隣国崩壊寸前
【急募】語彙と文章力
エバンス王国編です
オリフベルに戻って早半年
とうとうその時が来た。リディアお嬢様と殿下が、西の国エバンス王国へ短期留学するのだ
殿下の護衛はなんとか爽やか青年になったグレイが、リディアお嬢様には私が隊長として信頼出来る騎士を各3名ほど連れて出立した
今までの様子からして殿下が心移りなどしないと思うが念には念を。お嬢様から離れないように心がけようと誓った
────のはいいのだが
「あ〜んイヴァン様〜一緒にランチしませんかぁ?」
やけに粘着質で不快に感じるこの声の持ち主こそ、物語の主人公ラーナ。子爵家令嬢でプラチナピンクのボブに大きな緑の瞳は少しタレ目。曰く守りたくなるような小動物らしいが…あまりそう思わない
前世の私の記憶では、分け隔てなく声をかけて周りを明るくする純粋な女性だった。だが目の前であろうことかリディアお嬢様の前でイヴァン殿下に絡んでくる女性は純粋の皮を被った女豹
元から鉄仮面だった殿下は感情までもが無になるも、国同士で厄介事を拾いたくないからかラーナ嬢を適当にあしらっている
お嬢様はツンと澄ました顔でその光景を見ているが、右手がドレス調の制服を掴んでプルプル震えていた
挙句に「や〜んリディア様がこっち睨んでるこわぁい」とかほざ…言いながらイヴァン殿下にしがみつこうとしている
なぜこうなったのか…
時は遡ること1週間前
無事集会での挨拶も終わり、その帰り際中庭が見える外廊下を歩いていたとき、何者かがこちらに突進してくる様子が見えたので当たり前のようにグレイと私が前に出て剣に手をかけた
「きゃぁ!ごめんなさぁい!」
と言って私に中腰タックルをかましたのがラーナ嬢
笑顔で私と視線を合わせた瞬間「え?女…?」と小声で呟いたのを拾い逃さなかった
それで分かってしまったが、恐らく彼女はこの物語を知っている。仮に知らないとしても他国の王族に中腰タックルしようとする輩は危険対象
「お怪我はありませんか」
一応貴族の令嬢、丁寧に扱わないといけないので安否を確認するも、相手が女だったからか、一瞬顔を歪めるもすぐに切り替えて
「あっごめんなさい、蝶がそちらに飛んで行ったので追いかけていたのです」
「はぁ、」
蝶見えませんでしたが。なんて突っ込むことも出来ず、気の抜けた返事をするしかなかった
彼女は目敏く私の背後に気付き、目を輝かせて大声で話しかける
「お詫びがしたいですぅ!お名前を伺ってもよろしいでしょうか!」
もう殿下しか眼中に無いようで、私が抑えていないと今にも飛び掛りそうだ
「自分から名乗るのが礼儀ではなくて?」
後ろから聞こえるリディアお嬢様に拍手を送りたい
目下の者から目上に声をかけてはならない。貴族として顔を覚えていないのは有るまじきことだが、万が一忘れたとしても自分から名乗るのが常識。
お嬢様がエバンス国でのマナーを学ぶ時に私にも教えてくれたことである。オリフベルでは子爵位から公爵位に話しかけることは出来ないが、伯爵位からであれば問題ないというような、あまり上下に執着していないのが特徴だ
ただ、お嬢様は学園の生徒名簿を暗記しているから分かっているが、彼女は子爵家の娘、オリフベルでも眉をひそめられることなのに
先程行った学園集会で全生徒の前で紹介された隣国の皇子と婚約者にもう一度名前を聞くなんてこと、「自分はその集会に出席していない」と言っているようなものだ
色々言いたいが、自分は編入している身、国同士の関係を壊したくないという一心で最低限のマナーだけお嬢様が指摘したというのに
「きゃぁ!そんなに怒らなくてもいいじゃないですかぁ!ラーナ怖い…」
ぐすぐす泣き始める彼女に一同唖然。
「そこで何をやっている!」
渡り廊下からやってきたくせっ毛気味の金髪美青年。エバンス国の第1王子が怒り心頭と言ったような顔でこちらに向かってきた
「ユール!」
私とグレイが後方に下がるも、ラーナは王子を名前で呼び、ひしっと抱きつく。王子は背中に手を回し守るような体制になってこちらを睨んできた
「編入して早々問題を起こすなど何のつもりだオリフベルの皇子」
「問題も何も、突然突進してきたのはそこのマナーのなってない令嬢だ。俺達の護衛が前に出なかったら彼女は不敬罪でオリフベルから訴えが来ていただろう。感謝こそすれ、怒られる謂れは無い」
よく言った殿下
殿下とお嬢様の後ろに移動していた為、顔は分からないがお嬢様の腰に回している手が強くなり、とても怒っていると分かる
「ラーナは私の愛する人だ。いずれは俺と同等になる存在に不敬罪も何も無い」
「いつからこの国は一夫多妻制になった。現王も王妃のみを見ているというのに」
「私が愛しているのはラーナだ。ただ政治的補助としてはアレの方が多少有能だからそばに置いているだけのこと。そうでもなければとうの昔に捨てていた」
