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Remained GaMe -replay- 番外編  作者: ぼんばん
6章 Can’t you handle the truth?
38/38

38.再会

本編「再会」の別視点です。

 オレが目を覚ますと目の前にはグレーの見覚えのない天井が広がっていた。

 指を動かすと思ったよりしっかり動いたものだからオレは飛び起きた。


「梶谷、武島、無事?!」

「うっそ、起きた?!」


 画面の向こうにいたはずのタレ目の女性、舘野さんが目の前にいた。

 それを視認すると同時にオレは浮遊感を覚え再びベッドに倒れた。


「急に起きるからだよ……。」


 呆れたように舘野さんが言う。

 オレは勧められた通り、そのままベッドに横になったまま足を上げられた。


「ここは?」

「ここは【スズキ】の秘密基地。さっき無事14人がログアウトしたばっかりだよ。……まさか即目を覚ますとは思わなかったけどね〜。」


 ログアウト、14人。

 オレが慌てて横に顔を向けると久方ぶりに見た風磨が落ち着いた寝息を立てていた。

 ああ、帰ってこれたんだ。

 オレの目からは自然と涙が溢れた。






 ゲームの日数は21日ほど。

 つまり現実世界では10日にならないくらい寝たきりになっていたらしい。栄養失調や脱水など、またゲーム内でのショックにより、それぞれ起きるまでに時間がかかるそうだ。

 オレがすぐ目覚めたのは医者も驚いていた。

 でも、本当に何となく。何となくだけどオレは最後まで赤根さんには助けてもらっていたように思ったのだ。3つ目の世界の時、最後の時、眩暈で倒れそうになったオレを起こしたのはあの人だった。

 なら、今起きたのも彼女からのギフトだったのではないかと思う。


 ただ、未だ寝ている2人と比べれば素のフィジカルに差がだいぶある。それに箱庭の世界でもオレは比較的健康に生活していたと思う。


 おかげで翌日には歩けるようになっていた。

 本来なら退院でもいいのであろうが、メディアの騒ぎや当事者への説明が必要ということで警察病院にみんなで仲良く入院となった。

 面会はできなかったけど、スマホで親とリモート通話をしたらとにかく泣かれた。あと風磨の母さんにはめちゃくちゃ謝られた。止められなかったオレも同罪なんだけどな。

 オレはインハイの予選が終わった後でよかったなぁと気の抜けたことを思いながら、暇だったから受験勉強をしていた。


 そんなことをしていると翌々日には武島が目覚めた。起きた時は感極まったのか子どもよろしく泣きすぎて吐いていた。その後梶谷に言ったら怒ると凄まれたけど全然怖くなかった。

