表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Remained GaMe -replay- 番外編  作者: ぼんばん
2章 スタート・オペレーション
12/38

12.画面内外の狂乱舞

本編「画面の向こうの狂乱舞」〜「空の言葉と空の瞳」の別視点です。

 結果として、その場で立候補した全員は動画を丸々1本見た。


『嫌だアァァァ! 死にたくない!』


 動画に映るのはやはり、人の絶望と断末魔だ。

 風磨と須賀は顔を青くしていた。当然だ。こんなデスゲームのような映像、娯楽としてでも見られない人だっているのに、これがリアルなんて馬鹿な話あるもんか。


「悪い、遼馬。オレ見れねーかも。」

「……すまん、オレもだ。」

「大丈夫だよ。オレが確認しておく。」


「……付き合いますよ。」

「ありがと、荻。」


 意外と荻が付き合ってくれるらしい。礼を言うと、荻は少しばかり居心地悪そうに頷いた。

 ふー、と大きなため息をついた酒門もまた席を立った。彼女は気分を悪くしたというよりは別の何かを確認しに行くような感じだ。


「……私も調べたいところがあるから、千葉と梶谷を借りるよ。」

「ああ、行ってらっしゃい。」


 ほらやっぱり。

 でも、流石に彼女でもアレは見つけない、と信じたかった。





 オレと荻は一通り見終えると完全に言葉を失った。

 時間もすでに夜、さすがにこれは堪える。


「……あー、さすがに僕も疲れたかも。僕は帰るけど石田サンは?」

「オレは……ちょっと確認したいことがあるから。」

「ホント? 大丈夫?」

「うん、ありがと。」

「……あっそ、じゃあまた明日。」


 珍しくおとなしい荻は手をひらひら振るとA棟の方に戻って行った。



 オレは1人になったわけで、あることを確認すべく自室に向かった。


 まずは、この世界の主がどちらか知るために酒門から預かった主の思考が書いてある本を開いた。結果から言えば、これに関しては完全な無駄骨だった。記載してある内容はまさかのバスケのことばかり。

 確かにオレ達は恋愛そっちのけで寝ても覚めてもバスケが好きだった、と思う。だからといってなんで試合の講評ばかり書いてあるんだ。バカか。

 まぁ、強いて言えばオレの思考はばっちり書いてある。風磨はこれ以外のことを考えていそうな気もするし、考えていなそうな気もする。グレーだ。


 次に、確認するために向かったのは風磨の部屋だ。

 オレの部屋に関しては、何も分からない部分がなかった。さっき2人で調査した時には風磨の部屋も同じだった。

 でも。

 オレは恐る恐る彼の机の鍵付きの引き出しに隠されたものの安否を確認する。わざわざベニヤ板を敷いて棚底に隠したもの。


「あった……。」


 それは日記。

 ただの恥ずかしい日記ではない。風磨が、バスケをはじめてから、いやオレと実力の差が出始めてからつけている日記だ。

 これを見つけたのは、高2の冬。本当に悪戯心で見つけてしまったものだ。初めて読んだ時にはショックで、数日眠れなかった。

 ここには、オレと自分を比較した時のこと、日頃の鬱憤、八つ当たりのようなことが書かれているのだ。かと言ってこれに関して糾弾する強さはオレには無かった。

 内緒で確認して、見て見ぬふり。バスケに関しては絶対に妥協したくなかったから譲るなんてこともできない。


 そんな平行線みたいな日々を送っていた矢先これだ。

 逃げ続けた代償か、と笑ってしまう。


 内容を恐る恐る読むと、それは4月半ばまで。

 オレが確認していた時期とかぶる。もし新しい日記帳に移っていた場合、オレは存在を知らないため風磨の世界確定だが、これだけでは何とも言えない。

 もし4月半ばで更新が止まっていたら。


「な訳ないか。」


 そんな希望的観測。鼻で笑ってしまう。

 オレは丁寧にそれを隠した。


 何となく落ち着かないオレは物理法則を無視した体育館に向かった。

 嗅ぎ慣れた臭い、見慣れたシューズ、親しみのあるコート。おかしいよな、バーチャルの世界なのに。

 ここに転がっているバスケのボールなんて初めて触れるのに、でも手にはしっくり馴染んで。アップもせずにスリーポイントシュートを放つと、久々とは思えないほどに美しい放物線を描いたボールはリングに触れることなく、ポストを通り抜けた。









 オレは、それからなんとなく落ち着かず食事やシャワーを除き、殆ど自室にいた。日中オレと風磨の了承を得てザッと確認した参加者達もいたが、日記に関してはバレそうもなかった。

