ビットと5層
後は防具というか戦闘服だな。
セツナは目立たないよう初心者ハンターのスタイルだった。
まあ胸当てだけだな。1層はそれでも問題なかったが、ビットはもっと深部に
俺を連れて行く気だろう。明日揃えるしかないが金が足りん。
命には代えられん、親父に土下座だ。
リビングに行くと親父もお袋も居た。兄貴は遠征中だそうだ。
リビングに入るなり土下座。2人はぎょっとしていた。
「お願いがあります。」
「な、何だ?」
「金貸して下さい。」
「・・・訳を話せ。」
2層に行く事、ビットとさらに深層に行く事を話す。
「お前、今まで装備なしでダンジョンに行ってたのか?」
「いやちゃんと胸当てはしてた。」
「馬鹿者!ダンジョンを舐めとるのか!」
「い、いや1層なら当たらなければそれでいいと・・・。」
「それを舐めてると言うのだ!」
「まあまああなた、セツナが少しはやる気なったのよ。命には代えられないわ
手を貸してあげましょう。」
お袋はニコニコとそんな事をおっしゃられる。救いの女神よ・・・。
「良かろう。セツナ、2層はともかく深層へ行くのならバイスを持ってけ。」
「え~、あれ目立つから・・・。」
「お前ストレージ使えるだろう!」
「使うとだよ。1発でウルブス家ってばれるし・・・。了解・・・。」
何とか金貨10枚を借りる事が出来た。
明日、装備を揃えよう。おやすみなさい。
翌日、早速装備を揃えにボロボロの剣を買った武具屋に行く。
「おっちゃ~ん。」
「またお前か!今度は何だ?」
「装備を買いにきた。」
「ニューピーだったら胸当てで十分だろ。」
「事情があってな2層に行かないといけないんだ。」
「おいおい、お前確かDじゃなかったか?」
「そうだ。俺もそう言ったんだがな。」
「お前、嫌われてるのか?」
「えっ?そうなのか?知らなかった・・・。」
「ま、まあ強く生きろ。装備なら奥だ。」
ぶっちゃけ嫌われても何の問題もない。そもそも俺はつるむのが苦手だから
ソロなわけだし。さて、装備を見てみよう。
奥の方には鎧やら鎖帷子が並んでいる。目立たなくて動き易そうなのは・・・。
おっ、このコート渋いな。防御力は・・・鑑定で見る。
ゼ、ゼロ・・・ただのコートじゃん。
自分で強化すればいいか・・・。鎧は重くて疲れるし俺は体格的にスピード
重視だからな。後はグローブと念の為ナイフも買っておこう。
「じゃあ、おっちゃん、これもらう。」
「アホか!それはただのコートだ。」
「わ、わかってる。でもカッコイイし・・・強化は自分でする。」
「はあ?お前付与術使えるのか?」
「正確には付与術じゃないが、強化は出来る。」
「ストレージは?」
「使える。」
「お前、何でDランクなんだ?」
「主義?」
「意味わからん!」
おっちゃんは憤慨しながらも金貨2枚にしてくれた。
いや、たけーコートだな。
家に戻りコートとグローブの強化。付与術じゃなくて錬金術なんだなこれが。
この世界の錬金術はドマイナーだ。何か胡散臭く感じるらしい。
それもあって俺が錬金術を使えるのは学生時代のパーティーメンバーしか
知らない。コスト浮くし便利なんだがな。
軽量化して自動結界も仕込む。目立たないように魔法陣がでないようにする。
よし、これで何とかなるだろう。金貨は8枚、余ったが返すのは後日にする。
買った装備がコートとグローブだけだと色々突っ込まれる。
あとは刀が出来れば準備オーケーだ。
さてと、夕食は何かな?うちの料理長は優秀で物心ついた時から幸せな事に
美味しい食事を食べさせてもらっている。
「坊ちゃん、今日はカレーですぜ。」
「おお・・・。」
この世界にもカレーはある。だがスパイスが貴重品で滅多に食べれない。
俺1人だ。お袋も今日は仕事のようだ、何かあったか?