 当日は車椅子だったが、その次の日には歩行器に進歩していた。彼女のリハビリが終わってからその足で梶谷の病室に向かった。


 梶谷のベッドの横で武島と話しているとその時は不意に訪れた。




「ぅ、あ! 大丈夫でしたか、石田さん、武島さん!」

「「……。」」



 何だか見覚えのあるシチュエーション。

 飛び起きた梶谷に、オレ達は目を丸くした。病院着を着ているオレらを見て梶谷は目を瞬かせた。


「あ、あれ、2人、何すかその服!」

「か、か、か、梶谷くん〜〜〜!」

「ぐぇ!」

「武島、首絞まってるから。ほら、ナースコールで呼ばないと。」


 また吐くんじゃないかこの子は。

 感極まって抱き合う2人を無視してオレはナースコールを押した。

 武島はぐずぐずと泣きながら、ずっと望んでいた事実を述べた。


「私たち、助かったんだよ〜! 14人、全員が!」

「へ?」


 信じられないという顔をするもんだからオレはうなずいた。

 そこから梶谷も涙が溢れて、おんおん言いながら武島に抱きつき泣いた。オレは泣きこそしなかったが、どうにもこの2人が可愛く思えて頭を優しく撫でた。

 それから医者に怒られたのはいうまでもない。


 午後になって梶谷の容体が落ち着いたことを確認した後、3人揃って病院の一角にある個室に移動した。

 オレは車椅子の梶谷を押しながら今までの経緯を話した。


「石田さんは相変わらず筋肉化け物っすね! 他の方は目覚めてないんすよね?」

「……聞かなかったことにするけど。男連中は部屋を見て来たけどまだかな。」

「私も見たけどまだだったよ。たぶん次に起きるのは千葉さんか酒門さんなんだって。お医者さんが言ってたよ。」


 個室の椅子に掛けながら武島はにこにこと語る。

 数分すると3人の目の前に現れたのは、乙川さん、千藤さん、舘野さんの3人だった。

 画面越しに見た通りのままだった。

 にしても入室した時から、2名は武島よろしくべそをかいていたが。



「改めて初めまして。みんな無事でよかったよ。特別に今日は警察を代表して僕が面談に来たんだ。見知った顔の方がいいだろうってね。」

「そっすか。でも確かにその方が安心すね。」


 梶谷は千藤の言葉に首肯していた。


「そういえば、事件のその後ってどうなったんすか? さっきカレンダー見て驚きましたけど、誘拐されてから2週間経ってたんすね。オレの計算だと1週間経ってないくらいだったと思ったんすけど。」


 おそらく1つの世界あたり、現実世界では1〜2日分くらいの経過速度であったはず。


「ぐず……みんな衰弱してて大変だったんだよ。解放されてすぐ、いや、石田くんだけは起きたから本当に引いたけどぉ……。」

「アンタ、本当にバケモンすね。体力オバケ。」

「うるさいな。車椅子押さないからね。」


 舘野さんの言葉を聞いて、改めて失礼な梶谷の言葉を受けたオレはその頬をつねる。ただ、梶谷はそれさえも嬉しいらしく抓られながら笑っていた。

 そして、梶谷の疑問に答えるのは落ち着いたらしい乙川さんだった。




 要約するとこうだ。

 事件の終幕は大々的に報道された。


 さて、主犯の話であるが、【スズキ】の正体は本山楓で間違いなかった。かつてのゲームで赤根茉莉花の隣の席で彼女と同じく担当ルームを必死で助けようとしていた職員である。

 職員の半数は新たな職場に左遷されたが、本山に関しては自身のルームを救えない無能として、酷い扱いを受けたそうだ。

 そんな彼女は徐々に病んでいき、【箱庭ゲーム】の元データをハッキングにより手に入れた。それを用いて自分と同じような職員たちと共謀し、【箱庭の掲示板】を立ち上げ、今回の計画を目論んだそうだ。

