33.解決編⑤
本編「解決編⑤」前後編の別視点です。
定刻。
モニターが宣言通りに点灯し、【スズキ】の姿が映し出される。
『さて、議論を開始しましょうか? 私も一度参加してみたかったんですよね。』
「そっちは遊びでもこっちは真面目なんだけど。」
『私だって真面目ですよ。でなければ、酒門さんの愚行にあれほど憤ることはありません。ちなみに私はもう答えを入力済みですので。』
本当に腹立つ人だな。
からりとした笑いを零すと彼女は話題をかえる。
『今回の退場者は、【この場にいない酒門さんか千葉さんで間違いがない】でしょう。そして、貴方が意地でも端末をつけないせいで、【犯人はその2人に加え、梶谷さん、貴方も候補に入ります】。』
「分かりきった事ですよ。」
梶谷がなんて事のないような風に返答すると、彼女はつまらなさそうにため息をついた。
『まぁ貴方たちがどんな答えを出そうと、犯人は自明なのです。それをじわりじわりと知り、絶望してください。』
「それは話し合ってみないことには分からないっす。まずはどうしましょうね。動機に関しては分かりませんし、結局のところ隠し部屋の出入り口も不明のまま。」
「なら、できる人が3人のうち誰だったか考える?」
「本山さんの言う通りっすね。」
彼女の提案に頷く。
だけど、今まであった情報がなさすぎるのだ。
「今回についてはその2人どころか、ここの4人さえ【アリバイ】がないでしょ? どうするわけ?」
「あの、なら2人がやったことを可能な範囲でリストアップして時系列に纏めてみませんか? それを繋げたら2人が何をしたか分かるかも……。」
武島が几帳面にまとめた調査内容を確認する。
「なら、1番大きいのは【端末の電源がついていた】ことっすね。そして、【スズキ】さんが2人の場所を把握してないってことは、2人は恐らく隠し部屋についてから端末ロックの解除を行なって、【強制退場】に及んだということ。」
「……そもそも、2人は梶谷くんの端末開けるの?」
「たぶん、1番最初に端末の使い方を講義したことがあったんす。その時、オレは2人の目の前でロックを解除してます。それに、3つ目の世界でも、前回の世界でも……端末のデータを見せる時に。」
そう、梶谷の端末にはAIの【寿】がいた。
彼女から報告を受ける時の多くはオレとともに酒門が同席していた。彼女なら盗み見ることなど造作もないだろう。
『そういえば貴方達、いつまであの小娘を隠しているんですか? もう武島さんと本山さんにも教えて差し上げたら?』
「え、小娘?」
「何か良からぬ視線なんだけど。」
明らかに勘違いしたらしい武島の軽蔑する視線が刺さる。梶谷を睨めないからってオレを睨まないでほしい。
「そっすね、もう2人も覚悟は決まってることでしょうし。オレと、石田さんの端末にはAIの【寿さん】のコピーがいます。」
「えっ?! コピー? どういうこと?」
本山が驚いて追及する。
まぁ、説明すべきはオレだよな。
「2つ目の世界でオレが見つけた。それで梶谷と酒門に相談したんだよ。その時は3つ目と4つ目の世界と違って未完成って感じだった。世界が切り替わっても端末の【寿】の記憶が抹消されることも無かったしね。」
「そうなんですね……。うー、伝えてもらえなかったのは悲しいですけど確かに言われてたらパニックになっていた気がします。」
意外とすんなり納得してくれたな。でも彼女のおかげで本山も口をつぐんでくれた。
それをいいことにオレはさっさと流す。
「……話を戻すよ。あと、履歴から【酒門がなんらかのプログラム改変をした】ことは明らかなんだよね?」
「ええ、正しくはオレの端末を持ち出した酒門さんが、【寿さん】を使ってやった、ってのが答えかと思いますが。」
『確かに、あのAIならセキュリティなどあってないようなものですからね。作業履歴を私も見てみましたが、酒門さんはできることの作業は速いですが未知への対応は圧倒的に梶谷さんの方が優れていましたから。触れないものもあったんでしょう。』
ーーーーアンタは、未知のものに対して怖いとかないの?
