鍛冶の神
街道沿いの宿は勇者軍関係者で一杯だろう。裏通りを探そう。
適当にぶらぶらしながら宿を探す。そういえば昼時だな、腹減った。
おっ、この感じ。宿屋兼食堂ではないのか?入ってみよう。
「すいません、ここは宿屋か?」
「そうだよ。」
「部屋は空いてるか?1週間くらいなんだが。」
「ちょっと待っておくれ。」
女将さんらしきドワーフが台帳を調べ出す。
「う~ん、2人部屋なら1部屋空いてるね。」
「それでいい。あと昼食食えるか?」
「食堂もやってるから大丈夫だよ。」
という事で台帳にサインをして1週間分を払う。割高だが金はある。
2階の角部屋に案内される。
「食堂で注文しておくれ。夜もいっしょだよ。」
「わかった。」
広めで良い部屋だ。風呂はないが水浴びができる小部屋が付いてる。
良い、良いではないか・・・。メインは睡眠だ。
腹減った、昼食にしよう。
食堂に行くとドワーフ以外の人が多い。商人かな?
1人だったのでカウンター席に座る。キノコのシチューとパンを頼む。
観光するのはいいが、観光地とか全く知らん。女将に聞いてみよう。
シチューは肉が少なめだがキノコがたっぷりで旨い。パンもふわふわ。
美味い料理が食える宿屋はいいな。
「女将、御馳走様旨かった。観光をしようと思ってるんだがどこかいい所
ないか?」
「そうだねえ・・・鉱山ばっかりなんだけど、そうじゃない山があってね。
神様が祀られてるんだけど結構にぎわってるね。」
「遠いのか?」
「歩いて行けるよ。それとやっぱり金属製品かねえ、店より露店の方がお勧め
だよ。掘り出し物なんかもあるし。」
「へぇ、ありがとう。行ってみる。」
早速山へ行ってみるとするか。念の為サーチをかけながら移動。
確かに勇者軍らしき連中がうろうろしている。うろうろしてないでさっさと
ヨルムンガンドを倒せよ。まあ今となっては刀を打ってもらえるから
どうでもいいがな。おっ、なんかドーナツみたいなものを売っている。
「おっちゃん、1つおくれ。」
「あぁ!てめーに売るもんなんてねえ!帰んな!」
「何でだよ!いっぱいあるじゃん!」
「フンッ!」 もしかして・・・。
「俺は勇者軍に関係ないからな。」
「んっ、お前ハンターっつうか勇者軍じゃねえのか?」
「ハンターだが、この国には刀を作りにきただけだ。」
「そうか・・・すまんかった。ほれ。」 2つくれた。
「おっちゃん、勇者軍はそんなにひどいのか?」
「そうだな、さっさとヨルムンガンドを倒して帰ってほしいもんだ。」
「同感だね。でもコンクールとかあるんだろ?」
「ああ。全く面倒くせー事を、グリコ様が棟梁になればいいものを・・・。」
「グリコ様?」
「現棟梁の娘だ。」
「ああ、それで・・・。」
「女の棟梁でも腕があれば問題ないと思うがな。気に入らないアホな連中が
居るんだ。」
「あるあるだな。」
「そう言うこった。」
ドーナツは旨かった。また、買いにこよう。
女の棟梁が気に入らないか・・・古いな・・・。まあ、誰が棟梁だろうと俺には
関係ないがな。
おっ、あそこが参道の入り口だな。女将が言っていた通り結構な人が居る。
山というか森というか街中の空気と違いとても澄んでいて気持ちいい。
マイナスイオンかね?あれだな神殿が観光地化されてるんだな。
日本でいう伊勢神宮みたいな感じだ。鍛冶の神を祀ってるんだろう。
参道をのんびり歩いて本堂へ。
うわっ、金属製だよ。中に入れるようだ、どでかい神像がある。
火の神ヘファイストスだ、鍛冶の神でもあるしな。日本だと加具土命かな。
鍛冶師ではないがせっかくなので祈ろう。
マッシュさんが良い刀を打てますように・・・。
「いいわよ、ただし条件があるわ。」
「へっ?」
「その願い、叶えましょう。」
神殿からドワーフや人が消えた・・・。
「あのう・・・もしかしてヘファイストス様ですか?」
「そうよ。」
「女神様だったんですね。」
「神に性別はないわよ。」
「さいですか・・・。あの条件とは?条件次第では普通の刀で結構です。」
