(3) 逃亡
その後、私は無事に屋敷からの脱走に成功し、夜の街中を走って走って走りまくった。
――誰かにばれる前に、できるだけ遠くへ......!
平民らしい服装のおかげで怪しまれずに走ることができた。
そのことはいいものの、金になるものはあるとはいえ、いつかは尽きてしまう。
そうなる前に、何か働き口をみつけなくては。
でも、まずはこの国から出なくてはならない。
婚約破棄され、国外追放を命じられた令嬢の捜索なんてされないかもしれないが、万が一もある。捜索された場合、この国に留まれば、あっさり見つかってしまうだろう。
――だからこそ、今は走らなくては。
前世ではかなわなかった。自分の足で走るなんてこと。
現世は最悪な始まり方だったけれで、それでも、前世の願いはかなっている。
絶対私は幸せになってやる。
そのことを心に決め、私はとにかく走る。
「――あっ!!ちょっと待って!私も乗ります!!」
「はいよ。ほら、さっさと乗りな。」
私は、出発しそうになった平民用の簡素な馬車を止め、のり込む。
さすがに自分の足だけで逃げ切るのには無理があるし、折角金になるものをたくさん持ってきたのに、使わなければ意味がない。逃亡の時は、惜しみなく、使えるものは使った方が良い。
そう判断し、私は馬車に乗って、遠くへ行くことにした。
っと、その前に、引き留めてしまったことを、馭者さん(馬車の運転手)に謝らなくては......
「すみません、引き留めてしまって.....」
「いや、こっちはいいけど、中に他のお客さんがいるからね。そちらの方には謝っとけ。」
「はい、ありがとうございます。」
少し言葉は荒いけれど、言葉の隅々に優しさがあるような気がして、私は心が温まる。
私は、一人じゃない。そう思わせてくれたから。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「すみません、引き留めてしまって.....」
「いいですよ、こちらも急ぎのようではありませんから。ほら、私の隣に座ってください。」
「な、なにからなにまですみません......」
私は、先に乗っていた方に謝り、促されるままに席に座った。
お相手は女性で、二十代あたりだろうか?(ちなみに今の私は十六歳。)
「私の名前はサリフィー。しがない平民よ。」
「えっと.....私の名前はローナです。」
即興で考えた名前にしては、いい名前では!?
そう思いながら、私は言葉を続ける。
「よろしく、サリフィーさん。」
「ええ、よろしくね。ローナちゃん。ところで、ローナちゃんは一人でどこに行くの?」
私は、その言葉に少し詰まるが、すぐに口を開く。
「実は......一人で少し旅をしようかと。ほら、自分の幸せをつかむには、自分でいろいろなことを経験することも、大切でしょう?」
うん。嘘はついてない.....はず。
「ああ、なるほど。貴女はとても広い視野を持っているのね。」
「い、いえ、そんなことは無いです.....!」
即興で考えた言い訳だったのに、サリファーさんに褒められてしまい、私は否定する。
だが、そんな私の反応を面白がるように、サファリーさんは目を細め、更に言葉を続ける。
「謙虚なのはいい事ですよ......それより、旅に出ると言いましたけれど、どこに向かうつもりなのですか?」
「え?あ、いや......実は、できるだけ遠くに行こうとは思っているのですが、まだ行先は決めていなくて....」
「あら、そうなの?でも、この馬車の行き先は、隣の国のアーシス国の王都よ?」
「.......え?王都.......?」
え、嘘だろ?
変な奴は、アーシス国の王と言っていた。
あいつのいうことを全て信用したわけではないが、あいつの言うことが正しいなら、王は王都にいるものだから......
私はあいつの元に、わざわざ向かっているということっ!?
「あ、言っておくけど、行先の変更は受けつけないからな。」
私にくぎを刺す、馭者さん。
こ、こうなれば。
アーシス国に着いたら、すぐに他の馬車に乗り換えて、すぐさま他の所に行かなければ......!
きっと、簡単にはあいつには見つからないし、それに、あいつにあんな塩対応を取ったのだから、きっと諦めてくれているはず。
そこまで考えて、私ははっとなる。
な、なんか、私、見事にフラグを立ててしまったような.....!?