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Remained GaMe -replay- 番外編  作者: ぼんばん
3章 人を狂わす愛憎劇、フィナーレはまだ
17/38

17.離散

本編「離散」〜「彼女のゲーム論」別視点です。


「おっ、何だお前起きてんのかよ。」

「……はよ。」


 意外にも1番に起きてきた加藤に挨拶を返すと、彼女は挨拶を返してもらえたぁ……と喜んでいた。なんか可哀想になってきた。

 オレは梶谷達の部屋で過ごさせてもらい、いつも通りの時間に起きた。習慣とは恐ろしいもので。

 さすがに運動する元気はなかったから、グランドをぶらりと散歩してきた。相変わらずの世界だ。



 昨晩見つけた彼女(ことぶき)のAIは梶谷が持つ端末にいる。

 理由は、恐らく世界が切り替わるたびに【寿】の記憶はリセットされるからだ。なるべく記憶を保持してもらい、オフラインのハードやファイルを取り込んで解析をすることが目的だ。

 しかし、それには難点があり、オンラインに載った場合、今【寿】が取り組んでいることが無に帰すどころか存在自体をリセットされる可能性があるため、梶谷は今後一切のメールやオンライン機能を使えないことになる。


 酒門とオレはそれのフォローに入ることになった。

 そして、同時に他の人に話すか相談もしたが、結局誰にも言わないことになった。

 酒門とオレは千葉に相談することを勧めたが、梶谷は千葉が寿に惚れていたことを踏まえて様子を見ようという提案してきた。そのため結局のところ3人の中の秘密となった。



「そういえばお前の部屋誰も起きてねーのかよ?」

「……そうだね。みんな寝てた。」

「そろそろ起こさねーと探索の時間無くなんぞ?」


 確かにオレ達が朝食を摂り終えても、みんな起きてくる気配がない。

 オレと加藤が起こしに行くかと腰を上げたあたりで、千葉と須賀、木下と矢代も起きてきた。


「はよ、お前ら早いな!」

「オレ達は早くない。何時だと思ってんの。」

「8時じゃん!」


 オレが端末の時計を見せると千葉はギョッとしていた。慌てて洗面台に行くとすぐに髪を整えてきた。

 しかし、残りの3人はそんな元気は皆無なようだ。

 何だか、割り切った分オレの方が元気っぽい。


 どうやら部屋に武島は不在なようだ。千葉が途中香坂にも声をかけていたが、反応はないようだ。梶谷は髪の毛を爆発させた状態で飛び起きてきた。

 意外にも手際よくみんなの分の朝食を作った加藤は酒門と本山を起こしに行くらしい。


「あれ、オレの分も作ったの?」


 もう食べたのに。


「ああ? バカ言ってんな。オメーの片付けた皿見たけどお前の体躯にゃ足りねーだろ? それこそお前はキビキビ働いてもらわねーと困るんだよ。ちゃんと食え。」


 意外な言葉にオレは驚いた。

 そうだな、加藤の言う通りだ。


「分かった、いただきます。」

「それでいいんだよ。酒門と本山起こしてくるから運んどけ。」


 オレが準備を手伝っていると、本山と酒門がのそのそと起きてきた。

 それに気づいた梶谷と千葉が酒門に声をかけた。


「酒門さんも寝過ごしたんすね! おはようございます!」

「おう、はよ。」


「……おはよーなのだー。」

「おはようございます。」


 離れた席から矢代と木下も挨拶をしているが随分と弱った声だった。


