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◆第十三話『爆突連兵②』

 門から新たに30体の骸骨を呼び出した。

 だが、彼らの姿はこれまでの骸骨戦士とは違う。


 全身を覆う黒い鎧に肩から垂らしたマント。

 そして得物は盾なしの長剣1本のみ。

 骸骨戦士の上位存在となる骸骨騎士たちだ。


 骸骨騎士たちが出揃った頃には骸骨戦士たちが全滅していた。


 敵の歩兵部隊が勢いのまま向かってくる。

 が、すぐに足を止めることになった。

 骸骨騎士たちが一気に距離を詰めたからだ。


 浮足立つ敵の歩兵部隊へと突っ込む骸骨騎士たち。

 骸骨戦士とは比較にならない華麗な剣さばきと身のこなしで次々に人間たちを斬り殺していく。


 敵の歩兵部隊も懸命に応戦しているが、力の差は歴然。また骸骨騎士の素早い動きに敵は数的優位を活かせていない。すでに勝敗は決したも同然だ。


 そこかしこで上がる人間たちの呻き声。

 骸骨騎士も数体倒されているが、敵の歩兵部隊はそれ以上に甚大な被害を受けている。すでに200人以上は地に伏している。


 ただ、そんな光景を前にしても敵の指揮官は動じていなかった。それどころか興味深そうに指で顎を撫でている。


「戦士しか出せないのかと思ったが……ふむ、たしかに相当な強さのようだ。しかし、やはり骨のせいか脆そうに見えて仕方ないな」


 敵の指揮官がちらりと横に視線をずらした。

 その先にいるのは整然と並ぶ赤服の兵たちだ。


「386番から400番。逝ってきなさい」


 淡々と命令が言い渡された、直後。

 15人の赤服が勢いよく列から飛び出した。


 いまだ戦闘中の歩兵部隊の間を縫いながら骸骨騎士の近くまで到達。まるで抱きつくように両手を開いて叫びはじめる。


「我らがルヴィエントのためにッ!」


 言うや、思いきり伸ばされた舌。

 そこには鈍色の丸ピアスがついていた。


 魔眼花を通して幾度か確認したが……。

 おそらくあれを噛むことが自爆魔法の起動手段だ。


 骸骨騎士に肉迫した赤服たちが舌を噛んでは全身からカッと閃光を放出。けたたましい音とともに爆発していく。その威力たるや凄まじく、爆煙が収まったときにはもう骸骨騎士たちの姿は跡形も残っていなかった。


「うわ、味方ごと爆発した……っ!」


 エルリードが片頬をひきつらせながら言った。

 彼女の言う通り敵は味方もろとも爆発していた。


 爆発範囲は中心からおよそ大股5歩程度とそう広くない。

 だが、密集して戦闘していたこともあり同士討ちは避けられなかった格好だ。


 また骸骨騎士が散開していたことが広範囲に影響を及ぼす形となったらしい。初めは500人だった敵歩兵部隊がもはや100人程度にまで減っている。


「同情でもしているのか? 魔人のくせに」


 いましがた多くの味方部隊を殺したにもかかわらず、敵指揮官は平然としていた。それどころか先のエルリードの発言を受け、ふっと小さな笑みをこぼしている。


「なにあのハゲ、あたしらのことなんだと思ってんの……!」

「あれが人間だ。よく覚えておけ」


 憤慨するエルリードとは裏腹に、静かに嫌悪感をあらわにするヴィルシャ。2人が揃って得物を手にすると、肩越しに振り返ってこちらを見てきた。交戦許可を求めているのがありありと伝わってくる目だ。