まあDランクハンターの俺には関係ない。
ふぅ・・旨かった。おかわりまでしちゃったよ。
何故かカレーを食ってて思い出したんだけど俺には弥勒という使い魔が居た。
あいつ元気かな?俺が転生したからきっと自由になっただろう。
「なってないわ!」
「へっ?」
「カレーを食べて思い出すって何!2人にカレーの思い出なんてないわ!」
「い、いや、スパイスがメモリーの中枢を刺激した的な何か?」
「何で私に聞くのよ!」
「弥勒、久しぶり。そう怒るなよ、思い出したんだから。」
弥勒は巫女の姿をしているが正体は妖狐だ。日本時代から俺に憑いている。
長く生きてる分、妖術だけじゃなく刀術もすごい。玉藻じゃないよ。
「こっちでも力は使えるのか?」
「使えるわ。刹那もでしょ。」
「使えるが、いざっていう時以外は使うつもりはない。目立つとのんびりした
老後が送れなくなるからな。」
「日本に居る時と一緒じゃない!」
「そうだっけか?」
「驚いたわよ、目が覚めたら異世界。」
「俺もだ。」
「・・・順応してるわね。」
「まあ戻れないらいいし、老後の目標もあるからな。」
「はぁ・・全く・・。向こうより物騒な世界よ。」
「さすがだな、もう調べたのか。」
「当然よ。モンスターが跋扈してるわ。何より魔王が存在してる。」
「らしいな。まあ俺には関係ない。あれだろ、勇者的な奴らが居るだろ。」
「居るわね。物語の世界よ。」
「いや、妖狐の弥勒に言われても・・・。」
「巻き込まれそうね。」
「勘弁してくれ。目立たないようにDランクハンターで資金をためるのさ。」
「最低ランクじゃない!」
「ラッキーな事に裕福な家に転生したからな、Dランクの稼ぎでも贅沢しなきゃ
貯まる。」
「せっかくファンタジーの世界に転生したのにロマンの欠片もないわね。
これ見て。」
「ハンターカード・・・しかもSランク・・・。なんで?」
「この世界を調べてる時に偶然、勇者パーティーと知り合って魔王軍と
戦ったの。」
「転生して数日だぞ!何してんだ!」
「そしたら勇者がハンターギルドに言ってくれて晴れてSランクよ。
パーティーにも入ったし。」
「はぁ・・別に好きにしてくれ。ただし俺を絶対に巻き込むな。」
「オホホホ・・・。」 笑いながら消えた・・・。
「やめてくれー!」
彼女は使い魔ではあるものの、縛っているわけではない。勝手に憑いてただけだ。
うむ、良い機会だ勇者に憑いてくれたまえ。勇者には弥勒の力が必要だろう。
念の為、ビットに勇者の事を聞いておくか。疲れた・・・寝よう。
朝食を食べてると眠そうな両親が来た。
「お、おはよう・・・。」
「うむ。」
「お早う、セツナ。」
「遅かったのか?」
「ああ、魔王軍と勇者達の戦闘の後始末だ。」
「俺に話していいのか?」
「別に機密じゃないわ。感謝しないといけないんでしょうけど被害がねえ・・。」
「わかってるよ。」
物語では語られないジレンマだ。強大な力を持った者同士の戦いは、少なからず
人的にも物理的にも甚大な被害が出る。
政府としては国を取られても困るし、被害に対してのケアも大変だ。
やっぱり俺はDランクハンターでいい。
「兄貴は?」
「リベルの部隊は戦場の後片付けだ。」
「うわぁ・・・」
「お前はどうするんだ?」
「ドロップを少しでも回収して国に貢献するさ。」
「装備は揃えたの?」
「お陰様で。」
「セツナを見てるとハンターの方が良く思えるわ。」
「ダンジョンはダンジョンで大変なんだぞ。」
「わかっておる。気を付けていけ。」
「了解。」
さて、まずは刀を取りに行くか。
「お早う、出来てる?」
「出来てるぞ。これだ。」
「おお・・・。振ってみても?」
「ああ。」
むう・・・少し軽いか。だが許容範囲だ。
「本当に刀を使えるんだなあ。」
「まあね。」
「その刀は純然たる刃物だ。魔力は通らないから注意しろ。」
「今日行く階層にアンデッドが出ない事を祈るよ。」
「別にアンデッドでも斬れるぞ。」
「やだよ、汚れる。」
