父というものは
ここまで来たはいいものの、あまり話したことがない為、しどろもどろになり始める劉龍様
「ち、父上」
「……ここで良い、話してみよ」
「はい…あの、父上は私のことが嫌いでしょうか…」
直球すぎだ────!
「何?」
訝しげな顔をしてこちらを見てくる陛下
「兄上や憂炎には剣を教えるのは才能の違いなんでいいのです。でも…でも、毒味役を付けないのは僕が役立たずだからですか?」
「なんだと?」
さらに顔を顰め始めた陛下は、何かを察したように劉龍様に問いかける
「劉龍、今まで床に伏せていたのは何故か」
「それは、」
言いかけた時に割り込んできたのは、あの太った男だ
「り、劉龍様は最近幻覚を見ているようでして!偶にありもしないことを言ってしまうのです!」
「朕が聞いてるのは劉龍だ。下がれ王静」
うぐぐ…と顔を赤くしたり青くしたりしながら頭を下げて身を引く様子を横目に再度陛下は問うてきた
「劉龍、朕の子であるなら堂々とせよ」
「っ!………わ、私がとこに伏せているのは、毒味役が居ない料理を食べて体調を崩しているからです」
ザワっと広がる空間に陛下は冷静に「宮廷医師をここに」と仰った
そう時間もかからず白衣を着た老人医師が到着し、その場で劉龍様を診察した
「…これはひどい」
「結果はどうだ」
陛下が問うと、医師はとても深刻そうに述べる
「劉龍様は身体のほとんどが毒に犯されています。長期に渡って毒を摂取し続け、いつ迎えが来てもおかしくない状態です」
眉を顰める陛下とさらにザワつく上役と真っ白になる男
「治るか」
「毒のない栄養のある食事をし続ければおそらく…ただ短くとも5年は必要かと。ここまで生きていらっしゃるのは奇跡としか言いようがありません」
そうか、とつぶやくと同時に男を強く睨み、男は下を向き続け陛下の視線から逃げていた
「その者と侍女を捕らえよ」
自分が呼ばれると思わなかったのか隅にいた侍女が奇声を上げ、抵抗するも簡単に伏せられた
「て、天子!恐れながら私は何もしておりません!!なぜこのようなことをっ」
「毒味役が居ないと気づかずに料理を運んでいたのか?」
「そうです!私は毒味役がいないなんてちっとも!」
そこで侍女は気づいた。気づいてしまった
仮に気づかなかったとしても、劉龍様が倒れるのは必ず食事の後。長期にわたってそのようなことが起これば、食事になにか入っているのかもしれないと考えるはず。
言葉の通り何もしていなければそれは劉龍様を殺そうとしていたと言っているようなもので
「いやぁぁぁぁっっ!どうして!忌み子のくせに、お前のせいだ!お前のせいで私は」
侍女を捕らえていた雲嵐が手刀で首元を叩き、言葉は最後まで続かずバタリとその場で倒れた。
「して王静よ、朕の覚えている限りでは毒味役にはそれなりの給金が配布されていたと思うが、それはどこにやった?」
「そ、その、」
「月に銀50枚、1年で600枚。農民であれば家族4人で10年は暮らしていける程の額、10年分ど こ へ や っ た ?」
「……」
「医者についても、お前が腕利きの医者が居るからとそちらに任せていたが、どうやら手を組んでいたようだな。」
「で、ですが、天子は劉龍様を疎んでいらっしゃるはずです、こんな、血のような赤い髪の子供と血が繋がっているなど、気味が悪いのでは」
最後の悪あがきか、劉龍様を貶し始めた
しかし予想とは違い陛下は不機嫌そうに片眉を上げて何を言っているんだこいつはというような目で王静をみる
「髪の色で自分の子供を疎く感じる者は帝どころか、親を名乗る資格などない。朕は平等に子らを見てきた」
「は………」
「それより、毒を飲み続けいつ倒れてもおかしくない状態であるにも関わらず、自らの足でここまで来て意見を述べることがどんな奇跡なのか分からんのか。あの髪色は幸を呼ぶ色だ」
しん、と辺りが静まりかえる。先ほどのざわめきが嘘のようだ
天子の言うことは神の言うこと。天子が白と言えば黒色も白になる
つまり、劉龍の血のような赤い髪は今ここで不吉な髪色から 幸運を呼ぶ奇跡の髪色 という認識に変わったのだ
「朕はその髪色を持つ子の父になったことを嬉しく思うぞ劉龍」
視線を劉龍様に向けて朗らかに笑う。それは正に親が子に向けるような優しい眼差しで
「っ……っ!はい!」
ボロボロ瞳から大粒の涙を零しながらとても嬉しそうに返事をする劉龍様を見て私も安心した
「さて、他にあるか王静」
「……、ござい、ま…せん」
思っていた結果と違い、情状酌量の余地すらないことを悟った王静は、項垂れながら兵に連れていかれた
劉龍様は部屋へ戻され、宮廷医師が付きっきりで看病している。新たな侍女選定は厳選するらしく、重役達が話し合っている
「まさか他国の使者がいる時にこんなことが起こるとは思わなかったな」
「私は何も見ておりません。私には関係の無いことですので」
「ふっ、なんと優秀な使者な事だ。お前が兵でなかったら朕の側妃にしていたものを」
それはごめん蒙りたい。
「そなたであろう?劉龍を引っ張り出したのは。あぁ、咎める訳では無い、ただ普段は朕から3歩も4歩も下がっていたあれが何かを言ってくるとは思わなかったからな」
