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Remained GaMe -replay- 番外編  作者: ぼんばん
2章 スタート・オペレーション
11/38

11.知らないままでいて

本編「知らぬ存ぜぬ」〜「画面の向こうの狂乱舞」別視点です。


 部屋で休んでいると、風磨に起こされた。


 どうやら、一部の者で話し合い、世界が変わる時間は全員モニタールームに集まろうという話になったのだ。

 梶谷がその後確認した話によると、2回目以降の改変では特にどこにいてもアバターは消滅しないと【スズキ】に確認できたらしい。

 しかし一部のものは、不信感を示してそのような運びになったのだそうだ。


 時間通りに全員が集まった。

 香坂については、荻が無理矢理という感じではあったけど。18時になると急な眠気に襲われ、次に起きると時間は進んでいなかったが世界の改編が行われていた。


 風磨の提案で、今日はしっかりと休むことになった。

 そして、その時に女子部屋の人数が偏るため部屋移動をする流れとなったのだ。自然と加藤が来ることになったが、酒門と本山の部屋に行くことになっていた。


「でも、遼馬が寝過ごすなんて珍しいな。」

「まぁ……。」


 何でか温室でのことについて相談する気にはなれなかった。

 いや、その前に今の世界がオレ自身の世界の可能性だってある。その時はどうすればいいんだ?