「アホか!」
ガング爺に叱られ、ビットの店へ。
「ようっす。」
「お早うセツナ。あら、装備変えたの?」
「さすがに胸当てだけじゃ、心許ない。」
「いやいや胸当てさえ付けてないじゃない!」
「邪魔だし。このコートがあれば大丈夫だ。詰襟だぞ。」
「まさか・・アーティファクト・・・。」
「いや普通のコートを改良した。」
「大丈夫じゃない!」
「まあまあ、刀と銃があるから何とかなるって。ところで今日行くのは何層だ?」
「5層よ。そこのボスドロに依頼された物があるの。」
「うへぇ・・1層しか行った事ないのに・・。飛び級が過ぎるぜ。」
「ははは、あなたなら大丈夫よ。行きましょう、ダンジョン泊は嫌よ。」
まずはハンターギルドへ。
「お早う、今日は5層へ行くわ。パーティー申請をお願い。」
「はい。えっ、セツナ・・・。」
「何か問題でも?」
「あっいえ、セツナさんはⅮランクですので正直足手まといになるのでは?」
「大丈夫よ、学生の時にパーティー組んでたから彼の実力は知ってるわ。」
「実力?」
「まあランクが全てじゃないって事。じゃあ、行ってくるわね。」
ダンジョンは転位門で攻略済みの層へ行ける。俺は本来2層までだがビットが6層
までは行ってるのでパーティーの俺も行く事が出来る。もちろん行けるだけで
役に立つかは知らん。
「さあ、行きましょうセツナ。」
「ちょっと待ってくれ。ドキがムネムネ。」
「またまた、さっ行くわよ。」 腕を掴まれ転位門へ。
「いや~!」
「着いたわよ。」
「お、おう。5層のエネミーって何だ?」
「コボルトメインでボスがワーウルフね。」
「集団か・・・。」
「守ってね。」
「へいへい、Ⅾランクの力、見せてやるぜ。」
「罠は私が覚えてるから大丈夫よ。あっ、そこ!」
ビーン!矢が壁に刺さってるしー!血の気が引くぜ。
「来るわよ、コボルトは魔法も使うから気を付けて。」
「まじか・・最近のコボルトは・・・。了解。」
前からコボルトが3匹。えっ、あれコボルトなの?
ワーウルフじゃなくて?
ドウン!いきなりファイヤーランスかよ!
「シールド!」 ふぅ・・初戦からハードっす。
「面白い盾を使うのね。」
俺のシールドは表面を尖らせてある。受けるのではなくいなすだ。
まともに受ける魔力はもったいないからな。魔法には魔法でお返しだ。
「ファイヤーランス!]
プラスウィンド。魔法は無詠唱で使えるが驚かれるのが面倒なので適当に唱えてる。
ドウン!風で火災旋風化したファイヤーランスがコボルトを襲う。
ふぅ、終了。
「・・・なに今の?」
「ファイヤーランスだ。」
「何か回転してるように見えたけど?」
「気のせいだ。」
「・・・まあいいわ、セツナだし。ストーンを回収したら奥に行くわよ。」
「へいへい。」 ストーンって魔石の事な。
コボルトの数が増えて来た。
「ビット、1人じゃきついぞ。」
「はいはい。後ろは私がやるわ。」
ビットは魔法も1流だが、機械式大剣という特殊な武具を使っている。
竜狩りと呼ばれているごっつい大剣だ。よく振り回せるな・・・。
俺はA180ブラスターをデビューさせる。
前に居る大群を1匹づつ片付けていく。軽いがなかなかいい、ただよっわ!
実弾銃の方がいいかも。
しょうがない、ぼろ剣で挑んでみるか。
「せいっ!」 パッキーン!折れたー!
コボルトの方が良い剣なのね・・・。
「ちょっと、セツナ!刀はどうしたのよ!」
「奥の手だ。風刃!」
風刃と言いつつ実は風を針状にして無数に飛ばす散弾銃みたいな魔法だ。
「それ風刃なの!」
「はっはっは、数が多い敵には有効だ。」
「コボルト相手に余裕ね、Dランク。」
「Ⅾランクでもソロだと色々工夫は必要だ。」
「成程ね、お昼にしましょう。お弁当を作ってきたわ。」
「ラッキー。」
各階層には結界で守られた安全地帯がある。
「結構混んでるんだな。」
「まあこの辺の階層ならBランクくらいであれば来れるから。」
「おい!ビット!」 んっ?誰だ?




