オークエンペラー
慌ててグロリアさん達は街へ引き返した。兄貴達が来るまで数時間・・・。
無理ゲー。周りに誰も居ないしバイスを出す。さて、魔剣の力を見せてくれ。
ドカンッ!速えーな、おい!ワンパンで死んじゃうよ、俺。
落ち着け、俺は一応魔法剣士だ。魔法で牽制しながら足元をチクチクしよう。
「ファイヤーバレット!」 パスパスパス。よっわ!A180よっわ!
まあ、弾幕替わりにはなるか・・。
バイスで足の親指を凍らす。名付けて知らない間に凍傷作戦だ。
オークエンペラーといえども末端は血の巡りは悪いだろう・・・。
我ながらせこい作戦だ。だが俺はⅮランク、ライトノベルのように実はSランクの
力があるとか突然、覚醒するとかはない。村雨とブラスターを使えば少しは
強くなるだろうが、残念ながら村雨は弥勒にあげた。
黒刀とブラスターは最終手段だ。特にブラスターは魔力がごっそり持って
いかれるだろう。止めをさせなきゃこっちがアウトっす。
ゴウッ!あっぶねー、岩は投げるもんじゃねえぞ!
んっ?岩の後に大穴が空いてる。
穴を見て思いついた。せこい作戦追加、落とし穴だ。といってもあのサイズのは
無理だ。A180で弾幕を張りながら足元に小さい穴をあける。さあ、躓け!
見事に足を引っかけよろついた。今だ、凍傷作戦!足の小指を凍らせる。
ムフフフ、これで動きが鈍く・・・なってねー!どころが怒ってない?
にげろー!どっかんどっかん地形を破壊しながら追いかけてくる。やばい!
崖で行き止まりだ。覚悟をきめよう、逃げながら考えたせこい作戦パート3の
発動だ。俺はストレージからパンケーキ用に買っておいた大量の小麦粉を
風魔法でばら撒く。目くらましだと思ったようでじっと俺の気配を探っている。
残念、目くらましじゃないぜ。急いで穴を掘って隠れる。
「ファイヤーボール。」
ドッカ~ン!大爆発が起きた。そう、これは粉塵爆発だ。
日本人の知識なめんなよ!まあ、これくらいで倒せるとは思ってないがな・・。
煙が晴れる、ダメージは?
「グォ~!」 全く効いてないわけではなさそうだ・・・だが・・・。
「てめー!真っ裸じゃねえか!」
身に付けていたものだけが燃えたようだ。
心なしかオークエンペラーが恥ずかしそうにしてる・・・。
「グ、グォ~!」 怒ってる?ねえ、怒ってる?
後ろは崖だし、もう逃げ場もないな。いよいよ詰みだ。
まっ、ハンターである以上死は隣り合わせだ。最後は残りの魔力を使って
ブラスターをぶっ放して終えるとしよう。老人になりたかったなあ・・・。
「来やがれ!」
オークエンペラーが怒りのパンチを放とうとした瞬間。
ドカンッ!
えっ?吹っ飛んだのは俺じゃなくて奴だ。
「やあ、ダーリン。」
「げっ、ライナ!」
「げっとは何だ!げっとは!」
「何でお前がいる!」
「何でって、そりゃダーリンのピンチに駆けつけるのが良妻というものだろう。」
「そうじゃなくて!いや、違うか・・・助かったよ。」
「まだ終わってないぞ。」
「そうだった。」
「オークエンペラーか・・・真っ裸の・・。セツナ、バイスを貸せ。」
「お前、ハドラーはどうした?」
「慌てて飛び出してきたから、忘れた。」
「はぁ・・ほらよ。」
魔剣は本来、使用者を選ぶ。しかしライナはそんな事お構いなしに魔剣を使う
事が出来る。その能力を買われ特殊部隊の隊長をしている。まあエリート中の
エリートだな。身体能力も半端ない、オークエンペラーを蹴り飛ばすん
だからな。
「久しぶりだな、バイス。」
バイスが光りだした。俺が使う時の輝きとは全く違う。これがバイスの本当の
力だろう。さすがにライナに任せっきりも男がすたるよなあ・・・。
Dランクなんだけど・・・はぁ、踏ん張りますか・・・。
俺は魔力が通らない黒刀とブラスターに持ち替える。
「おや、ダーリン。新装か?」
「・・・いや元々こっちが本来の得物だ。」
「知らなかったぞ、ダーリン・・・。」
「とは言えさっきは使う間もなく覚悟したがな。」
「う~む、何故隠していたのかは知らんが私の前では遠慮はなしだ。」
「遠慮か・・・そうだな、ライナしかいないし久しぶりに思いっきり戦うか。」
「ああ。」
「んじゃ、先手もらうわ。」
「えっ?」
オークエンペラーめ、さっきまでの俺とは少しばかり違うぜ。
Dランクなめんなよ!