 だめだ。疲れのせいかぐるぐるして思考がまとまらない。ここは風磨の言う通り休むのが無難だろう。


「何か考えすぎてんじゃねーの? 思う所があるのは分かるけど……休んどけよ。」

「そうする。」


 オレは素直に頷いた。






 やっぱり眠ると人は多少元気になるらしい。

 梶谷も千葉も、酷い顔であったけど酒門と挨拶を交わしていた。とりあえず良かった。

 全員が朝食を終えたタイミングで、風磨が口を開く。


「じゃあ、今回も2人1組、1組だけ3人で行動な!」

「矢代さん、一緒に組もう!」


 間髪入れず、武島が矢代に声をかける。


「えー、またそこで組むの? オレも一緒に組ませてよ。」

「おー、いいぞー。」


 武島からは邪魔するなオーラが出ていた。でも、矢代には逆らえないらしく抵抗することなく3人組ができた。


「じゃあ香坂さん、オレと組みませんか? 香坂さん結構鋭いんでぜひ色々話したいっす。」

「……まぁ小間使いとして採用してやろう。」


 厄介な奴は梶谷が引き取ってくれた。


「なら、あたしと組もうぜ! な、酒門!」

「ああ、うん。」


 隣に座っていた加藤が愉快そうに笑いながら肩を組んでいた。気を遣っているのかいないのやら。

 誰と組もうかな風磨かな、なんて考えていると肩を突かれた。振り向くと千葉が申し訳なさそうな顔をしていた。


「石田、一緒に行かねーか? この前の調査ではオレのせいであんまり話せなかったしよ。」

「……いいよ。」


 何か初めて年下なんだなぁって感じがした。

 風磨は本山と、須賀は木下と組むことになったらしい。



 それから場所はくじ引きで決めた。オレ達は外回り、つまりはグランドや屋上だ。


「せっかくだし屋上。」

「アンタ、意地悪いな。」


 そんなつもりは無かったのだが。

 確かにお前探索しなかっただろ、と皮肉っぽい感じになってしまうかもしれない。


「そ、」

「冗談すよ。早く見に行こうぜ。」


 そう言うと千葉も容易に懸垂して屋上への梯子を登っていった。やっぱり人の機微ってよく分かんない。

 千葉の後を追って上に上がった。相変わらずの非常用発電機と貯水タンクが鎮座している。そして埃の絨毯。

 だけど、オレの中で明らかな変化があった。前は弱かった空からの視線が強くなっている。

 オレが小屋の外で空を見上げていると、怪訝な顔をしながら千葉が出てきた。


「どーしたよ?」

「千葉は何も感じないの?」

「感……? いい天気だなぁって?」


 コイツ、鈍いな。

 オレは早々にこの妙な感覚の共有を諦めて早々に切り上げることにした。

 グランドを見下ろすと、ふとオレは気づく。


「上から見るとグランドも変わるんだな。オレは見覚えのない風景だなぁ。」

「……。」


 オレは無言でフェンスを握った。

 隣にいた千葉はオレの表情を見て固まった。


「……もしかしなくても。」

「オレか風磨の世界かな。」

「えぇ、何でそんな落ち着いてるんだよ! おりっぞ!」


 千葉に引かれてオレは地上に降りた。

 屋上から見えたグランドにポツンと立っていた体育館倉庫のようなものを開けると確信を持った。体育の授業の時に見た、高校生活慣れ親しんだ倉庫だ。

 千葉とともに施設を見ていると、端末にメールが届く。送ってきたのは酒門、どうやら彼女もここがオレか風磨の世界と察したらしい。何を見つけたんだろう。


 そうだ、酒門や梶谷みたいな鋭い人間が多い中で、万が一、アレを見つけられてしまうと風磨の沽券に関わる。


「……ッ、千葉。提案なんだけど。」

「ペアの組み替えだろ?」


 察しのいい千葉に血の気が引く。

 それを理解してか、していないのか、千葉は無邪気に笑う。


「確か、高濱と本山は全体回りだよな? メールでここに来てもらって交代でいいんじゃねーかな。な?」

「ああ……。うん。」


 うわ、汗が止まらない。

 オレ自身が残り4日の命、ということよりも風磨の秘密が暴かれることやオレがその秘密を知っていることを風磨に知られてしまうことの方が嫌だ。

 オレの様子を見て、千葉は自分の命がかかっていることを心配しているのかと憂慮していた。




 暫くすると、少し慌てた様子で風磨と本山がグランドまで来てくれた。


「遼馬大丈夫か?!」

「……。」


 心配そうな顔をした風磨に対してオレは頷いた。


「オレもここに来るまで見てきたけど、本当にオレか遼馬の世界っぽい。」


 風磨の話を聞く限りこうだ。

 B棟の1階部分は、相変わらず。図書室が近所の本屋、娯楽室は中学バスケ部の部室に、テレビルームは学校のPC室に、音楽室は学校の音楽室に、美術室は学校の美術室に、空き部屋2つはオレと風磨の自室となっていた。トレーニングルームは物理的な法則を無視して、まるまる体育館が存在していたそうだ。