「えっ?」
梶谷は不意に戸惑った声を漏らした。
「どうしたの?」
「や、何でもない。」
武島が心配そうに声をかけたが、梶谷は下手な作り笑いで誤魔化した。
どうしたんだろう。
「なら、【周辺機器の電源つけた】のも美波ちゃんたちかな?」
「その可能性は高いっすね……。」
「ここからは推理も必要になる要素になりますね。」
「温室と倉庫、それぞれで何があったかだよね。」
ううん、と梶谷を除くオレ達は悩んだ。
梶谷は他の面々の反応を観察しながら意見を述べた。
「少なくとも、あの髪を引きちぎったのは千葉さんじゃないと思いますが。」
「え、なんでかな? ……流れとか2人の関係性見てるとマウントをとってるのは美波ちゃんだよね?」
『マウントも何もありませんよ。追い詰められたら人は何をするか分からない。それはあなたたちがよく知っていることでしょう。』
「少し静かにしててもらえます?」
梶谷が【スズキ】の野次をピシャリとシャットアウトする。
オレは小さくふふ、と笑ってしまった。武島に真面目にやれと睨まれている気がする。
「優位性は関係ありません。【千葉さんの性格】を踏まえれば、彼ならもっと綺麗にとるはずです。存外雑なのは酒門さんの方っすよ。」
「確かに前回の世界もそうですけど、倉庫物品とか几帳面に纏めてましたし、時々浴室とかカフェテリアの掃除してましたもんね。」
「となると、ここのメンツが嘘をついていないなら、千葉が酒門を呼び出したってこと?」
オレが尋ねると梶谷は頷く。
「呼び出しじゃなくても、紙でしかやり取りできない理由はあるはずっすよ。だって、酒門さんには必ず本山さんか千葉さんがついていることになっていた。2人きりになるチャンスはあっても誰がいつ戻ってくるかははっきり言えません。
そして、酒門さんが皆に伏せたい内容といえば、間違いなく、隠し部屋のことでしょう。」
「……確かに酒門は千葉と梶谷と仲良かったもんね。」
オレが風磨とべったりいた時も荻が手紙を寄越したっけ。
「酒門さんは、【サポーター】として心身共に追い詰められていたし、私たちの目があったから千葉さんを協力者に選んだ? でも、酒門さんは隠し部屋のことを知っているはずですよね?」
「酒門さんは、みんなで調査をする時に『図書館、温室、倉庫、あと隠し部屋は難しいかもしれないけど。』って言ってました。彼女は、世界の切り替わりで隠し部屋が最初の場所に切り替わると思っていたのかもしれません。でも、無かった。だから千葉さんに頼んだ……。」
「例えば、隠し部屋を見つけるコツみたいなのがあったら千葉さんすぐ見つけそう……。」
武島の言うこともごもっともだった。
たぶん男女部屋に別れた後に千葉が隠し部屋を見つけたんだろうな。
にしても、千葉の姿が消える前、あまりにも平然としていたから気づかなかった。
「じゃあ温室に隠し部屋はあったってこと? しかもそこで揉めた? じゃなきゃ引きずった跡や靴の説明がつかないよね?」
「集合場所を温室にしていた、そこで酒門さんが倒れて引きずったとか?」
「……武島が倒れた時運んだの千葉だけど? まぁ、倉庫の紐使ってだけど。」
「……倉庫の、紐、」
オレの言葉に梶谷が目を見開く。
何かに、確信を持ったような表情だった。
「アンタの、考えた通りなのかもしれません。」
梶谷は信じられないものを見るような顔で【スズキ】を睨みつけた。
【スズキ】は勝ち誇ったかのように微笑んだ。
『ほー、言ってみればいいんじゃないですか?』
「【赤根さん】の時と同じっす。温室で再現したやつで、風花さんと赤根さんが言ってたじゃないですか! 温室のPCは【サポーター】しか使えない、そしてアバターを開け渡せば、【サポーター】を救えるって。
千葉さんはそれを聞いて、酒門さんを助ける方法に気づいたんです。自身のアバターを彼女に渡せば延命処置できるって。」