「龍閃!」 ヒュン!ズバンッ!
「グワ~!」
おいおいセツナよ。私でもオークエンペラーの腕は切断できんぞ・・・。
全くお前は・・・やはり私の目にくるいはなかったな・・・。
おっと、セツナにいいとこ見せておかないとな。
「頼むぞ、バイス。」
ライナが更に輝きが増したバイスで足を斬りつける。
パキパキパキ。えっ?下半身が凍り付いたんですけどー!
「セツナ―!今だー!」
えっ?今だー!って何?まさか俺に止めを刺せと・・・。
「全く・・・後は頼んだぞ。ブラスター!」
ドウン!本来ならどてっ腹に風穴開けてやりたいが今の俺じゃ無理だ。
ならば眉間を狙うまで。堅そうだからジャイロ付だよん♡。
ああ・・・さすがに・・・魔力切れだ・・・。
「セツナ―!」
目を覚ますと病院のベットの上だった。
ふぅ・・・生きてて良かった・・。ライナめ、もうあんな無茶はごめんだ。
「目を覚ましたようね。」
「んっ?メルビィか・・何でここに?」
「うちのクランのメンバーが世話になったわ。」
「あっ、『雷神』か。やっぱメルビィのクランだったか。」
「ごめんなさいね。セツナとライナに迷惑かけちゃった。」
「説明しろ。」
今回の件の顛末を聞かされる。事の発端はミルスさんが闇ルートでオーブを手に
入れた事だ。オーブはストーンの上位版でオークキングのものだったらしい。
オーク達が取り戻しに来たのか復讐のためだったのかわからないが、とにかく
呼び寄せたとの事。ミルスさんの落ち着きのなさの原因がわかった。
「仕事を受ける前に調べたりとかはしないのか?」
「調べるわ。今回はエージェントのミスね。私達もダンジョンに行ってたし。」
「そうか・・・。」
「それにしても、やっぱりあなた実力を隠してたのね。」
「隠してない!ちゃんとDランクだ。」
「Dランクが単独でオークエンペラーと渡り合える訳ないでしょ!」
「しょうがないだろ!やらなきゃ死んでる。」
「セツナ、うちこない?」
「よしてくれ。今の生活に満足してるし今回は偶々馬車に乗り合わせただけだ。
エンペラーの事もライナがうまく処理してくれるだろう?」
「ええ、偶々通りかかったライナが討伐した事になってるわ。」
「それでいい。」
「はぁ、迷惑をかけたのはこっちだし今回は引くけどまた誘うから。」
「勘弁してくれ。ライナは?」
「仕事に戻ったわよ。クランに怒鳴り込んで来たけど・・・。」
「ご愁傷様。」
「全くよ・・はい、これ。」
「何だ?」
「今回の報酬とクランからの礼金。」
「おお・・・。」 よくわからんが、ありがたい。
退院したらドワーフの国に行こう。魔力が通る刀を打ってもらおう。
黒刀も十分切れるが今回のような遥か格上とやりあうのもゼロではない。
嫌だけど、本当に嫌なんだけど・・・。
「じゃあ帰るわね。それと余計なお世話だけど普段から力をだせるようにして
おかないと・・・。」
「おかないと?」
「死ぬわよ。」
「何でだよ!俺は危ない所に近づかない。幸せな老人になりたいんだぞ。
金だってこつこつ貯めてる。」
「いやいや、ほっといても老人になるわよ!オークエンペラーを倒した人間
とは思えないスケールの小ささね。」
「ほっとけ!」
「気が変わったら『雷神』に来なさいな。それじゃあね。」
「ああ、グロリアさんとアースさんにもよろしく伝えてくれ。」
「わかったわ。」
よ~し、せっかく入院してるんだとことん惰眠を貪ろう。最の高じゃないか!
と思っていたのが30分前。今俺は屋敷に向かってトボトボ歩いている。
なんだよ、いいじゃんか!あと1週間くらい入院させてくれても!
