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お嬢様が悪役になれるわけが無い

お願いします

生まれ変わったら物語の登場人物になりたいと思ったことは無いだろうか

私も同じことの繰り返しな日常に対し、何度か思ったことがある。魔法使い、異世界聖女、時にはそこら辺の猫になりたいなんて、完全に疲れ切っている人のような考えもしていた


でもさ、それは大体非現実的だから願ってるんじゃん

本当になるとは思わないじゃん



「アルカディー!」

キラキラしてて悲鳴をあげる多色のキノコ…いやドレス

背後で名前を叫び、焦燥した青い瞳で見上げる美少女と目が合う

初めて見る人なのに彼女が主人ということが分かる

そして腹部に熱が伝わり違和感を感じた。視線を向けるとナイフが自分にずっぷり刺さっている

人間混乱しすぎると逆に冷静になるもので、服に滲む己の血を見ながら呑気に思った



あ、また死んだ。_____と


そこで私は意識を無くした






   ____________________



なんということだ




私アルカディは、皇太子の10歳の誕生パーティに招かれた護衛対象の公爵令嬢リディア・ペトロフを庇い、脇腹を毒のついたナイフで刺された重傷で5日間の昏睡状態の中、厳しい命の闘いに勝った


______まではよかったのだが



その際私にとある記憶が入ってきた。ニホンという国で生きていた成人女性の記憶が。そしてこの世界はその女性が遊んでいた、『乙女ゲーム』なるものの世界だったのだ

そのゲームは一人の女性が王子や高位貴族達と恋愛したりハーレムを築いたりする物語らしい

最初の舞台がなんと西に位置する国、エバンス王国で男性陣がこれまた大物揃いで王子や宰相候補、公爵子息に更には学園の教師と…この国は大丈夫なのか心配になる


 こちらの国、北に位置するオリフベル帝国が舞台になるのはその2期作

その中で悪役として登場するのは護衛対象のリディアお嬢様だ。そしてその婚約者であるイヴァン・オリフベル皇太子はその女性に惹かれる男性の1人だそう

彼はあまりに感情が表に出ず、とうとう氷の皇太子様なんて呼ばれる程の鉄仮面ぶり


実は女性不信だが、女性に出会い少しずつ惹かれ心を開いていく

それが気に入らないリディアお嬢様が女性に悪質ないじめをし、気付いた皇太子が婚約破棄と一族爵位剥奪だけでなく、娼館送りとなんとまぁ鬼畜超えて残酷な処置を行った

そして女性と皇太子は幸せに末永く暮らしましたとさ




という物語のようだが実際は…



「今日はリディ来てないのか」

170+ブーツという女性としては高身長過ぎるアルカディでも負ける程の高身長

雪を思わせる銀髪と月を思わせるような黄金眼。その瞳色は王家代々伝わる証で彼は色濃く受け継いでいる

玉のような傷1つない美しい顔は世の令嬢達を虜にしているという

「残念ながら、ただ今お嬢様はアスティリア侯爵令嬢のお茶会に出席しております」

「………そう」

目に見えて落ち込んでいる彼は、例え表情筋が死活していても感情は誰しも分かる

「しかし殿下、こちらにお嬢様から預かった御手紙があります」

 ピラリと懐から取り出した一通の手紙は可愛らしい花の模様が描かれ、隅には『イヴァン様』と美しく整った文字が

本当は何か仕込まれていないか鑑識に出さなくてはならないが、早くとも一日はかかる為、取り急ぎ殿下を操縦できる少ない手立てとして見逃されている

取り出した瞬間先程の沈んでいた空気が嘘のように変わった

「見せて」

「なりません。やるべき事をやってからです。先程セバスさんが執務を放り出した殿下を血眼になって探してましたよ」