「おうおう、お前らは感謝しろよな! 寝坊したおかげで麻結様特製ブレックファーストを頂けるんだからな!」

「……あなたはブレないね。」

「褒めてる? けなされてる?」


 いつもの調子で話す加藤に本山もどこか安堵したのか、やりとりに安堵しているようだった。

 酒門はなぜかオレの近くの空いた席に座る。どうやらソファに座りたかったらしい。


「はよ、眠れた?」

「寝過ぎましたよ。石田さんは……あまり眠れませんでしたか?」

「眠れたけど、浅かったかな。」


 少し目は乾く感じがあるけど、体調は悪くはないと思う。酒門は小さくそうですか、と呟いた。

 彼女もまた親しい友人を失った。少しだけ寄り添いたいのだろう。



「じゃあ朝飯食べながら今日の調査内容について考えようぜ。それに、また誰の世界か確認しねーといけねーし、脱出の方法も考えねーといけねー。」


 千葉は一瞬で食事を終え、さっさと話を始めた。

 その横でサンドイッチを頬張りながらどこから持ってきたのやらノートパソコンを叩きながら梶谷が話し始める。いつもなら須賀から大声で小言を言われるだろうが、本日は機能しないらしい。


「脱出の方法については、全く心当たりがないわけじゃないっすよ。【スズキ】の狙いが掴めればどうにか予測と対抗ができます。だからオレは今回の調査ではそっちを調べたいんすよ。移動もたぶん少ないと思うんで……石田さん付き合ってもらっていいっすか?」

「オレ? いいよ。」


 誘い方、うまいなぁ。オレが疲れていると踏んで動かないからと配慮を見せつつ事情を知るオレを側におく。

 そこから場を仕切ったのは加藤だった。


「なら、酒門と千葉、あたしと楓でいいだろ! 他の奴らロクに調査できねーだろ。」

「んなっ、オレはやるぞ!」

(わたくし)も、及ばずながら……。」

「は? 今のお前ら連れてってもどうせ大事なもん見逃すだろ。それより香坂とか武島が出てきた時にここで迎えてやれよ。」


 はっきりとした遠慮ない物言いだが、核心をついており、2人は言い返すことができないらしい。


「……華も、調べる。莉音と、会わなきゃ。」

「だから……はぁ、なら千葉たちの方についていけよ。あたしはたぶん今キツイことしか言わねーから。」

「……うん、ありがとー。」


 加藤の物言いははっきりしているが、その中に含まれる意図を読み取り、彼女は小さく礼を述べた。








 今回は調査できる人数が少ないこともあり、酒門達は外からB棟の1階へ、加藤達はB棟の2階から1階へと調査を進めることになった。オレ達の担当はA棟だ。


 梶谷は黙々とモニタールームで作業しているため、実質オレ1人での調査だ。さっきの配慮は本当にフリなんだななと思い知った。

 カフェテリアは、はじめ見た時はゴミ箱が空になっていた。冷蔵庫の中はまたリセットされている。

 ログインルームは相変わらずだ。久我が消えた痕跡が残らないように、風磨がそこにいた痕も一切残っていない。


 そして、最後にモニタールームへ向かう。

 が、ここが問題だった。

 モニターの電源が勝手に入っており、何やらたくさんメッセージが届いていた。試しに1通開けてみると、【箱庭ゲーム】の優れた点や酒門のことを罵るような文面が書かれていた。

 【スズキ】ってたぶんいい大人だろう? それがこんな粘着質なこと言うか?

