家の資金
自室で旅の準備をして食堂へ行くと珍しく兄貴が居た。
「兄貴、帰ってたんだ。」
「おう、やっと休みがもらえたよ。」
「お疲れさん。」
「セツナはダンジョンか?」
「今日はそうだな。明日からちょっと森の国へ行ってくる。」
「森の国って・・・遠いぞ。仕事か?」
「いや、家を探しに。」
「はっ?ここを出るのか?」
「すぐには出ない。まあ俺だけじゃなく家族みんなの保険みたいなもんだ。」
「・・・・何があった?」
丁度その時、両親も来た。
「父上、母上。セツナが森の国に家を探しに行くと。」
「そうか・・・。」
「父上も何か知っているのですか?」
「セツナの家探しの件は今聞いた。だが・・・。」
「兄貴、下手するとこの国は亡びる。」
「はっ?何を言って・・・勇者か?」
「そうだ。今の勇者達では魔王軍に勝てない。それだけじゃなく魔王軍が都に
攻め込んできた時、全ての指揮権が勇者パーティーにいく。」
「そんな馬鹿な!いくら勇者でも戦争の経験がなさすぎるだろ!」
「勇者は自分の都合がいいように、それぞれの上層部に魅了をかけた。教会、
魔導院、ハンターギルド、おそらく軍部にも。」
「はっ?父上にも?」
「いや、私とメルロはレジストする魔導具を持っていた。」
「ライナちゃんにも持たせたわ。」
「軍部の指揮権も勇者に行くのですか?」
「ああ・・・。私達は蚊帳の外だったが・・・。」
「それが家を探す理由だ。3人は軍人だ、勇者が指揮官だろうが命令通り
魔王軍と戦うだろ?無駄死にだとわかってても。」
「・・・・・。」
「だから俺が3人を死ぬ前に助ける。」
「どうやって?いや、国を見捨てろと言うのか?」
「兄貴、大義名分はわかるが死んだら終わりだ。俺にはこの国を救うほどの
力はない。Dランクハンターだからな。けど、せめて手の届く範囲は何とか
したい。」
「あなた、どうやって私達を助けるつもり?」
「立場上、そして兄貴のように国を見捨てる事が出来ないというなら死ぬ
寸前まで好きにしてくれ。本当に死にそうになったら転位で助ける。」
「なっ!転位を使えるのか?ダンジョンと勇者しか使えない魔法だぞ!」
「使えるよ。もちろんそんな都合良く3人のピンチがわかる訳ない。
だからそれがわかるような魔導具を作る。」
「セツナ、お前は今まで色々隠してたのか?」
「そりゃ隠すだろ。国に紐づけされるのは嫌だし穏やかな老後を送れなく
なる。」
「フフフ・・・。良かろう、セツナの言う通りにする。私はぎりぎりまで
抗うとしよう。」
「はぁ・・・しょうがないわね。付き合うわ。」
「セツナ、実際魔王軍はすぐに都に来るのか?」
「わからない。ただ水面下で色々やってるようだ。だから今の内に家を
確保するんだ。」
「何で森の国なんだ?」
「決めた訳じゃない。海洋国家も候補だが、あそこは何回も行ってるから
大体の事はわかる。それに森の国にはユグドラシルがある。」
「ユグドラシル?世界樹の事か?」
「それだ。世界樹自体この世界のバランサーだから魔王軍も滅多な事では
攻め込めない。さっきも言ったけど家を確保するのは保険だ。勇者達が
魔王軍を打ち負かしてくれればそれに越したことはない。」
「期待できないんだろう?」
「どうだろうな・・・。魅了を使う奴っていうのはどうしても全能感に支配され
てしまうしな。勇者の称号があるなら悪ではないはずだ。」
兄貴に指輪を渡す。
「これは?」
「魅了をレジストする。親父もお袋もこれに替えておいてくれ。こっちの方が
強力だから。」
「こんな魔導具どうしたんだ?」
「作った。」
「はっ?セツナがか?」
「俺は錬金術も使うから。」
「それも隠してたのか?」
「いや隠してた訳じゃないが言わないと魔法と区別がつかないから。」
「セツナよ、家を探すのはいいが資金はどうする?私が大きなお金を動かすと
いらぬ詮索をされるぞ。」
「それなら大丈夫だ。ドロップを売ったから。」
「浅い層じゃそんなに稼げないだろ?」
「それがちょっと鉄が必要になって6階層にいったら偶々アイアンゴーレムと
遭遇して倒したらアダマンタイトの塊をドロップしたんだ。」
「ちょっと待て、セツナはソロじゃなかったか?」
「そうだぞ。これも偶々なんだがAランクの娘と出会ってな、ラッキーだった。
あっお袋、アイアンゴーレムはレイドで倒すものらしくてなリサさんに
隠蔽を頼んだから。」
「あなたねえ、アイアンゴーレムを2人でって・・・ありえないわ!」
