表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/48

◆第八話『骸骨軍団』

 突如として現れた坂を前に騒然とする人間たち。

 ただ、それ以上に騒いでいる者がいた。


「だから……ッ! なにをしてるんだ、貴様は!?」


 ヴィルシャが怒り狂った顔で詰め寄ってきた。

 鋭い目に整った顔立ちとあって迫力満点だ。

 子どもなら泡を吹いて卒倒していることだろう。


「見ての通り道を造ってやっただけだが」

「あれではここまで来いと言っているようなものではないか! 迷宮の主なら《迷宮核》を壊されないようにするべきだろう! それなのに、こんな……っ」

「もちろん、最大限のもてなしはするつもりだ」


 カオスはヴィルシャを手で押しのけた。

 玉座の先、虚空へと視点を定めながら告げる。


「混沌を支配する者──ゼスティアル・カオス・ゲートが命じる! 古の盟約により繋がれた深淵との扉をいま、ここに開け!」


 虚空に拳大の黒点がすっと現れた。

 それは平面を維持しながら見る間に巨大化。

 ついには人間10人が一度に通れるほどに至った。


 どれだけ覗き込んでもその先は見えない。

 絶えず蠢き、ただただ闇が待っている。


 ──《ゲート》。

 深淵に巣食う魔物を召喚するための〝門〟だ。


「さあ姿を現せ、我が軍門に下りし無限の魔物たちよ! 勇猛たるその歩みをもって立ちはだかるものを蹂躙し、軌跡を混沌で塗りつぶすのだ!」


 先の夜盗たちを前にしたときとは違う。

 今度こそ応じてくれたと確信できた。


 その証拠に魔物たちが姿を現しはじめていた。

 どれもが同じ形をした人骨の魔物──骸骨戦士だ。


 門から出ては2列になって行進。

 やがて左右へと分かれ、整然と並んでいく。


 まるで流れる川のごとく途切れる気配がない。

 どんどん大きくなっていくカタカタという足音。

 やがてそれが不快だと思うほどになったとき──。


 骸骨戦士の出現がついに止まった。

 その数、1000。


 召喚者だからこそ把握できている。

 だが、ぱっと見で数えることは難しいだろう。

 それほどの圧倒的な数だ。


「やはり数が揃うと壮観だな」

「たしかに数は多い。だが、所詮は骸骨戦士だ」

「その言葉、すぐさま撤回することになるぞ」

「そうなることを願うばかりだ」


 およそ半分が骸骨戦士で埋められた支配者の間。

 その光景をディガロが大穴の縁に立って見下ろしている。


「へぇ、死霊系か。あまり見ない魔物だな」


 言って、舌なめずりをするディガロ。

 まさに得物を前にした獣そのものだ。


 そんなさまを目にして危険を察したか。

 補佐官と思しき男がディガロに声をかける。


「レイグ様、敵の用意した道で向かうのは危険です。なにかの罠である可能性が──」

「見えるものがすべてだろうよ。俺にはわかる。奴は俺と一緒でバカだ」

「……わかりました」

「おい、そこは俺だけはバカじゃねえって言うところだろうが」

「も、もちろんそのように思っております!」

「そもそも忘れてねえか? 俺たちが死なねえってことをよ」


 緊張感がない会話も。

 自信に満ち溢れた顔も。

 すべてが不滅の力からくるものだろう。


「第一から第三歩兵隊! 坂の上に集まれ!」


 ディガロが腹に響くほどの大声で指示を飛ばした。

 応じて、兵たちが坂の上にきびきびと集まる。


「あっちは雑魚を出してきたんだ。こっちもそれに応えてやらねえとな」


 ディガロの第一印象は向こう見ずな武人だ。

