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第一話 怪獣 襲来

■昭和十六年(1941年)11月 品川沖


 霰(あられ)が宙を舞っていた。


 自然現象の「霰」ではない。飛んでいるのは駆逐艦の「霰」である。


 駆逐艦とはいえ霰の船体は全長100m以上、その排水量も2000tを優に超える。その霰が、棒切れの様にクルクルと回転し、人や装備をまき散らしながら空を飛んでいた。


 戦艦比叡の艦橋から三川中将はそれを唖然として眺めていた。


「か、陽炎が……!」


 誰かの言葉で三川は我に返った。ハッとして視線を霰の飛ぶ先に向けると、そこには必死に霰を回避しようとしている駆逐艦陽炎の姿があった。


 だが霰を放り投げたソレとの距離は千メートルもない。三川が何か言う間もなく、あっという間に霰は陽炎の中央部に激突した。


 2隻の駆逐艦は、くの字に折れ曲がり飴細工の様に絡まると、大きな爆発とともに沈んでいった。


(ほう……あの距離で当てるとは。畜生のくせに偏差射撃じみた事もできる知恵もあるのか……)


 あまりに非日常的な展開に三川の思考が現実逃避をしかける。


「……っ!水雷戦隊は下がって溺者救助にあたれ!奴は戦艦で仕留める!」


 慌てて気を取り直した三川は誤魔化すように大声で下命した。次いで指揮下の金剛型4隻に改めてソレに対する接近を命じた。


「やはり平田さんの言う通りだったか……」


 徐々に近づくソレの巨体を睨みながら、三川は横須賀鎮守府司令だった平田中将の命がけの報告を甘くみたことを後悔していた。




 四日前、ソレは突然現れた。


 ソレは巨大な生物だった。あるものはヤシガニの様な3対の手足を持ち、またあるものは二足歩行し長い尻尾を持っていた。全身が鱗に覆われたその外見は一見爬虫類的であったが、長い腕と奇妙な形の頭部は、見る者にどこか悪魔的な印象を与えた。


 そんな化け物が突然品川沖に現れ、沿岸地帯を荒らしまわったのである。その数なんと12体。小型のものが9体に中型が2体。そして一際大きな個体が1体だった。小型のものでも体高は数十mにおよび、最大の個体に至っては体高100m以上はあろうかという巨体だった。


 当然ながら、すぐに陸海軍は対応した。


 まず最初に対応したのは航空部隊だった。南方作戦を控え陸海軍ともに主力は移動を始めていたが、それでも関東周辺にはまだ多数の航空部隊が存在していた。


 航空部隊は地上の被害も敢えて目を瞑り激しい爆撃を行ったが、巨大生物に対して全く効果がなかった。いくら爆弾を雨あられと降らせても、小型の個体すら倒すことができなかったのである。そんな相手に陸軍の戦車や重砲は当然ながら豆鉄砲のごとく全く無力だった。


 こうなると頼みの綱は海軍艦艇であったが、運悪く対米開戦を控え艦隊主力が呉に集結していた事が仇となった。結局、即応できたのは横須賀鎮守府に居た駆逐艦2隻のみだった。


 だが駆逐艦とはいえ、その備砲は12.7cmであり陸軍の下手な重砲より強力である。鎮守府司令の平田中将は自ら駆逐艦夕雲に座乗し、僚艦沢風とともに巨大生物の群れに立ち向かった。


 だが駆逐艦もまた無力だった。


 元々、日本の駆逐艦の12.7cm砲は装甲目標に対して効果がない。陸用とはいえ50番(500kg)や80番(800kg)爆弾まで弾き返したという巨大生物に対して効果があるはずもなかった。雷撃も試みたが目標は巨体とはいえ艦船に比べては小さく、また動きも不規則なため当てられない。


 このため平田中将は肉薄砲撃を企図した。だが決死の覚悟で行った零距離射撃でも駆逐艦の砲ではかすり傷すら与えられなかった。そして逆に巨大生物に取り囲まれ艦ごと沈められてしまった。


 その最後に際し、平田中将から発せられた通信は悲痛なものだった。


「我が航空機、駆逐艦は一切通用せず。将兵ら皆勇敢に戦うも力及ばず。誠に無念なり。連合艦隊の出動を切に願う」


 実は平田中将は事態の早い段階から連合艦隊主力の出動を要請していた。だが、対米戦を控え、艦隊の損耗を恐れた軍令部と連合艦隊司令部の判断により出撃はギリギリまで保留されていたのである。


「デカいといっても所詮は生き物だろう?ならば主力が出張るまでもあるまい」


 ちょうど佐伯湾で演習を終えた将兵の激励をおこなっていた山本五十六長官は、平田中将の要請にこのように答えたという。


 だが二日後に平田中将が憤死し帝都の被害も拡大したことで、ようやく海軍上層部は重い腰をあげ連合艦隊の出撃を命じた。この時点で巨大生物の被害は浅草周辺にまで及び、陸軍の住民避難作戦にも関わらず人的被害も万に達しようとしていた。


 なぜか巨大生物はあまり陸上奥深くにまで進出しようとしないため、皇居が無事な事だけが幸いだった。



 そして横須賀鎮守府部隊が壊滅して二日後、ようやく連合艦隊の先鋒部隊と巨大生物の群れが品川沖で激突することとなる。

怪獣は第二次世界大戦の頃の兵器でギリギリ倒せるくらいに大きさや能力を設定しています。


本作は、山口多門氏の主催する『架空戦記創作大会2021秋』の参加作品です。

お題は『大和型戦艦が量産された世界線をテーマとした架空戦記、架空史』です。


戦艦大和を量産するなんて、普通の話じゃ出来ませんよね。


作者のモチベーションアップになりますので、よろしければ感想や評価をお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言]  確か、ソ連の建造計画で『水面効果』の高速軍艦が有ったような。  アレならば高速で動き回り、チクチク嫌がらせくらいは出来たかも?
[一言] パシフィック・ラムではない? そうですか すみません
[良い点] > 霰(あられ)が宙を舞っていた。 > 自然現象の「霰」ではない。飛んでいるのは駆逐艦の「霰」である。 冒頭のこの部分だけで、文字通りブッ飛びました!。   今作の山本長官も、なんとなくロ…
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