一難去ってまた一難
「また動きが大きい!」
「はい!」
私は今ヨスズで皇子2人に剣の指導をしている。
お嬢様の筆頭護衛であったにも関わらず誘拐され、怪我を負わせてしまったため騎士を辞職した
お嬢様や殿下だけでなく公爵家から何度も引き止められたが私が私を許せなかったこともあり、半ば無理やり公爵家を出た
養父から何故かドレスやら装飾品やらを渡されたが「傷跡がついた肌に纏わせるドレス達が可哀想だから遠慮します」と言うと数秒固まって小さくなりながら回収していった
やがてセバスから手紙が届き『ガノロフ氏が執務室に閉じこもって呪文のように謝っているが何をしたのか』というような内容が書かれていたのでドレスの話を手紙に書いておいた
それから返信は無い
数日後、使うことは無いとしまっていたヨスズの書簡のことを思い出し、早速何か仕事があったら紹介して欲しいとの内容をしたためて送った
返事は思っていた以上に早く、2日後には仕事を紹介するから1回ヨスズへ来いとの連絡がありすぐさま準備をした
どこから噂を聞き付けたのか出発当日に殿下や公爵家、指導していた元部下達が見送りにと家に集まってきた
「アルカディさんヨスズでもお元気で!」
にっこにこで言うニコロフはもう全身で喜びを表している
「戸籍はこっちに置いてあるから心配しなくとも抜き打ちで様子見に行く。そう寂しがるな」
「え゛」
一気に落胆する様子にこの男の考えていることが手に取る様に分かる。まったく
「アルカディさん!リディア様の護衛はわたしにお任せ下さい!」
どんと胸を張って言うナーナは最後に会った時より頼りがいがある。1人で殿下に手紙を届けたと聞くし、剣の腕も及第点。彼女ならお嬢様を任せられる
「今後も精進するように。と言ってももう私は上司でも何でもないが」
「そんなことないです!ずっと私はアルカディさんの部下です!」
そう言われるととても恥ずかしい
「アルカディ、気が向いたらまた公爵家へ来て欲しい。次は専任として雇うぞ」
「そうよ、リディアを2回も守ってくれたんだもの。それにしてもごめんなさいね、あの子ったら拗ねちゃって部屋から出てこないの」
もう立派なレディなのにねぇと困った表情の公爵夫人が言うように、ここにお嬢様は居ない。護衛を辞めるだけではなく他国へ行くのだから無理もない
『ずっとわたくしの傍にいるって言ったじゃない!嘘つきっ』
今でも頭に残る最後に交したお嬢様との会話。それから部屋にこもったというのだから確実に私のせいだろう
「本当にいいのかアディ、リディに会いに行かなくて」
「いいです。時間ももうありませんし。…殿下はお嬢様を裏切ってはなりませんよ」
「そんなことあるわけが無い」
「殿下、恐らく殿下への説教はこれで最後になるでしょう。この世の中で『絶対』は有り得ないのです」
この言葉に対して息を飲む殿下は少し寂しそうな顔をした
お嬢様と出会ってから本当に表情が豊かになられたことに嬉しく思う
「その時は『有り得ない』と思ってもいつかはそれが故意でも事故でもひっくり返される日が来るやもしれません。ここ数年の間でも殿下は身をもってご理解しましたでしょう」
隣国のエバンス王国のユール第1王子はラーナが現れるまで誰かにうつつを抜かすなど有り得なかったと友人である殿下本人がおっしゃっていた
今回は運が良く、殿下やお嬢様への被害は少なかったが次はそう行かないかもしれない
_____私はヒロインよ!
シナリオに囚われたラーナは自ら破滅の道を歩んだ。私はヒロインだから『絶対』を一層信じたのだろう
「ですから殿下、そんな事はありえないと慢心することなく過ごされますよう」
「………あぁ、分かっている」
さて挨拶も済んだことだし出発、というところで遠くから馬の駆ける音が聞こえてきた
視認できるほど近づいた時、私は久しぶりに言葉を失った
「あでぃっ───アルカディ!!」
お嬢様が 単独で 馬に 乗っている
「奥様ー!!」
公爵夫人がその様子を見て気を失い侍女らに支えられ、退出。公爵は「乗馬は私が教えたのだぞ」と笑いながら見ている
それだけでもかなり慌てている状態なのにお嬢さまは私達の数十mほど先になって、止め方が分からず「止まらないわぁぁ!」と半泣きになってた
公爵…旦那様よ、娘に馬の止め方は教えなかったのか
「総員、殿下と公爵家を隔離し護衛に回れ!」
「「「は!!」」」