「後でやる」

「駄目です。殿下、お嬢様の御手紙が欲しければやることをやってからです」

こちらを睨んでいても毅然とした態度で殿下を見れば、ついに諦めたのか

「1時間待ってて」

と、足早に執務室へ戻る殿下を見送って満足していると

「アルカディ殿、いつも申し訳ございません」

後ろから60程の執事服を着た老紳士が丁寧に頭を下げる

「気にせず、私に出来ることでしたらなんでも言ってください」

「さすがアルカディ殿、長年お仕えした私より殿下の扱い方を心得ていますな」

控えめに笑う時にできる顔のシワが美しく弧を描いた



 物語ではお嬢様と殿下の間は冷えきっていたらしいが、今現在、2人はとても仲睦まじい

殿下はお嬢様を心から愛し、お嬢様も殿下をとても慕っていらっしゃる

ただ、物語の内容と違うのはこれだけでは無い

 私アルカディは()()護衛騎士で、女性に惹かれる者の一人だった

男性アルカディは身長185の武骨な生真面目男。

灰色の髪と眼、高身長など性別以外は大体当てはまっている

 そしてどうやらコレに物語のリディアお嬢様は恋心を抱いていたらしく、身分違いの恋にいち令嬢であるリディアお嬢様はどうしようも出来ず、なのに婚約者の皇太子は他の女性とイチャコラしているし、想い人もその女性に惹かれてるし、性格が拗れにこじれた結果出来たのが悪役のお嬢様

なんて不憫



しかし今はそのアルカディは女で、恋愛対象ではなくなったリディアお嬢様は所謂ツンデレな性格になっていた

小さい頃から私に懐いて「あでぃ」と呼んで花の冠をよく作ってくれたものだ


 昔のことを思い出し感傷に浸っていると、執務が終わったのか殿下がこちらに走ってきた

そして手紙を受けとるや否や、浮き足立った様子ですぐに自室に閉じこもってしまった

 殿下と私は剣の弟子と師匠の関係のため、多少のことは言うことを聞く。剣の師とはいえ、一国の王子がただの護衛騎士の言うことを聞くなど、と眉を顰める輩も居るが生意気ざかりだった昔の殿下を思い出すと、表立って言う者も居ない



現在殿下とお嬢様は15歳、あれからもう5年経っている

最初の頃は混乱していてお嬢さまを初めて見る御方と勘違いしたり、思考がふたつ出来たように感じていたが今は私に馴染んだようだ

私は今年で21。女性としては旦那が居ないと枯花と呼ばれるような年齢だ

平民上がりの人間にとって跡継ぎなど必要ない上に、殿下ほどではないが無駄に整った容姿と高身長により淑女達から黄色い声が出ているが紳士から声がかかることは無かった



 物語の2人は17だからあと2年、その時に2人は国外勉強として同盟国のエバンス王国の学園に転入することが決まる

教室への道で女性が1人でいる殿下を迷子だと勘違いして声をかけるところから始まるが…………王子なのに1人でいることから可笑しいでは無いか?必ず護衛がいるはずなのだが



 今のところお嬢様達の仲を心配する必要は無いが、恋は人を変えるものだ。もしそうなったときは迷わずお嬢様に付く覚悟くらいはしている

 本当ならば半殺しにして誠心誠意込めて土下座させたいのだが、仮にも相手は皇太子。そんなことをしたら不敬罪で斬首コースまっしぐらの為あえなく断念

とりあえず様子見ということで見守っていこうと思う




 さて、本日お嬢様の護衛を離れて王城に来た理由、それが今からわかる

私を呼び出したのは他でもないオリフベル帝国国王だ

高い天井にいくつものシャンデリアが輝く広い部屋、入口からまっすぐ敷かれたゴミ一つないレッドカーペット、その先では恰幅のいい穏やかな顔をした男性が機嫌の良い様子でこちらを見ていた

