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亜野まり異世界日記  作者: 越那
3/4

3ページ 優しさとトロトロ

どうも越那(こしな)です。前回の2ページでは亜野さんとイーフの出会い、そして新しい人生のスタートラインまでをお見せしました。ここからはいよいよ亜野さんの異世界でのあれやこれやが待っています。前回、前々回をお読みでない方は、是非1ページ目から読んで頂けると幸いです。それでは本編をお楽しみください。

気がつくとそこは外だった。

見覚えのある青い空と心地よく通り過ぎてゆく風。確かに私の知っている地球(それ)と一緒だ。でも違う。ここは私の知っている世界とは別の世界なのだ。まだ実感は無いが、きっとここがイーフの言っていた世界なのだろう。


「本当に来ちゃったんだ、私。」


別に後悔はしてない。あのままあの世界にいても私の生活や環境は変わってなかっただろうし、むしろ第2の人生をスタートできるチャンスができてよかったと思う。ただ一つ不満があるとすれば、イーフと一緒に来れなかったことくらいだろう。イーフとは約束したし、後から絶対来てくれると言っていたので疑ってはいない。

ただ...寂しい。

知らない場所に1人でいるのがこんなに心に来るとは思ってなかった。でも今はそんな感傷的になっている暇はない。イーフが来るまではこの世界で一人で頑張るしかないのだ。

辺りを見る限り人はいないが転移前にイーフが、できるだけウェルトの王都周辺に送ってくれると言っていたので、多分ここからそう遠くないところに王都があるのだろう。

取り敢えず、私は王都を目指して歩き出した。

少し歩くと周囲にあった木々が無くなり開けた場所に出た。しかも、さっきまでは道らしい道がなかったのに、私の足元から真っ直ぐ向こうまで道が出来ている。舗装はされていないが草がなく地面がむき出しになっている。きっと何度も踏み潰されて草が禿げたのだろう。何はともあれこの道を進めば目的地にたどり着けそうな気がするので、私はその道を歩きながら王都に着いたら何をするか考えた。


王都に着いたらまずは泊まるところを探さないと。その次は職だな。この世界で使えるお金っぽいのはイーフにちょっとだけ貰ったけど、これがいくらか分かんないし、無くなる前にお金は稼がないと。

そう考えを巡らせていると、いつの間にか歩いている道は石畳になっていた。そしてその道が終わっているところに門のようなものと建物らしきものが見える。


「あれが王都かな。ん?、誰かいる。おーい!そこの誰かさーん!!」


知っている人どころかこの世界で誰一人として人間と会えていないので、久しぶりに会えた喜びから私はつい大声で叫びながらその人のところに駆けよっていた。そしてその人の前になってとても重要なことに気づいた。私が日本語で話しかけているということに...。

どうしよう。日本語通じないよね?あれ?言葉通じないとまずくない?


「ハ、ハロー?私はその~、えっと...。そう!アイ アム トラベラー」


急に訪れたピンチにどうしたものかと考えた挙句、私は自分が持てる限りの英会話力でこのピンチを乗り切ることにした。少々拙い英会話を披露したところで相手の反応を待っていると返ってきたものは至ってシンプルだった。


「どうした。大丈夫か?何か緊急事態か?」


「いや、そのそういうわけじゃないんですけど」


あれ?あの英語じゃ伝わらないのかな?なにがいけないんだろう。

私の英会話力に問題があったのか。いや、それはない。それより大事なことは、今男性が日本語を喋ったことだ。おや、どうなってるんですかこれは。混乱している私を見て男性が心配そうに尋ねてきた。


「本当に大丈夫か、どこか悪いのか?」


「はっ!すみません、あの私、王都を探してるんですけど」


日本語が通じる疑問はとりあえず置いておいて、今は王都を探して今日泊まる宿をとる必要がある。


「王都を探してるって、不思議なことを言う人だな。あんたの探してる王都なら今目の前にあるぞ」


任務(ミッション)完了(コンプリート)。私の予想通り転移した場所の割と近くに王都があった。あとはこの人にどこか宿を紹介してもらって今日は一旦落ち着ける。やっぱりできる女はここが違う。どんなトラブルでも冷静に分析して適切な解決策を導き出す。順調だ、実に順調。