 誘拐は手分けして行なったが、一部の者は途中怖気付いたため、帰らぬ者として葬ったそうだ。

 そして、残った3人で【新しい箱庭ゲーム】の運用を行なった。現在は3人とも拘留されており順調に起訴の準備が進められている。


 自業自得。だけど、過去の【箱庭ゲーム】のことや、実際にゲームに参加していた時の彼女のことを思うと少しだけ同情した。




「……ちなみだけど、【スズキ】さんの元には、久我くんのコーチにあたる人、風花くんが面会に行ったんだよ。」

「面会に?」

「そ、何たって彼の奥さんこそ赤根茉莉花だからね〜。」


 梶谷と武島はえぇ! と驚きの声をあげて、互いの口を塞ぐ。仲良しだな。

 その様子を見て千藤さんは愉快そうにケラケラ笑う。

 現実の赤根さんは風花さんになってたわけか。いや、でも【サポーター】の彼女とはまた別人なんだよな。


 オレがそんなことを考えていると乙川さん達の背後の扉が背後の扉が無音で開いたものだからオレは驚いて固まった。風花さん、だろう。彼が静かに入ってきた。


「いやさー、今赤根さん身重だから余計な負担をかけたくないってアイタ!」

「千藤は相変わらず余計なことを口走るね。」


 突然現れた体格のいい男性に梶谷達はギョッとする。

 その男性を認めると乙川さんは笑顔をこぼした。


「芳樹くん! 面会は済んだんだね。」

「まぁ、そんな話すことないし。」


 はい、と見舞いの品をくれたからオレが受け取った。そのまま彼は壁に寄りかかりながら話す。

 この人が久我のコーチか。

 どこか梶谷が緊張していたが、彼は柔和な笑みを浮かべて話し始めた。


「【スズキ】は心配いらないよ。何か抜け殻みたいになってたし、正直あの人は茉莉花さんに括ってたみたいだから……。」


 彼女の過ごして来た日々のことについて少しばかり同情したが決して許せることではない。それはオレ達とも同じで口を閉ざす。


「でも、ありがとな。3人が頑張ってくれたから、久我も無事だったし、茉莉花さんに余計な罪悪感を背負わせることにもならなかった。」

「いえ、久我さんが残したものが無かったらオレたちも……。」


 彼の優しい手に撫でられた梶谷は目から涙を溢していた。それを拭いながらあることを尋ねる。


「そういえば、他の人たちってすぐ起きるんですか?」

「……それに関してなんだけど。」


 それに記憶のことも気になる。

 申し訳なさそうに眉をハの字にする乙川さんは首を横に振り、それにね、と付け加える。


「彼らは、自分の意志と別のところで消されたわけだから、脳がショックを残さないように、って防御反応が出て、覚えている可能性もあればはたまた全く覚えてない可能性もある。」

「……そっ、すか。いや、でもいいんす。」


 梶谷はふと微笑む。

 事実を告げた乙川さんは彼の言いたいことをすでに察していたのか辛そうであったが、口元を緩めた。


「生きてれば、いくらでもやり直せますから。友だちになるのも、同じっすよね。」

「……そうだね。」


 梶谷の言う通り。現実世界でやり直せばいい。

 オレ達が話していると、そこへ慌ただしく看護師が駆け入ってきた。


「千藤さん、被害者の2名がたった今目覚めてーーーーー!」


 その場の全員が待ちわびていた言葉だった。




 だが、ここからはなかなか波乱の展開であった。

 目覚めた酒門は意外にも殆ど覚えていなかった。彼女がはっきりと覚えていたのは、1つ目の世界までだった。

 逆に千葉は結構な濃度を覚えており、オレ達の姿を見て安堵の言葉を述べた。

 他の面子も同様に斑があった。荻や矢代、久我ははっきりと覚えていたが、木下や須賀、風磨は一部しか覚えていなかった。香坂と寿、加藤に至っては殆ど覚えておらず、辛うじて参加者の顔が分かるという程度であった。


 オレはまず荻に謝りに行った。

 少しでも悪意を抱いてしまったから。だけど彼もまたオレ達に干渉しすぎたと思っていたらしくすんなりと和解できた。でも、時々売店までお使いを頼まれることがあってちょっとムカついた。ちなみにリハビリしながら相変わらず香坂とは仲良くやっていた。他にも矢代や武島とも話しているみたいで、正直ホッとした。


 風磨にも日記のことや2つ目の世界のこと、ゲームの顛末、全てを話した。日記のことに関しては風磨も覚えていたらしく、ゲームに誘ったことも含めて謝られた。お互いに汚いと思っていた感情を吐き出してみれば、案外スッキリするものだから最後には笑ってしまった。

