表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Remained GaMe -replay- 番外編  作者: ぼんばん
5章 幸運に好まれし勇敢な者よ
34/38

34.戦い続けた彼ら

本編「守るべきものと託すもの」別視点です。

 隠し部屋の先には、やはりと言うべきか予想通り誰もいなかった。

 それはそうだろう、酒門は【強制退場】され、千葉はログアウトさせられたのだ。


 もちろん、今まで梶谷の手に収まっていた端末はない。隠し部屋に転がるのは、梶谷の端末とメモと、もう一つの誰かの端末だ。

 梶谷はそれらをゆっくり拾い上げた。

 正直初めて入る隠し部屋だったから、オレは辺りを見回してしまった。


「……【寿さん】、いますか?」


 落ちていた自分の端末の電源をつけて呼びかけると、画面の中には見慣れた彼女の姿が現れた。

 オレ達も周りからその画面を覗き込む。

 【寿】は涙を静かにポロポロと溢しており、嗚咽を漏らしていた。


『……ごめんね、梶谷くん。2人を止められなくて。

 でも、』

「分かってます。2人が、【寿さん】が、ここに参加したメンバーを救うためにやったことだって。オレもそっち側だったら迷わずに決断しましたよ。」


 【寿】が苦しそうにしながらも頷く。

 梶谷は今まで4人で語った推理について、【寿】に伝える。彼女は首肯しながら聞いていた。



『概ね合ってるよ。……でも本当に千葉くんが言った通りになったね。梶谷くんなら分かってくれる、ってずっと言ってたし、何ならログアウトの瞬間ガッツポーズしてたよ。』

「何かイメージ変わっちゃうな。」

「オレも。」


 なんか最初から最後まで単純というかまっすぐというか、ブレないやつだったな。


「概ね、ってことは何か当たってないこともあるんすよね?」

『うん。』


 彼女はあっさりと頷いた。


『周辺機器の電源と、端末の電源については2人は何もしてないはずだよ。美波ちゃんは私を起動する時、電源オンからロック解除まで間は殆どなかったから入れ替えたあと、何者かによって行われた。

 ……4人の誰かがやったのか、外部からの侵入者がいるのかは分からないけど。』


 オレ達の誰かである可能性もあるのか。場を不穏な空気が包む。

 ふ、と【寿】は口元を緩める。



『そんなに気を張らなくて大丈夫。例え、誰が何をしてようとも、議論をして、疑い合って、その先に信頼がある。今までもそうだったでしょう?』

「……そっすね。酒門さんたちも、やってきたことだ。」

『うん。』


 彼女の言葉に梶谷が肩の力を緩める。

 武島はあっと思い出したように【寿】に問いかけた。


「でも、さっきの議論で【スズキ】の思惑は上回った訳ですし、全員無事にログアウトできるはずですよね?」


 確かにゲームが終わったのならば出られるだろう。

 だが、予想に反して画面の【寿】は首を横に振った。


『わからない。現状外部からの応答はない。でも、このままいけばこの世界の終わりと同時に【箱庭ゲーム】は終焉を迎えるはずだけど。もう一度、私を本体の方に繋いでもらえるかな?』

「分かりました。」


『あと久我くんの端末に色々入ってた情報を千葉くんが事細かく拾って記載してたからそのノートも興味あれば見ておいてね。』

「これですね。」


 その役割を勝手出たのは、現在の世界で細やかさを発揮した武島だった。



『それとね、梶谷くん。君は酒門さんに対して何か思うところはなかった?』

「え、久我さんを敵に回したくないんすけど。」

「……そういうことじゃないと思うな。」


 呆れた本山のツッコミに我に返り、思い返す。

 ふと、先程の議論で何かを思い出したらしい。バツが悪そうな顔をしながら口にした。


「オレ、何となく酒門さんを知ってる気がするんす。」

『何だ、覚えてるじゃない。』


 【寿】はクスリとお姉さんのように微笑んだ。

 千葉に見せてあげたかったな。


『梶谷くん、一度だけプログラミングの大会で誰かに負けなかった?』

「……ぁ、女の子に、」



 梶谷は何かのやりとりを思い出したかのように呟く。

 嬉しさと懐かしさがよぎったが、すぐに後悔の色を滲ませる。


「……オレは、どれだけあの人たちから沢山の信頼を貰っていたんすか。」


 梶谷はボロボロと涙をこぼす。つられたのか、傍らでは武島も静かに涙を溢していた。

 【寿】はその様子を確認すると、梶谷の端末から本体の方へと移動していった。




 だが、この空気は長く続かなかった。

 突如画面全体に【error】の表示が出る。梶谷は慌てて涙を拭うと画面に食いついた。


「【寿さん】?! 何が起きたんすか?!」


 慌てた表情の【寿】が映り出された。


『【スズキ】さんが箱庭ゲームの世界を消すためにプログラムの変更を行なったみたい! でも、外部から物凄いスピードでプログラムの再構成がなされてるよ! ……たぶん、』


