(1) 復讐の始まり
生まれつき病弱な少女・零。
そんな彼女は、親や医師の必死の看病も虚しく、その命を尽きようとしていた。
***
私、死ぬんだ。
こんな状況でも、どこか他人事のように私・零はそう考えてしまう。
だって、実感なんて、ないから。
死ぬことがどういうことかなんて、わかんないから。
それでも、どんどん意識が遠のいて、先ほどから煩いぐらい聞こえていた
父さんや母さんの声も、今では聞こえないことに、一種の恐怖を覚える。
――また、次の人生が歩めるのなら。
その時は、どうかその時は。
強く生きて、自分の足で、自由に色々な所へ行きたい。
そう願ったところで、私の意識は途切れた
***
ここは....?
そう思い、私は周りを見渡すと、やけにキラキラしていて、物語に出てくるような、きらびやかな場所だった。
確か私は、長い闘病の末、死んでしまったはずでは......?
「うっ.....!」
私はそこまで考えると、急に頭が痛くなり、唸りながら、こめかみに手を当てる。
私の頭に、知らない記憶が流れ出す。
――私は、前世で闘病中にプレイしていた乙女ゲームの世界の悪役令嬢『リーナ』に、今、この瞬間、転生してしまったらしい。(確証はない)
私は、ぞの事実を知り、ごくりとつばを飲み込む。
私は、この世界の攻略対象のうちの一人にガチ恋していた。
そして、私が知る限り、大体の悪役令嬢ものでは、主人公に推しがいる場合、
その推しとくっつく可能性が高い。
すなわち、私の推しへの恋が叶う......!
きっとこれは、神様がくれた、最高のプレゼントなんだ!
そう思った私は、もう一度当たりを見渡し、ここがどこなのか予測する。
リーナの記憶はあやふやで、ここ数日の記憶が抜けており、
ここがどういう場所なのか分からなかったからだ。
でも、見渡しても、ここがどこだか分からない。
諦めて、自分の恰好を見てみると、私は、豪華な赤いドレスに身を包んでいた。
そのドレスの綺麗さに、私は目を見開く。
「リーナ、お前は人の話を聞いているのかっ!?」
突然誰かに怒鳴られ、私はビックと肩を弾ませる。
声のした方へ恐る恐る顔を向けると、そこには、私の推しであり、
リーナの婚約者で、この国の次期国王となる、『クラテル』が立っていた。
推しが目の前に立っている喜びより、覚えのないことで怒られたことの戸惑いが勝ってしまう。
私は、あっけにとられ、目を見開き、声すら出せずにいると、クラテルの後ろに立っている可愛らしい少女が声を荒げながら言葉を紡ぐ。
「リーナ様っ!!とぼけたって無駄です!!私は貴女にされたことを忘れたわけじゃない!!早く私に酷い事をしたのを認めてくださいっ!!」
彼女は、大きい瞳に、沢山の涙をためながら、私にそう訴えかける。
――少女のセリフに、聞き覚えがある。
それは、ゲーム中、リーナとクラテルが婚約破棄する前の夜会の場にて、
ヒロインである『シャロ』がリーナに罪を認めるよう、訴えかけた場面だ。
ということは、ここは、リーナとクラテルが婚約破棄する場面!?
そしてクラテルの後ろに立っているのは、ヒロインであるシャロか!?
「ああ、シャロ。可哀そうに.....沢山酷い事をしたのに、リーナは罪を認めないとは.....お前はどれだけ我儘なんだっ!!いい加減、罪を認めろっ!!」
そう言われた私だが、リーナの記憶には、シャロに酷い事をしていた記憶はない。
「私はそんなことをしていませんっ!!信じてください!!」
「嘘です!!私、貴女にされたことはすべて覚えてるんですからっ!!」
「シャロもそう言っている。そろそろ自分がしたことを認めろ。」
「どうして....どうしてっ!!貴方は婚約者である私の言うことではなく、シャロのいうことを聞くんですかっ!?」
ああ、ダメだ。
私は混乱して、悪役令嬢が言いそうな言葉をどんどん口に出してしまう。
私は、改めてクラテルを....そして、シャロを見る。
――えっ....?
シャロの様子に、私は目を見開く。
だってシャロさんは、顔を少しうつむけながらも、確かにニヤッと笑っていた。
ああ、どうりでシャロに酷い事をしていた記憶がないわけだ。
これはきっと、シャロが仕組んだ罠。
リーナはシャロに陥れられ、クラテルに婚約破棄されることになったのか。
その事実に気づいたとたん、私の中で何かが一気に崩れ落ち、
クラテルへの執着が消え失せた。
クラテルは、私ではなく、シャロを選んだ。
ゲームでも、今、私が生きている世界でも。
リーナの話を聞かずに、シャロの話だけを、一方的に信じて.....
私、どうしてこんなんにも、クラテルのことが好きだったんだろう?
こんな人への恋が叶ったって、私は幸せになれるはずがない。
「リーナ。お前はこうも諦めが悪いのか.....残念だ。俺はお前と婚約破棄し、お前を国外追放とする。最後に言い訳ぐらいなら、聞いてやろう。」
クラテルはついに、私にそう命令する。
その言葉に、私はしっかりとクラテルの目を見ながら、口を開く。
「――私、貴方のことを、愛しておりました......ですが、私は婚約者がいるのに、他の女になびく貴方を、今では数ミリも愛してなどおりません。.....ですが、一つだけ、質問してもよろしいでしょうか?」
私は、そこで一度話を区切ると、クラテルの返事を待つ。
「ふっ、負け惜しみも馬鹿馬鹿しい。まあ、最後の情けだ。質問ぐらい、聞いてやる。」
「.....ありがとうございます。では、最後に一つだけ。.......貴方が、私の事を見直す可能性は、どのくらいでしょうか....?」
「0%だ。」
私の質問に瞬時に答えるクラテル。
その返事を聞いて、私は、クラテルとシャロを見ながら、皮肉気にニヤッと笑い、口を開く。
「お答えいただき、ありがとうございます。貴方からの婚約破棄、喜んでお引き受けいたします。」
私はそう言うと、ドレスの裾を手で持ち上げ、クラテルに向かってゆっくりと頭を下げる。
そして、そそくさと、夜会の場から立ち去る。
そんな私を、夜会の場にいた、貴族の方々が、冷ややかな目でこちらを見る。
そこには、リーナの兄や、父、友など、昨日までリーナと仲良くしていたであろう人たちもいた。
私は今、完全に孤立した。
しかも、孤立の理由は、一人の悪魔の策略で。
まあ、別にいいわ。
たとえ一人だったとしても、今の私は自由だ。
そう思えば、私の前世の望みは、叶ったといっても過言ではないだろう。
夜会の会場から出ると、冷たい風が私の頬を撫で、髪を乱す。
でも、私はそんなこと気にせず、前だけを向いて歩く。
私は、悪役令嬢に成り代わって、あいつらに復讐してやる。
その復讐に、血のつながりなんて、関係ない。
私の言うことに耳を貸さず、シャロのいうことだけを信じたやつを、
地獄に叩き落す。
そのためなら、私は、何者にでも、なってやろう。
このお話は、更新頻度は限りなく低いと思います。
ですが、読んでくださる方がいると、作者のモチベに繫がりますので、
読んでいただけると嬉しいです。
それでは、また見てくれると嬉しいです。