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Remained GaMe -replay- 番外編  作者: ぼんばん
1章 神の両手に揺れる
9/38

9.解決編①

本編「調査編」前後編の別視点です。

ふーん、という感じでお楽しみください。


 決して広くないログインルームに、寿を除いた14人が集まる。



 口火を切ったのは、先程まで何かを考えるようにしていた久我だった。


「さて、何から話そうかな。」

「決まってんだろ! 酒門が犯人だっていう証拠についてだ!」

「まだ言ってんのかよ。」


 風磨が呆れたように言う。そんな千葉を無視して梶谷は冷静に続けた。


「うーん、まぁ無難に犯行可能な人を挙げていって、それからっすかね?」

「なら、私は違うよ。」


 梶谷の言葉に間髪入れずに武島が口を開く。


「そうですね……。私と武島さん、矢代さんは一緒に部屋にいましたわ。先程確認させていただいた【皆さんのアリバイ】によると、加藤さん、香坂さん、荻さん、あとほぼ梶谷さんは不可能に近いと思います。」

「ほぼ?」


 オレは首を傾げた。梶谷もシロでないのか。その言葉に風磨が頷く。


「修輔は、20時になってすぐLANケーブルを探しにログインルームとモニタールーム、あとリビングを訪れてるらしい。」

「でも、そんなの5分10分の話だぜ? あたしには無理だと思うが。」


 加藤は納得行かなそうに言う。しかし、と付け加えたのは話題の人物、梶谷本人であった。


「例えば、の話っすけど、寿さんを消すやら怪我させるやらはものの5分から10分でできる話っすよ。ケーブル取りに行く時に奥の階段は使ってないんで知らないっすけど、まぁ完全に晴れるまではグレーに置いておいた方がいいと思うっす。」

「そんなもんか。」


 加藤はため息をつきつつ納得はしたようだ。


「あと目撃している可能性があるといえば、睦だけど。」

「……僕は奥の階段は20時、うーん半前かな? に通ったけどその時は特に誰もいなかったよ。」

「そんなんどうでもいいぜ。それより、酒門はどうなんだよ。」


 千葉は異常なまでに酒門に対して目くじらを立てている。証拠でも提示して追い詰めればいいのに。


「まぁ、話すならば【自室で寝ていた】。これしかないね。」

「あれ、美波ちゃんも?」

「うん、本山さんとは場所が違うけど。」

「証拠はあんのかよ?」


 千葉の言葉に助け舟を出したのは、荻であった。


「梶谷クンが作ってくれたアプリで【アイテム使用歴】を見れば明白だよ。使用時間は今日の18時と18時半頃。2人が眠っていた時間を考えると、この2人が服用したことに間違い無いんだよ。」

「何でそんなことが言えるんだよ?」

「【説明書】を読んでみろ。」


 香坂はなぜか説明書を久我に渡す。

 久我はそれを千葉にまわすと、彼も読んだのだろう、顔を顰めた。


「その説明書の通りだよ。【効能は服用後、1〜2時間で出現する】。該当時間、他の人たちが起きていたことを踏まえると私たちが眠っていたことに間違い無いんじゃない?」

「いや、他の可能性も一応ある。」


 千葉は口を開いた。


「お前らのどっちかが、寿に薬を盛って実は服用していなかったってパターンだ。それならお前らのどちらかが犯人って言えんだろ!」


 確かに千葉の言うことも筋は通っているけども。

 そこで口を開いたのは千葉に説明書を渡した久我であった。


「ならさ、本山さんは18時、酒門さんは18時半に何をしていたの?」


 彼の質問を受け、記憶を遡っているらしい酒門は答えた。


「……綾音と夕食を摂ってたね。」

「えっ?」

「ほら、お前が寿に盛ってんじゃねーか。」


 千葉の言葉と同時に楓が酒門の方を振り向く。

 得意げな千葉を尻目に本山が困惑しているように見えた。


「本山さんは?」

「いや、その実は……。」


 久我の促しに言いにくそうに彼女も口を開く。



「私も実は、18時頃綾音ちゃんと過ごしていたんだよね……。部屋でくつろぎながら。」



 その場を沈黙が包む。完全に寿がクロじゃん。

 口火を切ったのは梶谷であった。


「……2人とも、寿さんと過ごしていた。なら、状況的には、彼女が薬を盛ったって考えるのが自然すよね?」

「はぁ?! おかしいだろ、アイツは被害者だぞ?!」


 千葉が非難の声をあげる。

 でも、未だ彼女のことを擁護できるのは千葉だけだろう。どれだけ冷静さを欠いているんだ。


「仮に2人のどちらかが盛ったとして、そうすると階段に運んで突き落とした上で【強制退場】させる意味はあるんすかね? 目撃される可能性も高くなりますし、そもそも2人は女性で、そんなことするのは非効率的っすよ。」

