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Remained GaMe -replay- 番外編  作者: ぼんばん
3章 人を狂わす愛憎劇、フィナーレはまだ
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19.動かぬ人形と化す者共よ

本編「動かぬ人形と化す者共よ」の別視点です。

 オレはあのごたごたの後、1人で屋上に向かった。

 今やここは梯子なしで上れるのが千葉とオレだけ。意気消沈していたから実質オレ1人。

 温室にも行ったのだ。でも、何もなかった。

 何かあるとしたらここじゃないかなと思ったんだ。


 でも、何もなさそう。

 オレは屋上に横になって夜空を見上げる。相変わらず、誰かの視線を感じる。


 オレがふと目を閉じた時だった。


『こんにちは、石田くん。』

「……っは?!」


 突如降ってきた聞いたことのない声にオレは目を見開いた。

 聞き覚えのある、ずっと探していた人物。

 女の子、だろうか。優しく温かい光を纏った人物がオレを見下ろしていた。


『動いちゃダメ、だよ? 今、私が作った特別な空間にいるから。時間もない、静かに聞いててね。』


 何が起きているんだ。オレは目を見開いたまま黙った。


「私は、かつて8年前にあったいわゆる伝説のゲームで、【サポーター】を務めていた赤根茉莉花。ゲームのバグとされていたけど、私は全身全霊をかけて参加者を助けたかったの。信じてほしい。」


 突如現れた人、普通だったら信じられない。

 でも、何でだろう。信じていい気がした。


「信じる。早く話してください。」


 オレが促すと、データのような彼女は嬉しそうにした気がした。


『今、私はあなた達を助けるために秘密兵器を作っている。だから、貴方は絶対6つ目の世界まで残ってほしい。4つ目の世界で秘密兵器を、5つ目の世界で全ての準備を整える。それが貴方達の助かる手段になるから。』


 オレ達はあとどれだけの犠牲を乗り越えなければならないんだ。

 光はオレの額を撫でると微笑んだ気がした。ごめんね、と謝られている気がした。


犯人(スズキ)に関しては私は何も掴めていない。

 以前のゲームの世界を管理していたのが、私の元の人物で仮称がスズキだったの。でも、その人は今絶対に【スズキ】にはなれない。だから、ノーデータ。本当は私がネットワークに侵入すればいいんだろうけど、こちらから動けば(バグ)の存在がバレてしまう。ごめんね。』

「それはいいですけど……。」


 いやいや話が飛躍しすぎて何が何だか。

 でも1つだけオレは天啓を授かった。


「もしかして、完成した【寿】を見つけさせたのって。」

『そう、梶谷くんと彼女が協力してネットワークに対して何かをしてくれないかなって。ちゃんとリスクマネジメントしながら頑張ってくれてるね。』

「……まんまとオレは利用されたわけ。」


 動く気はないけど脱力してしまった。

 そんな話をしていると、どうやら時間が来てしまったらしい。彼女は静かに告げた。


『私の存在は誰にも言わないでね。選ばれたのが、君で良かった、かな?』


 かな、とか言うな。かなとか。

 しかし、瞬きすると世界はすでに元の世界に戻っていた。本当に何が起きたんだ。

 オレは気怠い体を叩き起こすと、のろのろと自室に向かうことにした。






 3日目早朝、オレは欠伸をしながらモニタールームを訪れた。

 あの後出会した梶谷から一斉ハッキングの提案があった。実行は、梶谷を中心に酒門と加藤がサポートをすることになった。

 すでに2人はモニタールームにいた。加藤はまだっぽい。オレに気づいた酒門が椅子を回すとオレの方に体を向けて早々に用件を告げてきた。


「早速で悪いんだけど、ブレーカーの所に行ってくれる?」

「ブレーカー?」

「そっす。ブレーカーを落としてほしいんす。」

「いいけど……何でオレ?」

「石田さん、喧嘩強いんでしょ。」


 酒門がファイティングポーズをする。オレが手を出すとそこに拳をやんわりと当ててきた。


「他の参加者は全員モニタールームに集まる。だから、【スズキ】がゲームに括ることを踏まえれば、よほど危険に陥ることはない。

 それに石田さんは世界の主であった可能性が高いわけだから信頼できる。」


 確かに【スズキ】側の人間がいわゆる人柱のような扱いを受けるとは考えにくい。彼女らの考えには納得だ。


「今回の作戦は、ざっくり言えばハッキング。電気を落として非常電源でモニターのみオフラインで優先的に復帰。ネットワークが繋がった瞬間にウイルスを送る。落としてから10分でブレーカーをあげてほしいんす。

