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ギリギリ不敬罪

説教回です


俺が誰か〜…なんてそんな服を着ている子供なんて限られているから分かるでしょうよなんて、口に出せず

「申し訳ございません、私は貴方様方に剣を教えるアルカディと申します。新参者のためお許し下さい」

「ならん!俺はこの国の第3皇子憂炎(ユーエン)様だぞ!!」

 律儀に自己紹介してくれる辺りを見ると、単なるわがまま皇子なのだろうな、

「はぁ、しかしなぜ貴方様のような高貴な御方が木の上に居たのでしょうか」

「ふふん、そんなの決まってあろう!俺は剣術などやりたくないからだ!」

 話題を変えたと気付かずに得意げに話し始める憂炎様は拳を空に向けて腕を伸ばす


「俺は武闘家になるのだ!そっちの方がかっこいいし!だからお前は用無しだ!」


「はぁ、そうですか。分かりました」

 ポカン、とした顔でこちらを見る。『え?引き止めないの?』という顔をされても…イヴァン殿下の時は『剣などすぐにできる』という思い上がりを叩き直しただけだが、憂炎様の場合は『剣はやりたくない』と、最初から拒否してきたからどうしようも出来ない

 やりたくない人間に無理やり教えてもお互い気持ち良くないから了承したのに何が不満だろうか

「は、お前、俺に剣を教えるために来たのだろう?そんな簡単に了承して良いのか!?」

「はい。幸いにも第1皇子様もおりますので、第1皇子様にお教えすることに専念致します」

 要望通りに教えないと言ったのに憂炎様は顔を真っ赤にして怒り始めた



「こんなこと父上に言ったらお前なんてさらし首だぞ!」

 地団駄を踏み叫ぶ様子をじっと見つめるだけの私を見て、怖くて固まってるのかと勘違いしたようで、葉っぱだらけ土だらけの姿でニヤリと笑った

「怖いだろう!土下座して許しを乞えば許してやらないこともないぞ!」

 恐らくここで土下座したら、それだけで済まなそうな気がするのは私だけでは無いはず

さてどうしたものか…と考えている時



「何やら騒がしいね、どうかしたかい?」

 背後から声が聞こえサッと振り返ると、濡れ羽色の長い髪と今にも吸い込まれそうな深い緑の瞳。彫りは深くないが、一瞬傾国の美姫かと勘違いするような儚さと美しさで、色々な意味で美形に見慣れている私でも息を飲んだ。少年と同じ金装飾の棒が半分纏めた髪の横で光っている

 見とれていたが、ハッと慌てて右手を左胸に置き、片膝をついて頭を下げる

「よい、面を上げなさい。これから師弟になるのだからそんな肩苦しい挨拶は今後しなくて良い」

「はっ」

「其方、名をなんという?」

「北の帝国オリフベルから参りました、騎士のアルカディと申します」

 そう自己紹介すると彼はまさに花が綻んだような笑みを浮かべた

「アルカディ、あいわかった。其方姓はないのか?」

「はい。養父はおりますが正式な養子ではなく、その前は親の顔も知らない『みなしご』でした」


 それを聞いた憂炎様が背後から

「そうか!お前孤児(みなしご)ったのか!道理で常識のなってない無礼者だったんだな!!」

 と、高らかに笑い始めたのを見た第1皇子様は眉をひそめた

「やめなさい憂炎。そんなこと言ってる自分もわがままばかりで常識など持ってないでは無いか。これから剣の師になる者への敬意がなってなくて兄は恥ずかしい」

 実の兄に怒られたからなのか、先程の勢いはどこへやら。すっかりしょげてる



「憂炎がすまなかったアルカディ。私はヨスズ第1皇子の紫釉(シユ)という」

 眉を下げて本当に申し訳なさそうにする紫釉様には申し訳ないが、教えるのは貴方様1人です

「発言の許可を」

「許す」


「では…恐れながら私がお教えします御方は紫釉様のみでございます」

「何?」

「憂炎様が先程、剣をやりたくない。自分は武闘家になると仰いました為、私は憂炎様の剣の師を辞退致しました」

「またそんなことを言っていたのか憂炎」

 咎めるような視線にさらに縮こまる憂炎様に少し助け舟でも出すことにする

「本人に学ぶ意志が無いならば、私も無理強いなど出来ません。武闘家の師を呼ぶことをおすすめ致します」


 そう言うと驚いたようにこちらを見る紫釉様

「そなたは物事をハッキリ言うのだな」

「褒め言葉として受け取ります」


 