 ちなみに風磨は須賀や千葉とそれなりに馬が合うようで話していることが多いのだが、この話を聞いて驚いた。


「そういえば須賀、武島に告ったらしいぜー? まぁ恋愛は人の自由だけども、オレがリタイアした後も相変わらずなんだなぁ。」

「え、振ったでしょ?」

「いやまぁ振られてたけど。何で確定なんだよ。何があったんだ!」


 全てを話すのは憚られた。オレは悩みつつ風磨に告げた。


「まぁ……色々あって梶谷と武島が、両片想い?」

「おま、そういうとこだぞ! 言葉が足りねぇ!」


 残念だけどオレにそんな語彙力はない。

 オレは大人しく揺すられていた。


 酒門は相変わらず寿や千葉、梶谷、あと加藤や木下とも話していた。久我には分かりやすく動揺を見せており、揶揄ったら枕を投げられた。相変わらず投擲の精度は抜群だ。


 メディアも落ち着いてきた頃、オレ達は退院日が決まった。高校はもう夏休みも半分以上終わっていたけど。

 オレは風磨以外だと久我と過ごす時間が結構多かったように思う。

 いつものごとく、枕を投げられて嬉しそうにする久我は変人だと思う。


「無表情なのに分かりやすいですよね、石田さんは。」


 ちなみに参加者達にゲームの結末を伝えるかは、本人が望めば伝えるという形をとった。あくまでも大人から。

 でも久我さんはしつこいほどにオレ達に聞いてきた。梶谷は伝えようとしていたが、興奮してロクな話にならなかったためオレから伝えた。


「……ありがとうございました。」

「何急に。」

「いえ、梶谷くんのこと、ゲームクリアを果たしたこと、全部です。」

「……でも、全員は守れなかった。」

「それは、きっと僕がいてもできません。そもそもクリアできたかも分かりませんよ。」


 久我は優しく微笑む。

 この笑顔を見ると、温室で見た彼の笑顔が偽りのものだったと思い知らされる。


「そういえば、石田さん。もう少しだけ時間はありますか?」

「あるも何も、明日の退院待つだけだから。」


 荷物もまとめたし。風磨は纏めてなかったけどやんわり注意するに留めた。微妙にだらしないところが彼の欠点、これからは厳しく伝えようと思ったのだ。

 久我は苦笑していた。


「今から石田さんに会いたいって人が来るんです。」

「共通の知り合いなんていないでしょ?」

「うーん……まぁそうなんですけど。」


 そんな話をしていると病室の扉が開く。

 同室の千葉や梶谷あたりが戻ってきたか? オレは振り向いた先にいた人物に驚き、固まった。



「こんにちは、久我くん。そして、一応はじめまして、かな? 石田くん。」

「赤根さん……?」


 オレの口は他の音を紡ぐことができなかった。

 ゲームの中で見た赤根さんより大人びているが、相変わらず優しくて穏やかで、温かい人だった。

 その隣には風花さんがいて、そして赤根さんは妊娠しててお腹が大きい。オレは慌てて椅子を譲った。


「いいよいいよ、座ってて?」

「いや……。」

「茉莉花さん、さすがに座ってください。たぶん石田さん帰っちゃいますよ。」

「えっ、それは困る、かな?」


 ゲームの中の彼女とは違う。でも似ている。

 オレは慌てて、座っている赤根さんに視線を合わせた。終わってみればたくさん言いたいことはあった。でも、言えなくて後悔していたのだ。


「その、オレ、箱庭の中で、【赤根さん】にたくさん助けられたんです。【スズキ】から梶谷を守るための武器をくれたり、ゲームクリアのためのヒントもくれました。それに、【スズキ】が干渉してきた時に起きる眩暈、それからも守ってくれました。」


 久我は覚えがあるため、嫌そうな顔を一瞬だけした。


「きっと、たまたま。オレが2つ目の世界の主で残る可能性が高いから選ばれたのは分かってます。でも、本当にあの世界の【赤根さん】には感謝してるんで、」


 これでは、こちらの赤根さんには感謝してないってことにならないか? オレは慌てて手を横に振ろうとすると、ゲームの時と同じ、優しい手がオレの頭を撫でた。


「あっちの【茉莉花】を想ってくれてありがとう。私はとても嬉しいよ。」

「へ、はぁ。」

「君は頑張ったよ。梶谷くん、武島さんはもちろん、みんなのことを頑張って守ったの聞いてるよ。先輩だからってね。ありがとう、お疲れ様。」


 オレはその言葉を聞いてほろりと涙を溢した。

 たぶん、ここでやっと力が抜けたんだと思う。自分がかなり切羽詰まっていたことを自覚したのだ。

 後々思い返してみれば、オレの箱庭ゲームはここでやっと幕を閉じたのだろう。















 オレはぼんやりと歩きながら箱庭ゲームのことを思い返していた。

 社会人となった今、思い出しても壮絶だったな。


 今や箱庭ゲームなどオワコンってやつ。聞くと皆一同に懐かしいと口を揃える。【スズキ】に実刑判決が下ってから掲示板も閉鎖されたしな。


 オレは今高校教師をしている。

 自分みたいに、拗れた子どもを1人でも多く手を差し伸べられるように。実際は難しいんだろうけど手の届くところから。

 これは風磨をはじめ友人に勧められた。知らず知らずのうちにオレは面倒見が良かったらしいが、箱庭以来線引きも上手くなった。だが、問題は勉強。歳下の酒門や久我に恥を偲んで勉強方法を聞き、どうにか現役合格できた。2人には頭が上がらない。

 ただオレの相談をダシにデートもしてたからそこはオレに感謝してほしい。酒門は認めてくれないけど。


 時々生徒達に聞かれることがある。

 先生は、【箱庭の掲示板】を使ってたの、と。

 その時には素直に使ったことは少しあるよ、と答える。大体セットで参加したかった? と聞かれるため、したくはなかったけどそこでの出会いには感謝はしているよ、と答える。