 しかも、メッセージの数が尋常じゃない。

 オレが開いたせいか、さらに追加で酒門宛のメッセージが飛んでくる。


 うん、後にしよう。

 オレはそっと画面を切ると一度モニタールームを出ようとした。

 それに気づいた梶谷がノートパソコンから顔を上げた。


「何か見つかりました?」

「これってさ、」



 オレが言いかけた時、玄関ホールから勢いよく扉を開く音がした。

 何事だろう、オレが様子を見に行くと息を切らした矢代にぶつかった。今までにないほど青い顔をして焦っているように見えた。


「どうしたの、矢代?」

「り、莉音が……倒れてて、栄養、顔が青くて……!」


 パニックになっているのか。

 だが、オレには十分だった。


「梶谷、なんか武島がまずいらしい。何にも飲み食いしてないみたい。」

「マジっすか! なら薬の方ダウンロードしときます!」

「武島はどこにいるの?」

「あっち、凌二と、美波が助けてくれてる……。」


 梶谷はモニターの方に向かい、【スズキ】に何やらメッセージを送っている。


「オレ達は武島が休める場所を作ってあげよう。部屋開けてもらえる?」

「……ッ、うん!」


 2人でベッドやら湯たんぽやらを準備しているとまもなく千葉が武島を背負って駆けてきた。



 梶谷が連絡して、意外にも【スズキ】が迅速に対応してくれたおかげか武島は大事に至らなかった。

 この世界で栄養失調とは何事かと【スズキ】は呆れていたが、本体とこの世界の状態は密にリンクしており現実の世界の武島も危なかったらしい。

 梶谷の推測であるが、彼女は恐らく梯子を使って屋上に向かった。しかし、世界の切り替わりのタイミングで梯子の場所がリセットされ降りられなくなった。もしかすると、食糧も持ち出したのかもしれないが同様のことがあったのだろうという話だ。


 でも、今回の【スズキ】の行動を見る限り、徒にオレ達を殺すつもりはないのか。ふとオレは思った。


 暫くすると他の参加者も、香坂を除き集まった。

 到着当初より、木下は涙をこぼしていた。

 なるほど、今回は彼女の世界か。途中からいなくなったと思ったら確認に行ってたのか。

 千葉が呼びかけるとすぐに酒門は矢代達の部屋から戻ってきた。それを認めた加藤が全体に向けて話し始めた。



「酒門たち来たし、話そうぜ。時間が惜しいしな。B棟から報告するぜ。つってもあんまり詳しくは見れてねーけど。」

「……そうだね。B棟は、1階には大きな図書館、和室、茶室、大きな音楽室、美術室、バレエをやるようなフロア、映画鑑賞室があったよ。2階には……たぶん菜摘ちゃんの部屋と誰かな、ご家族の部屋が2部屋、いずれにもパソコンがあったよ。あと、和菓子屋さんとか、着物部屋、いろんな道具を置く部屋、ステージがあったよ。」

「いつもの【指南書】と【個人情報の本】、【他の部屋の動向が確認できる本】、鑑賞室には見覚えのあるファイルがあったぜ。あと、その……。」


 珍しく吃った加藤に嫌な予感がした。

 その勘は当たるもので。


「……その、誰の部屋かは分からねーけど、なんか、高濱に話しかけられたんだよ。PCに浮かんでる、奴。」


 【スズキ】はわざわざ人工知能を接触させてきた。先の世界では隠すように存在していたにもかかわらず、だ。


「恐らく、人工知能とかの類かとは思うっすけど後で見に行きましょう。それに、残りの部屋のこともきになるっす。」

「……そうだね、私はあまり見たくないけど。」


「それって、龍平のもあるの?」


 全員がハッとした。

 そうか、矢代にとって荻の消滅はかなり悔いの残るものであったのだ。彼女の瞳がゆらゆらと揺れる。


「……あっ、た。」

「そうかー……。」


 本山が目を伏せながら答えた。

 矢代は穏やかであったが、彼女が何を考えているかなど容易く想像できる。



「それは後で確認に行くとして、次な。オレと酒門と矢代で外を見てきた。みんな知ってることだが、武島が屋上でぶっ倒れてた。あと倉庫の中身は今回も完全にリセットだ。」

「屋上には武島以外何も変わったところは無かった。……世界がリセットされる時、倉庫から持ち出したものもリセットされるみたいだから、梯子なきゃ降りられない人は気をつけた方がいいかもね。」