「やっぱりですか!そうだと思ったんですよね。では王都でどこか宿を紹介していただけませんか」


「それは構わないが、王都に入るなら何か身分を証明できる物を見せてもらってもいいか。一応決まりなんでね」


「はぇ?」


聞いてない私、聞いてない。あれ、イーフそんなこと言ってたっけ?どうしよう。


「アノ、それってない場合は王都には入れてもらえないんですか?」


「入れなくはないが、その場合は臨時許可証を発行することになるから、銀貨2枚必要になるがそれでもいいか?」


私のポケットに入っているイーフから貰ったお金を取り出して広げて見せると男性は難しそうな顔をした。


「これだと...、臨時許可証も無理だな。どうしたもんかな」


「ですよね」


イーフから貰ったお金は銅色なので、この流れなら銅貨だろう。それが6枚。臨時許可証発行には銀貨2枚なので明らかに足りない。それなりに詰んできたところで男性が「少し待ってろ」と言って門の裏側に行ってしまった。なるほど、見えてきた。状況的に見て私はこのあと男性に通報され、この世界の警察のような組織に引き渡され、尋問を受ける。身分を証明する物も持たずに王様がいる王都に入ろうとしたのだ。まずはそこを聞かれるだろう。

私の頭の中でいろいろ妄想が膨らんでいき、私が奴隷になって売られるところまでいったところで先程の男性が戻ってきた。


「はいこれ、臨時許可証。これがあればとりあえず十日間は滞在できるからそれまでにギルドにでも行ってギルドカードを発行してもらえ。ギルドカードなら身分証にもなるし、発行手数料もかからないぞ」


「あれ、でも...私お金が」


これは()()()()どういうことだろう。銀貨2枚の臨時許可証が今手元にある訳だが。私の所持金は変わらず銅貨6枚。もしやこの男性がわざわざ自腹を切って私のために銀貨2枚を建て替えたというのか。いや、もしそうだとしたらこの男性には何の得もないじゃないか。もし仮にそうだとしても、いきなりそんな心の優しい人に出会えるのか。


「金なら気にするな。王都に何の用があるかは知らんが、このまま門前払いするわけにもいかんし、これも何かの縁だ。ついでに安い宿も紹介するよ」


めっちゃいい人だわ、この人。分かってたけどね、うん。分かってはいたけど、なんかごめんなさい。

こうしてなんとか王都に入ることができた私はこの心優しい男性の案内で門から少しのところにある"パトラの切り株"という宿に向かっている。なんでも、私の所持金で十日間泊まれてご飯も朝昼晩泊まっている人ならタダで食べれるらしい。お風呂がないのは残念だが、正直泊まれるだけでもありがたいし、ご飯も食べれるなら尚更だ。そんないい宿を紹介してくれるなんて(つくづく)いい人だ。本当に感謝しかない。


「本当にありがとうございます。何から何まで。あ...、えっと、あの今更なんですけど名前を聞いても?」


「ああ、名乗るのを忘れてたな。俺はデミア。さっきの門で門番をやってる。あんたは?」


「亜野です。あ、えっと亜野は苗字で名前はまりです。」


「苗字があるってことは貴族なのか。"アノ"って苗字は悪いが聞いたことがないな」


「貴族ではないですけど、もしかして苗字って貴族にしかないんですか」


「まあ、そうだな。他の国はどうか知らないが、少なくともこの国の苗字持ちはほとんどが貴族だ。もっと言えば王都に近い貴族ほど名のある力を持った貴族になる」


これはマズイな。貴族って面倒なシガラミがあるやつだ。身分を偽ることはよくないが今度名前を聞かれたら下の名前を言うことにしよう。


「できれば私のことは、まりと呼んでください。」


「おう分かった。マリだな。宿から門まで近いし、何か困ったことがあればいつでも来てくれ。」


「はい!ありがとうございます。デミアさん」


話しながら歩いているとどうやら目的地に着いたようでデミアさんが"パトラの切り株"と書いてある看板を掲げた建物の前で歩く足を止めた。

てか私、字も読めるんだ。すごいな、なんでだろ。

デミアさんに改めて礼を言うと"俺はまだ仕事があるから"と言って門のほうに戻っていった。

一人になって自分の周りをぐるりと見渡すと、大体の建物が西洋風の建物なのに気が付いた。目の前にある宿もその内の一つで、外観は安いと聞いていた割に雰囲気があっていい感じだ。早速部屋を取るために入り口のスイングドアを通り宿の中に入ると正面のフロントから元気のいい女性の声がこちら目掛けて飛んできた。