「じゃあ千葉くんは酒門さんを温室に呼び出して自分のアバターを彼女に渡したってこと?!」
「そうすれば、倉庫から呼び出した理由も納得っすよ。PCを彼女に操作させる、そしてカモフラージュに引きずった跡の靴を放っておけば……オレ達に誤認させられる。」
【スズキ】はこの展開を読んでいたのかにやにやしている気がする。
ただ、梶谷の考えは早計だ。お前は靴からあるものを取り出した。それを見たなら、千葉のことを、酒門のことを知る梶谷はそう判断できないはずだ。
それでも梶谷がその真実を伏せて、わざと間違った推理を示しているなら。
もう信じて黙っておくしかない。
「機器の電源を入れたのは酒門さんでしょう。
でも紐を持ち出したのは千葉さんだ。端末を、【捕縛】は使えないから、彼女は絶対に千葉さんのアバターを受け入れるなんてしない。だから拘束して、隠し部屋に彼女を入れて、酒門さんの端末とこのPCを使って、アバターを書き換えた。」
「なら実行者は、千葉くん。だけど端末の持ち主は……。」
「酒門さんっす。だから、ログアウトさせるのは、酒門さんっすよ。」
【スズキ】はゆったりと拍手をしている。
正解ですよ、と言わんばかりに。
『ご名答、そして残念でした。私も、酒門さんの端末が千葉さんを【強制退場】させたこと、読んでいますとも。』
モニターには無機質に、文章が打ち込まれていく。
『GaMe OvEr ‼︎ 今回の犯人は【酒門美波】でした。』
『さて、あなた達はログアウト処理をしてください。彼女のことを。』
「……うそ。」
「……また、繰り返されるの、」
「……。」
本山がへたり込み、武島は静かに涙を流す。
大丈夫、ここまで必死にやってきたんだ。2人も含めて。オレは息を呑んで結果を待つ。
「ふっ、」
梶谷は肩を震わせながら、ログアウト処理をしていく。その瞬間だった。
あたり一体に、はじめの世界改変の時のように【error】の文字が浮かび、不気味な警告音が鳴り響き始めた。
『な、何ですかこれは……。なぜ世界の改編が始まる……? 私は正解したはずじゃ?』
「してないんすよ、実は。オレはアンタの理想の物語を語っただけで、真実はもうとっくに分かってたことなんす。」
よかった、梶谷達の勝ちらしい。
武島と本山が慌てて画面を覗き込んだ。ログアウト処理は千葉に対して行われていたのだ。
処理は確かに進んでいるが、【スズキ】が提示した正解と一致しなかったためか、エラーが生じたらしく画面には見慣れない文字列が並んでいる。
『どういうことだお前ら! 何で、何で【サポーター】を見捨てた!』
「酒門さんは確かに【サポーター】ですが、その前に1人の人です。あの人はここの誰よりもアンタの鼻を明かすことを望んでいた。それこそ、自分の命なんてそっちのけで。それにあの人らはオレに託してくれていたんすよ。」
梶谷は手にとった時点で誰の端末かなんて分かっていたんだ。
ーオレの端末は、お前と酒門は開けるようにした。あの写真の顔認証機能だ。
梶谷はこの時その言葉を思い出していたそうだ。
『クソが、クソが……!』
「オレ達はアンタの思い通りにならない。今回は、オレ達の勝ちっすよ!」
今や負け惜しみにしか見えない。
【スズキ】が映っていたモニターは逃げるようにプツンと切れてしまった。
梶谷は3人に呼びかけるとモニタールームから出る。
どうやら自分の演技の拙さは突っ込まれなかったらしい。安堵しつつ梶谷は彼らがいたであろう場所に向かう。
「か、梶谷くん! 結局どういうことだったの? あの後【スズキ】さんとの通信切れちゃったけど。」
3人は梶谷に招かれ、倉庫に向かっていた。