とんでも発言を聞いた周りは氷のように固まった。そんなことお構い無しにイチャイチャし始めた2人にもう誰も何も言うことが出来ない
「お前とは旧知の仲だから忠告するが、そんなことをしているといつか身を滅ぼすぞ」
「そんな訳ないだろう。アレからも了承の意を貰った」
また絶句
「大丈夫ですかイヴァン様」
そそくさとその場を離れ、学園内にある煌びやかな噴水のある広場で一息ついた時に、リディアお嬢様が殿下に声をかける
「あぁ、リディには不快な思いをさせた。以前はあのような阿呆ではなかった筈なんだ、婚約者を大切にし、結婚が楽しみだなんて言っていた程良い奴だった」
あの馬鹿王子の過去を聞くととても不自然に感じる。そんな人がここまで変わることなどあるのだろうか
「アルカディ」
名を呼んでこちらを見る殿下に何が言いたいのかよく分かっているので「かしこまりました」と一礼して連れてきた騎士のひとりを呼ぶ。
養父の『手足となる者』として育てられた私を知る者は、王族と養父の1部配下のみ。
お嬢様は「?」と訳が分からないような表情をしているが、殿下から「リディ、ここには学食があるみたいだ。昼に利用してみよう」と昼食に誘われて、ご機嫌になっていた
呼んだ騎士にお嬢様の護衛を頼み、誰もいない学園の裏庭へ向かう。裏庭に生えている木々の中から顔を出したのは真っ暗な羽毛に真っ黒な瞳、カラスだ
殿下やお嬢様に何かあった時にオリフベルへ送る速達便として利用する伝書鳥。躾されているカラスは私に臆することなく、差し出した左上腕に飛び移る
カラスの足に括りつけてある紙を解き、持参したペンをもってそれに書き込む。
再度足に結び、懐から笛を取り出す。カラスの目の前でそれを吹くが私の耳にはその音は聞こえない。しかしカラスには聞こえたようで、瞬きを幾らかした後に己の羽を広げて空へ向かった
通常伝書鳥は国外からオリフベル王城へ向かう一方通行の連絡手段だが、あのカラスは養父であり、知将の第1騎士団副団長であるガノロフが直々に躾た為、少し特殊だ
ひとつは一方通行ではなく送り主の元まで戻ってくること。
そして送り先が変更出来ること。通常は王城だが、音のない笛を吹くとガノロフの屋敷へ飛んでいく
優秀な鳥だが、一体どんな躾をされたのか想像はしたくない
姿が見えなくなるまでしばらく見届けた後、踵を返してお嬢様の元へ向かおうとした
「ここにいたのか破壊の騎士」
「は?」
一体誰だそんな最悪な騎士と思っていたが、どうやら私のことらしい
こちらに話しかけてきたのは私が見上げるほどの高身長、白い髪に赤く鋭い瞳、そして美形。会ったことはないのに何故か見たことがある。疑問符を浮かべていると痺れを切らしたのかあちらから名乗った
「ロンタール公爵家長男のシュゼル・ロンタールだ」
「オリフベル帝国騎士団所属、アルカディと申します」
反射的に自己紹介したが、同時に思い出した。
この物語の登場人物の1人のシュゼル・ロンタール。大変珍しいアルビノで、最近ではその存在も知られているが一昔前は病気と思われて忌避されていたのだ。
それは当時の彼の両親も同じで、幼少期は常に孤独だったという
学者らのおかげでアルビノについて理解する人が出るようになった現在、両親も彼とコミュニケーションを取ろうとしているが腫れ物扱いだったくせにと、逆に人間不信に陥った
そしてその人間不信に手を差し伸べたのがヒロイン、ラーナ。表裏のない性格と感情が顔に出やすい彼女に少しずつ心を許し、そして惹かれていく
最後には公爵になっていつまでも幸せに暮らしていったとさ
「お前がラーナを押さえつけて怪我をさせたと言う奴か」
「どちらかと言いますと怪我しそうになったのこちらなのですが」
あの突進力はそこら辺の猪よりあったと思う
真面目な話、グレイだったら数歩後ろへよろけただろう
「かよわい女性を傷付けただけではなくそれを彼女のせいにするなど…騎士の風上にも置けない」
「まぁ、主の身の安全優先ですから、細心の注意を払いましたが…謝罪させていただきます。令嬢にお会いしt」
「合わせる訳ないだろう!また傷付けるかもしれない」
「じゃあ他にどうしろと」
するとシュゼルはスラリと帯刀していた剣を引き抜き、剣先を私に向けてきた
「俺がラーナの仇を打つ」
そう言うと共に斬りかかってきた。が、所詮は学園内だけで剣を振る子供。山に籠り、数々の実践を積み重ねた本物の騎士には適うはずもなく
スイスイと避けながら気になる所を指摘をする
「振り下ろしがぶれていますね。素振りは基本中の基本ですが、やってないことがわかります」
「あぁ、ほら振り切った後によろけるのは剣の重さに負けているんです。体幹鍛えるか、もっと軽い剣をおすすめします」
「どうしてそんなに動きが大きいのですか?次の一手を出す前に刺されますよ」
「なんなんだお前ー!!」