「あなたねえ、ここは任せろって言うところよ。」
「嫌ですよ。そういうのは勇者とか英雄にお願いします。丁度この街に居る
みたいですし。」
「駄目よ。あいつらは張りぼてよ張りぼて。ヨルムンガンドを倒すなんて数年
かかるわよ。」
知ってたけど・・・。
「勇者達はそうですが強いのが2人いますから大丈夫でしょ?」
「まあそうね。条件聞いてみる?」
「話だけは・・・。」
「元々ヨルムンガンドはもっと深い所で眠っているの。性格も大人しいし
人やドワーフを襲う事もないのよ。」
「つまり攻撃をされたから身を守るためにとか?」
「その通りよ。」
「性格はわかりましたけど、そもそも深い所で眠っていれば襲われる事も
なかったんじゃないですか?」
「眠っていられなくなったのよ、寒くて。」
「寒くて?」
「あなたに頼みたいたいのは、まさにその件ね。
フェニックスって知ってるわね?」
「火の鳥。神獣ですよね。」
「そうよ、私の性質上フェニックスは仲間みたいなもんね。」
「でしょうね。」
「そのフェニックスを倒して欲しいのよ。」
「あんた、何言ってんだ!Dランクハンターの俺に倒せる訳ないだろ!」
「それは、あなたがそうしたいからでしょ。話を戻すとそのフェニックスが
反転しちゃってね。」
「聞いてた?ねえ、人の話聞いてた?」
「滅多に起こらない現象なんだけど、ブリザードフェニックスになったの。」
「それなら氷系の神の下部にすれば?」
「それも考えたのよ。だけど、フェニックスは世界でただ1羽なの。」
「その1羽がブリザードだと問題が?」
「私は別に構わないのだけど、噴火が激増するわね。」
「えっー!」
「だからお願いしてるじゃない。1度倒して燃やしてくれれば、その灰から復活
するから。」
「不死鳥だもんな・・・。」
「加護もサービスしちゃうから。」
「加護はいらん。失敗しても?」
「噴火が増えるだけね。ちなみに次の噴火は都だから。」
「・・・家がなくなるのか。わかった、やるだけやってみる。
さすがに刀が先だ。」
「わかったわ。」
「それでどこに居るんだ?」
「ヨルムンガンドの居る鉱山がダンジョン化してるの。その最深部よ。」
「まじか・・・。」
「それじゃあお願い。時間切れだわ。」
喧騒が戻る。全く・・とんでもない事を引き受けちまったが都で噴火は困る。
刀はいつできる?いや、それよりも他の物を準備しよう。
急いで宿に戻る。
「お帰り。伝言を預かってるわよ。」
見るとマッシュさんからで、刀が出来たとの事。
はやっ!ヘファイストス様早いっす。
部屋に籠ってダンジョンの準備をする。回復薬は十分、コートに防寒を付与。
帰りにゴーグルを買ってきたのでナイトビジョンに改良。魔力の節約のため
光魔法は使いたくない。ブラスターのチェック。
日本時代に雪女と戦った事を思い出す。あの時は凍死するかと思った。
普通の弾丸がマイスナー効果で曲がるんだよ。結局、力業で斬ったけど。
その後の入院生活は辛かった。空中炸裂弾を使えば良かったと後悔した。
ブリザードと名が付いてるくらいだ、超伝導も起こるだろう。
炎系の強力な魔法を使えるといいんだが、ランスくらいしか使えん。
Dランクなめるなよ。
さて、刀を取りに行こう。明日は朝から動きたい。
「女将、ちょっと出かけてくる。夕食はまでには戻るから。」
「あいよ。」
「マッシュさん、伝言見た。早かったな。」
「それがさー、なんかこうピッピッときてどこを打てばいいかわかったの。
こんな感覚、初めてよ。覚醒かしら・・・。」
覚醒でいんじゃない、ヘファイストス様の加護だと思うから。
「早速だが見せてくれ。」
「これよ、自信作ね。」
おお・・・。シャリーン、いい音だ。これだけで名刀だとわかる。
な、なんだ・・・刀の意思というか使い方が頭に流れ込んでくる。すげえ!
「セツナ!どうしたの?大丈夫?」
「んっ、すまん・・・。すごいよマッシュさん、銘はあるのか?」
「それもピッピッって浮かんだんだけど、銘は『月華』よ。」
「月華・・・いい名だ。」
ブルッ!んっ?今震えたか?