「言った通りっす。前日、千葉さんからオレはあの人の端末がオレの顔で開けることを聞いていました。だから開けない時点で、ログアウト対象者はオレか千葉さんって絞れてました。そして、【スズキ】が酒門さんを【強制退場】の対象にしたいことも分かってましたよ。」
「どうして、って聞いていい?」
本山が尋ねると、彼は苦笑いした。
「だって、酒門さんが自身を【サポーター】にするなんて暴挙、見逃してんすよ。この世界では確実に彼女をログアウトさせたかったでしょうよ。自分の筋書き通り進めるために、彼女へあれだけの体調不良を招いた。結局のところ、アイツはオレ達を思い通りに動かしたかっただけなんすよ。」
鼻で笑いながら倉庫の扉を開く。
オレは目的のものを倉庫の奥から運び出しながら尋ねた。
「結局のところ、あの推理はどこまでが正しくてどこからが外れ?」
「……周辺機器の電源をつけたのは酒門さん、端末を入れ替えたのは千葉さんでしょう。それに隠し部屋を探そうとしてたこと、紙面でのやりとりもあってるはずっす。問題は紐。今から向かうところを踏まえれば分かりますよね?」
「この紐は拘束のためでなくて、体調の悪い酒門さんを背負って屋上に行くための?」
武島の言葉に梶谷は頷いた。
結局のところ、この紐の活躍どころは武島を屋上から下ろした時と同じだったのだ。しかも、その時背負ったのも千葉、効率の良い固定の仕方は覚えているはずだ。
「温室のPCは恐らくフェイク。いや、もしかしたら本当に酒門さんが操作したのかもしれませんけど。引きずった跡は操作しててあの狭いところで倒れた彼女を運び出すため、血はどちらかが怪我して擦れたんでしょう。」
「なら靴は?」
「靴はただのポストっす。これが入ってました。」
調査の時、靴から取り出した手紙をポケットからだした。オレがずっと気にしていたのには気づいていたらしく、オレに渡してくれた。
「『あとよろしく。』ね。」
「……筆跡を見れば、容易に分かることですよ。
字の上手い下手は置いておいて、こんなガタガタの字列は、【千葉さんの性格】を考えれば可能性は限りなく0です。」
まぁ性格上、酒門も決して下手な方ではないんだろうけどな。梶谷は大切そうにそれを懐にしまった。
それを武島も華のことを思い返しているのだろうか、悲しげに見つめていた。
オレ達は次の目的地に向かうべく、オレは梯子を持ちながら歩みを進めていた。
「メモを見た時点で、酒門さんが【強制退場】をしてることやアバターの書き換えもしてないこと、すぐにわかりました。そこからロジックを組み立てて……、正直皆さんからの反論が怖かったところですけど、1番痛いところ突いてくる石田さんが比較的黙っててくれたので。」
思わぬ評価にオレは足を一瞬止めた。
「……別に、2人が揉めるとは考えにくいし、その意図に気付けるのは梶谷だと思ったから。」
「つまりは私たちは言い負かすことができると思われてたわけだね……。」
「はは、すまねっす。」
本山の言葉にあっけらかんと答えてみせると、2人は肩を竦める。
「梶谷くんいい人には間違い無いけど底意地悪い……。」
「そんな本気のトーンで言わないでください……。」
そんなやりとりをしていると、いつの間にか目的としていた屋上への梯子のもとにたどり着いた。
オレが持っていた梯子を立てかける。
「事件の全貌としては、恐らく何らかの理由……酒門さんの限界か、隠し部屋が見つかったことか、分かりませんけど2人は協力して温室のPCからアバターの書き換えを行おうとしたことを装った。
それを誤認させたのち、隠し部屋に移動、それから酒門さんの【強制退場】を行なった。
隠し部屋は確実に【スズキ】からの干渉を受けないところであり、どちらが【強制退場】もしくはアバターの書き換えを行ったか分からないっすからね。」
「でも冷静になれば、美波ちゃん達の目論見はバレそうだよね。」
