Prologue
ゆっくり投稿です。
子どもたちが、青い野原で遊んでいる。私が教えた鬼ごっこか、あるいはまた何か新しい遊びを考えたのかもしれない。走り回ったり、飛び回ったりと楽しそうだ。
「シーナ先生~」
「せんせいも遊ばないの~?」
「先生はみんなの宿題を考えてます」
「げっ」
「んん? 今嫌そうな顔をした子は誰かな? 宿題増やしてあげるからね」
ワ~ッと、子どもたちはくもの子を散らすように走っていく。あれっ、もしかしてみんな宿題嫌い?
遠くに行き過ぎた子が、他の先生に抱えられて戻ってくる。その子を隣に座らせて、私が足元の草を摘んで草笛を吹くと、遊んでいた子も全員走って寄ってきた。ちゃっかり私の使用人まで混ざっているのはどうしてなのか......
「せんせいそれ何~」
「これは笛です。こうやって吹きます」
私が思いっきり引きを吹き込むと、ピーッと高い音が鳴った。狙い通りの音は出せないし、曲が演奏できる腕前ではないけど、子どもたちは喜んでくれたらしい。一生懸命練習するのを眺めながら、私はいつものようにお喋りをする。
「音はね、空気の振動なんですよ」
「しんどう?」
「そう。空気がグワングワン揺れると音が出るんです。詳しいことは今度教えてもらってくださいね」
私は、ここアウストレート侯爵領都の小さな学校で、期間限定の先生をしている。学校と言ってもそんなに大層なものじゃなくて、生徒の数だって50人に届かない。高額な授業料をとっているとかはないし、むしろ侯爵家の資金援助があって無料で開校しているのだけど、そもそも学校に通う暇がない家庭が多いのだ。農家とか商家とかは特に、子どもも朝早くから働いているところが多い。
まあ、だからこそ私は市場とか農村とかで即興授業もしてきた。その効果はある程度あったと思っている。
さて、私が学校で担当しているのは魔法理論と算術。ただ、訳あって他にもいろいろと知っているので、こうやって担当科目以外のことも話したりする。
子どもたちが草笛で遊ぶのを眺めていると、音楽担当の人に声をかけられた。体格が大きい男の人だ。あまりに大きくて初めて見たときは驚いたけど、楽器の演奏や歌唱を聴いた時はもっと驚いた。
......宮廷でも働けるのではないだろうか。
「シーナ先生は博識ですね。おいくつになられるんですか」
「もうすぐ王立学園に入学ですから......16になります」
「本当にお若い。その年でこれほどの学識があるとは」
「ふふっ、言い過ぎですよ。ですが、褒めてくださりありがとうございます。学園でもがんばりますね」
学園に行くということで、私は近くここを離れないといけない。春から私は、先生じゃなくて生徒になる。長期休みにここへ戻ってくるまで、先生はしばらくは休職だ。このことはまだ子どもたちに教えてない。それはまあ、今は楽しい気持ちでいてほしいから。
「お嬢様、そろそろお時間です」
「そうね。さあみんな、そろそろ戻りますよ」
「は~い」
私付きの侍女に声をかけられて撤収する。
明るい時間が伸びてきたとはいっても、まだまだ暗くなるのは早い。