「いらっしゃい!!お泊りですか!お食事ですか!」


「えっとお部屋を取りたいんですけど」


「はい!お泊りですね。おひとりですか?」


「はい、十日間取りたいんですが」


「おひとりで十日間ね!はい分かりました。銅貨6枚です!」


おお、本当にぴったりで泊まれるんだ。イマイチお金の価値観は分からないがそれは、おいおい学ぶとしよう。とりあえず今は宿と食事だ。時間的には丁度昼時なのだろう。フロントからみて左奥にある食堂にはそれなりに人がいる。見ているとより一層お腹が空いてきた。


「あの、お昼ご飯ってもう食べれますか」


「はい!お泊りのお客さんはタダなので、この部屋札を厨房の人に見せてくださいね!」


なるほど、そういうシステムなのか。でもそのためだけにこの札を?というか部屋の鍵とかはないのかな。まあ後でフロントの人に聞こう。今はとりあえずお腹が空いたから食堂に行くか。


食堂は割と広めで厨房に近いカウンターが六席とテーブル席がいくつかある。今はテーブル席がほとんど満席でカウンターは空いている。私はカウンターに座って厨房の男性に部屋札を見せた。

男性は部屋札を確認するとすぐに調理に取り掛かり五分程で私の前に料理が運ばれてきた。どうやら宿泊者の料理は注文を取るわけではなく札を見せることで決まった料理を食べれるようだ。できればメニューを見て選びたかったが、これはこれでアリだ。

今日の昼食はどうやら定食で、見たことのないトロトロした塊の料理と付け合わせのサラダ、それと大きめのパンだ。

食べ方がイマイチ分からないがこのトロトロの塊、すごくいい匂いがする。とりあえず一緒に付いてきたナイフとフォークでトロトロを一口サイズにして食べてみる。


「わぁ。ないこれ!おいしい!」


食感は見た目通りトロトロ。食べると口の中の温度で溶け始め、綿菓子のように消える。味は何というか食べたことのない味で表現できないが凄くおいしい。想像以上においしいトロトロを食べた私はお腹いっぱいになったので少し横になるために部屋に向かった。因みに鍵は無くても部屋には入れた。フロントの女性が言うには、ここの部屋札はただの札ではなく魔法が施された札らしく、その魔法のおかげでルームキーのように使えるようだ。部屋に入ってすぐに私はベッドに身を預けた。まだ夜ではないが精神的にちょっと疲れた気がするので少し昼寝をするつもりで私は閉じた。


目を閉じて暫くすると誰かの声が聞こえた。少し遠くて上手く聞き取れない。


「..リ.....待っ..て。」


遠いと思っていた声は少しずつ近づいてきてさっきよりはっきりと聞こえるようになった。


「..マリ...もう少しすこしまってて。」


聞き覚えのある声は私に何かをねだるように話しかけてきた。返事をしようとしたがなぜだか思うように口が動かない。私の前で返事を待つ声の主の姿を思い浮かべながら動かない口の代わりに、私は心で強く誓った。


(「心配しないで。ちゃんと待ってるから...待ってるよ、()()()」)


心が何かに温かいものに優しく包まれる感覚が訪れたあと、私の意識は今よりも深い場所に旅立っていった。




<ステータス>

名前:亜野まり

スキル:友の祝福

称号:来訪者

またまたどうも越那です。亜野まり異世界日記3ページ目、いかがだったでしょうか。というか更新がかなり遅れました。ごめんなさい。

タイトルは自分で読み返したあとに印象に残ったことを書くようにしているのですが、今回の「優しさとトロトロ」が私は印象深かったです。デミアさん優しすぎです。それとトロトロ、めちゃめちゃ旨そうです。

今回は異世界初日なのでアタフタすることが多かったと思いますが、次回からどうなるのか私も楽しみです。それではまた次のページでお会いしましょう。

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