「今回の世界の件や、前回の世界の件も含め、【スズキ】は間違いなく苛立ってて焦ってました。メッセージのやりとりをしていた酒門さんは如実にそれを感じていたはずっす。彼女がこのチャンスを逃すわけがない。
それに今回の世界のことも含め、【スズキ】にとっての何らかのアクシデントが重なっていたはずっすよ。」
「……でもそれは明らかにしなくていいんだよね?」
「それは今から聞きに行くことっすよ。」
ゆったりと梶谷は屋上を指さした。
梶谷、本山、武島、オレの順で登っていく。相変わらず武島は泣き言を溢しており、初めて上るらしい本山は顔を真っ青にしながら下を見ない、という言葉をぶつぶつ繰り返していた。
2人まとめて滑ってくるのだけはやめてほしい。
順に屋上に上がる。既に2名は疲労困憊だが構っていられない。
オレは3人を無視してさっさと探しに向かった。
「じゃあここのどこかにある隠し部屋を探しますよ!」
「でも何で屋上に隠し部屋があると思ったの? こう言うのも何だけど、偶然あの紐をとっただけで別の用途やただ単に移動に使った可能性もあったよね……?」
梶谷は未だへたり込んでいる武島に手を差し伸べながら答えた。
「アレは決して偶然ではないと思いますよ。……どっちかはっきりは分からないっすけど、紐を準備した人はあえてアンタを運んだものと同じものを選んだはず。武島さんが、答えに辿り着くか、オレの仮説を信じるヒントになるようにって。」
「……酒門さん、千葉さん。」
武島の泣いているような声が小屋の外から聞こえた。
それと同時、オレは非常用発電機の近くの壁に触れると手が吸い込まれることに気づいた。
「2人とも、あったよ。」
少し高い位置だった。オレは近くにあった台を運びながらその場所を示した。
「ここ、発電機の上の部分。踏み台使わないと3人は入れないかな。」
「やっぱり。石田さんはここから出たUSB貰ったんじゃないっすか?」
「何でわかったの?」
ええ、そんなのも予想ついてたわけ?
ぼんやりとは梶谷に告げていたが凄いな。
「……石田さんはここで【赤根さん】に会ってUSBを貰った。他に違和感を感じたことはなかったっすか?」
「違和感……。」
改めて言うとなるとあのことか。
「前に、酒門と荻と屋上を調べたとき2人も感じてたみたいだけど、誰かの視線を感じることがあった。でも【スズキ】に監視されてるような、嫌な感じではなかったのが逆に妙だとは思ってた。」
「それっすよ。」
改めて言われると、それが特別なことだったと思い知らされる。ただ、所謂茜さんの目が届くということは。
「ここが、【スズキ】の監視の届きにくいところ。」
「そっす。だから、彼女は屋上の話なんて微塵も出さなかったし、隠し部屋の出入口が再度出現するには最高の場所だった。酒門さんは、プログラミングでこれを狙ったんだと思います。それで屋上の調査を千葉さんに依頼した。」
「オレも上れるし、【寿】のバックアップ持ってるのにね。」
まぁオレは酒門のことを疑っていたから話しにくかったのかもしれないけど、なんだか悔しいな。
そんな自分勝手なことを考えていると、武島がオレの裾を摘んで泣きそうな声で話す。
「それは、違くて……。たぶん私と本山さんが千葉さんより石田さんと仲良かったからです。あと、持っていたAIが【寿さん】だからですよ。」
その言葉でオレも、本山も納得した。
「そっか、【スズキ】さんとの決戦は、2人と仲のよかった寿さんのための戦いでもあるもんね……。私も、麻結ちゃんのAIだったら……。」
確かにオレも風磨だったら悔しがるどころか怒るかもしれないな。
2人のフォローに口元を緩める。
「そうだね。ありがとう2人とも。……そろそろいく?」
「……行きましょう。」
梶谷は覚悟を決めたような顔をすると踏み台に乗り、隠し部屋に向かった。
きっともう、2人はいないんだろうけど。




