私は私のものです
大変お待たせいたしました&お久しぶりです(小声)
「グレイ」
後ろから劉龍様に圧をかける現在の恋人、グレイは私がオリフベルを出た時にちゃっかり着いてきた
騎士の仕事があるだろう、すぐに戻れ、と何度言っても首を縦に振らなかった。
「今はもう貴女は騎士でも俺の上司でもない。以前殿下にアルカディさんが騎士を辞めるとなったら俺がそばで支えていく許可を頂きました。やめてはいないので長期出張扱いですが」
「………そもそも私のどこが好ましく思えたんだ…そこまでする理由が分からない」
「あれ、言ってませんでしたっけ」
言ってない。ここまでしつこくなかったらただの仲間愛だと思っていたところだ
グレイは躊躇うことなく口を開いた
「全てです。自分にも他人にも厳しいけど、一度懐に入れると甘くなる可愛い性格も、常に前を向いて最善を選び最良の結果を出すかっこいい性格も全て。会う度、話す度、その想いが強くなっていた。抱きしめたい、キスをしたい………結婚してあなたを幸せにしたい」
「っ」
「どうか、俺を選んで」
耐性のない私がこの時とうとう折れたのだ
それからヨスズで共に行動しているうちに、仲間愛では無い何かが芽生え始めたのは言うまでもない。
「グレイ、僕は父上のところに書類を届ける仕事を頼んだんだけど」
「ちょうどその帰りだったんですよ劉龍様、私の恋人は断れない優しい人なので代わりに私が頭を撫でましょう」
「僕のアルカディが撫でるんだから意味があるんだ」
グレイがヨスズに来たばかりの時は言語の違いに四苦八苦していたのにもう口喧嘩できるほど成長した。嬉しい反面、それは上の人間に使うものじゃないだろうと眉を顰める
「私は私のものです。人を物のように扱わないでください。グレイ、相手は皇族だ。まず撫でることを前提として話さないで。無礼にも程がある」
「アディ…分かったよ」
「劉龍様も、私が行っているのはあまりにも異端なことです。下のものが尊いお方の頭を撫でるなど許されない行為であることを自覚なさって____」
「どっちにしろ尻に敷かれる未来しか見えない」
「憂炎、本当のことだとしても口に出してはだめだよ」
聞こえてますからねお二方
「そういえば浩然から聞いたけど、一度北に戻るって本当?」
「えぇ、以前仕えていたお嬢様のご結婚式なのです。招待状は陛下宛てと別で届きましたし、私も参加したいと思ったので」
もうヨスズにきてからそんなに時が経ったのだと実感する。お嬢様と殿下の結婚式…招待状に添付されていた手紙には『絶対に来るように』と遠回しに書いてあったのを見た時はクスリと笑ってしまった
たまに来てたお嬢様の手紙には、殿下との惚気話や王妃教育がいかに大変かなど書いてあり、その時のお嬢様の表情が容易く想像出来る
勿論陛下にも許可を貰い同行するが、「そなたも着飾るといい」と、ヨスズの後宮の妃たちが着ているような上等なドレスを頂いた。肌触りの良い深い青のシルクに金糸で精巧な模様が走っている。アクセサリーは何を持っているか、と浩然に聞かれた時には焦った。
そのようなものひとつも持っていないと話すと目を見開いて信じられないと言いながら急遽、宝石はついてないシンプルなデザインのイヤリングとネックレスを渡された
試しに着飾った時は手伝ってもらった侍女達に揃って溜息をつかれたが、まぁ姿見鏡を見る限り目も当てられないほど似合ってない訳じゃないから何とかなるだろうと軽く考えていた
────後に「まるで月から来た天女のようだった」と語られるとはこの時は思ってもみなかったが
私の代わりに紫秞様たちの指導をする不満顔のグレイを残して私と陛下一行は出立した。
私は招待された側だが、しっかり陛下の護衛もになっているので武官達に混ざって移動している
_____________
オリフベルに着いた時は少し緊張してしまった
あれから1度も帰ってないので、顔を忘れられているのではないかと弱気になっている
しかしそんなことも杞憂で終わり…
「アディ!」
新婦控え室に特別に案内された私は化粧台の前で座っている白いドレスを身にまとったお嬢様と対面した
「お嬢様…本日は誠におめでとうございます。さらにお美しくなられて」
「ふふっアディもとても綺麗だわ、ヨスズのシルクで出来ているドレスなんて滅多に見られないのよ」
「ありがとうございます」
久々にお会いしたお嬢様は天邪鬼な部分が大分減り、幼さが無くなった大人の女性に成長していた
コンコンコン
「リディ、そろそろ準備を──なんて美しい姿なんだ…本当に天使が舞い降りたのかと思った。この姿は誰にも見せたくないな」
「まぁ…イヴァン様もとてもかっこいいですわ…」
早速二人の世界に入り込んだ2人に呆れ果てた。これだけはいつでも変わりないな
生温い目で見ている私にお嬢様が気付いたのか赤面しながら殿下から距離をとった
その時やっと殿下は私の存在に気付き「アルカディ久しぶりだな」と声をかけてくる。少々二人の仲を邪魔したようで少し居た堪れない
「殿下、リディアお嬢様とのご結婚おめでとうございます」
「あぁありがとう」
ここで私は驚いた。あんなに顔面の筋肉が崩壊してた殿下のお顔が微笑んでいたからだ。
