プロローグ
「ちょっと、みんな~。ちゃんと並んで並んで! 記念撮影するよ! 」
陸から江ノ島までを結ぶ、江ノ島弁天橋。その手間で、董子は大声を張り上げる。
「はーい」
まず動き始めたのが、見るからに元気溢れた少年だ。しかし普通の少年ではない証拠に、額に真珠の様な角が葉言えている。
その少年は頭の後ろで手を組みながら跳ねるように、董子に指定された場所に立つ。
「こちらで良いでしょうか?」
おずおずと董子に質問したのは、黒い大きな翼をはやした妙齢の美女である。とは言っても、本人にその自覚はなく、かっちりとしたスーツに身を包み、髪もきっちりと結わいている。そして、極めつけは教育ママのごとき眼鏡だ。
董子は、小さなため息をついて「オジョ、コジョ」と鋭く言い放った。
すると、何か小さな物が二匹、素早く女性の足から肩へと駆け上る。ハツカネズミにしては胴が長すぎて、イタチにしては体が小さすぎる。その二匹生き物は、女性の肩で互いに頷いた。その瞬間、女性は「キャッ!!」と叫び、髪がパッとほどけた。それに、きっちりと留められた白シャツのボタンが弾けて、豊かな胸が半分ほど露わになる。そうなると、教育ママがごときメガネが妙な色気を帯びてくる。
董子はにっこりと笑って頷いた。
その女性の隣に並んだのは、剃髪した僧侶だ。涼しげな紗の僧服に袈裟を掛けている。しかし、眉間のしわは深い。別に何か怒っているのでも悩んでいるのでもない。これが地顔なのだ。
その僧侶を小学一年生の女の子が追いかける。母親の手を引いて。母親とはいっても、ずいぶん若い。董子と同級生の幼なじみなのだが、ギャルっぽい服装がよけいに若く見せていた。
董子は、女の子にグッジョブと親指を突き出した。なぜなら、母親はうつむいているが、実は顔を赤らめているのを隠す為で、チラチラと僧侶に目を向けているからだ。
ちなみに、僧侶と女の子と母親は普通の人間だ。
少年を挟んで、反対側に人相の最悪な長身の男と、青年と腕を組んだブレイズヘア──髪を小分けにして、それぞれの毛束を細かく三つ編みにしたヘアスタイル──で、すらりとした筋肉質の女が立つ。女の背には年期の入ったギターケースが掛けられている。
董子は、再び頷いた。そして自分の傍らに立つ白い和服の似合う美貌の青年に、最後に声をかけた。
「玉藻さんも並んで下さい」
「でも、董子さんが入らない集合写真に入っても、私には意味ありませんよ」
董子は声を潜めた。
「雲外さんに、嫌がらせができますよ」
それだけで、玉藻は嬉々としてギターケースを背負った女性の隣に並ぶ。
董子は、人の頭よりも二回りほど大きな鏡を玉藻に差し出した。その鏡は、鏡だというのに持っている董子を映さない。何故なら、もうその鏡には他の人物が写っているからだ。ここにいない人物の。
「雲外さん、用意ができました。鏡を運ばせますね」
「ああ……。でもいいのか? せっかくの記念写真だ。董子だって入りたかっただろう?」
「何言っているんですか。私が写真に入ったら、誰が写真を撮れるっていうんですか? 妖の写真を撮れるのは、雲外さん以外は私だけですよ!」
「それもそうなんだが……」
董子は、側で用事をいいつけられるのを待っていた烏天狗に、鏡を渡す。そして皆の少し上空で停滞してもらう。
それはまるで、集合写真の欠席者が余白に別枠で合成されているかのようだ。
(あとで玉藻さんに教えてあげよう。きっとおもしろがるから)
玉藻に言った嫌がらせとは、この事だ。
ファインダーを覗き込んで、思う。
(本当は、私も入りたかったな)
でも、そうはできない。
なにせ、この人が住む浮世で、妖達の写真を撮れるのは董子ただ一人なのだから。
「笑って──。はい、あやかし──」
カシャ!
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