「…私は劉龍様にきっかけを差し出したまでです。行動したのは劉龍様自身の意思ですので」
「おかげで悪い芽をつむことが出来た。礼と言ってはなんだが、そなたの国との交易に色を付けて…そうだな、朕が天から迎えに来るまで保証しよう」
「!、ありがとうございます」
オリフベル陛下や公爵様にいい知らせが出来そうでひとまず安心した
すると、いつの間にか赤い判子が付いた紙が乗っている盆を持った浩然が私の横に佇んでいた
「それはそなた個人への報酬だ。何かあればこの書簡に書いてここへ送るといい。1度だけ手助けをしよう」
多分これは念の為の口止め料。だが話す気などサラサラないし、口止め料にしては規模が大きすぎる
「恐れ多いです。そこまで良くしていただく訳には行きません」
「これを拒否するものはそなたしか居ないな、これは父としての礼だ」
チラリと浩然を見ると、口パクで『受け取れ』と睨んでくる
「……では有難く…」
多分使わないけど。今この場では受け取らないといけない気がするので、渋々受け取る。これはお嬢様に何かあれば頼もう
のちに、王静とやぶ医者は王族殺人計画犯、横領の罪で。侍女だった女はそれに協力しただけでなく、横領の1部を貰っていたことが判明し、両一族打首が言い渡された
侍女については最期まで劉龍様を貶していたらしい。風の便りで侍女は劉龍様の侍女になった途端、婚約者から逃げられ実家からも散々なことを言われたらしく、原因の劉龍様を憎んでいたという。
婚約者の方は正式に婚約を解消していないまま、さっさと新しい相手を見つけたらしいが、幸運を呼ぶ奇跡の髪色と呼ばれた途端に『自分の婚約者は劉龍様の侍女だった』と愚かにも公言し、周りから婚約者を見捨てた最低なヤツと冷ややかな視線が向けられ、新しい相手には婚約者がいたなんて聞いてないと言われて振られたようだ。
新しい相手はそれなりの金持ちだったため、養われていた婚約者は今頃どうなっているのか、知る由もない
「おい」
一室から出て歩いていると、後ろから声をかけられた
振り返るといつも物理的にこちらに睨みをきかせていた浩然が、しかめっ面で立っていた
大体業務外で顔を合わせると軽い口論になるくらいには仲は深まっていると思う。
おかげで語彙力が上がったので感謝したい
「………………………………………ありがとう」
かなりの間を置いて感謝の言葉を述べられて少しフリーズしてしまった
「前からあの男は怪しかったが、中々尻尾をつかめないでいた。お前が働きかけてくれたおかげで捕まえることが出来た」
「はぁ、」
「なんだその気が抜けたような返事は」
「いや、浩然さんがそんな感謝の言葉を私に言うなんて、明日には槍が降ってくるのでは」
「いちいち癇に障る奴だなお前は!」
後日に紫釉様や憂炎様からも話がいったみたいで、「何かあれば自分達も協力する」と有難いお言葉を頂いた
それからも私は毎日劉龍様の元へ足を運び、宮廷医師が担当しているおかげで少しずつ回復している御様子に安堵せずには居られなかった
数ヶ月後、出会いには別れが付き物。
オリフベルに帰国する日が来た
王宮での挨拶も程々に、皇子3人へ挨拶しに行った時
「長いようで短かったね。オリフベルでも元気で」
「いつか雲嵐より強くなるからその時はまた俺と手合わせしてくれ!」
「はい。ありがとうございました、いつかまた会える日まで」
分かっていると思いながらも別れを告げるお2人はどこか悲しそうで
「アルカディ!」
ドンッと後ろから衝撃が走り、振り返ると少し肉付きが良くなった劉龍様が抱きついていた
「劉龍様」
「もし、僕がアルカディを守れるくらい強くなったら、アルカディはまた僕のそばに居てくれる?」
「こら劉龍」
紫釉様の言葉も気にすることなく、こちらをじっと見つめてくる
「………出来ませんね」
「え」
「私は守る立場の人間です。守られる方が強くては私は意味ないですから」
「……そう」
「まぁそんなこと言ってますが、いつ大きな怪我をして剣を握れなくなる時が来るかもしれません。その時は(劉龍様の御子の剣師として)お願いできますか」
「!うん約束」
これで引退後の就職先は決まり安定した人生を送れるとウキウキのアルカディ
別の意味でウキウキな劉龍
ズレている。違う解釈のズレか半端なく起きている
しかしこんな面白展開に訂正する人間はおらず、唯一間に入りそうな浩然は不在、皇子2人はニコニコニヤニヤしながらそれを見ていた
サイ達はほくほく顔で、ニコロフはゲンナリした顔で、集合場所に来ていた
「最初はどうなることかと思いましたが、希望以上の結果が出て良かったです」
「俺は半年アルカディさんにしごかれて女の子に声かける暇もなかったっす…男たちとはいい飲み仲間になったけど、欲しいのは可愛い女の子っすよ…」
「そうか、では可愛い女の子である私が毎日鍛錬の相手をしてやろう」
「いいっすいいっす!!!アルカディさんはそもそも可愛いというか迫力ある美人というかゴリラというか」(ごにょごにょ
「ほう???詳しく聞こうか」
「すんませんでしたぁぁ!!」
ニコロフの叫び声と周りの笑い声と共に、私達はヨスズを出た