 そこで彼女は口を閉ざした。


『とにかく、4人はこの部屋に留まって! 次の世界に行くことでみんなのアバターを守るから!』

「待って、寿さんはどうなるんですか?!」

「そうだよ、早く梶谷くんの端末に……!」


 梶谷と武島の言葉に彼女は驚いた顔を浮かべたが、ふと微笑むと拳を握った。


『私だって、美波ちゃんや千葉くんが守ろうとしたものを守りたい。寿綾音なら、そうするから。石田さん、そっちの端末の【綾音】も入れてもらえる? 処理速度が間に合わないから。』

「……分かった。ありがとう【寿】。」


 あくまでもAI、でも彼女も【サポーター】の赤根さんのように確かに生きていた。改めて礼を述べながらも、なるべく感情が出ないように努めた。

 彼女はうん、と小さく頷くと2人になった彼女らは人力では追いつけない速度での処理を始めたのだ。


 そこで、オレ達の意識は遠のく。

 果たしてどうなってしまうのか、こればかりはオレ達にも分からなかった。


 どうして思った通りにいかない。

 どうして同じデスクにいたのに、赤根茉莉花のようなゲームメイクができないんだ。


 スズキ、いや、過去の名はありきたりであったが別の名であった。スズキ、は赤根が使用していた偽名であった。

 彼女は、過去のルーム89の動きに感動していたのだ。

 それぞれが成長して、困難に立ち向かい、誰もが誰かのために、自分のためとしても何かを残して去っていく。

 そのストーリーにドラマを感じたのだ。


 だがら今回のゲームも、ドラマが生まれるように、参加者を選別して選んだ。

 その物語が着実に進むように工夫もした。

 しかし、駄目だった。

 自分がかけてきた8年間が無駄になったのだ。


 もうどうなってもいい。


 スズキは最終兵器のボタンを無情にも押す。

 そしてゲーミングチェアをしならせて背後から入ってきた人物たちを見やる。

 懐かしくも、立派に育ってしまった過去のプレイヤー達に笑みを浮かべる。



「……思ったより早かったですね。千藤くん。」

「梶谷くん様々だよ。それに、あれしきのウイルスでうちのサーバー壊せると思ってるなら愚考だね。」


 ああ、大きくなって。

 利己的で、残忍だった彼も今や警察の人間か。

 傍らには銃を構える機動隊の人間がいる。


「……負け惜しみ? 面倒なことしてくれたね。彼らを殺す気?」

「ええ、気に入らないデータは消す。そんなもんでしょう。」


 彼はすぐに私が行なったことを察したらしい。

 はぁ、と面倒そうにため息をついた。


「私はもう逮捕されるんでしょう。協力はしません。救えるといいですね。」

「大丈夫だよ、彼らなら。それに助っ人だって連れてきてるからね。」

「助っ人?」


 ゆったりと拘束される彼女は、すれ違いでモニターに触れる彼に尋ねた。しかし、その意味はすぐに分かった。


「バイタルの管理をすればいいんだよねー?」

「私は千藤くんのフォローをするね。」


「お前ら、なんで、」


「私たちだけじゃない。貴女と話したい人はもう1人います。隣の席だったからよくご存知でしょう?」


 ダストボックスに飛び込むと、そう告げた時と同じ強い瞳が自分を捉える。

 ああ、私はこの瞳を見たかったのに、なぜこのゲームではできなかったんだろう。


 3人は、赤根に信頼の眼を向けていた。

 しかし、私にはいつだって参加者たちは憎悪の眼を向けていた。


「……私は、どこから間違ったのか。」


 項垂れながらも【スズキ】は機動隊に連行されていく。


「さて、本部のサーバーとは繋いだから、僕らはこっちで参加者たちを助けるよ。準備いいね、乙川さん、舘野さん。」

「もちろん。」

「頑張りますとも〜。」


 3人は、【スズキ】が最後に投下した爆弾に悲鳴を上げるサーバーに向き合い、各々の作業を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