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Remained GaMe -replay- 番外編  作者: ぼんばん
3章 人を狂わす愛憎劇、フィナーレはまだ
18/38

18.ホンモノ

本編「彼女のゲーム論」〜「ホンモノ」の別視点です。


 彼女が語ったのは驚きの内容だった。

 なんと2人は誘拐されてこのゲームに参加していたのだ。確かにオレがゲームに参加する時も半ば強制、その理由は今思えば納得だ。


「はぁ?! お前ら誘拐されたわけ?!」


 加藤は全員の言葉を代表してくれた。ただ余計なこともつぶやいて酒門に脇腹を抓られていた。

 実のところ、梶谷と千葉も知っていたそうだ。特に千葉はありありと罪悪感が滲み出ている。


「……最初はアンタらに無駄な不安を与えたくなかったから。でも、もう隠すことも無駄だしね。」

「でも他に誘拐された人はいないんだよね?」

「その、はず?」


 オレの質問に酒門は首を捻りながら答える。


「ほー、だからお前はどうりでゲームが始まってもしっかりしてたわけだな。つーか、千葉と梶谷は知ってたんだろ! 何かお前らこそこそしてっからよ〜。寂しいじゃねーか!」


 加藤はベソをかきながら酒門の肩を揺する。無言は肯定、揺れはさらに増していく。

 加藤をはじめ他の人たちは受け入れているらしい。

 でも。



「でも、酒門がそう判断したんでしょ? 梶谷も、千葉も。なら、オレは3人が話すのを待つよ。ただ……。」


 一度釘を刺しておくべきだろう。

 現状、腑抜けた須賀を含めてオレが1番フィジカルに長けているのだから。


「もし、わずかでも【スズキ】の味方と思えることをするようだったら何をしてでも情報は吐かせるから。」


 オレがわざわざ口にした意図は全員に伝わっただろう。

 ただこのままの空気にしておくほど、オレは敵対したいわけではない。


「……といっても、オレは割とここにいる人は疑ってないよ。早く行こう。」

「マイペースな人。」


 あれだけ【スズキ】のことを挑発しておいてオレの言葉ごときに緊張してやんの。



 【寿】のAIがある部屋にたどり着くと、梶谷が扉を開いた。加藤が示した端末を開くと、それぞれの名前が記されたファイルが並んでいた。


 久我のファイルを除いて、だ。


『こんにちは、美波ちゃん! 梶谷くん! あ、千葉くんと石田さんと……加藤さんもいるんだね。』

「何だよあたしの扱い……!」

「喜ばないでよ……。」


 本当何なんだこの人の落差。

 千葉は寿の前で呆然と固まっていた。先程まではあれだけ言葉数が多かったが、やはりいざ会ってみると思考が止まってしまうのだろう。


『みんな元気そうで良かった。何か用かな?』

「……オレ、お前に、」


 千葉が、言葉を振り絞ろうとした時だった。



『私に? ごめん、私、何かされたかな? そういえば、千葉くん、久我くんとか、高濱さんは?』

「えっ。」



 この言葉には、AIの存在を知っていたオレ達も疑問を呈した。


『ごめんね、私バーベキューらへんから記憶なくて。何でこんな風に画面を介して話しているのかもいまいち把握できてないんだよね……。』

「何があったか、覚えてないってこと?」

『ん、え? うん……何か、あったの?』


 画面の向こうの彼女が困ったように尋ねてくる。全員でそれぞれ顔を見合わせた。


「や、何でも、ねぇよ……。」


 それ以上、千葉は答えられなかった。

 もちろん、他の参加者も同様であった。

 まさか、何も知らない彼女に、ゲームのことはおろか寿自身と久我が共謀して凶行に及んだことを伝える度胸など誰も持ち合わせてはいなかったのだ。






 日はまたぎ翌日。

 すでに元の生活リズムに戻れたオレは5時に起きた。


 布団の中で昨日のことを思い出していた。

 結局武島は起きなかった。体調をふまえると仕方ないか。

 あとは不思議な女の人のこと。彼女は【スズキ】とは別の人間のように思う。ならば一体誰なんだろう。それにオレに探し物、仮に前の世界に存在していた【寿】だとして見つけさせた意図は何なのか。考えることは多い。