呆気に取られていた私にお嬢様が
「今日まで沢山特訓したのよ。アディを吃驚させようと思って、2人で考えたの」
「そうなんですか…」
その作戦は大成功です。
するとお嬢様が私の前まで来て剣だこだらけの手をそっと握った
「アディ、今までありがとう。貴女はわたくしにとってかけがえのない人だわ。物の善し悪しを教え、命を守ってくれたことに感謝してもしきれないわ」
「俺からも感謝する。傲慢で高飛車だった俺を根から叩き直してくれたからこそ今の俺がいる───ありがとう」
幼い頃からお世話していた私に感謝を述べるお2人は今までで1番立派に見えた。
それがとても嬉しくて、無意識に言葉が出る
「私はお2人のお傍で仕えられたことを誇りに思います。どうかお幸せに」
これで物語のシナリオは完璧に変えることができたのでは無いだろうか
「キャァァァァァ」
屋外で女性の叫び声が聞こえた
殿下とお嬢様を近くにいた騎士に任せて私は悲鳴の方へ走っていく
すると、中庭に出て悲鳴の主であろうメイドが座り込んで中庭の中心を震えながら指さした
そこに居たのは黒い布で目以外を覆っている明らかに怪しい人物で、右手にはダガーナイフがにぎられていた
背格好からして男、殿下たちの暗殺だろうかと警戒を高めるも少し違和感を感じた
しかしすぐにこちらへ向かって攻撃をしてきたので、ドレスの内側に忍ばせておいたナイフで応戦する
相手は相当訓練されたようで中々攻撃する隙を見せない。かなりの凄腕だ
だが勝てないという訳では無い。隙が出来ないのなら作ってしまえばいい
わざと作ったナイフの迷いに察知した黒服はすかさず左手をこちらに伸ばしてきた
その瞬間私はナイフを捨て、襟元と袖口を掴み相手がよろけた足を外へ払い、地面へ投げ飛ばす
が、身体能力の高い黒服はその勢いを利用して軽い身のこなしで私から一定の距離をとった
やはりおかしい
もし暗殺なら中庭に降りず、各控え室に忍び込むはずだ。そして暗殺は何より怪しまれたり見られたりするのはご法度、なのにこんな日の高い時に夜に忍び込むような黒服を着ている時点でポンコツかもしくは──────
「きゃー!!」
「っ!!」
囮だ。こんなわかりやすいことに気が付かなくなったなんて
少しはしたないが中庭から2階の外廊下へ高く飛び、お嬢様達がいる三階奥へ走っていく
「お嬢様!!」
慌てた勢いで扉を開けたその向こうには──殿下はおらず、代わりにお嬢様と見知らぬご令嬢が2人で仲良く談笑していた
「あらアディ」
「まぁ、じゃあこの方が例の?」
何が起こっているのか分からない。ご令嬢は浅黒い肌と美しい黒髪、青い目。そして着ているドレスや仕草で貴族だと言うのは分かる
「お嬢様…先程の悲鳴は」
「外まで聞こえてたのかしら?久しぶりにお会いしたからつい声を上げてしまって。彼女は南国ナジスタビアの第1王女カーラ様よ。カーラ様、彼女はわたくしがお話していた元護衛のアルカディですわ」
「お初にお目にかかります第1王女様」
「あなたがアルカディね?リディア様から聞いてるわ。なんでも命をかけて守ったそうね、とても羨ましいわぁ私にも命をかけて守ってくれる人居ないかしら」
「今の兵だって命をかけているだろう」
急に背後から声がして飛び退いて確認すると先程の黒服だった
「お嬢様、第1王女様、私の後ろに」
それをさえぎったのは第1王女カーラ様だった
「お兄様、もうどこへ行ってたのすごい探したんだから」
おにいさま…………???
「アディ、あの御方は第2王子ファジム様よ」
黒服がするりと顔を覆っていた布を取り去ると、彫りの深い顔と黒髪で少し目つきの悪い美男子に位置されるタイプの青年がそこに居た
「お前がカーラの言ってたアルカディってやつか。さっきの手合わせすげぇ楽しかったぜ」
ニコッと笑うと白い歯が見えていかにも好青年って感じがするが問題はそこでは無い
「数々の無礼大変申し訳ございませんでした。私の命で足りるかどうか分かりませんがどうかお許しください」
尊いお方に刃を向けたことは万死にあたる
どこかにナイフあっただろうか。
「あーいいよ、別に俺が仕掛けたもんだから命は大切にしろ」
「そうよアルカディ、お兄様が一番いけないのだから謝らなくていいのよ」
「しかし」
「それよりお前あんなちっせぇナイフで俺と同等に戦えるってすげぇんだな」
「………ありがとうございます」
礼を言うと満足気に頷かれたのでホッと一安心した。が、そのあとの言葉が問題だった
「気に入った。お前俺の嫁になれよ、毎日が楽しそうだ」
「────────ご遠慮願います」
「はぁ?なんでだよ。俺王族だけどそんなに北とか西ほど堅いマナーとかねぇから楽だぞ?遊びたい放題」
「だから遠慮させていただきます。そもそも私には恋人がおります」
「じゃあこっちに乗り換えろよ」
「失礼ながら第2王子様、そういう問題ではございません」
これはグレイにバレたら嫉妬の嵐で大変なんだろうな。とバレた時の恋人への言い訳とこの第2王子からどうやって逃げようかと必死に頭をフル回転する私
そばではお嬢様と第1王女様がくすくす笑っている
結婚式が始まるまであと1時間
──完──




