11 天狗と見合い写真と②
申し訳ありません。
前話の最後の会話部分のセリフを一部変更点いたしましたm(_ _)m
「そう……。じゃあ、またあの性悪狐が勝手に現世と幽世をくっつけたのね!」
「くっつけた?」
「ええ。神隠しって知っている?」
「あ……はい」
董子の脳裏に浮かんだのは、とある銭湯アニメだ。そういえば、あの銭湯があった場所も、あやかしと神のいる世界。幽世だったのかもしれない。
「あれはね、穴があいたみたいに突発的に幽世と現世がつながっちゃって、そこを偶然通りがかった者が行き来することなの。けれど、それを故意に穴を……それも狙った場所につなげる力を持ったヤツがいる。それが……」
「玉藻さんってことですか?」
「ええ、そうよ!! 本当にたちが悪い癖に、力だけは神並みにあるんだから!! あいつのせいで、何度私たちが困ったことになったことか!!」
「はあ……」
どうやら、玉藻が牡丹に嫌われている理由は、過去の悪行のせいだけではなく、現在の悪行にもあるようだ。
ひとしきり起こった牡丹は、ふうっと大きなため息をつくと、急にしなをつくって董子にすり寄った。
「ねえ。ところで、さっきの話が本当?」
「さっきの話……?」
「あやかしの写真が撮れるってあの話……」
「えっと……多分」
自分では撮っているつもりがないのだから、はっきりとした返事ができないのは仕方がない。
「なら……。私の写真を撮ってもらえないかしら?」
「あ、別にかまいませんが……」
「本当!? これでお見合い相手を紹介してもえるわ!!」
牡丹がヨッシャーとガッツポーズを決めた。
「えっと……?」
なんでも、牡丹は結婚相手を探しているが、釣書に添えた似顔絵のせいでお見合いをすることなく断られるらしい。実際、その似顔絵を見せてもらったが、「墨絵で描かれた堅苦しいことこの上ない教育ママの浮世絵」というのが董子の感想だった。あやかしの好みはどうかは分からないけれど、董子自身でもこの絵はちょっと……と思ってしまう。
「でも、それなら素人の私なんかの写真よりも、雲外さんに撮ってもらった方がいいんじゃないですか?」
「……できるなら、そうしたわよ。けれど、雲外はあの玉藻と関わりがあるでしょ。だから、常に警戒対象なの。お見合い写真なんて撮られに行ったら、同僚になんで写真を撮りに行ったんだ、もしかして結婚相手でも探しているのかって言われちゃうもの。うまくいかなかったら、恥ずかしいでしょ?」
「そ……そうですか?」
牡丹は見た目に反して、なかなかの乙女なようだ。
それにしても常に警戒対象だったから、董子がお店から出たところで、カラスたちがすぐに取り囲んだのかと分かった。
「えっと……。分かりました。私でよければ……」
「お願い!!」
「場所はどこで取りますか?」
「そうね……。ここじゃダメかしら?」
ここ、牡丹の執務室は確かに教会にあるステンドグラスのような長窓もあり、光と影の雰囲気がなかなかいい。お見合い写真ぽくはないけれど、そもそもあやかしのお見合い写真のスタンダードが分からないのだから、牡丹に言われるがままに撮るしかない。
董子は、頷いた。
「ええ。いいですよ」
光の調整さえうまくすれば、なかなかいい写真が撮れそうだ。
董子はカメラのレンズキャップを外した。
「じゃあ、ポーズをとってみてください」
「え、ええ……。これでいいかしら?」
緊張しているのか、カメラの前の牡丹は直立不動、「気をつけ」のポーズだ。
(あっちゃ……。本当に、撮られなれていないなあ……)
今時は、子供でも、いや子供だからこそかもしれないが、カメラを向けられると、様々なポーズや表情をとる。こんな風に、ガチガチになっているのは、かえって珍しいくらいなのだが、お見合い写真としてはいまいちだろう。
(お見合い写真ってことは……牡丹さんの魅力を撮らなくちゃ)
今度は、カメラなしで牡丹をじっくりと見つめた。
胸は……かなり大きい。スタイルもいいようだ。肌は白い磁器のよう。唇は、化粧っ気はないのに、ほんのりと色づいている。教育ママに見えるあのメガネの下は……?
「あの……そのメガネを外していただくわけには?」
「メガネ!? ダメです!! これは私の鎧ですもの!!」
メガネが鎧……? 何じゃそりゃと思いながらも、牡丹の「絶対にメガネは死守」との様子に、外させることを諦めた。ならば……。
「じゃあ、髪をほどいていただくわけには……?」
「髪? でも、ほどいたらだらしがないんじゃない? お見合いには、きちんとした格好の方が……」
「それなら、さっきの似顔絵と同じになっちゃいますけれど……」
「それはダメ!!」
牡丹は、ひっつめお団子を止めていたヘアピンをさっと引き抜いた。
……濡羽色。とっさに、董子の頭にそんな言葉が浮かんだ。黒くて、豊かで、艶やかな女性の髪を褒めるときに使う言葉だ。けれど、高校生でもカラーリングしている今時に、本当にそんなに見事な黒髪を董子は見たことがなかった。
「……きれいです」
「そんな! 何言っているのよ! 私なんて!!」
「いえ、本当に……」
さっきまで教育ママにしか見えなかったメガネも、なぜか不思議と魅力ある大人のアイテムに見えてくる。
となると今度はもったいなく思えるのが、服装の方だ。せっかく、胸が豊かなのだ。どうにか……。
「あの……襟元のボタンをいくつか外してもらうことはできますか?」
「そmそれは……」
「お願いです! それでずいぶんと印象が変わると思います!! そうしたらお見合いがバンバン入るはずですよ!!」
いつの間にか、董子はお願いされて撮る方から、お願いして撮る方に変わっていた。
「し、仕方がないわね……。お、お見合い写真のためですものね……」
牡丹は、一つ、二つとボタンを外した。
雰囲気はさらに良くなった。役人めいていた堅苦しいスーツが、今度はシンプルであるがゆえに、あふれ出る色気を強調するコスチュームに変わったのだ。
けれど、せっかく素材が良くなったのに、ポーズが「気をつけ」では良さが出ない。
「机に寄りかかるような感じで、こっちを見てもらえますか~?」
こうすることで、素材に立体感が出た。
(こ、これなら……)
董子は素早く、設定を変えた。
部屋の中で、明るさは暗め。斜めに光が入るため、やや逆光。お見合い写真に使うため、肌の色は明るく。フラッシュを使うと、ステンドグラスの雰囲気が壊れてしまう。
(ええっと、ISOと露出補正で、写真の明るさを整えて……)
「撮りま~す」
カシャリ
すぐさま画面を確認する。
(ちょっと肌が青っぽくなっちゃったから、今度はホワイトバランスで……)
「もう一枚……っ!! どうしたんですか、牡丹さん!!」
さっきまで机の近くでポーズを撮っていたはずの牡丹が、真上から画面をのぞき込んでいた。
「こ、これが……私?」
羽をパタパタと動かしながら、牡丹は呆然と呟く。
「え、ええ。そうですよ」
「で、でも、私、こんなにきれいじゃ……。あ、き、きれいだなんて、自分の事なのに、そんな風に思うなんて、なんて恥知らず!!」
空中で身もだえている牡丹さんを見て、董子は「ははは」と苦笑いを浮かべた。
「写真は、嘘をつきませんよ。ここに写っている牡丹さんは、紛れもなくそのままの牡丹さんです」
「で、でも……」
「おきれいですよ」
董子がダメ押しのようにいうと、牡丹はボンと弾けたように真っ赤になった。