 だめだ、やっぱり何も浮かばない。とりあえず起きていつもの習慣をこなそう。

 部屋から出ると何やら難しい顔をした酒門がカフェテリアにいた。オレな声をかけると少し驚いた顔をしていた。


「おはよう。」

「おはよう、早いね。」

「……風磨が、いつもこの時間から自主練してたから。せめてオレだけでも続けたくて。」


 例えこの場にいなくても、風磨の存在を感じていたい。それは紛れもない本心だ。

 すると酒門は少しだけ口元を緩めるとシュートのフォームを見せた。


「ならこれからは付き合いましょうか。」

「ああ、バスケ部だっけ。風磨から上手いって聞いてるよ。」


 今のを見た限り、結構うまいんじゃないかな。

 そんな和やかな雰囲気を壊すように、背後の扉がけたたましく開く。オレ達が振り返ると、そこには顔色の悪い武島が立ち尽くしていた。


「武島……。」

「酒門さん、石田さん……。」


 だいぶ落ち着いているのか、彼女は酒門の誘いに乗り、席についてくれた。

 さすがに前の世界のこと、オレは居心地が悪くなり尋ねた。


「オレ、席外そうか。」

「……大丈夫です。石田さんの証言については感謝しています。……高濱さんとの友情については甚だ疑問ですが。」

「それを言ったら、君の矢代への執着も、他人への不信感も、オレは理解できないからお互い様でしょう。」

「……結構言うんですね。モテませんよ。」

「風磨にも言われる。別にモテなくていい。」


 意外と言うな、この子。武島は弱々しく苦笑した。

 この時酒門がどっちもよく言うな、と思っていたことなんてつゆ知らず。

 とりあえずは和解ということで良いのだろうか。そう思ってくれるなら嬉しいけど。

 いつのまにか酒門が簡単に食事を作ってくれたらしい。この世界に来た女子は家事力が高い。



「そういえば、今回の世界ってどうなってるんですか?」


 意外。ちゃんと彼女は調べる気があるのか。

 酒門が戸惑いつつも淡々と事実を告げると彼女はあっさりと受け入れた。


「……そうなんですね。ゲームが始まった時点で薄々感じていましたけど。」

「でも、どういう風の吹き回し? それにアンタ、屋上行くなんて結構度胸のある行動だと思うけど。」


 酒門も容赦ないな。だけど武島はちゃんと答えていた。


「屋上に行った時は誰とも話したくないって、無我夢中でした。食べ物は持っていっていません。飲み物を取りに行こうと思ったら梯子が消えていて、それからはあまり。それから、さっき起きて、矢代さんが私のすぐ横にいて、思ったんです。」


 小さな拳を握りしめ、彼女は何かを決意したような目で2人と視線を交えた。



「私が、矢代さんを守ろうって。こんな私のことをずっと信じてくれてのは、矢代さんだけです。だから、私は矢代さんのことは守ります。例え誰を犠牲にしても、自分が消えてでも。

