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水流物語  作者: JULY
第一章
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第五話 魔力変換

「さあ風呂入ってきたぞ、さあ教えてくれ、さあ! さあ!」

「わかったわかった、てか近いっての。少し落ち着け」


 フレイは鼻息を荒くしながらラッドに詰め寄っていた。貴族の質のいい洗体剤の香料が鼻に入るが、男のモンを嗅いでも嬉しくねーんだよと心の中でごちっていた。


「そしたらまずは、いつもの火魔術をもっぺんやってみせろ。爆発はさせんなよ」

「わかった」


 そういうやいなや、フレイはすぐに魔力炉を起動させ、魔力を励起させる。フレイが生み出す清らかな清流のごとき魔力『流れる魔力』が体を満たし、身体が薄ぼんやりと碧く発光する。


 その状態で魔力を火の魔術式に流し込もうとするが、魔力は反発するばかりで一向に流れ込む気配がない。その状態を維持して無理やり流し込もうとすると、例によって逆流して暴発するのであまり無理にはしないでおく。


「よし、その辺でいい、魔力は消していいぞ」

「わかった」


 励起した魔力の制御を手放して自然に放出させる。魔力は大気に吸われるように拡散して消えていった。


「今お前がやったのはただの魔力生成。そして、水の魔力で火魔術を起動させるために必要になってくるのが――”魔力変換”と呼ばれている技術だ」

「魔力変換?」


 待ってろ。とラッドはいつの間にか用意していた平たく大きい木の板を起き上げた。その板は明らかに自然物とは思えないほど断面や角度が綺麗に揃っていた。そして心なしか素材が可燃樹のものに酷似していた。


「それどこにあったの」

「お前が風呂入ってる間に作ってみた」

「可燃樹の無断伐採は重罪だよ」

「バレなきゃセーフ理論だ。もしバレたら授業料だと思ってお前が弁償しといてくれ」

「ええ……俺手持ちそんなないぞ」


 そんなことは置いといて、とラッドは話を進めていくがフレイはもしバレたらどうしようという不安でほんの少し授業に集中できなかったが、この後ラッドの話によってそんな不安は消し飛んでいく。


「そんで魔力っていうのはな……」


 ラッドが魔力を使って、血を操って木の板の上を這わせていく。彼の魔力が込められた血は妖しく赤い光を発していて非常に見やすかった。


「なにそれ!?」

「俺の血だよ」

「いや汚なっ!?」

「いちいちうるさいぞお前っ、いいから黙って話聞いてろ!」


 少し進んではちゃちゃを入れるフレイを無視してラッドは強引に話を進めることにした。


「魔力を生み出す器官のことを我々は魔力炉と呼んでいる。これは人に個体差があるのと同様、魔力炉にも個体差がある。この世に自分とまったく同じ魔力炉を持つ人間はいない」

「それはそうだな」

「魔力炉が違えば、その魔力炉が生み出す魔力もまた個体差が生じる。この魔力の個体差のことを『魔力性質』と呼んでいる。ここまではいいな?」

「ああ」


 ここまではフレイも習ったことがある既存知識の話である。人によって生み出す魔力の性質は異なる。そしてこの魔力性質によって得意となる魔術の傾向が変わってくる。火魔術ならばブレンネン家のような『熱い魔力』、水魔術ならばフレイの『流れる魔力』のように。


「ではなぜ魔力によって得手不得手の魔術が変わってくるのか。それは魔力性質が直接、魔術の発動にかかわってくるからだ。例えば、火で水を沸かしたい、但し燃料をできるだけ少なくしたい。ではどうするか?」

「うーん……沸かす水の量を少なくする……とか?」

「それもありだろうな。でももっと単純な話がある。使う水を沸騰直前の熱湯を使えばいい。これが氷そのものだった場合、まず氷を溶かしてから沸騰させるまで余計に時間も燃料も掛かるよな。この沸騰しやすい水こそが、火魔術を使う上での『熱い魔力』ってことになる」

「じゃあ俺は氷そのもの?」

「そうだ、氷から水を沸かすには相当大変だよな。これがお前がいつまで経っても火魔術を使えない原因だ」


 ラッドの話は要領を得ていて的確なたとえ話を用いているため非常に理解がしやすかった。叔父が話す教本通りの小難しい理論を基づいた話よりよほど理解が進んでいく。イオが魔術の習得が遅いのは教官のせいでもあるんじゃないかと思い始めていた。


「そして、ここで登場するのが魔力変換って技術ってわけだ。要は”魔力によって使いづらい魔術があるんだったら、使いやすい形に魔力を変えてしまおうって発想だな」

「そんなことできるのか? そんなこと一度も教えてもらえなかったし、教本にもどこにも……」

「前者は教える意味がないから教えなかったんだろう、後者はこの技術は本として載せるにはやや外法寄りの技術だから、お貴族様が読むような本には載ってないんだ」

「外法ってのは……?」

「要は魔術の負の側面、戦争のため、人殺しのために生み出された技術だからだ」

「っ……!」


 魔術の負の側面と聞いて、フレイは身が硬くなった。知識としては知っていたつもりだ。屋敷にある歴史書でも教本でも触れられていた事柄だった。しかしそれを当事者として学ぶ者に回るとなると他人事ではない。


「魔術の登場は人類の戦争を一変させた。魔術を制する国が戦争を制す、魔術黎明期の時代。魔術師たちはこぞって魔力と魔術の研究を行った。そして当然のように、今のお前のような問題にたどり着く。”これ、どんな魔力を持っている人でも使える魔術があれば便利じゃね?”と。つまり魔術に汎用性を求めた」