 今時の子どもは冷めてるから、変なの、とかそれより彼女は、とか聞かれる。



 さて、オレは今日もダシに使われている。

 今回は久我と酒門ではない。梶谷と武島だ。

 オレ達、特に最後まで残った3人は何かと腐れ縁が続いていた。他とも時に連絡はとるがどちらかといえば疎遠、だと思う。

 乙川さんもそんなもんだよ、と笑っていたからそんなもんなんだろう。


 オレが2人を両片想いと言ったのはみなさん覚えているだろうか。

 梶谷は今の今まで一切彼女を作らなかった。たぶん、久我とか千葉にも気づかれており何度か背中を押されているが、アイツは物凄く草食だった。

 武島は須賀を振り、矢代にも相談していた。何なら無頓着な酒門にも相談していた。それほどに梶谷に気があった。なのに、他の人に告白されると断れないのだ。でも、彼氏に一切気持ちが向かないからと大概振られてくる。


 オレは2人と飲む居酒屋の前に到着していた。梶谷からは寒いから先に中に入っていると連絡があった。

 この時のオレは【箱庭ゲーム】で培われた咄嗟の判断が冴え渡ったと思う。オレは店員さんにあることをお願いした。

 それから外に出てまもなく手に息を当てながらやってくる武島が見えた。


「はー、寒いですー!」

「そんなに着込んでて寒いの? もう少し太ったら?」

「言い方、そんなんだからモテないんですよ。」


 この悪口は互いの挨拶みたいなもんだ。

 オレ達は少しそこに立った後、梶谷が遅れてくるらしいと嘘をついた。なら、先に入ろうかと個室居酒屋に入った。


 オレは店員さんに先客がいることと歩くのをゆっくりにするようお願いした。ただそれだけだ。

 オレはわざとらしく声を少しだけ張って尋ねた。


「そういえば、また別れたんだって? 好きな人いるのによくやるよ。」

「だ、だって……断れないから仕方ないじゃないですか! それに、梶谷くん全然恋愛興味なさそうだし。」


 彼女の襖を開けようとする手が止まる。

 その向こうに梶谷がいるというのに。

 オレは笑いそうになるのを抑えて尋ねた。


「……いっそ梶谷が武島を好きになってくれたら解決する話なんだね。」

「私は知ってますよ。世の中そんな都合は良くないって。箱庭ゲームでも散々学びました。」


 ふっと哀愁を漂わせた彼女はやっと襖を開けた。

 そこには真っ赤な顔をして正座をする梶谷がいるわけで。それを見つけた武島ももちろん固まった。


 残念ながら、案外この世は都合がいいことが転がっているもんだ。


 2年先に社会人になったオレはそんなことを考えながら、店員さんとともに2人を見て笑っていた。

あとがき


 まずはここまで読んでいただきありがとうございました!

 久しぶりに読んでみて他の人の視点ってどうなってるんだろう? とふと思い書いたものです。

 前作でも良かったのですが、サイドの2人が思ったより中核に関わっていないことが多かったので止めました。2作目を確認して、石田がゲームクリアに関する最終兵器を持っていたことを思い出してこの人にしよう! と至りました。タイトルも以前は酒門と梶谷視点でしたが、石田視点になっているので少し変わっています。

 比較的主人公とも協力し合うことが多かったですし、調査も真面目だったので笑


 補足ですが、彼は基本的に真面目だし一生懸命、それに地頭いい方です。ただ、ネガティブな面も強く、その割に端的ではっきりとした物言いをするためそれが毒舌となってしまいます。ちなみに表情筋は休んでることが多いです。

 そして、2つ目の世界、石田の世界でしたが、世界の主の思考が書かれた本を高濱に見せればすぐにどちらの世界かは分かりました。彼もネガティブな面はあり似たような思考過程をしていましが、彼は笑顔で誤魔化すタイプで、主観的な面が強かったです。何より石田ほどバスケを好きだと思っていませんでした。そのことを彼が改めて告げられたのは、ゲームクリア後、大学進学の話をした時でした。まぁ、すでに察してはいましたが。

 ただ、どうであれ2つ目の世界では高濱が誰かしらを消したでしょう。彼もまた間違いなく石田を親友と思っていたので。


 では、改めましてありがとうございました。

 「幼馴染の攻略がこんなに難しいなんて聞いてない!」は引き続き更新されますので、良ければお楽しみください。

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