迫り来る馬の前に立ち、私の横を通り過ぎる瞬間に半円型の鐙の上部に足をかけ、遠心力でお嬢様の後ろに立つようにして乗る
姿勢を低くして固まるお嬢様の手を上から被せるように手綱を握る
「お嬢様重心を後ろに傾け、鐙で馬に止まる合図を送るのです。手綱は無理に引いてはいけません」
そう言いながら大方のサポートをしてやっと馬は止まった
幸い馬が比較的いうことを聞く性格だったので、この馬を選んだお嬢様に感謝した
そのまま馬を操り門まで行く途中にお嬢様は泣き始めてしまった
「アディ、嘘つきって言ってしまってごめんなさいぃ」
どうやら私に『嘘つき』と言ったことを気にしていたようで泣きながら謝罪した
「私は気にしていませんよ。お嬢様はお怪我ありませんでしたか?奥様から部屋にいらっしゃると聞いていましたが」
「ぐす……怪我はないわ。アディは私の護衛なのよ。お見送りくらいしなくて何が主人よ」
「お嬢様…」
「……少しくらいは顔見せなさいよね。私が立派な皇太子妃になって護衛を辞めたこと後悔させてやるんだから。その時戻りたいと言っても戻してあげないんだから」
「ふふ、えぇ、楽しみにしています」
「もし結婚したら私を呼びなさい。アディが買えないくらいの豪華なドレスを送ってあげるから泣いて喜ぶ事ね」
「はい、お嬢様の送るドレスですからきっととても美しいでしょう」
「当たり前よ」
「アディ」
「何ですか?お嬢様」
「わたくしのこと忘れないで」
「えぇ、もちろん」
私達が戻った後、お嬢様と旦那様は殿下と奥様にコンコンと説教された。
その様子を見届けてから私は出立した
「オリフベルってどんなところなんだ?」
ヨスズ第3皇子、憂炎様が休憩中にオリフベルについて聞いてきた
ヨスズは少し前まで鎖国状態だったので憂炎様は恐らくオリフベルへ行ったことがないのだろう
「オリフベルは比較的低い気温の国です。冬になるとお湯がすぐ氷になるほど寒くなりますが、夏は避暑地として各国から貴族が来るほど人気ですね。夏でも溶けない氷湖の景色が絶景だとか」
「オリフベルか、確か氷菓子の種類が豊富でどれも美味とは聞いたことあるな」
途中から話を聞いていた第1皇子の紫釉様が興味を示していたのは特産である氷菓らしい
「果実水を凍らせて削ったものに甘い蜜をかけたものなどありますね。私がお仕えしていたお嬢様の好物でした」
「その『おじょーさま』度々話に出てくるけど可愛いのか?」
「えぇ、そりゃもう10人中10人が『可愛い』といいますね」
「そんなに可愛いなら会ってみたいな」
「憂炎、アルカディが仕えていた女性はオリフベルの未来の妃だからそう簡単には会えないよ」
「えぇー!」
明らかに落胆する憂炎様
憂炎様は一体お嬢様に会って何をしようとしたのか、ことと次第によっては私の鉄拳が
「アルカディ!」
後ろから声をかけられ振り向くと、燃えるように赤い髪を高くまとめて豪奢な衣装を身にまとった第2皇子の劉龍様が笑顔で寄ってきた。
エバンスに行く前に会った時とは大分変わって身長が高くなり年相応の肉も付き始めている
かと言って毒はまだ抜けきってはいないらしく、食事は毒味役だけでなく、作った料理人達、護衛2人が見守る中している
もし毒が入っていたらその場で斬り捨てるための集まりなので毎回料理人達は生きた心地がしないと聞いた
劉龍様は侍女から虐待を受け、長期にわたって毒まで盛られた過去がある。その赤い髪が不吉だと言う理由だったが、父である皇帝陛下から『奇跡の髪色』と言われてから、今までとは180度違う待遇を受けている
私達と別れてから劉龍様は勉学に励み、将来は皇帝になられる紫釉様の宰相として支えていくのだとか
憂炎様は武官になってヨスズ最強と言われている雲嵐と同等に戦うのが今の夢らしく、政治のせの字も興味無い
紫釉様は御二方の能力を足して二乗したような優秀なお方なので後継争いなどはこれっぽっちもない。
「アルカディ、ここの問題が解けるようになったんだ!」
褒めて褒めてというように差し出す劉龍様の頭を撫でるのは何度目だろうか
最初は皇子の頭を撫でるなど、と断っていたが断ったその日が絶不調で授業すらまともに出来なくなっているから何とかしてくれと浩然に頼み込まれた時はさすがに頭を抱えた
今では慣れたものだがこうしているともう1匹寄ってくる
「劉龍様、私の恋人は只今休憩中です。頭を撫でるなら私がいくらでもやりましょう」




