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9 写真館と化け狐と④



 雲外の目に苦悩の色が宿った。


「そして、土蜘蛛のやつは神主をしていた当主の娘の許嫁になったんだ。そして、土蜘蛛は俺をさんざんなぶり、とうとう神主を騙して俺を割らせた」

「あ……。もしかして……」

「多分、そうだろうな。鏡が加々美になった理由は」


 となると、董子の先祖は玉藻だけでなく雲外も傷つけたことになる。


「……」


 思わず頭を下げそうになったところで、ふと董子は変なことに気がついた。


「あの……」

「ん?」

「私が生きている……ってことは、加々美家の人々は生き残ったって事ですよね? 土蜘蛛に狙われていたにもかかわらず……。なんで……?」

「神主の娘――土蜘蛛の許嫁にされそうになっていた娘が、俺が割られるのを身を挺して止めようとした。まあ、割られちまったがな。で、その時に、鏡の欠片がその娘の目に入った。それから娘は、俺の欠片を通して真実を見通す目を持った。それで許嫁の正体が、醜く卑しい土蜘蛛だっていうのを見破り、幼馴染みの武士と鬼を成敗したそうだ」

「そうだ?」

「ああ。依り代の鏡を失った俺の魂は、玉藻に助けられた。それから、俺はこの店から出られないんだ。だから、その後の事は風の頼りでしか知ることができなかったんだ」


 どうやら、恨み辛みだけではない、二人のだけの歴史があるようだ。

 と、雲外は董子に向き直る。


「多分、そのせいなんだろうな。お前があやかしの写真を撮れたっていうのは」

「あの……。あやかしの写真って、そもそも撮れないものなんですか?」

「ああ。お前も吸血鬼は鏡に映らないという話を知ってだろ? あれは鏡だけではなく、写真も同じなんだ。なにせ、カメラには鏡が使われていますからな。そして吸血鬼だけではなく、あやかし一般も写真には写らない。ただ、鏡の付喪神の俺が撮る以外はな」

「もしかして、私が玉藻さんの写真を撮れたっていうのは……」

「俺の欠片のせいだろう。鏡……いや、加々美の血脈に代々受け継がれてきたようだな」

「……そして今は、私の目に」


 雲外はひょいと肩をすくめた。


「見せてみろ」

「え?」

「写真だ。玉藻だけじゃなく、他のやつも」

「あ……。はい」


 董子は、カメラごと雲外に渡した。

 画面を見た雲外は、ニヤリと笑った。


「ほら、ここ」

「え?」

「いるだろう? ほら河童と小人」


 雲外が指さしたのは、今日撮ったばかりのなんでもない一枚だった。写真の端には、手のひら河童と、同じサイズの人形のようなものが映っている。言われれば、そうなのかもしれない……と思う程度のものだ。


「……これ、本当にあやかしなんですか?」


 雲外に目を向ければ、返ってきたのは鏡に映った疑い深そうな自分の顔だ。人を疑う時の自分って、こんな顔をしているのかと、思わず恥ずかしくなってしまう顔だった。

 その董子の顔を、雲外がビタッと両手で固定する。


「え? な、何を……?」

「いや、お前の目がずいぶん曇っているなと思ってさ」

「え……!!」


 董子は思わずカッとしてしまった。初めて会ったのに、目が曇っているだなんて、失礼すぎる!!


「……ええ。どうせ私の目は曇っています!!」


 だから、浮気するような恋人で、さらには別の女と婚約して、でもって婚約者と結婚してからも私と付き合う続けるなんて宣言をするような男を好きになっちゃったんです!!

 思わず董子は、雲外の手からカメラをひっつかむと、「失礼します」とドアを開けた。


「ま、待て!! そこは……!!」


 後ろに雲外の声とカランコロンという音が聞こえた。


「御用だ!!」

「御用だ、御用だ!!」

「観念しろ!!」


 AKASIYA写真館の周りには、カラスが……いや、カラスのくせに着物を着て、頭に小さな帽子みたいな物をかぶった生物たちが、槍の先を董子に向けていた。


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