はぁ・・・親父やお袋に何て説明しよう・・・。
「ただいまー。」
「あら、すねかじり。もう帰ってきたのですか?」
「いや、坊ちゃんに言うセリフじゃないからね。ミランさん。」
ミランさんはメイド長で母さんの部下でもある。
「事実でございます。」
「そうなんだけどさー。」
「清々しいまでの開き直り。プライドとは?」
「ミランさん、プライドで飯を食えたら苦労しないから。わかってるでしょ?」
「クッ、ではロマンなど如何ですか?」
「同じ事。コツコツと小銭を貯め危険な事には近づかない。それが長生きの
コツ。」
「爺さんじゃん!・・失礼しました。」
「爺さんで結構。お腹空いた。」
「好物のカレーの用意をしております。」
何だかんだでミランさんは俺に甘い。食堂に行くとお袋と兄貴がいた。
「ただいまー。」
「お帰りなさい、退院できたのね。」
「追い出されたよ。」
「無茶したな。」
「全くだ、危うく死にかけた。」
「ライナちゃんに感謝するのよ。あの娘、仕事ほっぽりだしてセツナを助けに
行ったんだから。」
「何でわかったんだ?俺、見張られてるのか?」
「セツナセンサーって言ってたわよ。」
「どんなセンサーだ!まあ助けられたのは事実だし、今度会ったら礼でもするさ。
そうだ、お袋。金返す。」
「あら、早かったわね。」
「メルビィのクランから謝礼をもらったから。」
「そう・・・。セツナ、ライナちゃんが倒した事にしたけどちゃんとお父さんに
説明するのよ。オークエンペラーは軍隊が出る案件なの、あなた1人で時間稼ぎ
をしてどうであれ止めをさしたの。レベルの急上昇も倒れた原因よ。」
「わかってるよ。けどライナが来なきゃ死んでたよ。俺じゃあバイスを使って
足の指を凍らせるのが関の山だった。」
「現場の荒れようを見て肝が冷えたぞ。よく魔力枯渇だけで済んだな。
普通なら瞬殺されてるだろう。」
「兄貴達はグロリアさんに言われて?」
「ああ。Dランクハンターが1人で時間稼ぎしてるから救援に行ってくれってな。
すぐにお前だとわかったがな。」
カレーライスだ。考えてみればさっきまで眠ってて何も食ってなかったな。
「俺、どの位眠ってたんだ?」
「2日程だな。」
「どおりで・・・カレーうま。」
カレーを食ってコーヒーを飲んでると親父が帰ってきた。
「退院したのか、後で書斎にきてくれ。」
「はぁ・・わかった。」
ドワーフの国に行きたいし、どこまで話せばいいもんだろう?
う~ん、聞かれた事は全部話すか・・・。
コンコン。
「セツナか、入れ。」 シュッとミランさんがお茶を運んできた。
「身体は大丈夫なのか?」
「魔力が枯渇しただけ、身体自体は怪我したわけじゃない。」
「無茶するな。セツナが弱いとは思ってないが、さすがに無理がある。
お前は勇者でも英雄でもないんだぞ。」
「わかってるさ、俺も2度とごめんだ。」
「街道にオークの大群、オークエンペラーなど前代未聞だ。どうやって時間稼ぎを
した?軍に生かせるかもしれん、情報料は出すぞ。」
「別に情報料はいらない。魔導銃で弾幕を張って足の指をバイスで凍らせた。
あれだけの図体だ、凍った情報が脳に伝達されるまで時間がかかる。2足歩行の
場合、足の指の役目は大きいからな知らず知らずのうちにバランスが狂う。
次に浅いが落とし穴だ。頭に血が上ってたから簡単に躓いた。後は小麦粉だ。」
「小麦粉?あの小麦粉か?」
「小麦粉をばら撒いて、爆発させた。」
「意味がわからん。」
「粉塵爆発という現象だ。」
「魔法ではないのか?」
「ただの物理現象だ。もっとも腰布が燃えただけだったけどな。時間稼ぎとしては
それくらいだな。」
「はぁ、セツナよ。まずDランクのお前がSランクのオークエンペラーを相手に
それだけ冷静に色々仕掛ける事自体、異常な事だ。」
「しょうがなかったんだ、やらなきゃ死んでる。」
「その後の事はライナちゃんから報告は受けている。オークエンペラーの片腕を
斬り落とし、止めに頭を銃で撃ち抜いたとな。刀と銃だ、お前が使える事を
知らなかったぞ・・・。」




