屋へと連行されていた。
私は心配に思いながらも、裏切られた事実は変わりようがないので、あえて引き留めるようなこともしなかったのだが......
ヴェルガートに連れられて、サファリーさん達が連行されたと思われる部屋に行き、サファリーさんの無事を確認すると、安堵してしまった。
――まあ、サファリーさん達はいまだに拘束されていて、地べたに這いつくばるような格好のうえ、周りを騎士に囲まれているのだが。
そんな私の様子を見て、サファリーさんは私を睨みつけながら毒ずく。
「こんな屈辱を受けるならば、あの時に一思いに殺してくれれば.......!貴様はどうして私を助けた!?」
「罪人は口を慎め」
そんなサファリーさんを、ヴェルガートは冷たく、鋭い声でそう言い放つ。
ヴェルガートの声に、若干の怯みを見せたサファリーさんだったが、キッとヴェルガートを睨みつけ、対抗する。
だが、そんなサファリーさんの様子を、ヴェルガートはさして気にせずに、私に話を進める。
「リーナには、この罪人を裁いてほしい。できるね?」
「ええ、やらせていただきます。」
ヴェルガートの問いかけに、私は小さく頷きながらそう答える。
そんな私の様子に、ヴェルガートは満足したように軽く笑うと、私にサファリーさん達の裁きを私に託す。
だが、何も知らずに罰することはできない。なので、私はいくつかサファリーさん達に質問しようと思い、サファリーさん達にできる限り近づく。
「サファリーさ.....」
「――はっ。貴様、その呼び方はやめろ。」
私がサファリーさんに呼びかけようとすると、サファリーさんが私の言葉を遮ってくる。
一瞬、周りの騎士たちが殺気立ち、持っていたランス(槍の一種)を、サファリーさんの首に当て、サファリーさんがしゃべるのを止めようとするが、私は「いい」と言って、騎士の動きを止める。
一瞬この人たち、サファリーさんを本気で殺そうとしてたなぁ、と思いながら、私はサファリーさんに問いかける。
「いったいそれはどういうことですか?サファリーさん。」
「まだ気づかないのか。そのサファリーという名前は偽名なんだよ。」
私は、サファリーさんの言葉に目を見開く。
だって、これまで疑いもなく、サファリーという名を本名だと信じて疑わなかったから。
「世間知らずにもほどがある......」
そう言いながら、サファリーさんは私を馬鹿にしたように、鼻で笑う。
偽名なんて、本当に使う人がいるのかと、軽く驚きながら、私はその話題に深くは触れずに話を続けることにする。
「それでは、いくつかあなた達に質問をするので、嘘をつかずに、正直にお答えください。」
私は、そんなことを言ったらサファリーさんは抗議すると思っていたが、それっきり、サファリーさんは口を閉ざしたので、私はそのまま話を続けることができた。
「どうして、私のバッグを奪おうとしたのですか?」
てか、そう言ってみて気が付いたけれど、私のバッグ、どこかへいったな。
後で返してもらおう。
私が場違いなことを考えながらも、サファリーさんは口を開き、私の質問に答える。
「貴様が寝ていた時、バッグの中を見てみたら、金目のものが沢山入っていたから。」
「それでは何故、貴女は私が寝ている間に盗まなかったのですか?」
「もしかしたら、他にも金目の物を隠しているかもしれないと思ったからだ。」
こんな調子で、私は質問を重ね、そのすべての質問に、サファリーさんは正直に答えてくれる。
もしかしたら、全てが嘘なのかもしれない。それでも、私は彼女を信じたい。そう思った。
「わかりました。これにて、私の質問な終わりにします。何か言いたいことはありますか?」
「ない。」
私がそう問いかけると、サファリーさんは即答し、男たちもこくりと頷く。
正直、ここまでくれば、私の考えも固まり、サファリーさん達への裁きも決めれる。
私は決心し、口を開き、裁きの内容を伝える。
「――あなた方は、私に仕えてもらいます。」
「は?」
サファリーさん達は、口をそろえてそう言う。
「おい、貴様。あんたは世間知らずなうえ、甘ったるく.....」
「――黙りなさい。」
サファリーさんは何かを言おうとするが、全てを言い終える前に、私はサファリーさんをギロリと睨みつけ、できるだけ低い声で、サファリーさんを黙らせる。
「甘ったるい?あなた達への罰にはうってつけだと思ったんだけど。あなた方には、下手な罰なんかよりも、こちらの方が、屈辱でしょう?」
私は、地べたに這いつくばるサファリーさんを見下ろし、悪役のように皮肉気に目を細め、クスクスと笑う。
そんな私の様子を見て、サファリーさんは「グヌヌッ」と唸るが、やがて......