 お2人なら、理解してくれますよね?」



 喪った、オレ達には理解できてしまう言葉だ。

 自分が世界と共に消えたとしても、他の参加者には生きてほしいと願う気持ちによく似ている。


「……それと、荻くんの忠告はちゃんと受けようと思います。私は、矢代さん以外は信じない。ちゃんと見極めます。」

「そう、」


 酒門さえもそれ以上何かを口にすることはできないらしい。

 武島は礼儀正しく手を合わせると皿を運びながらプランニングを伝えてくれた。


「私は、一度荻くんのAIと話してこようと思います。もし、矢代さんが来たら、伝えてもらってもいいですか?」

「……分かったよ。」

「ありがとうございます。朝食、美味しかったです。」


 それだけ言うと彼女は頭を下げた。

 その時、オレはふと寝る前に梶谷に言われた言葉を思い出した。


「あ、そうだ。梶谷が話があるって言ってたから……2階のステージなんてどう?」

「分かった。」


 良かった、誰もいない時に酒門に会えて。何か端末のメールは気が進まないし。

 時間になると次々と皆起床してきた。

 武島がいないことに気づいた矢代も慌てて出てきたが、酒門が先ほどのことを一部伝えると明らかに安堵した表情になった。


 本山と木下は自室の調査に向かうらしい。

 加藤は人工知能に興味があると言って、鑑賞室に向かうそうだ。意外にも、千葉がついていくと言った。たぶん千葉も寿との決別をしっかりしたいんだろう。


「おい、須賀。おめーも来な。」

「……む?」

「む、じゃねーよ。ずっとうじうじしてんなよ。あの小娘も前を向こうとしてんだ。前までの威勢の良さは無くなっちまったのか。」


 加藤が発破を掛けると、彼の顔はみるみる青くなる。しかし、彼の中に逃げるの3文字はないらしい、躊躇いながらも首を縦に振った。


「華は〜、少し1人で調べ物してみるよ〜。」


 本山が大丈夫かと問うと大丈夫と呑気に笑う。








 それから、舞台のある部屋にオレ達は向かった。

 慣れない場所らしく酒門はそわそわと辺りを見渡す。


「お2人、こっちっす。」


 梶谷は途中で回収したノートパソコン2台を広げる。よくよくみるとここにはケーブルを繋ぐ端子はあるが、電子機器はほとんどないように思えた。


『美波ちゃん、石田さん、久しぶりです。』

「昨日までの報告についてはオレからしときました。やっぱり、あっちの【寿さん】たちはある種の完成品みたいっす。」

「完成品?」

『そう。今回は探索で見えちゃうような場所にあったんだよね? つまりは見つけて欲しかったってことで、私はこんな風に記憶が万全だから調整するためこっそり置いてあったってことなんだよね。』


 なるほど、完成品は【スズキ】にとって思わしくない何かであるのか。


『それでね、私梶谷くんにあるファイルを解析するよう頼まれたんだけどね。1つは終わったよ。』

「何頼んだの?」

「解析を頼んだファイルは4つ。【模擬箱庭ゲーム】全体のサーバーマップ、【箱庭ゲーム】構成プログラム、酒門さんと【スズキ】の会話履歴、あとあの犠牲者たちの動画ファイル、この端末。そして、1つプログラムを組み込んでもらえるよう頼んでます。」


 オーバーワークでは?


「……過労。」

『やー、大丈夫ですよ。大変ではありますけど。』


 オレが呟くと【寿】はからからと笑った。現実の寿と同じで強かなんだな。


『で、終わったのが、動画ファイル。動画ファイルはどうやら並列して行なっているゲームのものではなくて、過去の物みたいです。』

「過去のもの?」

『そう、8年前に行なわれた、本物の【箱庭ゲーム】。あの時の映像です。つまり、凍結されたフォルダに102のファイルがあるはず……なんだけど。』


「「「けど?」」」


 オレ達の声が重なった。


『101しかないんですよ。クリアしたルームの動画は無いんです。』


「……それはルームが消滅してないからじゃないのか? だって掲示板では、何か、その〜、クリアした伝説のルームみたいなのがあるって話だったよね?」


 何かそんな感じの話をどこかで聞いた気がする。

 ただ記録に残っていないだけではないのか。世間には詳細なんて広がってないんだろうし。

 でも、梶谷と酒門にとってはその情報は何か意味のあるものらしい。


「2人さ……まだ何か隠してるんでしょ。」

「……別に。」


 梶谷も大概分かりやすいな。

 オレはついため息をついてしまう。


「言えないことならいいけどさ。早く教えてね。真実を明らかにしてからしか明かせないカードもあると思うけど、それなら駆け足でね。」

「……すんません。」

「ごめん。」

「……きっと、誰かが残した大切なものなんでしょ。いいよ。」


 久我が、残してくれた情報なんだろう。

 大体オレだって不思議現象について伏せている。追及できる立場ではない。

 気を取り直してオレは【寿】に尋ねた。



「【寿】、他のファイルは?」

『ファイル自体はまだなんです。でも、端末のことだけ。端末自体は梶谷くんが組んだプログラムがあれば通信を切って独立したものにできます。そのことは恐らく【スズキ】にバレていますが、手出しはできないはずです。あることをすれば。』

「あること?」

『それは言えません。』


 またか。

 次いで梶谷が思いついたように尋ねた。


「そういえば、【サポーター】のヒントとかってないんすか? 考えたくないんすけど、ゲームの最初に【サポーター】消せばクリアって言ってましたよね?」

『うーん……データの存在だとは思うけど。でも、ここのルームの人たちは本物の私を含めて、確かに15の身体に接続されてるんだよね。』

「……それって本当?」

『本当だよ。』


 その言葉を聞いた酒門が逡巡し、意見を落とした。



「……1人、【サポーター】の候補はいた。」

「えっ、誰っすか?!」


 梶谷がぎょっとする。なんだ、梶谷も知らないのか。

 呆れたような彼女は淡々と答えた。


「久我、だよ。ある部屋で、私は端末を使えないにも関わらず、久我の端末は動いた。……もし久我が【サポーター】なら【綾音】みたいな人工知能がないのも納得できる。でも、」