「それに本山さんについては【綾音に呼び出されている上、集合場所の変更のメモも貰っている】。」

「場所の変更?」


 千葉は知らないの? オレはてっきり千葉が寿のことを消して、それを酒門に必死に押し付けようとしているのかと思っていたから、そのリアクションが予想外だった。

 千葉も頭が回らなくなってきたのか、不思議そうにしながら尋ねた。


「なら、酒門。お前は何で眠らされてたんだよ?」

「……千葉くん、それはもっと簡単だよ。」


 千葉の疑問に答えたのは久我であった。

 彼は沈痛な面持ちのまま話し始める。


「同室の彼女が眠っていた方が好都合、っていうのもあると思うけど。彼女は何より酒門さんを慕っていたし、彼女から寄せられる信頼を喜んでいた。だからこそ、友人を消そうとしている自分の汚い部分を見てほしくなかった、止められたくなかったんじゃないかな。ずっと彼女らといた僕は、そう思うよ。」


 久我の言葉に千葉も納得したのか、同様に黙り込む。




「なぁ、ちょっといいか。」


 次に口を開いたのは、風磨だった。

 風磨はアリバイを聞いていたから、千葉の不審さはすぐに気づいたんだろう。


「さっきの反応も変だと思ったけどよ。お前、犯行時間にどこにいたんだ?」

「それは答えたろ。」

「おかしいんすよ、アンタのアリバイは。」


 梶谷が容赦なく指摘する。

 それに追従するように、風磨とともにアリバイを確認していた木下が口を開く。


「先程も申し上げましたが、梶谷さんはモニタールームとログインルームに来ています。その時、あなたがいたというカフェテリアを通ることは必須ですわ。」

「加えて、施設中ウロウロしていた久我とニアミスしてないって……どう考えてもおかしいだろ。」


 2人のごもっともな指摘に彼は口を閉ざす。

 そして追い討ちをかけるのは、皆が指摘しにくそうにしていた、あの違和感だ。


「ねーねー、凌二はさ、なんで集合場所の変更に驚いたのー? まるで、前の集合場所は知っていたかのような反応だよねー?」


 千葉は何かを言い返そうと口を開くが言葉は出ない。

 これで詰んだかな。

 

 そう思った時、酒門が思わぬ言葉を発した。





「……千葉は、犯人じゃないよ。」


 なぜ彼女がそう言える?


「今の流れだと、千葉サンは非常に怪しいわけですが、何か根拠はあるんだよね?」

「うん、矢代と武島、次いで高濱さんはよく知ってると思うよ。」

「オレも?!」


 彼はぎょっと目を剥く。いや待て。そういえばまだ正体が明かされていない足跡があそこにあったじゃないか。


「もしかして、倉庫のこと?」

「倉庫?! オレが【ずっと倉庫を探してた間】、あそこに凌二もいたのか?!」


 風磨の指摘は図星だったらしく千葉は黙り込んだ。それが全ての答えだ。

 倉庫を調べた武島と木下も気づいたようだ。


「もしかして、倉庫の奥にあった【足跡】って千葉さんのものですか?! 」

「まぁ、確かに足も華たちより大きかったし納得だぞー?  でもでも、何でそんな所にいたんだー?」

「……アンタが、綾音の計画を何らかの方法で知って、止めようとしたんでしょ?」


 酒門がそう言うと観念したのか、彼は床に膝をついて項垂れた。



「……そうだよ、アイツが本山に集合場所を告げているのをたまたま見たんだよ。3日目のアイツ、目がおかしかったから直感的に寿は何かやらかそうとしてるんだな、って思った。」