「――死ぬよりはましだ。その裁き、引き受けよう。お前たちも、それでいいか?」
「.......はい」
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「決まったようだな。」
これまで、私達の様子を黙って見ていたヴェルガートが、裁きが終わったのを察して、私達に声をかけてくる。そして、サファリーさん達を取り囲んでいた騎士たちに命令し、サファリーさん達を縛っていた縄を解く。
「しかし、本当にいいのか?こいつらは、一度リーナを襲おうとしていた奴らだろう?」
「別に、そんなことはさして気にしない。それに最悪、私が死んでもあんたには支障はないだろう?」
「いやいや、支障ありまくりだから!!リーナは俺の妻になる人だし......」
「――いや、勝手に決めないでくれないか?」
私がイラつきながらそう言うと、ヴェルガートはにっこりと私に笑いかけ、こう言う。
「じゃあ、君を惚れさせるまでだね。」
「は?」
「しばらくの間は、どんなに君が嫌がっても宮殿に居てもらうから。」
「――おい、貴様ら。私達を忘れるな。」
私がヴェルガートと言い合っていると、サファリーさんが若干声を荒げながらそう声をかけてくる。
「あ、すみません、サファリーさ.....」
「――だからその呼び方やめろって言ってるだろ。それは偽名だ。」
サファリーさんが冷たくそう言い放つ。
「えっと、じゃあ、本名を教えていただいても......」
「ねぇよ、そんなの。」
「それでは、なんとお呼びすれば......」
「ここまで言っても通じないとか、どれだけ鈍いんだ......」
はぁ~とため息をつきながら、サファリーさんは私をじっと見つめてくる。
「あんたに新しい名前を付けてほしいんだ。」
「えっ?名前.....ですか?」
「ああ、そうだ。あんたに私の新しい名前を付けてほしいんだ。」
二回言った。それほど私に名前を付けてほしいのか。
私はそう思い、う~んと少し悩む。
――あ、そうだ。
「アサヒで。」
「アサヒ......朝日の事か?」
「はい、そうです!」
我ながら捻りのない名前なのは分かっているが、パッと思いついたのはこれしかなかった。
「捻りのない名前だな......何か由来でもあるのか?」
本人にもそう言われたが、由来を聞いてくるあたり、少なくとも、気に入らないことは無いのだろう。
「――貴女と見た朝日が、とっても綺麗だったから。」
私が素直に由来を話すと、彼女はフンっと鼻で笑う。
「それは貴様を油断させるためだ。それ以上でも、それ以下でもない。」
「それでも、私が貴女と見た朝日を、綺麗と思ったことは変わりようがない事実。それか、何か気に食わなかったのですか?」
「――いや、気に入ったよ。これからよろしく。」
「はい、よろしくね、アサヒさん。」
「呼び捨てで構わない。」
「じゃあ、アサヒ。これからよろしくね。」
私達はふふっと笑い合った。
サファリーさん......アサヒの笑顔が偽りだったとしても、私がアサヒと笑い合った事実に変わりはない。この先もずっと、こんな風に、誰かと笑い合いながら平和に暮らせたらいい......
そう思ったが......
「それじゃ、リーナ、アサヒ。これからしばらくよろしくな。」
ヴェルガートが私達に笑いかけながらそう言う。
「よろしくしたくない......!」
私はそう言って抵抗を示したが、ヴェルガートは素知らぬ顔でパチンと指を鳴らす。すると、私とアサヒは、おそらく、宮殿内のどこかにあるだろう部屋へととばされた。