 石田さんはリアルタイムで【スズキ】の反応とか、ハッキングで得られる情報を知ることができないんすけど。」

「いいよ。終わってから要約して。」


 その方がいい。それに今残ってるメンツだとオレが適任だろう。オレが快諾すると梶谷が安心したように胸を撫で下ろした。


「ありがとっす! 絶対に有益な情報を手に入れますから!」

「よろしくね。梶谷、酒門。」


 オレが言うと2人は頷いた。








 作戦は結果から言えば、失敗に近いのかもしれない。

 オレは約束通り時間にブレーカーを落とした。10分のタイマーをセットして、闇の中、オレは待機していた。いつ襲われるか分からない恐怖は常にあった。

 だが、人の感覚は馬鹿にできない。

 不意に何者かが近づいてきた気がした。


「……ッ、誰だ!」


 分からないけど、何かを避けた気がした。

 空を切った風が顔を掠めた瞬間、ぐらりと世界が歪む。だが、視界には人影など映らなかった。

 何だ、今の違和感は。


 そんな思考をしながらもオレの身体は意識とは別に勝手に床に吸い込まれていく。

 やばい、意識落ちるかも。

 だが、何か暖かいものがオレの身体を支えると、気絶するなと言わんばかりに力強く立ち上がらせる。ここからはもう何が起きたか覚えていない。

 気づいた時には、オレはブレーカーをあげていた。

 うわ、まだタイマー鳴ってないじゃん。


 他のみんなは?

 オレは慌ててモニタールームに向かった。

 扉を開くと、全員が床や椅子に倒れていた。オレは慌てて近くにいた千葉を揺すった。彼がうう、と小さくうめいたことに安堵した。

 オレが1人1人起こしていると、何人かは自発的に起きあがる。酒門もその1人だった。


「大丈夫? みんな気絶してたからびっくりした。」

「大丈夫、だけど。アンタは?」

「オレ? 大丈夫だよ。」


 そう言うと酒門は辺りを見回してオレに尋ねてきた。


「何で電気復旧してるの?」

「オレも何か急に目眩がして、気づいた時にはブレーカーが上がってたんだよね。俄かには信じがたいけど。」


 オレもあんまり把握できてないんだよな。

 あ、今ちょうど10分だ。


「それで、こっちの様子見に来たらこの有様。……とりあえず失敗したことは分かったけど。」


 オレと酒門がそんな話をしているとモニターが音を立てて点いた。全員が目を覚ましたタイミングを見計らったのだろう。



『よくもまぁ器用なプログラムを組み立てますね。』


「【スズキ】……、」

『メッセージも、外部のものにしっかり送られてしまいましたよ、困ったものです。ですが、何ら問題はないのです。』


 ふ、と【スズキ】は笑ってみせた。


『なぜならそちらの世界の4日間は現実世界の1日相当。サーバーの位置を特定したとしても、私の居場所を特定するのに時間がかかります。恐らく2〜3日。さて、その間に何部屋が消滅してしまうんでしょうねぇ。』


「……ぇ。」


 ポツリと声を漏らしたのは、今回の世界の主である木下だった。その反応が予想通りだったのか嬉しげに笑う。悪趣味な奴だ。


『それにね、大人しくメールを送らせるわけないじゃないですか。ウイルスをたっぷり添付して送ったのでもしかしたら警察のサーバーもクラッシュ、してるかもしれませんねぇ。あなたたちの浅はかな作戦のせいで!』


 その言葉に眉をひそめたのは梶谷だ。それもそうだろう、発案も、計画を立てたのも梶谷が主であるのだから。


『では、ご武運を祈ります。まぁ、木下さんはあと数日の命ですがね。』


 それだけを言うと、連絡は途切れた。

 木下は顔が青いまま固まっている。他もそうだが、発案者である梶谷が最もショックを受けているように見えた。




 そのあと、一応カフェテリアに移動してみたけど、誰もが鎮痛な面持ちだった。

 そんな中、以前のように声をあげたのは須賀だった。


「武島さん大丈夫かぁ?!」

「……放っといてください。」


 なんかよく分かんないけど元気になったのかな。

 そう思っていると、不意に木下が口を開いた。


「……や、です。(わたくし)、消えたくないです……。(わたくし)は皆さんのように、自分が消えることを受け入れるなんてできないです……。誰か、助けて、」


 視線を送られた本山はつい視線をそらしてしまう。それが普通だ。

 次いで視線は矢代へ向けられた。


「……華は、」

「な、んで。」


 言葉を失う彼女に木下は絶望の色を見せる。


「……もう、いいです。」


 不意にその場を立ち去ろうとする彼女がどこか放っておけなくて、酒門の足は自然とそちらへと向いた。

 同じ、世界の主になった身としてはオレも木下を追うべきなんだろうけど、彼女にかける言葉を持ち合わせていなかった。









『ーーー現在、ーー名の高校生が行方を眩ましており、警察は今も行方をーーーー。容疑者は元【箱庭ゲーム】に関わっていた者とされ、指名手配されていたーーーーは、死体となりーーーー。』


「へぇ、そんな放送が。」


 その日の夜。カフェテリアに酒門と梶谷、千葉、加藤、そしてオレが集まった。他の者にも集合をかけたが反応がなかった。本山と木下は部屋にいる。先程須賀が戻ってきたが、たまたまらしくシャワーを浴びてからくるそうだ。