 魔術を兵器として運用するならば、特定の人物のみ扱える魔術というのは兵器としてみると効率が悪い。運用できる人数は多ければ多いほどいい。誰もが行きつく当然の帰結である。

 当時の魔術師たちは魔術の汎用化として大きく二つの側面から挑戦した。


「一つは汎用魔術の探求。どんな魔力を持っていても発動できる魔術として、魔術側を調整していった。これが現代で言うところの”無属性魔術”ってやつの原型にあたる。そして二つ目が魔力変換、つまりどんな魔力でも、その魔術を使いやすい魔力に変えてしまえばいいという発想だ」

「そんなこと……できるのかよ」

「”理論上できるはずだけど超難しいよね”って段階の話だった。どんだけ難しいかっていうと、喉って人によって違うし声も違うよな、それを喉の形を自在に変えられればどんな声でもできるよねってぐらいめちゃくちゃだ」


 魔力を声真似に例えると、それがどれだけひどい話か分かるものだった。だがそれと同時に理解もできる話だ。フレイも多少ならば高い声や低い声を調整できる、しかしそれを自在に好きなようにとなると途端に難しくなってくる。

 それを魔力に当てはめるとなると……考えるだけでも嫌になるほど超技巧であるというのがわかってしまう。


「だが、人ってのは欲がある限りなんでもやっちまう生き物でな。ついにそれを実現しちまった者が現れた。しかも時は魔術を戦争利用しようと研究が最も盛んに行われている時代の真っただ中だ。その魔力変換(やり方)を指南書として書き残してあったんだ。ひょんなことから偶然できた”奇跡”その国の兵士が、訓練して習得できる”技術”へと昇華してしまった」

「じゃあ俺もそれを読めば……」

「やり方は俺がちゃんと教えるから読まなくても使えるようになるさ」

「おお」


 ――やばい、思ったよりワクワクしている自分がいる。


 フレイはここ数年味わったことのない高揚感が胸を占めていた。ここまで胸が高鳴っているのは初めて魔術という概念を学んだ時以来かもしれない。それだけの衝撃が彼の胸を貫いていた。


「ちなみに教本には書いてないとは言ったが、この世のつえー魔術師は当然のように魔力変換を習得して使ってくるからな。『魔力変換』が使えるか否かが、優れた魔術師とそうじゃない魔術師との一種の分水嶺とも言える。そしてこれが……魔力変換だ」


 ラッドが瞳を閉じて静かに呼吸をした。すると、彼が纏っている魔力に変化が生じていく。彼が生まれ盛った『血の魔力』から燃えるような熱を持った『熱い魔力』へと変わっていく。


「くっ……うぉおっ」

「おお!」


 ラッドが手を伸ばして、手のひらを下に向ける。その下から橙色の揺らめく火のような魔力が、ポタリと滴のように地面に落ちて周囲を焦がした。


「い、今のはまさしく『熱い魔力』! す、すげぇっ、すげぇよラッド!」

「っとまあこのように? 自分の魔力を好きな魔力に変換して使用すれば本来自分が発動できない魔術でさえも使用することができるようになるってことだ」

「俺も、俺もこの魔力変化ができれば……」

「こっから先は理論の話は避けて通れねえ、少し小難しくなるからしっかり付いてこいよ?」

「ああ、なんだってやってやるさ」



 ◆◆◆◆



「ぐぬぬぬぬ……くぉおおおおおおお!!!???」

「はい集中切れてんぞー」


 現在フレイはラッドの指示の元、ひたすら魔力炉を起動しっぱなしの状態を維持していた。魔力変換は魔力炉の拡張機能の一部である。つまり肝心の魔力炉の能力が上がらないことには習得することは不可能ということである。そして魔力炉を鍛える一番手っ取り早い方法は、ひたすら魔力炉を起動し続けることである。


「はぁ……はぁ……」

「はいまだまだー、もっと四六時中魔力炉を起動し続けろ。これはまだ初歩の初歩だぞ」

「わかってる……っての……!」


 フレイの額には玉のような汗が次々と浮かんでくる。汗の流れを気にしている余裕はなく、次々と魔力を生成しては体外に放出していく。


「たっはぁーっ! もう限界……っ」

「初回は一時間程度か、今日はここまでだな。いいか、これを最低でも半日は維持できるようにするんだ。筋トレみたいなもんで、やればやるだけ伸ばしていける。努力あるのみだ」

「あ、ああ……」


 フレイは地べたに寝ころんだまま、起き上がることさえままならなかった。腕を持ち上げることさえ満足にできない。


「そりゃ生命力そのものである魔力を常時生成しては放出しっぱなしだったからな。動けないだろ」

「うぐ……」


 ラッドは軽く魔術を起動させ、血を操ってフレイの身体に巻き付けた。不潔、汚いと文句を言う元気もなくフレイは受け入れるしかできなかった。そのまま強化外骨格のような役割を果たした、巻き付いた血が独自に動きフレイの身体を持ち上げていく。そしてそのまま屋敷へと歩かせていくのだった。


「……」



「初めから一時間も維持できりゃ上出来だ。どこまで強くなるか、楽しみじゃないの」


  フラフラと屋敷に向かってぎこちなく動いていく姿を見つめながら、ラッドは大胆不敵に笑うのだった。

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