「マッシュさん、ありがとう。」
「久しぶりに私もいい仕事が出来たわ。」
この先もマッシュさんとの付き合いは続く。月華のメンテやナイフ、鉈なんかを
作ってもらう。今の俺にできるベスト装備だ。
これでダメなら尻尾まいて逃げよう。
「女将、夕食たのむ。」
「あいよ。」
パワーをつけるため、気休めだが肉にした。うまっ!
何かの肉のステーキを食べ部屋に戻る。
さて、明日は暗いうちから行動開始しよう。おやすみなさい。
早かったが朝食の用意と弁当まで持たせてくれた。
このフクロウ亭はこの国に来た時の常宿となる。
まだ外は暗いがその方が人が居なくていい。ギルドにも通してないしな。
立ち入り禁止になってる・・・そうか、ダンジョン化してる事を勇者軍は
隠してるのか。ライナが居るなら安全のためなんだろうが・・・。
ダンジョンは国の財産なんだけどな・・・。
まっ、俺には関係ないしブリザードフェニックスを倒せば坑道に戻るだろうよ。
隠密で姿と気配を隠し坑道を進む。戦闘はせずサーチを駆使して最短の道を
進む。エネミーは昆虫系が多かったが爬虫類系に変わってきた。
奥にとんでもなく大きい反応がある、これがヨルムンガンドだろう。
ドワーフや人間の都合で穴を掘り、邪魔だから討伐するか・・・。
別にモンスターやエネミーの肩を持つ気はないが勝手な話だ。
ヨルムンガンドが討伐されず元の場所に戻れるよう、頑張りますか。
それにしてもこの坑道、もろいが大丈夫か?採掘技術が低いのか・・。
サーチを使えばだいたいの鉱石の位置はわかるし、壁を補強しながらやれば
安全性も向上するだろうに・・・。
おっと、それは賢者に任せよう。学校でも教えてたしな。
ふぅ・・・考え事をしながらもだいぶ進んだな。弁当にしよう。
ダンジョン化してるならセーフティゾーンがあるはずだ。少し進んだ所に詰所
がある、入ってみよう。
念の為、入り口に結界を張る。戦闘はしてないが疲れたな。
外にはエネミーがわんさか居るし・・・。
フクロウ亭が用意してくれた弁当は何かの肉のサンドイッチと芋を揚げたもの。
うまいよ。おっ、サーチにエネミー以外が引っ掛かりだした。
勇者軍が出勤してきたようだ。幸いヨルムンガンドまでたどり着くには時間が
かかりそうだ。狭い坑道を軍で動いてたら戦いずらいしスピードも
落ちるだろうさ。賢者、馬鹿なの?誰だっけ・・・あ、そうそうプライドとか
いう奴だ。サーチで勇者軍の動きを見る。ひどいな・・・。
ライナも弥勒も口出しはしてないんだろう。弥勒はともかくライナは監視要員か?
よし、充電完了。やつらがまごまごしてる間にブリザードフェニックスにたどり
つかなければ。隠密全開でどんどん深い層へ。ほぼ迷路だな。
サーチないと詰むわ!寒いし。
んっ、あのどでかい扉は?着いたかな?
何か書いてる。
「ノックをしてお入り下さい。」 ・・・なにこれ?
月華オーケー、ブラスターオーケー、回復薬オーケー。
深呼吸して扉をノックする。コンコン。
ズズズ―っと扉が開いた。恐る恐る中に入ると広い空間があった。
氷の世界だ、さっむ!これじゃあ、ヨルムンガンドも逃げ出すわ!
あの氷柱にとまってるのがブリザードフェニックスか、さすがにでけえ!
「いらっしゃいませ。」
んっ、念話か・・・。
「そうです。全く気配がなかったんですけど、あなたは?」
「ヘファイストス様に頼まれてきた。」
「眷族の方ですか?」
「違う、ただの人間だ。」
「討伐でも頼まれましたか?」
「ぶっちゃけそうだ。お前がフェニックスに戻らないと俺の住んでる所で噴火が
おこるらしいからな。それにヨルムンガンドが寒がる。」
「これだから神や人間は嫌いなんです。自分の都合ですぐ廃棄しようとする。」
「耳が痛いが噴火は困るぞ。」
「噴火なんていうのは自然現象です。それを私の力で抑える方が不自然ですよ。
大方、ヘファイストスに倒して灰にすれば復活するとか言われたんでしょ?」
「違うのか?」
「間違ってはないです。ですが大変な苦痛を伴います。なんのリスクもなしに
そんな事できるわけないでしょう。」
「確かに・・・。」