「おぉ、よく来たなアルカディよ」

騎士の礼をしてさっさと話を進める

「…私にお話とは」

「ふむ、そなたの剣の腕の評判は儂の耳にもよく届く」

「身に余る光栄です」

「そこでだが、今度のエバンス王国とのルィーツァリにひとつ出てはくれないだろうか」

ルィーツァリ。エバンスと同盟を組んでから年に1度行われる腕試し大会のようなものであり、交流会の一つとして重大なイベントだ

両国から優秀な騎士を3名以上選出して1位を競い合う。トーナメント戦で同国でも敵となる

見事優勝した者は褒美を賜るとの事で、出る者はかなり気を張っている

「私の記憶の限り、男性のみ参加の資格があるのでは」

「今年から女子も出ることが可能になった」

女性である私には関係ない話だと思っていたが、軽い運動として楽しめばいいかと思い、あっさり了承してしまった





それがいけなかったのだろうか




ルィーツァリ当日

「わたくしの護衛を務めているのですから、優勝は当たり前でしてよ!」

青い猫目で腰まであるプラチナブロンドの髪は白いリボンでハーフアップにされて、実年齢より大人びて見える

物語に登場するだけあって美人なリディアお嬢様は目の前にいる軽い武装を纏った美しい麗人を睨めつける

「お任せ下さいお嬢様」

お嬢様に優勝目指せと言われたらやるしかないでしょう

「け、怪我はしない程度にしなさいよ…わたくしの護衛は傷のついた醜女なんて噂が流れたら困るのよ!」

お嬢様、もう5年前に腹に傷跡残ってるんでその噂どうしようもないですが、要は怪我をしないでとお嬢様なりの気遣いなのは分かっていますツンデレ可愛いです

殿下も恐らくこれで落ちたのだろう見る目があるな殿下


「アルカディ気をつけるのだぞ」

「なるべく落ち着いてね」

お嬢様の後に寄り添って並ぶ美男美女から心配の声がかかる

「かしこまりました旦那様奥様、このアルカディ傷一つ作らず優勝して参ります」

「………あなたなら出来そうで怖いわ」


まるでコロシアムのようなそこは、観客の賑わいで熱量が際立っていた

私を見た何人かはざわめいていたが気にせず前に進む

エバンス王国の6人の男騎士がこちらを見てニヤリと笑った

一方こちらの騎士4人は顔面蒼白で会場に入る

見た目からは平均的な体躯のオリフベル帝国に比べてエバンス王国は筋肉に特化した力自慢の集まりだ

 ここでひとつ、私は心配していたことがある



果たして私に勝てるものが居るのだろうか



 結果から言うと勝てた者は誰一人としていなかった

最後の方には参加者皆青い顔で棄権をし、不戦勝と言っても過言ではない

観客席もしん、と静まり返っている

それはそうだ。だって試合会場が真っ二つになっているのだから。誰でもない私の手で


 とある筋肉ダルマが剣を持ちながら殴りかかり、避けたはいいものの刃先が頬を掠ったのだ

ツゥ、と一筋の血が白い肌を駆け下る

その時、何かがプツンと切れた

 気づいた頃には2つに割れた会場と泡を吹いてボコボコになっている先程の筋肉ダルマ

やってしまったと思ったころには時すでに遅し


「勝者、オリフベル帝国 アルカディ」


途端にワァァッと歓声があがり、賞賛の声が鳴り響く

私は約束事や忠誠を誓った時の執念深さは酷いと自覚している。抑えたつもりだったが上手くいかないものだ




 「申し訳ありませんお嬢様、傷一つつけないと約束致しましたのに」

「やりすぎよ!まさかアディそれであんなことを!?」

「?はい」

「もう!これでもっと厄介な事になってしまったわ!」



お嬢様の言葉の意味を知るのはそれから数日後

私の元に大量の騎士団勧誘書が送られてきた。ゆうに10は超えている

「エバンス王国の双鷹騎士団に蒼虎騎士団…南の王宮からも来てますね」

机の上に広げられた手紙を見て、お嬢様はただ今ご機嫌斜めだ

「わたくしのアディですのに!アディがいけないのよ!」

「アディはお嬢様のお側にいますよ」

「けれどお国からの命令では逆らえないでしょう!?」

「そんなものどうにでもなります」

「ならないわよ!」


しかし油断していた。まさか観戦者の中に南国の人間が居たとは

確か物語の2期作に南国の王子がいたはずだ。もちろん惹かれる男性側として

 ここまで四方の内の3つの国の王子を虜にする女性とはどんな人なのか逆に見たくなってきた。記憶には入ってなかったが、この調子だと東の国の王子も出るだろうから、そうしたら世界戦争待ったナシだ。私はずっとお嬢様についていくので、この国にいたいと言えば北の戦力になるし、その他も然りだ。



とりあえずリディアお嬢様が穏やかに過ごせるよう、物語のシナリオを変えていこうと思う





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― 新着の感想 ―
[一言] 悪役令嬢ものですね。のんびりと読ませていただきます
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