 ハッキングの結果得られた情報を聞いたがあまり目ぼしいものはなさそうだ。強いて言えば外部のニュースか。


 梶谷はがっくりと肩を落としながらつぶやいた。


「本当情けねぇっす。準備不足も甚だしいっすわ。」

「んなことねーよ。やってみなきゃわかんねーこともあったろ。」

「それはそうだね。とりあえず、ウイルスの懸念はあるけどメールを送れたこと、ニュースを聞けたことは進捗だね。」

「行方不明が認知されてるあたりは、な。不吉なワードもいくつか聞こえたけどな。」


 千葉と酒門が慰めつつも加藤は冷静な意見を落としてきた。


「あとは、【スズキ】が直接手を下してくるあたり、やっぱ外の情報っつーのは都合が悪いのかもな。」


 千葉にしては冷静な見解であった。

 ん、もしやオレへの干渉も【スズキ】か? いやでも赤根さんとやらの可能性もあるしな。本当に何が起きたか分からなかった。


「メッセージが届けばIPアドレスも載せたんでサーバーを探すことができると思うんすけどね。」

「あ、あいぴー?」


 千葉は首を傾げている。

 そんなことよりオレは木下達の方がよっぽど心配で部屋を見ていた。


「あとは、疑いたくないけどあの部屋で彼女が凶行に及ばないといいね。」

「……それはねー、とは言えなくなっちまったもんな。」


 加藤も同じことを感じていたらしい、肩をすくめていた。



「とにかく次の方策をーーーー、」



 酒門がそう言いかけた時だった。

 パチン、と聞き覚えのある音とともに辺りの電気が一気に消えた。


「また停電すか?!」

「千葉と酒門、加藤は木下と本山のところに行きな。それから梶谷はーーー。」

「了か……あだっ!」


 彼は派手に机に躓き転んだ。

 寝不足の彼にあの梯子を登らせるわけにはいかない。千葉まで連れて行くとこっちが手薄になってしまうし。


「前言撤回。酒門がオレときて。ブレーカー上げに行くよ。」

「分かった。」

「……不甲斐ないっす。」


 どこからか、チーンという音が聞こえた気がした。




 2階の元空き部屋の隣、ブレーカーの場所へ行くとブレーカーは見事に破壊されていた。

 作戦を実行していた時には綺麗だったのに。


「……壊れてるね。」

「犯人は近くにいると思うけど、捕まえるか、電気を回復させる方を優先させるか。」


 オレが尋ねると酒門は少し悩む。

 たぶん、オレと酒門ならどっちでも問題ないだろう。彼女ならオレが倒してる間に逃げたり回避したりくらいはできるだろうし。

 ただ、彼女は目先のことには囚われなかった。


「先に屋上の非常用発電機のスイッチを入れに行こう。」

「……そうだね。」


 オレ達はさっさと走って渡り廊下の場所から裏庭に出て屋上に向かう。


「梯子を使わないの?」

「要らないよ。オレは懸垂で上れるし、酒門が梯子にかけられるよう持ち上げられるよ。」


 途中、倉庫に行こうとした酒門に提案すると、彼女はあっさりとオレの提案に乗った。肩に足をかけさせ、手で梯子を持たせる。ゆっくりあげると、躊躇いなく梯子に飛びつき登ってくれた。

 さすがの運動神経だな。ちなみに酒門はこの時オレを脳筋と思っていたそうだ。

 正直今までの中で1番上がるのが早かった。


「非常用発電機は、これだね。レバー下ろせばいいの?」

「私も分からないけど。」

「じゃあ下ろすよ。」


 オレは躊躇いなくレバーを下ろした。

 外に出よう、オレがそう思った時、再び手元を光が包んだ。うわ、なんだ。

 

 酒門が不思議そうな顔をして出てきた。


「……どうしたの?」

「いや、何か、妖精みたいなのに会った。」

「何言ってるの? それより、下に早く降りよう。」

「うん。」


 酒門の言う通り、本当に何言ってんだオレ。

 それから、手にしていたものをポケットにしまい、オレは普通に梯子を降りていく。その途中何かが割れる音がした。

 何だろう、高めの位置から飛んでそちらを端末のライトで照らした。


「オレ見てきていい?」

「いいよ。」


 オレは酒門の着地を待たずにそちらに向かった。

 照らしながら何か物が飛んだらしい場所を探してみるとすぐに見つかった。どうやら誰かの端末のようだ。

 何で? オレは酒門に報告すべく、彼女の元に向かった。


「これ、端末だよね?」

「……。」


 酒門が上を向いたため、オレもそちらを向くとB棟の一室の窓が破られている。酒門も同じ考え、2人ですぐに戻ろうとすると梶谷の声がした。


「2人ともここにいたんすか?!」

「梶谷、何かあった?」

「お2人のリアクションだと何かあった感じがしないっすよ!」


 互いに無表情なもんだから、他人から見るとそうなのかもしれない。酒門は意に介することなく続けた。


「で?」

「とにかく、あのステージのある部屋に来てくださいっす! 大惨事で!」

「「大惨事?」」


 梶谷が首を必死に縦に振る。

 そして、彼の放った言葉は驚くべきものであった。



「矢代さんと香坂さんが、血だらけのまま消えたみたいなんす!」



 その言葉と同時だろうか。端末にいつもの嫌なお知らせが届く、そのことを知らせるアラートが施設中に響くのだ。


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