こうして、私は紫釉様に剣術を教えていった

 そして1週間、2週間と過ぎた頃

太陽が高く昇っている時間、最近では日常となってきたカンカンっと木製のぶつかる音が宮殿の中でも聞こえる



「踏み込みが遅い!相手に勘づかれますよ!」

「くっ」

「脇が甘い!受けた衝撃が流せていません!」

「はっ」


 紫釉様は元々剣の才能があるのか、言われたことをするする飲み込んでいった。ある程度の扱い方や打ち方は雲嵐に教えて貰ったようなので応用編を教えている

もう少し鍛えたらニコロフに相手をして貰うのもありかもしれない



 ひと区切り着いたので、休憩していると私の前に憂炎様が仁王立ちしてこちらを睨んでいる

「どうかしましたか」

「………も……る」

「はい?」

「俺もやる!!」


 私が辞退してすぐに、紫釉様が武闘家の師を手配したらしいが、最近ではそれをサボっているらしい

「………武闘家はいいんですか?剣技はかっこよくないんでしょう?」

「武闘家はもうやだ!ずっと同じことしか教えない!!俺も兄上みたいに剣を打ちたい!」

 チラリと紫釉様を見ると、呆れたように首を横に振る

 これは雲嵐殿から基礎すら教えて貰っていない…いや教えてもらう場に行かなかったということだろう

「基礎はとても大切です。繰り返すことによって次に進む土台ができるんです」

「そんなの知らない!」


これはイヴァン殿下より面倒なタイプだ。こうなったら実力行使で…

『げんこつはダメだよ』

……………、



「憂炎様、貴方様はおっしゃいました『剣をやりたくない、武闘家になる』と」

「そんなもの無しだ!言ってない!」

「いいえ、仰いました。憂炎様がなんと言おうと事実は変わりません。だから武闘の師が来ました、だから私は辞退しました」

言う通りにならなくて瞳を潤ませる憂炎様


「おっ、俺は」

「第3皇子であろうがなかろうが、己の言葉くらい責任を持ちなさい」


 途端に響き渡る怒声のような悲鳴のような泣き声

外にいるにもかかわらず、屋内にもよく届いた様で、わらわらと使用人たちが男女問わず「何事だ」とここへ訪れる

 皇子がギャン泣きしているのを、目の前でただ見つめるだけの他国の人間は余程悪役に見えたのだろう

「なんて酷いことを」「無礼者だ」と非難の声がでてくる

耐えきれず皇子をあやすのか、私に文句を言うのか数人の男がこちらへ来ようとしたのを、紫釉様が片手を上げてそれを制した


 そんな光景を横目に私は目の前の()()が泣き止むのをじっと待つ


何分経った頃だろうか、泣き疲れてきたのかだんだん声が弱くなっていき、最後にはヒックヒックと静かに泣くようになった


「憂炎様、周りをご覧下さい。貴方様が泣き叫んでいる間にこれだけの者達が集まりました。彼らの上に立っているのは紫釉様や第2皇子様であり憂炎様でもあり、ヨスズの国王陛下でもあります。」

「………」

「憂炎様は、紫釉様や国王陛下が1度言ったことを『言ってない』と仰ったり、『やっぱり無し』と仰ったところをご覧になったことはありますか?」



「……ない」

「それは上に立つ者だからです。時には人々の命を握り、生かすも殺すも出来るのが王族です。それだけ責任も大きい

 『戦争をしたくて始めた。でも負けそうだからやっぱりやめる』なんてことは出来ないように、1度言ったことは撤回出来ないんです。だから一つ一つを慎重に考え、決め、最後までやるのです」



「…今まで何をしても怒られなかったからどれがいいか悪いかなんて分からない…」

「…聞き方を変えましょう憂炎様。飽きたから、つまらないから、すぐにやめる人間と困難に立ち向かい、最後までやりきろうとする人間、どちらが『かっこいい』ですか?」

 泣いたあとの赤みがかかった瞳が私を見る。先程のように睨むのではなく、ただ純粋に視線を向けている


 そして零れたように言葉を出した

「武闘…続ける……でも、俺にも…剣術を……」

「よく聞こえませんでした。男なら声を出しなさい」

「っ両方やる!俺に剣術を教えてくれ!!」


 それからその場に数日に1回雲嵐が呼ばれるようになり、模擬刀の打ち合う音が1つ増えた


 我儘で自分勝手だった第3皇子が、やがて真面目で素直な人間に成長したことによって、アルカディの知名度が一気に上がることをこの時の本人は知らない

 そして後に第3皇子は雲嵐に次ぐヨスズの最高武力の1人となったと言われている





────とまぁ、綺麗に終われるはずもなく



「アルカディ殿、主がお呼びです」

憂炎が混ざり始めてから1週間後、浩然伝いで国王陛下から呼び出しをくらってしまった

 出来ることなら安楽死と切に願いながら、部屋の扉を叩く









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