 ゆえに単独で挑んでくるかと思っていたが──。


 なかなかどうして慎重な側面もあるらしい。

 もしかすると本当に言葉通り遊んでいるだけかもしれないが。


「突撃だ。遊んでこい……!」


 ディガロがにぃと口角を上げて言い放った。

 直後、兵士たちが一斉に叫びながら駆けだした。


 坂のおかげで全体の数を把握しやすい。

 およそ500人といったところか。


 もれなく士気が高い。

 よほどいい訓練をしてきたのだろう。

 そう思ったが、どうやら違った。


 兵士のほぼ全員が口元を歪めていた。

 まるでこれから楽しい遊びをするかのようだ。


 その証拠に隊列が早々と乱れていた。

 我先にと骸骨戦士の群れに突っ込んでくる。


「──迎え撃て」


 カオスは頬杖をつきながら淡々と指示を出した。

 骸骨戦士たちが揃って剣を構える。


 まもなく突出した1人の敵兵が最前列に到達した。

 勢いのまま突っ込んでくるが、骸骨戦士の突き出した剣に串刺しにされ、あっけなく散った。だが、その光景を目にしても敵軍に止まる気配はない。


 最前列の骸骨戦士に次々と串刺しにされる敵兵。

 だが、躊躇なく突撃してくる人間たちの後続が骸骨戦士の最前列をついに押しのけた。そのまま骸骨戦士の陣に食い込んでいく。


 もはや混戦状態だ。

 剣のかち合う音、人間たちの叫び声。

 支配者の間が一気に騒がしくなった。


 骸骨戦士は動きが少しぎこちない。

 訓練された人間相手ならまず勝ち目がない。


 ただ、それは1対1での話だ。

 数で上回れば充分に勝てる力はある。


 実際、以前はそうだった。

 だが、人間たちは復活できるようになったからか。

 思いきりのよさで数的不利を覆しているようだった。


「なるほどな。たしかにこれは厄介な相手だ」

「奴らは命を顧みない。死んでも都市で復活し、また迷宮に戻っては襲ってくる。何度も何度も……それこそ迷宮が滅びるまで、ずっとだ」


 ヴィルシャが人間たちを睨みながら下唇を噛んだ。

 きっとこれまでに潰された迷宮のことを思い出しているのだろう。


「やはり骸骨戦士では無理だ。ここはわたしが──」

「まあ、待て。本番はここからだ」


 すでに骸骨戦士軍団は半数近くが倒れていた。

 対して敵兵は100人程度といったところか。


 このままでは惨敗もいいところだ。

 しかし、結果はまだ出ていない。


 なぜなら、骸骨戦士たちはまだ1体も戦闘不能になっていないからだ。


「さあ、いま一度立ち上がれ! お前たちの戦はまだ始まったばかりだぞ!」


 カオスは支配者の間に響くよう叫んだ。


 直後、倒れた骸骨戦士たちがカタカタと揺れはじめた。

 バラバラになった体が頭蓋骨へと転がり、吸着。

 ついには元通りの姿になった。


 だが、変化はまだ終わらない。

 体を取り戻した骸骨戦士から黒い炎が噴出。

 その白い肌を包み込むように燃え盛った。


 まるで黒炎に突き動かされたかのごとく立ち上がる骸骨戦士たち。


 まもなく黒炎は収まったが、もはや元の姿はない。

 骸骨戦士の表面は炎を宿すように黒く染まっている。


 伏したはずの骸骨戦士があちこちで復活していく。

 その光景に敵兵たちは少なからず動揺しているようだ。

 そばで見ているヴィルシャも漏れなく目を見開いている。


「黒い骸骨戦士……? 貴様、いったいなにをした?」

「《怨讐の鎧》。殺された憎悪をその身に纏い、復活する力だ。もたらされる恩恵は魔物の種類で変わるが……骸骨戦士の場合は鋼鉄の体となり、生半可な攻撃では倒れなくなる」