「まだもう少し維持するつもりだったが……いいだろう」


 欲にまみれた人間は大好きだ。

 中でも生に執着する人間ほど大好きだった。

 それこそが人間の真髄だと感じるからだ。


 か弱い存在ながらも儚い命を守るために手を取り合う者もいれば、いざ困難を前にして仲間を見捨てる者もいる。どちらも綺麗で、美しい欲だ。


 だが、眼前の侵入者たちはどうか。

 まるで死を恐れていない。


 不死を望むこともまた欲の終着点なのだろう。

 だが、不死となったことで奴らは、こちらが知っていた──愛した人間ではないなにかとなっている。


 そう、あれは化け物だ。

 でなければ、ただのゴミだ。

 そしてゴミは掃除しなければならない。


「殺れ」

「待ってましたっ!」


 エルリードが鼻息荒く飛び出した。

 先ほどのやり取りで怒りが溜まっていたのか。

 わき目も振らずに敵指揮官へと向かっている。


 対する敵指揮官は、応戦せんとまたも番号呼びで20人の自爆兵を走らせてきた。


 接触すれば爆発を受けることになる。

 いくら魔人でもまともに受ければ無傷とはいかないが──。


「爆発するって言ったって近づかなければいいだけじゃん! バカじゃないの!?」


 エルリードが駆けながら両腕を左右に伸ばした。

 その先の手首にはめられたリングから2本ずつ。

 計4本の鎖が現れ、まるで蛇のごとくうねりだした。


 リストレイン家が得意とする、魔法によって生成された鎖。

 幻影鎖術だ。


 エルリードに近づいた自爆兵へと鎖が襲いかかる。

 叩き、突き。間合いを詰められないようにした攻撃から始まり、余裕が生まれれば巻きついてミチミチと音が鳴るほどに自爆兵たちを締め上げる。


「ほらほらっ! どうしたの! あたしのこと殺しにきたんでしょ!?」


 ぶちゃぶちゃと潰れていく自爆兵たち。

 中には潰れる前に自爆を選択する者もいたが──。

 爆炎が収まったとき、そこには変わらず鎖が残っていた。


「ざーんねん! そんな爆発じゃあたしの鎖は壊せないわよ!」


 幻影鎖術は魔法によって生み出されている。

 つまりエルリードの魔力が途絶えるか、あるいは鎖生成の媒介となるリングが破壊されない限りは生成しつづけられる。


 敵指揮官が見るからに狼狽えていた。

 自爆兵にとって最悪な相手と言えるのだから無理もない。

 だが、なにか対策でも思いついたのか、すぐに平静を取り戻していた。


「たしかに厄介な鎖だが、どうやら本数が限られているようだ」

「だったら、なんだって言うのよ!?」

「数を増やせば押しきれるということだ。──さあ、あの鎖女を仕留めてこい!」


 通路へ向かって声を張り上げる敵指揮官。

 すでに敵の後続が到着していたらしい。

 再びぞろぞろと支配者の間に敵歩兵が突っ込んできた。


 その数は先ほどの500人と同等か、それ以上だ。

 さすがに幻影鎖術だけでさばききれる数ではない。


 このままでは敵指揮官の言う通り数で押し切られるが──。


 エルリードに近づこうとする敵歩兵部隊へと黒い影が飛び込んだ。それが走るたびに敵歩兵部隊から慟哭のごとく悲鳴と呻き声があがる。


「数を増やせば押しきれる、だったか?」


 影の正体はヴィルシャだった。

 彼女は敵陣のど真ん中で足を止めると、両手に1本ずつ持った剣を払った。すでに幾人もの人間を屠ったのだろう。びちゃっと血が辺りに飛び散っている。


「たしかに数は力だ。だが、この程度の奴らが何人集まっても同じだ」


 吐き捨てるようにそう言い放つや、ヴィルシャは再び敵陣内を縦横矛盾に駆けはじめた。彼女の戦闘能力は並の兵でどうにかできる域にはない。近づいた者から体を両断され、無残な姿で床に倒れていく。


「いいわね、その調子で暴れてちょうだい! その間にあたしはあたしで楽しませてもらうから! あはっ、あははっ! いいわぁ、もっとぎりぎりまで我慢してよね! ぎゅ~~~っ!」

「勘違いするな! わたしは貴様のために戦っているわけではないっ! ただこいつらを……人間を殺したいだけだ! ……死ね! 死ね死ね死ね死ね、人間死ねぇっ!」


 エルリードに続いて、ヴィルシャの声が戦場に響き渡る。


 いつも口論をしてばかりの2人だが、戦闘においての相性は最高に良いようだ。上手く前衛と後衛にわかれて効率的に敵歩兵部隊をさばいている。


「どうする? 見たところこちらに分があるようだが。たった! 2人の! 俺様の! 忠実な! 配下のほうが! 圧倒的に優秀のようだな! ふははははっ!」


 なんともいい気分だ。

 敵に不満を感じていたからなおさらだ。


 忠実という言葉に思うところがあるのか。

 ヴィルシャがなにか文句を言ってきているが、もちろん無視。敵指揮官の悔しがる姿だけを楽しむことに全力を注いだ。


「こうなれば……わたし自ら──」


 ふいに敵指揮官の様子が変わった。

 表面的でしかないが、覚悟を決めた人間の目をしている。

 あのような手合いはなにをしでかすかわからない。


 どんな攻撃にも対応できるよう警戒を強めた。

 が、どうやら無駄に終わった。


「──目的をお忘れですか。ベイオーン卿」


 その声は戦場に似つかわしくないほど静かだった。

 だが、あまりに透き通っていたからか、はっきりと聞き取れた。


「我々の目的は迷宮攻略だけではありません。赤角の討伐、そしてその心臓の奪取です。あなたが自爆すれば跡形もなくなってしまうでしょう」


 敵味方問わず、その声の主に一瞬だけ視線が集まる。

 それほどまでに圧倒的な存在感を放っていた。


 支配者の間に訪れた新たな侵入者。

 その姿を目にし、カオスは口の端を吊り上げた。


「ようやくお出ましか」


 現れたのはルヴィエント王国が誇る守護者。


 リエラ・リィンズだ。



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