2ページ 観測者と異世界
前回の1ページを読んで頂いた方は前回ぶりです。越那です。はじめましての方はどうぞ1ページからご覧になられることをお勧めします。さて、今回はタイトルにある通り亜野さんが観測者という人物と出会います。前回と比べると少し長いかもしれませんがどうか最後まで読んで頂けると嬉しいです。それではまた、後書きでお会いしましょう。
儚い人生だっただろうか。
まぁ今更どうこう考えても遅いのだけど。
私は残業の帰りにトラックに轢かれて死んだのだ、きっと。
そう、きっと死んだはず。だけど、なんでまだ意識があるのだろう。
「起きましたか?」
頭の中で自分に起きたことを整理していると可愛らしい声が近くで聞こえた。
これ死んでないな、私。だって声聞こえるし、普通に目の前にいるもん。
一応助けてもらったみたいだし、お礼言わないとな。
そう思って私が声をかけたのは(まぁ私がはじめに声をかけられたのだが)、
白と黒が綺麗に等間隔に入ったショートカットの少女だった。
「あの、助けてもらったみたいで。ありがとうね。
お姉さん大丈夫だから、もう行くね」
「もう行くの?」
なんだろう。とても帰りにくい。これがただの恩人なら一言断って帰れたのだが。なぜだろう。この少女に言われると体が次の行動をとれない。
「じゃ、じゃあもう少しいようかな」
「うん」
少女のいるほうに近づこうと立ち上がって辺りを見た私は漸く気づいた。自分が今いるのが車道でも歩道でも、況してや外でもない。ここは何だろう。地面は確かにあるが何処を見ても同じ深い青が広がっている。この謎の空間には今のところ私と少女だけ。私は少女に近づき疑問をぶつけた。
「助けてもらったばかりで悪いんだけど、ここが何処か分かるかな?」
「ここは観測者である私が作った亜空間です」
ん?なんて?
観測者?亜空間?
疑問を解消しようと聞いてみたら疑問が増えてしまいました。
何かのキャラクターにでもなりきってるのかな?
あれこれ頭の中で考えても多分答えは出てこないので、私はとりあえず会話を続けることにした。
「観測者ってのは貴女の名前なの?」
「観測者はわたし。でもわたしの名前じゃない。わたしはイーフ」
「イーフね。私はまり。よろしくね」
それから私とイーフはいろんなことを話した。私は、普段なにをしているかや、仕事の話。イーフは観測者という役職?らしくこれまで長い間、いろんな世界を見守っていたのだという。作り話のような内容だったがイーフの表情を見ているとどうしても嘘だと思えない。
どれほど話しただろうか。イーフが突然困ったような顔をしたので私は気になってどうしたのか訊くとゆっくりと、しかしはっきりと話し始めた。
「...マリは、自分の世界が好き?」
イーフの言う自分の世界とは、私のいる地球の日本での生活のことだろうか。改めて今の生活がどうかと聞かれると正直困る。住むところもお金にも困っていないのは有難いことだが、好きかどうかで言うとどうなのだろうか。そう考えを巡らせているとあることに気が付いてしまった。自分が自分の生活に満足しているか悩んでいる時点で私は自分の生活になにかしら不満があるということで...。
私は今の感情を言葉にするために少し間を置いてから答えた。
「好きかどうかで聞かれると好きじゃないかも。こういうこと訊かれたことなかったから私にも分からないけど、でも今の生活がなんか違うなってのはわかる」
イーフは私の答えを聞いて何かを決意したような顔で改めて話し始めた。
「わたしの元居た世界に行かない?」
思っても見なかった提案だった。世界に行くってことは、今の自分の生活を捨てて新しい場所で新たに人生をスタートするということなのはイーフのこれまでの会話から何となく分かった。安定した収入に安定した生活、手放す理由なんてないように思えるはずなのに、心の何処かで何かを期待している自分がいる。そう考えているうちにその意識がどんどん私の心で膨らんでいく。
「うん...。行くよ。イーフがいた世界に」
そう答えたときには、自分の世界への未練や後悔なんて感情は別の感情に塗り替わっていた。ただ、これから待つ新しい世界での新しい生活への希望に。
私の答えにイーフはさっきまでの決意や緊張が混じった表情から、ただ嬉しそうな無垢な少女の笑顔に変わっていた。
「ほんとに!?」
「うん、いくよ。イーフも来るでしょ?」
「わたしは...まだ行けないの。でも必ず行くから、マリ...待っててくれる?」
ここまで来て待たない選択肢はない。イーフと一緒に行けないのは残念だけど必ず行くと約束してくれるのなら待つことは容易い。
「うん!待ってる。だから、イーフのやるべきことが終わったらすぐに来て」
出会ってまだ数時間しか経っていないただのOLの私、亜野まりと観測者ことイーフは、今まで私がいた世界とは別の、所謂異世界で再び会うことを約束した。
それからイーフは私をイーフのいた世界に転移させる前にその世界のことをいくつか教えてくれた。イーフが言うには、その世界には魔法やスキルというものがあるらしく、実際に見たほうが早いと言われた。そしてこれから私が行くのはウェルトという国らしく、この世界で一番大きくて栄えている国らしい。
他にも気になることをイーフに聞き、ある程度世界について知ったところでイーフが私に手を翳した。きっと私を転移させるためなのだろう。
「それじゃあ、さっそく見てきて!わたしたちの世界を」
「うん!行ってくる!」
そう言ってすぐ、私の体がイーフの手から出た眩い光に包まれた。
2ページ 観測者と異世界、最後まで読んで頂けたでしょうか。この後書きを読んでいるということは最後まで読んだ心の優しい方かもしくはフライング気味に私に会いに来たせっかちな方か。まぁどちらでも嬉しいですが。今回は前書きでも言った通り少し長いです。活字を読み慣れ、活字中毒となった方でしたらこの程度なんでもないかもしれませんが、どちらにせよお見苦しい文章を長々とお見せして申し訳ございません。それと前回の後書きで次は異世界ですと言っていたのですが、まぁ嘘ではないですよね。ご期待されていた異世界でのお話とまではいきませんでしたが、今回でスタートラインには経ちました。お怒りの方、落ち着いてください。次から本当に異世界です。
それでは、長々と話しましたが、次話を読んで下さった方に感謝と次の3ページでもお会いできることを楽しみにしております。