 2階は高校バスケ部の部室、体育館倉庫、それぞれの自宅リビング、真っ暗な空き部屋があったそうだ。

 A棟は前回とほとんど変わらず。中庭も高校の中庭と同じらしい。


「判別できるんのかよ?」

「いや〜。ザッと見た感じだとオレは分からなかったな。」

「引き出しとか、タンスとかの中身見て分からないの?」

「ぶっちゃけ言うと、オレら勝手に開け閉め全然してたし、リビングだって子どもの頃から互いに勝手知ったるところだから……。なぁ。」

「そうだね。」


 正直、判別の手段はない。


「あ、あの世界の主の思考が書いてあるって本は? 私集合場所に持ってくよ。」

「そうだな、2人は他に心当たりのある場所を見てくれ。」

「じゃあ任せたわ。」


 風磨はそう言って2人に任せてしまった。

 これは早急に対応せねばなるまい。心配そうに覗き込む風磨はオレの背を摩りながら声をかけた。


「大丈夫かよ?」

「……うん。早速で悪いけど、風磨とオレの部屋を調べたいんだ。」

「その状態でか?」


 オレが頷くと風磨は少し考えた後に大きく頷いてくれた。








 それから数時間後、再集合の時間になる。最後に来たのは梶谷と香坂だ。


「遅くなってすんません! 皆さん集合してたんすね!」


 たぶん、オレと風磨は顔色があまり良くないだろう。

 恐らく精神状態が不安定になってきているであろう武島、木下、本山に加えて、酒門と加藤もどこか顔色が悪い。

 相変わらず涼しい顔をした荻が伸びながら話を振る。


「とりあえず、各自調べたところを報告しない? 誰も始めないなら僕らの所から報告するけど。」

「それでいいと思うぞ〜?」


 矢代が挙手しながら同意する。


「確か高濱サンと本山サンが全体をざっと見てたよね? ご存知の通り、オレ達はB棟の2階を見てたよ。」

「2階には、部室っぽい部屋と倉庫、あとリビング2つと〜、あとは空き部屋は真っ暗だったぞ〜。」

「……本当に、何もない部屋でした。」


 武島がため息に近いような言葉を発する。


「さっき酒門サンからメールがあった通りだけど、リビングはたぶん石田サンの家と高濱サンの家のもの。後で発表があるだろうから言わないけど……。ほんと、2人はずっと一緒に居たんだね。どっちの記憶が分からないレベルで。」


 未だどちらの世界か分かっていない風磨は少しだけ眉を吊り上げた。調査の結果から、彼はどちらの世界かやはり判別できなかったそうだ。

 荻はつまらなさそうに唇を尖らせる。


「ちなみに前回の世界みたいな妙なパソコンとかは2階にはなかったぞ〜。」

「そっすか。なら、2階にオレの出番はなさそうっすね。あ、ついでだから言うとオレはA棟を探索したっすよ。」


 梶谷が続けて話す。


「前回や元の箱庭と特に変わったところはなしっす。モニターの先の【スズキ】との連絡手段も変わらず。あと、これは残念なお知らせなんすけど。」


 困ったような表情を浮かべながら彼は肩を竦める。


「前回の世界で解析した分はリセットされてたっす。途中から酒門さんのお兄さんのパソコンの解析の方に夢中になってたからっすね。」

「そういえば、綾音ちゃん達のことがあって、解析の結果を聞きそびれてたね。」

「そいやそっすね……。まぁあちこちに飛んじゃうんで調査結果の後に伝えます。」


 梶谷が言うと、本山は頷いた。

 先程から腕組みをしていた香坂も口を開く。


「カフェテリアの食材は追加されていた。あとごみ箱は空になっていたな。他には特に変化はなかった。……ログインルームもな。」

「そうかよ。」


 千葉は少し困ったような顔で首を捻る。


「あぁ、オレらは酒門から連絡来てペア組み替えまでグランドとか、外を見て回ってた。特に異変はなかったけど、グランドの倉庫の中身が変わってたな。石田曰く、高校の倉庫らしいな。」