「オイ低脳、何で周りに言わなかったんだ? お前1人でどうこうできる問題ではないだろう。」


 悪口を言われたが、反論する気は無いのか余裕がないのか、千葉は特に言い返さずそのまま話し出す。


「酒門が、何となく生きることを諦めてたなって思ったからよ。寿にわざわざ自分の命をかける必要はねぇ、っていいたかったんだ。だけど、周りに言ったらその計画は酒門にバレる、そうしたらどうなるかなんて容易に想像できんだろ!」


 千葉は誰よりも寿を守ってやりたかったんだな。

 そこでやっと彼の意図が読めた。


「……とりあえずオレは倉庫に行ってみることにしたんだよ。でも蓋開けてみりゃ、寿も本山も来ないわ、1時間近くずっと高濱がいるわ、脱出できたと思えばあの放送が流れてて。状況的に本山が、動機的には酒門がやったのかと思ったんだよ。

 だから、証拠はねぇ。……悪かった。」


 冷静になった千葉は項垂れながら謝罪する。

 酒門と本山は顔を見合わせ、彼に頭を上げるように促した。



「でも、千葉さんの言うことが本当なら、犯人は誰なのでしょうか?」

「もしくはー、綾音が自分で消えた可能性もあるぞー?」

「いや、一応候補はいるよ。」


 酒門の言葉に全員の視線が向く。

 彼女の表情を見て、何となく分かってしまった。

 そんな彼女に優しく声をかける青年に向かって鋭い視線を向けた。




「久我、アンタじゃないの?」




 彼は僅かに目を細めると、恐ろしいまでに綺麗に微笑んだ。


「……おかしくない? だって、3人はずっと一緒にいたよね? さっきも酒門さんのフォロー入れてたし。」


 沈黙の中、辿々しく追及したのは本山であった。

 他の者も、それに同意するような言葉をちらほらと発し始める。

 千葉は信じられないものを見るような目で彼を見つめる。一方で、梶谷は頭の片隅にあったようで、しかし、思考したくないと思っていたらしい。気まずそうに視線をそらす。


「そうだぜ、酒門! 親友を疑うなんてーーーー。」

「大丈夫ですよ、高濱さん。」


 言葉を遮ったのは、疑われている彼本人だ。


「そう言う、ってことは君は根拠なく言っているわけではないよね。」

「当たり前でしょ。それに、犯人だからといって……。」


 酒門は何かを言いかけたが、首を横に振るとそれをやめた。


「千葉は、本当にたまたまなんだろうけど。私と久我も、知ろうと思えば綾音の計画を暴くことはできた。」

「何でー?」


 矢代が呑気に尋ねる。


「……私たちは、綾音があの睡眠導入剤の箱を持っていたところを見たからね。」


 彼女が言うには3日目の昼。

 久我と行動している時に、あの箱を隠すように持っていた寿と2人はすれ違っているそうだ。


「……もし、【カフェテリアにある箱】を見ていたら久我は睡眠導入剤の存在を知ることができる。それにさっき私が疑われた時、綾音がその箱を持っていた話を一切出さなかった久我に違和感を覚えたんだよ。」

「忘れてたんだよ、の一言で済む話だけどね。」


 久我は拍子抜けしたような顔をする。

 しかし、酒門は舌戦を緩める気はなかった。


「他にも、アンタを犯人と仮定すると色々と辻褄が合うものはあるんだよ。例えば、集合場所について、アンタが倉庫と知っていた場合、高濱さんを倉庫に長く留める方法は容易に思いつくはずだよね?」

「……確かに、オレは遼馬と縛、睦に林を放火する話をした。いや、その3人にしかしてねぇ!」

「お前何あぶねーこと考えてんだよ!」


 加藤が彼の危険なアイデアに対して悲鳴のように怯える。オレもその指摘はごもっともだと思う。他の数名も大胆すぎるアイデアに、引いたり呆れたり、としていた。

 オレも小さく呟くように追言した。


「……その時、着火剤の話もした。」

「そうだな!」


 風磨も頷いた。


「となると、可能性としては3人か、もしくは高濱さんの自作自演。でも、高濱さんのアリバイは千葉が証明できる。」

「それに、須賀も無理だ。【着火剤は屋上に隠されてた】、あんな情けなく怯える高所恐怖症の男が隠せるわけねーよ。」

「そんな風にバラすな! 恥ずかしいだろう!」


 千葉の暴露に彼は照れていたが、全員が無視した。



「【屋上の梯子の位置的に女子がやるには脚立とか必要だけど、そんな跡もなかった】。というと、僕と石田さんが容疑者だね。一応、僕も着火剤背負って運ぶくらいはできるしね?」