 オレの落ち着かない様子を見て、風磨がこそこそと尋ねてきた。


「なぁ、遼馬。ずっと部屋にいるけど何か気になることとか見られたくないもんでもあるのか? ベッドがあるとは言え、ずっとここにいるの疲れねぇ?」

「……別に。ただ、他人に漁られたりする方が嫌だ。」


 オレがはっきりと言うと、風磨は目を瞬かせた。

 あまり主張をしないからだろう。何か疑われると思いきや、風磨はオレの背を叩きながら微笑んだ。


「お前がそう言うなんてな。なら、オレも手伝うよ。お前の部屋見張ればいいんだろ?」


 厳密には違う。たまたま近い配置だから自分の部屋にいるだけなんだけど。

 ただ細かいことは言えないからオレはとりあえず頷いておいた。


「遼馬が何か調べに行きたい時とかはオレがいるからな。それに何も言わなくても信じるからな。」

「……ありがとう。」


 まぁ、オレの部屋にいる分ならいいだろう。たぶん、風磨がオレが日記の存在を知っていることに気づく可能性は低い。




 オレは早速ありがたくその言葉に甘えることにした。

 千葉と十分に調べ切れなかった屋上に向かった。

 途中、端末を落として地上まで拾いに行ったけど決して壊れることはなかった。これを壊すなんてどれだけ勢いよく寿と久我は落ちたんだろうと考えてしまう。

 そして屋上に着くと、やっぱり変な視線をずっと感じる。


 小部屋の中に何かないだろうか。

 オレがごそごそ漁っていると、何やら梯子を上る音が聞こえた。どうやら酒門と荻、また鋭そうな2人が来てしまった。


「遅かったね。」

「うるさいよ。にしても、ここは早く調査すべきだったかもね。あの倉庫……あれ?」


 隠れて見つかるより自分から出た方がマシだろう。


「石田さん、きてたんですね。」

「まぁ……、調べるって言った手前。」


 なるべく表情に出ないように努める。幸いポーカーフェイスだから大丈夫だろうけど。


「僕らも調べたいんだけど、1番屋上に来る機会が多かったあなたの所見を聞きたいな。時間ある?」

「構わないけど……。」

「ん、何が言いたいことがあるみたいだね?」


 荻は無遠慮に、接近してくる。

 ちょっとさすがに嫌なんだけど。しかも、滅茶苦茶失礼なことを考えてたのに。

 後ずさると、あっさり壁に追い詰められた。

 酒門に助けを求めてみたけど首を横に振られたため、諦めて口を割った。


「いや、荻って適当なこと言ってるイメージあったから真面目に調査しているのが意外で……。ごめん。」

「そんなこと? 酒門サンも言ってたし。というか、何でそんな遠慮しいなのさ。」


 なんか思った反応と違う?

 荻はそんなつまらないことかと言わんばかりに不満げに唇を尖らせていた。

 オレは観念して今までのことを話す。


「……昔からオレ人が傷つく言葉っていうのに疎くて。一度どうしようもないくらい揉めて、その時に助けてくれたのが風磨なんだ。かなり拗れたんだけど、あの時の風磨は凄かったよ。」


 小学生の時、ミニバスで下手な友だちにあまりにもはっきり言いすぎたのだ。その時に間に立ってくれたのは先生でなく、親でもなく、他の誰でもなく風磨だったのだ。

 どちらかを庇い立てするでなく、オレの言いたかったことを伝えてくれて、オレに何がダメだったのかをしっかりと告げてくれたのだ。

 しかし、荻は気に食わなかったらしく反論する。


「でも、あなたはもう自分の駄目だったところ分かってるんでしょ? ならそれを踏まえて自分で話した方が良くない? 少なくともオレは高濱サン越しの言葉より、鋭すぎても石田サン自身の言葉の方がいいなーって思うけど。ねぇ? 酒門サン。」

「えぇ、ああ、まぁね。通訳頼むの面倒だったし。」


 通訳? そんなことを思っていたのか。

 でも、この2人はオレ自身の言葉がいいと思ってくれているのか。


「そう、そっか……。」

「じゃあそういうことで、石田サンの言葉で説明してよね。」

「……。」


 頷いたものの、何から話せばいいんだろう。

 考えていると酒門はズカズカと小部屋に押し入り、薄暗い部屋を端末のライトで照らす。


「これは?」

「変電機器や非常用発電機。このレバーを上げると発電機が動き始めるよ。」

「そういえばブレーカーって見てないな。」

「え〜、気づいてないの〜? 2階の空き部屋の横にあったよ〜? 酒門サンの世界の時も一緒。」

「……2階の担当アンタじゃん。」


 苦し紛れに彼女が言い返すと、彼はどこ吹かぬ風かケラケラ笑って躱すばかりだ。


「ちなみにこの変電機や発電機の存在知ってる人は?」

「オレと千葉だけ。別に言うことでもないし。」



 今千葉の名前を出して思い出した。

 そうだ、この2人なら。


「それより、2人はここにいて何も感じない?」


 オレの質問に酒門と荻は顔を見合わせて首をかしげる。


「別に何も感じないけど。」

「そう、ならあの貯水タンクの上は?」

「……貯水タンクの上?」


 酒門は小屋から出てタンクの傍らに設置してある梯子を登り、その上に乗った。

 その瞬間だった。彼女の表情が変わった。


「どうしたのさ、酒門サン。」

「……。」


 ああ、たぶん彼女も感じたんだ。オレは確信した。



「誰かに、見られている。」



 ほらね。

 酒門の言葉に、自分の感覚の確信を得る。

 ならば次考えるのはこうだ。


 この視線は、敵なのか味方なのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