 同意を求められたので頷いておいた。


「あと、前の世界ではあんまり調べられなかったから屋上を調べてきたぜ。オレは特に何も感じなかったけど。」

「……あれは、おかしいでしょ。」


 千葉が鈍いんでしょ。

 あ、でも今までのことを考えるとまだ明らかにすべきことでもないのかもしれない。オレは内心慌てて否定した。


「……や、ごめん。気のせいかも。」

「何だよ、言っとけよ?」

「もう1回、確認してから報告する。」


 ごめん、風磨。まだ言えなくて。

 酒門にはバレた気もしたけど彼女は幸い言及してこなかった。


(わたくし)たちは倉庫を確認して参りました。前回の世界で移動された物は元の場所に戻っていましたわ。」

「しかも、千葉が踏み荒らしていたらしい埃も元通りだ。完全にリセットされたようだったな。」


 確かに全体メールに書いてある倉庫の物品については差がないらしい。


「で、美波ちゃん達はどうだったの? メールの件については分かってるけど。」

「あぁ……、図書館については今まで見たかった重要そうな書籍はそのままだったよ。あと、これ。私の時と同様、記憶の持ち主の思考を記した本だよ。中は見てない。」


 どうやら本山たちが保護する前に彼女が回収してくれていたらしい。加藤でなくてよかった。


「……あと、これはまだ調べ切れてない部分なんだけど、1FのPC室のとあるパソコンに大量の動画ファイルがあった。」

「何が保存されたんすか?」


 動画ファイル、と聞いて梶谷が目を輝かせる一方で、酒門はどこか残念そうな顔を浮かべた。



「……ファイルの数は、今まで消えたルームの数と同じ。そして入っているデータは、他のルームが消える瞬間の凄惨な映像だったよ。」



 何でそんなものがこの世界のPCに。

 背後からかドタ、と誰かが転ぶ音がした。どうやら武島が腰を抜かしたらしい。


「……もう、無理です。私たちは、もう、」

「そんなこと言ーー。」

「だって、どんな綺麗事を言ったって、結局は無駄じゃないですか! 何も見つからないし、まともそうな寿さんや久我さんだってーー!」

「武島さん!」


 焦って声をあげたのは梶谷だったが、パニックに陥った彼女には無駄だろう。


「何よ! 私は間違ったことを言ってない! 狂ってるのはあなた達よ!」


 そう叫ぶように言うと、武島は立ち上がり、慌ただしくその場から走り去って行った。

 珍しく追いかけない矢代に、荻は気になったらしく、はてと首を傾げていた。


「矢代サン、追いかけないんだ?」

「莉音なら大丈夫だよ〜。それに、まず明らかにしなきゃいけないことが2つあるからね〜。」


 ああ、なるほどね。矢代は答えが知りたかっただけか。



「……なら、1つはすぐ終わらせるよ。記憶の持ち主はオレだよ。その本、渡してもらえる? オレはその本を誰かと共有するつもりは一切ないから。」

「……オレも、か?」


 正直、オレも自室を見た限りだとどちらの世界か判別できなかった。正しく言えば、1人ならできるのだが。

 仮に風磨の世界だとすれば、おそらく彼は武島のようにパニックになる。オレの世界だとしても、危険な行動に出るかもしれないけど、そちらの方がまだマシだ。


「高濱サンも、石田サンの世界で間違い無いんだね?」

「正直、オレら一緒にいすぎて反映されたところが全部お互いに行った場所だから分からねーんだよ。……でも、遼馬が言うならそうなんだろうな。」

「石田が、高濱の世界を自分のものというメリットなどないだろう。」


 とりあえず納得してくれたらしい。この本は確認して早々に隠してしまおう。

 オレが思案しているといつのまにか梶谷の成果発表に移っていた。



「じゃあ、簡潔に。酒門さんのお兄さんのPCから出てきたデータは、たぶんこのマザーPCの中に組み込まれているであろう【箱庭ゲーム】の構成プログラムがあったっす。一応、皆さんの端末にデータを送っておいたっすけど……。」

「ああ〜、あのよくわからない数式のファイルってそれだったんだね。」


 端末を見た本山が納得したように嘆息を吐いた。酒門も納得した顔をしていたけど、よくみんな分かるな。

 オレは見ずにそのまま画面を落とした。


「もしかしたら、あの部屋は【サポーター】の人をフォローする部屋だったのかもしれませんね。またこの世界でも似たような部屋があるかもしれないから、探すっす。」

「じゃあ報告は最後だな。……とりあえず解散、だけど。」

「莉音のところには華が行っとくよ〜。任せとけ〜。」


「……なら、オレは動画ファイル見に行く。」


 ちょっとでも解決の糸口があればいい。

 オレが即断即決すると風磨が慌てて立ち上がった。


「なら、オレも行くからよ! ……その、無理すんなよ?」

「大丈夫だよ。」

「なら僕も行こうかな〜。香坂サンも行かない?」

「行かん。」

「オレは行くぞ! 放っておけん!」

「なら、オレも行く。」

「オレも気になるんで少し見てから行きます。酒門さんは……。」

「……私ももう一度確認しておきたい。」

「無理すんなよ?」


 千葉に言われ、酒門も頷いた。

 なら、さっさと確認してしまおう。オレは無意識に本を握り込むとそのままPC室へと足を向けた。

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