 千葉の話題換えと酒門の乗っかり、ナイスだ、

 オレは内心安堵していた。話を逸らそうとすると不自然になってしまいそうであったからだ。



「最後、A棟っすね。正直なところ、A棟自体からは何の発見もなかったっす。」

「ただ、酒門。」


 これは本人に伝えるべきだろう。次いで彼女から出た言葉は少し低めの、何、と問いかけるものだった。


「【スズキ】が君に熱烈なメッセージを送ってきているよ。今なら連絡取れるかも。」

「……なら、AIよりそっちを優先しようか。矢代は武島に付き添ってて。」

「……うん!」


 酒門がそのように言うと、矢代には嬉しそうに笑う。



「それで、」


 梶谷をはじめ、須賀を除いた他の参加者が注目したのは菜摘だった。彼女は先程から泣きじゃくるばかりで何も話さない。


「……(わたくし)の、ことは、放って……ッ、おいてくだざ、い。」

「そうもいかないよ、菜摘ちゃん。」


 横に寄り添うのは先程まで気落ちしていた本山だ。彼女は先程に比べて随分と活気を取り戻したようだ。


「私は菜摘ちゃんに付き添うよ。正直、【スズキ】さんに仕掛けられたら滅入っちゃいそうだし……。だから逃げ道にさせて?」


 本山が優しく語りかけると、木下はコクリと頷いた。

 オレにはできない寄り添い方だな。



「じゃあ、まずモニタールームっすね。」

「行こうか。」

「おい、須賀。行くぞ。」


 千葉が呼びかけると彼はとりあえず立ち上がるが反応に乏しい。その腑抜けた様子が千葉の勘に障ったのか、彼はあからさまに顔をしかめた。

 梶谷と加藤はさっさとモニタールームに向かってしまう。どうすればいいのか、つい酒門を見てしまった。

 彼女も少しばかり困ったような様子をしつつも千葉に声をかけた。どうやら須賀の方はオレの仕事らしい。


「はい、行くよ千葉。」

「……須賀も、ぼーっとしすぎ。」

「う、おお。」


 久しぶりに声を聞いた。

 千葉の背を押しながら酒門がオレに手を振る。

 須賀はオレが連れていく、その意を込めてうなずくと感じ取ってくれたらしい彼女はそのままモニタールームに入っていった。



 モニタールームに入ると、梶谷が何やら操作を行っていた。数分もしないうちに、画面に【connect success】と表示がされた。


「ビンゴっすね! 繋ぎます!」


 画面を開くと、ついに画面に【スズキ】らしき人影の部屋が見えた。ゲーミングチェアの背後にいるらしい女がわざとらしくため息をついた。


『酒門さん、あなたには失望しましたよ。』

「……いきなり何のこと?」


 身に覚えのないことらしい。酒門は顔をしかめた。

 【スズキ】はわざとらしく重々しいため息をついた。



『まぁいいです。まずは皆様、直接お話しするのは初めてですね。お顔を見せることは叶いませんが、改めまして私が【スズキ】です。個別の部屋の方と話すのは初めてなんですが、いいですねぇ、皆さん絶望していますねぇ。』

「気色悪い野郎だな。」


『別にいくら私のことを罵ってくれても構いませんよ。ですが、酒門さん、貴女の暴言は許せないんですよ。』

「暴言? メッセージのやりとりで何か言ったんすか?」

「さぁ。」


 絶対言っただろ。涼しい顔して。


『貴女が意味のない、くだらないといったこのゲームは私の長年の夢だったんです。あの時の、ゲームのように。あの時の、アイツのように感動を生む存在になる。それが私の夢。』


 ばっちり罵倒してるじゃん。

 でも、言いたくなる気持ちもわかる。つまりは【スズキ】の身勝手な理想にオレ達が振り回されているだけではないか。

 その気持ちは【スズキ】には分からないのだろう。彼女は淡々と続ける。



『……私のゲームを続けてもらいますよ。いいえ、続けざるを得ない。なぜなら、今まで消えた寿綾音、久我睦、荻龍平、高濱風磨の身体は、命は、私が握っているのです。

 久我さんはもういませんが、酒門さん、貴女ならよく分かっていますよね?』


 どういうことだ? 2人には何か共通点でもあるのか。

 後で問いただせばいいだろう。


『たくさんの人間を利用してやっと作り上げたゲームです。貴女たちなら素晴らしいエンディングを迎えてくれると信じていますよ。』


 それだけを言うと、接続は切れた。

 梶谷はずっと何やら操作をしていたが、ふぅ、とため息をついた。


「……情報は何とかとれたっす。

 次はAIの所に行きましょう。あと、酒門さん。歩きながら話してもらいますよ。」


 2人だけの秘密だったのか。

 ただ梶谷も含めて言う気はないだろうな。オレは半ば諦めながら酒門が語る言葉を聞いた。



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