 説明通りの現象がすでに起こっていた。


 早速とばかりに黒い骸骨戦士へと斬りかかる敵兵たち。

 だが、どれもが弾かれてはガキンと甲高い音を鳴り響かせている。


「なんなんだ、この骸骨戦士!」

「こんな硬ぇの見たことないぞ!」


 思い通りに倒せず苛立つ敵兵たち。

 一旦立て直さんとしているが、もう遅い。


 敵の歩兵隊は陣形もなくむやみに突っ込んだ。

 すでに骸骨戦士軍に囲まれ、逃げ場はない。


 ここぞとばかりに反撃に転じる骸骨戦士たち。

 敵の歩兵隊はもはや壊滅状態だ。


 さて、ディガロはどんな顔をしているだろうか。

 大敗とあってさぞかし悔しがっていることだろう。


 そう思いながら大穴の縁へ目を向ける。

 と、予想とは真逆の顔で迎えられた。


「へえ、面白いことするじゃねえか」

「……えらく余裕だな。それも不滅からくるものか?」

「単にこっちが勝つと思ってるからだ。……本来、迷宮攻略には不要な奴らだが、なんせ国境沿いなんでな。用心にと連れてきたが、ご丁寧に坂を造ってくれたおかげでこいつらを使えるぜ」


 ディガロがなにを考えているのか。

 その答えを知るのに時間はいらなかった。


 坂上に多くの騎馬が集まりはじめた。

 全員が立派な盾に傘つきの馬上槍を持っている。


「突撃ぃいいい──ッ!」


 隊長と思しき者の声が響き渡る。

 応じて騎馬隊が坂下りをはじめた。


 辺りにこだまするけたたましい蹄鉄の音。

 騎馬隊が早くも支配者の間に押し寄せた。


 勢いが乗ったその槍の破壊力は言うまでもない。

 騎馬隊の突撃槍によって骸骨戦士が次々に砕かれていく。


 もはや骸骨戦士たちによる優位性はない。

 敵歩兵隊も騎馬隊の参戦により立て直している。


 再び人間たちの優勢となった戦況を見てか。

 ヴィルシャから冷めた目を向けられた。


「おい、生半可な攻撃で倒れないんじゃなかったのか?」

「……結局は継ぎはぎだ。壊れないとは言っていない」


 そんな苦しい言い訳をすると視線がさらに冷たくなった。

 ついでに「坂なんて造るからだ」とも言われた。


 たしかに騎馬は予想外だった。

 だが、今後の展開に影響が出るほどではない。

 カオスは眼前の虚空を掴むように手を払う。


「ふむ、魔素の濃度もいい。これならいけるか」

「なにをするつもりだ?」

「こちらも精鋭を出すだけだ」


 ヴィルシャに答えてからまもなく──。

 沈黙を保っていた《ゲート》が蠢きだした。


 中から新たな骸骨が現れ、足音を響かせる。

 が、その姿はこれまでの骸骨戦士とは違っていた。


 骨を覆うのは《恩讐の鎧》ではなく本物の鎧だ。

 陽光を照り返すほどの艶を持った上質なもの。


 頭部までも覆うものだが、野暮ったさはない。

 動きやすさを重視するよう洗練されている。


 盾はなく、得物もたった1本。

 正統的な剣だ。


 さらに別種の骸骨が現れた。

 辺りに響くどしんどしんという重い足音。


 それが示す通り続く骸骨は巨大だった。

 背丈だけみれば骸骨戦士のおよそ3倍だ。

 手に持つ1本の斧も相応の大きさを持っている。


 こちらも鎧装備だが、マントがついている。

 そのせいか、纏う風格は一線を画している。


 先の骸骨は50体。

 巨大なほうは5体。


 総勢55体。

 援軍の骸骨たちが戦場へと乗り込んでいく。


 カオスは敵にも聞こえるよう声を張り上げる。


「先に出てきたものが骸骨騎士(スケルトンナイト)。後ろのでかいほうは骸骨将軍(スケルトンジェネラル)だ。先に言っておくが……こいつらは骸骨戦士とはわけが違うぞ……!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