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◆第十一話『迷宮防衛戦』

「来る気配がまったくないな。ふぁ~……」


 クイラン第3迷宮、支配者の間にて。

 カオスは玉座に座りながら頬杖をついていた。


 人間たちが迷宮に侵入してから半刻ほど。

 期待した壮絶な戦闘とは裏腹に悠々とした時間が流れている。


 騒がしいのは門から出現する骸骨戦士たちだけだ。

 2体、3体と散発的に現れてはばらばらに迷宮の通路へと向かっていく。


 迷宮内の魔物が減れば、その分だけ自動的に排出される仕組みとなっている。ゆえに人間たちも骸骨戦士を倒しているのは間違いない。


 だが、その数が圧倒的に少なかった。


「今回、迷宮には骸骨戦士しか配置してないんだろう?」


 そう怪訝な目を向けてきたのはヴィルシャだ。

 そばで控える彼女は暇な間でもまるで姿勢を崩さない。

 相変わらず生真面目という言葉を体現したような魔人だ。


 反して、もう1人の同行者──エルリードは玉座前の階段に座り込んでいた。退屈そうに右手で持った鎖をぶんぶんと振り回している。


「たしかにあの黒い個体は通常個体よりも強いがそう苦戦するものでもないだろう。それこそ守護者が出張っているならな。……本当に見たのか?」


 ヴィルシャが続けて疑問をぶつけてきた。


 商業都市クアルデンに潜入した際のことは細かに話していた。もちろん、美味い食べ物を口にしたことはまったく関係ないので割愛したが。


「見たどころか話したぞ。奴め、俺様の美貌を前にうっとりしていたな」

「姿を偽ったことを忘れたのか? あの質素な顔のほうがマシなのは同意するが」

「……おそらく俺様から滲み出る圧倒的なオーラがそうさせたのだろう」


 苦し紛れの言い訳は鼻で笑われた。

 先ほどからこんな雑談ばかりしている。

 さすがに退屈になったのか、エルリードが「よっ」と声をあげて立ち上がった。


「あたしが見てこよっか? なんなら何人か捕まえて持ってくる? くひひ……持ってくるまでに半数ぐらい潰れるかもだけど」

「あ~、その必要はない」


 カオスは胸元から小さな種子を取り出した。

 そこに魔力を込めて玉座の下段に放り投げる。

 と、転がった種子が発芽し、緑の茎を伸ばしはじめた。


 茎は横長の巨大な矩形を作ると、まるで自身を彩るように赤い花を幾つも咲かせた。ただどれも通常の花とは違い、獣の口のごとく鋭い歯を覗かせている。


 当然ながら上部の茎を支えるように種子の尻からも根が伸びていた。床にめり込んだそれはもはや大樹を思わせるほど太く、また枝分かれしている。


 茎から生えた花々が涎を垂らしながら、キシャアと声をあげた。

 瞬間、ヴィルシャが「ひっ」と短い悲鳴を出して顔を歪める。


「なんだこの気持ち悪いものは……っ!?」


 蛇竜虫嫌いに続いて、これも嫌いだという。

 どうやらヴィルシャの美的感覚は変わっているらしい。


 反面、エルリードは好意的な様子だ。

 低めに咲いた花をすりすりと撫でている。


「え、可愛いじゃない。あんた目腐ってんじゃないの」

「その言葉、貴様にそのまま返してやる」


 エルリードの巻きグ──髪を見ながら口にするヴィルシャ。

 結論、お互い様といった感じだ。


「これは魔眼花と言ってな。迷宮内に根を張り、あちこちに自身の目となる花を咲かせる魔獣だ。咲かせた花々はそれぞれが捉えた視界を、この茎で形作られた中に映し出すことができる」


 そう説明した瞬間、茎の中がうっすらと光り出した。

 わずかに透けているものの、まるで絵のごとくくっきりしている。


 早速、侵入者を捉えたのだろう。

 映し出されたものは骸骨戦士と戦っている人間たちの姿だ。


 ヴィルシャが警戒心をあらわにしながら、その映像を見つめている。


「……初めて見るぞ、こんなもの」

「無理もない。六門の中でこいつが懐いたのは俺様だけだったからな」


 花の1つが茎を伸ばして迫ってきた。

 撫でてやると、びちゃぁと大量の涎を垂らした。

 久方ぶりの再開とあって喜んでいるようだ。


「つまりこれがあれば人間たちの苦しむ姿を存分に楽しめるってわけね」

「もはや監視ではなく観賞だな」


 興奮するエルリードに反して、ヴィルシャは落ちついた様子だ。ただ、興味はあるらしい。魔眼花の映像へとずっと視線を向けたままだった。


「しかし、人間共……本当に苦戦しているようだな」

「結局、守護者以外は大したことないんじゃない? っていうか守護者っていうのも強いの? あたし、見たことないんだけど」


 エルリードは軽い気持ちで口にしたのだろう。

 だが、ヴィルシャは不快に感じたらしい。

 目つきを鋭くし、剣の柄をぐっと握っていた。


「六門やその血縁者が倒されたのだ。相応の力を持っていることは間違いない。それに、あまり人間を侮らないほうがいい」

「お前にしてはやけに人間を評価するではないか」


 人間が大嫌いなヴィルシャのことだ。

 あらゆる面において盲目的に人間を下に位置づけるかと思いきや、そういうわけではないらしい。


「評価ではなく事実を言っているだけだ。奴らは……本当に醜い。そしてその象徴とも言うべき攻撃手段が奴らには──」


 突然、震動を感じた。

 尻が浮くほどの大きさではない。

 ただ、小刻みに幾度も続いている。


「うわっ……なにやってんの、あれ」


 エルリードが眉をひそめながら言った。

 その視線の先にあるのは魔眼花の映像だ。


 なにやら忙しなく明滅している。


 光を発生させているのは人間だ。

 人間が武器も持たずに骸骨戦士に特攻。

 接触とともにその全身を光らせている。


 なにが起こったのか、なにをしたのか。

 答えには光の収束後を見れば容易に辿りつけた。


 辺りに残ったのは黒い焦げあとのみ。

 ほかにはなにもない。


「……やはり来たか」

「先ほどお前が言っていたのはアレか」


 こちらの問いに、ヴィルシャが「そう」と頷いた。

 続けて、彼女は嫌悪感をあらわにしながら口にする。


「不滅を利用した自爆攻撃だ」



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