プロローグ
とりあえず勢いで書いた、後悔はしていない。
梅雨の長雨が続く夜道を歩く人影が一つ。
黒い傘をさして雨を避けながら外灯の明かりを頼りに進んでいくと、十階はあるだろう廃ビルにたどり着いた。
「ふぅ、天気予報によればもうすこしで雨は止むって言ってたけど・・・・・・少し早く来すぎたかな」
黒い傘の下から雨雲に覆われた空を見上げたのは「貴族の令嬢」という言葉をそのまま形にしたような少年だった。
彼は加也乃吹雪、身長は170から175センチくらいで整った顔立ちはかっこいいと言うよりは美しいと評価されることが多い。やや細めの目はどこか憂いを帯びたようにも見え、流れるような黒髪は首元で束ねられ短い尻尾みたいになっている。
スレンダーな体と、ソプラノにしてはやや低くテノールにしては少し高い声のせいでよくよく女の子と間違われる。
そんな彼がなぜこんなところに居るのかというとだ。近代稀に見ることができる赤い月が今日、もっとも綺麗に見ることができるからであり、ついでだから趣味の一つである天体観測と洒落込もうというわけだ。
生憎の雨も、もう少ししたら止み雲の切れ間から月が顔を出すであろう事は今までの経験と天気予報からなんとなく予想できた。
心なしか雨音が小さくなった気がする。
廃ビルの階段を登りながらこれから見るであろう赤い月に思いを馳せ、肩から下げた天体望遠鏡を持ち直す。
この廃ビルは彼が半年前に見つけた絶景ポイントだ。周りにここと同じ高さのビルはなく、街の明かりもここを照らすには足りない。また、何よりも静かで邪魔されることが無いという理由から天体観測をする際は必ずここを訪れていた。
程なくして最上階に着いた彼は錆付いて硬くなっている屋上への扉を開き外にでると、雨は殆ど上がっていて雲間に赤い光だけが見える。そしてそこに二つの人影があった。
ただし、両者とも背中から三対六枚の翼を持っていて、片方は黒い翼でもう片方が白。両者は手に剣を持って対峙したまま彼に視線を向けた。
あまりにも予想外の展開に固まっていた三人のうち、黒い翼の男が一番に行動を起こした。翼をはためかせたと思った瞬間、彼はその男に片手で抱えられ空を飛んでいた。
「な、何事!?」
困惑する彼を他所に白い翼の女は苦々しく顔をしかめた。
「これでうかつには手が出せまい!」
「本当にそう思うか、随分と舐められた物だな!」
空を滑るように飛ぶ黒い羽の男を追うように着いてくる白い翼の女は片手を吹雪たちに向けた。
そして、直後その手から白く光る矢が何本を放たれた。
「セラフィム貴様! こいつがどうなってもいいのか!」
全ての矢を回避しつつ驚愕の表情をする黒い翼の男が叫ぶ。
「一人の人間より貴様を野放しにする方が危険なのだルシファー!」
驚いていた一瞬の隙に目の前まで迫ったセラフィムと呼ばれた女はその手に持つ剣でルシファーと呼ばれた男を切った。
そりゃもうなんのためらいもなく袈裟懸けにばっさりと。
それと同じくしてルシファーの剣もセラフィムのわき腹を貫いていた。
状況的には五分五分といったところだがルシファーなる男は片手で吹雪を抱えているわけで、幾分か分が悪い。ルシファーもそう思ったのだろう剣から手を離しその手をセラフィムにかざした。
「爆ぜろ!」
瞬間、目の前で爆発が起こった。
その爆発に巻き込まれるのと爆風によりかなりの距離を吹き飛ばされた。それだけならまだしも、十階建てのビルと同じ高さから地面に落下したら流石に人間生きてはいない。
全身に走る激痛に意識を持っていかれそうになるが必死に打開策を探す。
パラシュートはない、ハングライダー・・・は翼になる物が無い、気球なんて論外だ。
どう考えても助かる手段が浮かばず、どんどん地面が近づいてゆく。
ダメか、と諦めかけた瞬間ルシファーが吹雪を掴んだ。そのおかげでだいぶ落下速度は減少した。が、ルシファーも大怪我をしているため完全には飛べなく、そのまま地面に落下した。
いくら減速したとはいえ五階くらいから落ちれば大怪我物はよほどのことが無い限り免れない。
「ぐあぁぁ・・・逃げるため・・・とはいえ少し、無茶しすぎたか」
斬られたところを押さえながらよろよろと立ち上がったルシファーは周囲を見回すと、近くに先ほど自分が人質とて使った人間が倒れていた。
「おい人間」
声をかけても反応が無いので仕方なく近くまで寄ってみると両足はひじゃけて肉の塊と化しており、額や首からも出血していた。
ほおって置けば数分もしないうちに死ぬだろう。しかし、それはルシファーにもいえることだった。
「ちっ仕方ねぇ・・・・・・」
ルシファーはその手を吹雪の胸の上に置き、そのまま静かに目を閉じた。
今後、後書きにキャラクタープロフィール載せていきたいと思います。
また、評価/感想にて「こういう話が面白いんじゃないか?」「誰々の活躍が読みたい!」など有りましたら極力取り入れていきたいと思います。
なんせまぁ、勢いで書き始めた物で骨組みや概要なんてあったもんじゃないし・・・