「ああ、あれ額の文字を書き換えるだけで止まるから。」
「はあ?」
「セツナよ他に隠してる事があるなら今の内に言っておいてくれ。
心臓がもたん・・・。」
う~ん、やばいな。ありすぎる・・・あっ、そうだ。
「不動。」
「イエス、マスター。」 小さいゴーレムが俺の肩に乗った。
「な、何だそれは?」
「アダマンタイトと一緒にドロップしたデフォメーションゴーレムの不動だ。
イメージしたものに変形する相棒だな。」
「・・・・。」
「でっ、資金の方だがアダマンタイトの塊をギルドに売却して、倒し方の
情報も売却してしめて金貨400枚になった。」
「はぁ・・・俺の年収とそう変わらんな。それを1日で・・・すごいな
Dランクハンター。」
「偶々だ。それを頭金にすればそこそこ良い家を買えるだろう。」
「いいのか?お前が命を懸けたお金だ。」
「構わない。老後の資金は2階層で貯めるから。」
「すまんな。」
「気にしなくてもいい。明日、森の国に出発する、ミランさんが資料を
作ってくれてるし。」
「ライナちゃんは?」
「ライナにも話す。どうするかは彼女に任せるさ、ビットとメルビィには
話してる。」
「2人はどうするって?」
「メルビィは雷神のサブマスだからな最後まで戦う覚悟はしてるようだ。
ビットは行商人になるって言ってた。」
「そうか・・・セツナよ、一つ聞きたい。もしお前が魔王軍と戦うなら
どうする?」
「・・・そうだな、死亡率を下げるために全体の底上げ、魔王軍の裏をかく戦略、
魔王と幹部達の弱点を探る。あと勇者のパーティにまけない裏勇者パーティの
ようなものを作るな。魔王軍もこっち側も勇者パーティに目を向けてもらう。」
「時間は必要か・・・。」
「そうだな。勇者達にいいように操られてるようでは、はなから難しい。
それに一般人も勇者が何とかしてくれるだろうと安易に思ってるだろうし。」
「手だてはなしか・・・。」
「もし旅の途中で魔王軍にでも会ったら間引きしておくさ。」
「勝てるのか?」
「相手次第だが、俺は死にたくないからな。魔王は無理だと思うが幹部ぐらい
はどうにかする。」
「セツナ、お前が勇者をやった方がいいんじゃないか?実は称号持ってるんじゃ
ないか?」
「違うわよリベル、セツナは神の使徒よ。」
「まじ?」
「違うわ!ちゃんとノービスだ!」
「だって、ヘファイストス様の依頼を受けたんでしょう?」
「まじ?」
「まじだけど、それも偶々だ。」
「セツナよ、一応バイスは持っていけ。」
「・・・了解。お袋、何か希望あるか?」
「湖の傍がいいわねえ。」
「了解。」
部屋に戻って寛いでいると兄貴が来た。
「何だ?」
「これ持ってけ。」 ドサッと革袋を渡される。
「何だ?」
「へそくりだ。金貨300枚ぐらいは入ってるはずだ。」
「おお・・いいのか?」
「実家暮らしだと貯まる一方だ。」
「まあ、そうだな。代わりにこれ持ってけ。」
「んっ?機械式か。なんかすごいんだけど・・・。」
「ドルスに行った時の土産だ。兄貴用に火属性に特化してある。
メインは剣だが銃としても使える。」
「いや、そんな機械式聞いた事ないぞ。」
「ははは、錬金術だ。」
「全て錬金術で済まそうとしてないか?」
「便利だぞ。」
「はぁ・・・アルテマより強力そうだ。」
「たぶん・・・。」
「魔剣より強力な機械式って何!」
「まあまあ。さっきはまじトーンで話したが、そこまで悲観的な話しでもない。」
「国が亡ぶかもしれないのにか?」
「兄貴は理って信じるか?」
「まあ信じるな。」
「この世界はバランスの上に成り立ってると思うんだよ。」
「魔王が居るから勇者が生まれるってやつか?」
「そうだ。しかも存在だけじゃなく力もほぼ同じなんじゃないかと思ってな。
勇者が駄目な奴だと魔王も駄目じゃないとバランスがとれないからな。」
「・・・そうだといいがな。」
「勇者以外の面子も同級生なんだが、優秀だったという記憶がない。
親父にも言ったが承認欲求の塊にしか見えんかったな。」
「聖女とパラディンと賢者か・・・態度はでかいぞ。」
「だろうな・・・。まあ最終的には家族で引っ越しするだけだから
気負わずやってくれ。」
「はぁ・・・そうする。気を付けて行ってこい。あっ、俺はコテージ風希望。」
「了解。」
さて、明日に備えて寝るとしよう。行きだけだがドルムより長旅だ。
ハリスさんは戻ってないよな?