「ゲームは続いているし、身体も15人分、と。」


 なるほどな。

 梶谷はそういえばそうだったと頭を抱えていた。


『引き続き調査はするけど、もっと外の情報が欲しいね。』

「……確かに102ルーム分の人がいなくなったらそりゃ捜索願だって出てるはずっすよね。」

「しかも久我と酒門は誘拐されたんでしょ。尚更じゃない?」

「うん、私、牛乳買いに近くのスーパーにほぼ財布とスマホだけで出かけたし。」

「超軽装っすね!」


 犯人もまた凄いタイミングで捕まえたな。

 呆れつつも梶谷は笑った。ま、でもと彼は切り替えて悪い顔をし始めた。


「準備が整ったら、ハッキング勝負になってもいいかもしれませんね。あの語り口調だと、準備はかなり入念に、時間かけてってタイプみたいっすから、じわじわ準備して一気に攻め込めばいけますね。」

「容赦ないくらいでいいよ。その時は手伝う。」

「やっぱり酒門も詳しいわけ?」

「まぁ、梶谷ほどではないけど。」


 やっぱり彼女もその方面に明るいんだな。

 梶谷が嬉しそうに酒門を見ている。


 そんなやりとりをしている時だった。






 部屋の外から悲鳴が聞こえた。


「は、なんすか今の悲鳴?!」

「酒門と梶谷は後からきて、ちゃんと【寿】がバレないようにね。」


 ここはオレの出番か。2人を守らないと。

 【寿】のことを任せて階段を駆け降りると声が近くなる。たぶん鑑賞室からだ。


 オレが駆け込むと、腕を真っ赤にした千葉が香坂を殺さんとばかりに馬乗りになって抑え込んでいた。それを須賀がちょうど引き剥がした。

 だが、間髪入れず香坂は近くに転がっていた鉄パイプを持って2人に飛びかかろうとした。

 オレはすぐに彼を羽交い締めにした。長身ではあるが、ひょろっこい彼をねじ伏せるなど朝飯前だ。

 オレは2人に向けて怒鳴る。


「いい加減にしなよ、香坂、千葉!」


 そこでやっと梶谷と酒門も追いついた。

 よくよく見ると、鑑賞室の備品は一部壊れている。香坂が壊したのか。

 部屋の隅では、武島が青い顔をしてガタガタ震えており、加藤も腰を抜かしてその争いを見ていた。

 酒門が加藤に尋ねた。


「どうしたの、これ。」

「急に香坂が来てよぅ……荻のAIと話すって言い出して見守ってたら急に壊そうとし始めたんだよ……、何か、荻じゃない! とか言って。」


 なるほど、そう言うこと。


「お前らはなぜあんな機械を受け入れている! あんなもの、荻でもなんでもないだろう!」

「んなもん、分かってこっちはやってんだ! さっきまで引きこもって協力もしなかったくせにしゃしゃり出てきて騒いでんじゃねーよ!」

「落ち着け! 千葉!」


 須賀が必死に止めるが、完全に我を忘れているらしく口は止まらないようだ。

 どうしたものか、その場の全員が言い淀んだ時、扉の方から声がした。



「あなたたち、いつまで騒いでいるの!」



 この状況に喝を入れたのは意外に本山だった。現場をして、おおよその状況は把握したらしく、ため息をついた。出入口には不安そうな表情を浮かべた木下もいた。


「黙れ……狂っているのは、コイツらだ。」

「だとしても! 貴重な手がかりを壊すなんて、あなたは荻くんが何を目指して調査していたのか忘れたの?!」

「荻、が……。」


 彼の身体から力が抜けた。

 オレは拘束を緩めつつも、その様子を見守った。

 何を思い返したのか、緩慢に立ち上がると香坂は肩を落とし、踵を返した。


「……すまなかったな、オレとしたことがくだらん妄想に囚われたようだ。」

「オイ話は終わってなーー。」


 千葉が怒鳴りかけた時、本山がすたすたと正面に向かい、横っ面を引っぱたいた。思いがけぬ強さに千葉は横に飛び、須賀はとっさに手を離した。

 オレもさすがに驚いたし怯んだ。こっわ。


「千葉くんも千葉くんです! 頭に血が上るの早すぎ! 余計な怪我人を出さないこと! 【外傷治療薬】だってただじゃないんだからね!」

「う……はい。」


 寿と久我のことを思い出したのと、彼女の気迫とで、はい以外の言葉が出てこなかったらしい。



「はい、じゃあみんな撤収するよ! 1回出て落ち着きます!」


 未だ動けそうにない千葉の手を引く。梶谷もついてきた。なんか後ろで加藤が戯れていたけどいつものことだろう。


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