 当事者が冷静に分析する。

 確かにオレもアリバイは久我と会ったことしかないし、屋上に着火剤を隠す条件を満たす人間としては当てはまってしまう。


「でも、そこからどうやって2人から絞るんですか? 他の証拠並べても、無理ですよね? お互い1人でいましたし、集合場所や時間を知っているなら、本山さんを操ることなんて、どちらもできますよね?」

「しかも、私場所変更はメモで貰ったから、どっちと会ったとかもないんだよねー……。」


 武島が尋ねると、本山は困ったようにつぶやく。


「遼馬が犯人なわけねーだろ! 証拠がねー!」

「だから、今からお2人に証拠を提示していただくんすよ。 幸いどちらも男性ですし、2人とも、脱いで貰って、ね。」


「は?」


 いや、何でオレらが脱衣しなきゃいけないわけ。

 そこで、荻はああと納得したようだ。



「ここで、【アイテム使用歴】が大きく関与してくるんだね。」

「そっす。」

「オレには分からんぞ! 説明してくれ!」


 須賀が梶谷に詰め寄ると苦笑いしながら答えた。


「現場見たときに、【大量の血痕】と少し離れた場所に【凹んだ火災報知器の扉】があったっすよね? ずっと何でだろう、って思ってたんすけど、犯人も一緒に落ちてぶつけたと考えれば筋が通るっすよね?」

「それに、【アイテム使用歴】を信じるならば、事件の時間以降、使用されたアイテムは、オレがお試しで使った【外傷治療薬】のみ。梶谷クンの仮説が間違ってなければ、犯人は怪我をしたままの可能性が高いってわけだ。」

「なるほどな……。」


「それに、着替えの時とかで2人が3日目の朝まで怪我をしてなかったことはわかりますよね? オレは久我さんが怪我をしてなかったことを知ってるっす。」



 脱げるよな? という空気が広がる。

 というか、オレはオレでないことを知っているから、つまりは久我が犯人ということ。

 この優しい男が? オレは信じられないものを見るように久我に視線を向けてしまった。すると、久我は少しだけ、笑った。


 ああ、もう覚悟できてるのか。



「分かったよ、はい。」



 オレはすぐに上着を脱衣し、ズボンを太腿まで捲る。

 武島が悲鳴をあげ、加藤と矢代は興味深そうにまじまじと見つめてくる。恥ずかしいわけではないが居心地が悪い。


「もういい?」

「ええ、次は久我さんっすよ。」

「……悲鳴をあげないことだね。」


 彼が潔く見せた裸体は想像を絶する状態だった。肩から背中にかけて酷い内出血と擦り傷、そして大量の汗。

 ずっと彼はこの痛みに耐えながら過ごしていたのか。




「そ、君たちが言うように僕が犯人。千葉くんや本山さんを操り、寿さんを突き落とした上で彼女を【強制退場】して、自分だけ助かろうとした。」




 久我は少しばかり表情を歪ませてそのように言った。


「お前、なんで……!」


 千葉が青筋を立て、飛びかかろうとしたが須賀が押さえつけた。

 そんな彼に酒門が震える声で言い放った。


「嘘、つかないでよ。2人の間に何があったかは分からない。けど、これだけは分かる。アンタは【外傷治療薬】を使いたくても使えなかった。だって、アンタの【外傷治療薬】は、もう綾音の怪我を治すのに使ってたから……。」

「……よく、覚えてるね。」


 彼は驚いた顔で見上げながら、腰を落とすとため息をつく。


「アンタだって、千葉と同じように綾音を助けようとしてくれていた。だからこそ、2人を遠ざけた。本当は綾音を助けたかったけど、できなかった。

 ……アンタがそんな自己中心的なことをしないってことは私たちがよく知ってる。証拠もないけど、私は、その自分の推理を信じたい。」

「……お人好し、だね。君たちは。」


 彼は泣いているのだろうか。

 肩を震わせて下を俯く。


「……オレからすれば、3人まとめてお人好しっすよ。」


 ここまで真実へ導いてきた梶谷もまた下唇を強く噛みながら呟いた。

 やっと、1つ目の事件は幕を閉じることになったのだ。

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