朝起きて食堂に行くとお袋だけがいた。
「お早う。」
「お早う、セツナ。これ。」
「へそくりか?」
「何でわかったの?」
「兄貴も持ってきたよ。」
「そう。これ森の国の資料。」
「ありがとう。ミランさんにお礼を言っておいて。」
「起きたら伝えるわ、徹夜したみたいだから。」
「それじゃあ行ってくる。1ヶ月ほどで戻る。」
「ええ、気を付けてね。あなた、巻き込まれがちだから。」
「やめてくれ。」
まずは馬車だ。値は張るが貸し切りを探そう。案内所へ行く。
「森の国まで馬車を貸し切りたいのだが。」
「お一人様ですか?」
「ああ。」
「少々お待ちください。1台ございます。北側に行って下さい。
アダムスという御者が居ますので。」
「わかった、ありがとう。」
北側に行くとポツンと1台だけ停まっていた。結構ぼろいが大丈夫なのか?
馬も小さい・・・。
「すまん、あなたがアダムスか?」
「そうよ。」
「森の国まで頼みたいのだが。」
「聞いてるわ。」
「アダムスさん1人か?」
「大丈夫よ。私は森の国のハンターだから、運送はこずかい稼ぎね。」
「荷は運ばないのか?」
「ペルがお婆ちゃんだから、重いのは駄目なのよ。」
「そ、そうか。いくらだ?」
「そうねえ護衛も込みだから金貨3枚ってとこかしら。」
「わかった。」 前金で払う。
「普通、値切るわよ。」
「武具とかならともかく、旅の安全の大事さは知ってるからな。」
「あなたもハンター?」
「そうだ、Dランクだ。」
「出稼ぎなら、あまりお勧めできないわよ。うちの方のモンスターは強いわ。」
「護衛してくれるんだろう?」
「ええ、もちろんよ。ただ私はCランクだからあまり強くないわよ。」
「わかった、何とかする。」
「名前は?」
「セツナだ。」
「オーケー、セツナ出発しましょう。」
「了解。」
荷車に乗り込む。見事に何もない、尻が痛いのは勘弁なのでストレージから
クッションを出す。
「アダムスさんも使うか?」
「あら、ありがたい。ふかふかね。」
「今日は宿泊所で野営か?」
「そうなるわね。明日は村があるから宿に泊まれると思うわ。」
「それはありがたい。」
「ここのところ物騒でね、街道にもモンスターがでるのよ。私も注意するけど
セツナも気を抜かないでちょうだい。」
「了解。俺はサーチが使えるから大丈夫だ。何か来たら教える。」
「サーチ持ちなのね、助かるわ。ハンター稼業なら都の方がいいでしょ?」
「いや、出稼ぎじゃない。家を探しに行くんだ。」
「家?引っ越すの?都の方が便利だと思うけど・・・。」
「何て言うか別荘みたいなもんだ。」
「別荘だなんて、もしかしていいとこの人?」
「まあそうだな。ボンボンだ。」
「そんな雰囲気なかったけど、偉ぶってないし。」
「別に偉くないし次男だからな。」
「そうなのね。それにしてもわざわざ遠い所に別荘なんてもの好きね。」
「まだ決めた訳じゃないけどな。実際、見てみないとわからんだろ?」
「確かに。まあ森の国だけあって自然とモンスターは豊富ね。」




